人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
其処に佇むは暴力的なまでの〝白〟
そう表現するほかないほどに、あの世からもこの世からも逸脱しすぎている。
その身に纏う白き光輝は彼、或いは彼女にとって単なる魔力の放出に過ぎない。
可視化するほどまで濃縮された魔力に、周囲の景色は歪み、まるで陽炎のようにゆらゆらと揺らめいていた。
彼、或いは彼女を塗りつぶすかのようにまつろわぬ霊兵が列をなす。
その列は山を越え、谷を越え、最早眼前に映る景色には収まらぬほどの軍勢であった。
だが―――
『──迷魂、薙ぎ祓わん』
小鳥の様な声が響いたとき、白き人が持つ太刀が煌めき、眩い閃光とともに景色のすべてを塗りつぶす閃光が奔った。光に遅れて轟く快音。雷が大地に落ちたかのような爆音が過ぎ去った地には白き人がその太刀を振り切った姿が映るのみ。大地を塗りつぶさんとした赤黒い勢力は影も形も失せていた。
?「見事!伊達にイザナギの仔の先達ではありませんね!いいこいいこしてあげましょう!ささ、来てたも!」
「ふぅ……此度はこれまでか。
回を重ねるごとに、兵の質も増してきた。後どれ程持つか……」
「無視!?これが、これが反抗期・・・いと哀しき・・・そんなんに育てた覚えはありませぬ!ありませぬがー!」
「育ててはいまい・・・」
白き人は少しも疲れたようには見えないが、どこかうんざりしているかのような顔で呟いた。槍・・・或いは矛を懐く天女がごとき美貌のサーヴァントが、毅然と言葉を紡ぐ。
?「しかし泣き言は禁物ですよタケちゃん。──神無月を張られた今、最後の砦は・・・」
「解っている、此処が落ちれば詰み。これまでそなたが敷いた防衛は全て踏破され」
ランサー「はいすみません!いとすまぬ!だって・・・天照と同じく、私英霊チャンネルあわないんだもん・・・それはそれとして嫌味かそなたっ!げきおこ!むー!」
「(無視)残る防衛は吾等二人。御身が憂懼を懐くのも無理はない。だが―――」
白き人―――そして、矛の女傑は、これまでたった二人でこの地の侵略を防衛し続けていた傑物だった。
その身が放つ剣閃を一太刀振るえば千を薙ぎ、その矛を振るえば穢れを祓う御祓の場が産まれる。
「それは杞憂だ。御身が最後に頼った武人は、間違いなく最強也。今回においても―――それを証明して見せよう」
例え地獄の最中であろうと、日ノ本の民絶えぬ限り、どれほど注ぎ込もうと染められぬ無類無窮の光。白き人―――日本武尊。そして謎のランサーは特異点の完成を防ぎ、戦い抜く。
ヒルコ「タケちゃんや、ぬいは元気?田助君も息災?私、リッカちゃんに早く逢いたいのです!頑張りましょう!タケちゃん!」
「話を聞いてほしいのだが。──到着を信ずるぞ、新皇」
後に四凶の三つを退けし二人は直後、轟音に入り口の羅生門を見やる。
?「来た!来たよ!きっと来た!あな嬉しき!わぁい!」
「・・・だが、間が悪い。【貪食】の時だ」
?「それはまずい!早く離脱しなくちゃ!付いてきなさい、タケちゃん!」
タケちゃん「承知」
~羅生門(25メートルヒヒロカネ製)
温羅「お邪魔、しますとぉ!!」
金棒で叩かれた門は、儚く砕けひしゃげ乱入者を歓迎する。温羅式ノックに堪えれなかったのだ。
リッカ【此処が、京・・・】
リッカは漂う地獄めいた様相に、鬼二人と脚を踏み入れる──
少年「ありがとう、お婆ちゃん!」
天逆毎【食べないのか】
「家で妹が待ってて・・・食べさせてあげたいんだ。体が弱くて・・・」
天逆毎【・・・・・・なら、こっちにしろ】
『桃』
「わぁ!ありがとー!」
