人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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特異点???

アマテラス「ワフ・・・クゥン・・・」

将門公『その震え、ただ事でなし。──この気迫は・・・』

「ワフ、──ワン!ワゥ!グルルル・・・!!」

将門公『───』


渾沌【ゥア、ァ、オ】

トウテツ【キキ、キキ、キキ】

キュウキ【ンンン、ムゥンン】

トウコツ【──、──・・・?】

将門公『──京を護りし、四つの凶・・・』


終わりの始まりの殺意

リッカ「天逆毎・・・それって確か、スサノオ様から産まれた妖怪・・・天狗の祖先の女神様!?」

 

【よくぞ勉強しているな、人龍。そちらではそうなっているのか。我はたった今知った】

 

桃源郷にて君臨した、温羅の世界を妖怪の修羅場にした張本人にして、彼女を産み出した鬼婆としての姿を取っていた存在。異様なまでの呪術の腕前と常軌を逸した価値観の発露はこの女神から産まれたと断定して良いほどの邪気と魔力を放っている。温羅とは対称的な、凍てつくような邪気を放ちながら、古来日本の羽衣を纏い捻れた四本角を戴く天逆毎は静かに一同を見下ろしている。

 

「くたばり損ないが随分と粋がるじゃねぇか。確かにアタシがブッ殺した筈のテメェが何故生きていやがる!」

 

【親子とは繋がっているものだ。お前に喰らわせた妖怪の魂、そして産み出したお前という存在。子が在れば親も在る。そういうモノであろう】

 

戯れ言を、と温羅は吐き捨てる。天逆毎は天の邪鬼の前身ともいえる存在だ。その発言に一縷の真実が秘められているかも怪しい。──恐らく、自身が食らわなかったが故に魂を黄泉返らせる手段を使ったか、或いは・・・。

 

【そして、我はお前達に伝わる天逆毎とは違い、スサノオごときから産み出されてはいない。更なる前、旧き世の存在から産み出された存在・・・】

 

「スサノオ様より旧い・・・?それって・・・」

 

【そう──イザナミノミコトより産み出されたが我の出生。温羅、そなたは妖怪が世に充ちていたが故に未来が閉ざされたと考えている様だが・・・それは誤りだ。『彼方の世界は、とうの昔に終わっていた』のだ】

 

驚愕の事実を告げる天逆毎。そもそもの出生が異なり、そして世界の始まりを裏返し終わりにしたとかの女神は告げる。世迷い言と切り捨てるには、その言葉は確信に充ちていた。

 

【順を追って説明しよう。古事記の始まり、イザナギとイザナミが国を造り、数多無数の神を産み、最後にカグツチを産みイザナミが火傷にて滅んだが故の離別。イザナギは別れを惜しみ黄泉のイザナミを取り返しに向かった。だがイザナミは既に黄泉の食べ物を口にし帰ること叶わず、その姿を覗き見たイザナギは逃げ出し、イザナミは怒り狂いイザナギを殺さんと追い掛けた・・・其処までは同じ成り立ちよ】

 

そして、岩にてあの世とこの世を別たれ、イザナミの千の命を殺す呪詛、イザナギの千五百の産屋を建てるとの真言を交わした離別が執り行われたという日本の歴史。其処までは全く同じだったのだと告げる天逆毎。だが──

 

【そうは言えど、イザナミにも幾ばくかの情はあった。夫を信じる事が叶わず自らヨモツヘグイを成した弱さを恥じ、その呪い以上の干渉をする事は無かった。そのまま黄泉の女神となり、世界の均衡を保たんと自らを律していた。──イザナギが、『自ら子を産み出すまでは』な】

 

「───」

 

其処が、世界の命運を分けた原初の楔だと天逆毎は告げた。イザナギの、世界の総てを滅ぼさんと決断した故の、剪定の始まりであると──

 

 

岩で別たれた後、イザナミは先の通り己を恥じた。イザナギは八つ裂きにしたいが程に憎らしかったが、産まれて来る子に罪は無いと自らの癇癪を嘆いた。子を愛す母の在り方は未だに喪わなかった訳だ。

 

黄泉より子らの世界を護らんとしたイザナミの尊厳と女としての矜持を、再びイザナギが踏みにじる迄は、な。──イザナギは黄泉の穢れを祓い落とすと同時に、イザナミの面目を丸潰れにする行動を行った。

 

そう。アマテラス、ツクヨミ、スサノオの三柱を単独で産み出した事だ。女神たる自らの腹からではなく、両目、鼻から自ら子を成したイザナギに、怒りと憎しみを越えた感情に余すことなく心を焼き付くした。

 

自ら子を成した。初めから自らは不要な存在だったとでも言うのか。そんなにも私という存在が疎ましいとでも言うのか。

 

あれほど愛し合った言葉は、あれほど共に願った国の在り方は、初めから私など要らぬ戯れであったとでも言うのか。子を産み、育てるが女の唯一無二の矜持にして生き甲斐。そうまでして醜い私を辱しめるのか。

 

怒りを越え、愛の反転である憎しみすら超越し、イザナミはとある一つの感情に陥った。そう、地上に満ちる総てに『無関心』となったのだ。愛の下に人を滅ぼす獣とはまるで違う。──本当の意味での拒絶と失望。一縷の感慨も懐かぬ、絶対零度の殺意。憎しみなどという情は微塵も無い、台所に湧いたゴキブリを見るような心からの拒否。