【・・・あちらの世界ならば、例え殺してでも自らの糧としたものだが。──命拾いしたな】
【黄泉まんじゅう】
【此処が・・・京都・・・?】
レイシフト先、羅生門を抉じ開け脚を踏み入れたリッカの率直な感想がそれのみだった。最早、其処は桜と笑顔、賑やかさと晴れやかさに満ちているはずの京とはまるで違う。紅く染まる大地、遥か彼方まで漆に塗り潰されたかのような暗雲。疫病を運ぶ風、辺りに無惨に散らかされた遺体、骨、身体の一部分。怒号と憎しみに満ち溢れ、響き渡る絶叫。其処はまさしく魔界と呼ぶに相応しき地獄絵図。木も花も血で荒れ果てる程の地獄が其処に広がっていた。
「リッちゃん、まつろわぬ・・・の意味は解るか?時の朝廷、時の政権に従わず転覆を虎視眈々と狙う勢力・・・。転じて世の理から離れた者達を指す言葉だ。──アレらも、起源は同じくするものらしい。恥ずかしい事にな」
温羅が示す先に在る者ら。呪詛に染まり肌はどす黒く、最早人の形を取っている呪い。輪廻転生の輪から外され、永遠に憎しみ、怨み、怒りと共に生きる者達が戦っていた。老若男女全て、かつて家族だった者達、恋人だった者達、親友だった者達が斧、刀剣を手に取り、互いの生命・・・魂を食い荒らさんと憎しみの中で、殺意の中で戦っていたのだ。服装も年代もバラバラな中で、口にする言葉だけが等しく同じ。
【【【【【◼️◼️◼️◼️◼️◼️、◼️◼️◼️◼️◼️、◼️◼️──!!◼️◼️◼️◼️──!!!】】】】】
【ッ・・・!】
一心不乱に叫ぶは、子々孫々末代まで呪い尽くす古代日本語にて叫ばれる呪詛。今の世を、相手を、全てを憎み滅ぼし高らかに歌い上げる呪いの発露。まるで地獄に捧げる凱歌の如くに叫び、子供も、親も、分け隔てなく殺し合う光景はまさに、殺意と悪意に編み上げられた歴史に相応しき地獄絵図に他ならなかった。かつて経験した悪意にも劣らぬ濃密極まる凄惨さに吐き気を催しながらも、リッカは目を逸らさずに立ち向かう決意を決める。
「アレらに恐らく意志はあるまい。魂をこの地に定着させられたのだ。吾が喰らったものと同じ──ならば救う手段はただ一つ!」
「あぁ。──この呪詛を産み出す元凶を断ち切り、輪廻に組み込んでやることのみ!やれるな、リッちゃん!」
【うんっ!──殺す事が唯一の救いなら、ソレを躊躇う暇は無い!殺すための、呪うための生だなんて哀しすぎるから!】
リッカの決意と共に、茨木と温羅が飛び掛かる。鬼、或いは怨霊、大天魔の類いはこの呪詛でも問題は無いことが解っている。この二人をまず御付きに選んだのはその結果と、単純な暴力という点では鬼に勝るモノはいないからだ。
「まずは霊脈、地脈を浄化する為に露払いだ!やれるな、茨木!」
「無論ッ!この茨木、協調と協力においてはどんな鬼よりも優れていると確信している!鬼を辱しめた妖怪の神よ!必ずその身を吾らは焼き尽くしてくれる・・・!!」
素手にて魂の鎮魂を行う温羅、剣技にて、燃え盛る焔にて焼き払う茨木。──だが、その手応えに茨木は驚愕を上げる事となる。
「コイツらッ、なんだこの精強さは!?一人一人が英霊にやや劣る、或いは互角っ・・・──チイッ・・・!!」
【強いッ・・・!カルデア職員の皆よりちょっと弱いくらいだなんて・・・ッ!】
呪詛にて編まれたまつろわぬ魂は皮肉にも精強であった。生物として頂点の強靭さを持つ温羅は感じ得ぬものだが、汎人類史側のリッカと茨木からしてみればそれは英霊・・・シャドウ・サーヴァントに匹敵するやも知れぬまつろわぬ死体達。そして、厄介な習性をも彼等は有していた。
「リッちゃんの魂に惹かれているのか・・・!コイツら、アタシやばらきーを無視しやがるッ・・・!」
雪崩れ込むようにリッカに向けて殺到するまつろわぬ魂達。サーヴァントではない、生身の人間を目指しひた走る。戦術観点から言い替えれば、『マスター殺し』しか狙わぬシャドウ・サーヴァントの群れ。何十、或いは京の全土から殺到する放たれた魂達がリッカを目掛けて襲来しているのだ。リッカは自身の武力──否、サーヴァントの中でも上位に位置する母の武と研鑽、温羅達の援護で捌けているものの・・・一般人に甘んじていたならば、今の時点で10は死んでいたであろう局面に満ち溢れていた。
「おのれぇ、何処まで我等を虚仮にすれば気が済むッ!!」
「慌てるなばらきー、逆に考えろ!リッちゃんを大切に護るだけでいい!乙女の身空を護るは鬼の勤めだ!」
「初耳だぞ!!ッ、いつもならば人間ごときにかしずくも屈辱だが、大恩あらば是非も無し!!」
【大丈夫!私は私で何とかするから!二人は集中して──わっ!?】
瞬間、不意にリッカが何かにぶつかった。開けた広場に、壁など存在する筈も無いのに。──リッカは、ソレを何気無しに見上げた。即座に現れた【ソレ】をだ。
【──キキ、キキ・・・】
【───!!】
右脚にあたる部分にもたれ掛かる形のリッカを覗き込む、人面半身の獣。一回りも二回りも大きい、虎の牙を持つ巨大な怪物。──鎧を纏っていなければ、或いはリッカでなければ。此処で総ては終わっていたやも知れぬ程の不意討ちにして、想定外の転移。
『なっ──転移じゃない!ソイツは、ソイツは今自身を【生成】したんだ!呪詛があれば、何処からでも現れるだって・・・!?』
『リッカ!態勢を立て直しなさい!その反応は──!』
【ゲッゲッゲッ!!ゲッゲッゲッ!!──ゲギャァアァオ!!】
オルガマリー、ロマンの声に反応し、対応せんと気合いを入れた瞬間──震え上がる程におぞましい声をあげてトウテツは飛びかかった。リッカ、ではなく。温羅や茨木でもない。【まつろわぬ魂】達にだ。リッカはその不可解な行動に、一瞬動くことすら呆気に取られポカンとしてしまう。
「なんだ!?我等の増援か!?」
「違う・・・!ヤツは喰らいに来たんだ。此処にある奴等は兵ですらない。こいつら四凶に捧げられた【人身御供】・・・!日本の悪しき風習の生け贄って事なんだろう!」
【【【【◼️◼️◼️◼️!◼️◼️◼️◼️!!◼️◼️◼️!!】】】】
【ンン、フゥン、ムゥン・・・アハァ・・・ゲッゲッゲッ!!ゲッゲッゲッ!!ゲッゲッゲッ!!】
貪り喰らい、食い散らかし、総てを呑み込む。先の喧騒から一転し、逃げ惑う魂達をなぶり、喰らい、呑み込んでいくトウテツ。その貪食は、一度目の当たりにすれば二度と飯が喉を通らなくなる程に凄惨極まるものだった。首を引き抜き、生きたまま食いちぎり、内臓を腹から引き出す。踊り食いがごとき現場に、血の雨が止まぬ凄惨さが巻き起こる。
『嘘だろ、そのトウテツの霊基レベルは神獣、龍種クラスだって・・・!?いや、モニターを切って!気分の悪くなった職員はメディカルルームへ!何故だ?何故リッカ君を食べなかった・・・!?』
「好みの問題だろう。──ヤツは萎えた、折れた魂・・・或いは穢れた魂を好むんだ。リッちゃんの魂は食ったらならんと本能的に察したか。或いは──」
『トウテツは龍の息子とも言われているわ。案外その鎧が魔除けになったのかも──ッ!』
【マイサン・トウテツ・・・!?どしたの、マリー!?】
『──神獣反応、三つ確認!其処に、トウコツ、キュウキ、コントンの三匹が猛烈な速さで接近しているわ!』
【ゲギャギャギャギャギャワァァア!!!?】
「ゲギャゲギャうるせぇ!!」
力の限りにトウテツを殴り飛ばした温羅の目が見据える。──遥か三方より来る残りの凶を。この場に、四凶が速くも集う──!!