 

イザナミはイザナギのそれに倣い子を産んだ。無関心、そして拒絶と失望の感情を束ね人柱の女神を産んだ。焼け爛れた子宮より、地上の一切を駆除する為の刺客としての神を産んだ。

 

それこそが、温羅の世界の天逆毎。彼女はスサノオではなく、イザナミの狂おしき無関心から産まれた。無関心でありながら、壮絶なまでに地上の総てを滅ぼさんとする逆しまな存在。そんな彼女に、短くイザナミは告げた。

 

【根絶やせ】

 

イザナギがイザナミを不要としたように、イザナミがイザナギを真に不要とした世界。其処にて産まれた天逆毎は、何の皮肉か。かつてのイザナミの様に美しく産み出された。それが意味する事はただ一つ。

 

不要とした存在が、今度こそ子らを滅ぼすためにやってくる。母ですらなく、女神ですらなくなったイザナミであった存在の、在らん限りの呪詛であることに他ならぬ──

 

 

【そして私は、イザナギとその配下のアマテラス、ツクヨミ、スサノオを皆殺しにした。生命を慈しむ事の無くなったイザナミの穢れと殺意はそれはもう恐ろしい力を誇ったのだ。神であろうと、命あるものが太刀打ちは叶わなかったのだよ。──血は争えんな、鬼神よ】

 

「・・・イザナミが、世界に殺意と拒絶を選んだ瞬間から分岐した、有り得ざる歴史・・・」

 

「あまこーを、殺した・・・。──あなたは、なんて事を!!」

 

【その戦いの折に、私は四柱に世界に縫い付けられる呪いをかけられた。醜くしわがれ、その世界から離れることが叶わなくなってしまった。だが同時に、私はその世界の統治をイザナミに任された。イザナミは、世界が滅びようとどうなろうと、イザナギを否定できたなら未来が無かろうとどうでも良かったらしい。ならば其処で──】

 

其処で、イザナギの血統である人間を虐げる供物、家畜として生かす事を決めた天逆毎は、女神として妖怪を産みだし暴力と破壊を主軸とした国造りを行った。人間を生きた肉袋として肥え肥らせ、妖怪の玩具としての歴史を歩ませた。それこそが、かの剪定に繋がる妖怪のみの世界の正体。イザナギの血を宿す人間に家畜の安寧以外の何もかもを許さぬ、イザナミの殺意と拒絶に満ちた剪定世界。

 

【我なりに繁栄を願い、そして一生懸命紡がせた歴史が剪定されると知った時は哀しかったとも。悔しかったとも。こんな素晴らしき世界が無くなってしまうのはあまりに辛いと感じたとも。だからこそ──私は、お前を作ったのだよ。鬼神・温羅】

 

「テメェ・・・!!」

 

【お前達はかつて原初の母と戦ったそうだな。其処には確かな理が、愛があった。だが、此方の世界にそんな情は存在しない。お前達人間はウジ虫かゴキブリと同等と、他ならぬ母が断定した世界が我等の故郷。──素晴らしい。こんな歴史は、永遠に残されてほしいのだ。だってそうだろう?】

 

母が子を心から滅したい、滅ぼしたいという破滅願望が満ち溢れる世界。それこそ、素晴らしき破滅と憎しみの満ちた輝かしい世界。

 

【我等の歴史が、正しいもので在ってほしいのだ。親が憎み、子を殺し。妖怪が満ち人を殺す。原初の神秘に満ちた鮮烈な世界であってほしい──】

 

そう告げ、その様に世界を作ってきた天逆毎は信じていたのだ。生より死。愛より殺意こそが何よりも美しいと。

 

──かの女神は、その名の通りに逆しまな情にて世界を見出だしたのだ。

 

 

 

 

 

 




リッカ「───」

酒呑「・・・・・・」

茨木「貴様ァ!ならば何故吾を利用した!吾に何を求めていたのだ!」

天逆毎【我は温羅の中に在る妖怪が在る限り復活する。やがて復活した私は汎人類史を攻める切っ掛けを欲した。私の呪いを解かねば始まらぬと。貴様の様な鬼モドキを選んだ事に意味はない。ただの無作為だ。あの世界に存在しなかった善意なるものを理解できぬが故に、どうしても見付けられなかった桃源郷に辿り着くための楽園を釣る餌としてな】

「何ィ・・・!」

【そもそもお前達の世界を転覆するのも意味はない。お前達は意味を常に求めるようだが、我の成す行動に深い意味など何もない。──ただ、お前達の紡いできた歴史を踏みにじりたいだけなのだ】

リッカ「──それなら、あなたは私達の敵だ!!よくも、よくもあまこーを・・・!!」

天逆毎【人龍。それなら止めてみるがいい。手始めに──この桃源郷を潰す業を】

瞬間、天逆毎に魔力が凝縮する。──水爆に匹敵する、総てを吹き飛ばす魔力塊を造り出し──

【さらばだ。我等が殺意の歴史の雌雄は、尋常なる舞台にてつけるとしよう】

それを、迷いなく──桃源郷へと叩き付ける。

「マシュ──!!」

リッカが叫ぶより速く、温羅が駆け受け止めんとした瞬間──

「──!?」

『おいでやす。神外魔京 禍肚』

総てを嘲笑うかのように天逆毎は消え去り、特異点へと導く欠片が温羅の頭に落ちるのだった──。

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