コントン【クカカカカ、クカカカカカカカカカカカカカ】
自らの尾を噛み、そして意味もなく空を見上げて嗤う犬に似た獣、コントンが現れる。まつろわぬ魂達をその口で、一呑みにし始めた。醜きものとして、反面的に愛されし悪神。
トウコツ【ガァアァアァアァアァア!!ォオォオォオォオォオォオ!!!】
猛り狂う人面虎体、トウコツ。引き裂かれた肉体の痛みと昂りのままに、まつろわぬ魂達を八つ裂きにし始めた。戦を何よりも好み、誰の言葉も聞かぬ戦闘狂い。
【ガォオォオァアァアァアッ!!】
リッカ【うわわわわ!?】
翼を生やした人食い虎、キュウキ。リッカの前に、無数の死体を落とし猛り吼える。善を喰らい、正しきを殺し、悪に贈り物を贈る虎。
ギル『門を開いたばかりというに随分な歓迎ではないか。さながら動物園そのものよな』
ロマン『絶対人気は出ないだろうけどね!──リッカ君!撤退だ!その集いがたまたまかは解らない、だが今の状況で相手取るには分が悪すぎる!』
茨木「この場の総てを食らわば次は我等か・・・!已む無し!逃げるぞ温羅!リッカ!!」
温羅&リッカ「【殿は任せろ(て)!!】」
「貴様ら似た者同士か!!えぇい──!」
二人を抱え、茨木が跳躍の準備を行う。仕切り直し、戦闘離脱のスキルを発動するのだ。しかし──
茨木「楽園でよいのだな!よいのだな!?」
ロマン『勿論だ!今すぐに──』
?{──いいえなりませぬ!満ち満ちた穢れはきちんと落とさねば!御祓を行わず帰宅!め!ですよ!}
瞬間、一同の脳裏に響き渡る声。それはこの呪詛の中でも穢れぬ、美しく芯の通りし声であった。
{此方においでなさい。安心なさい、
リッカ【!?ば、ばらきー!】
「よくわからんが・・・!えぇいままよ!!」
飛び立つ茨木。迫り来る追手を、凄烈極まる一閃が祓い、明鏡止水の門が三人を迎え入れる。そして──
天逆毎【・・・──また血に迷ったか。愚鈍どもめ】
【【【【!!】】】】
【失態、封を以て贖え】
──三人が転移した瞬間。天逆毎の手に産み出された天照の権能【太陽】が地表に落ち。
──京の全土一切が焼き払われた。そして・・・
???
「あぁ!無事にやって来ましたか!良かった、良かったですとも本当に!大丈夫?葦原の水飲む?」
リッカ「あ・・・あなたは?ここは・・・?」
目を開けたリッカの眼前に広がるは、寂れた草原、神無月の曇天・・・そして、豊かな双丘。
?「・・・ヒルコ。退いてさしあげろ」
「あぁ申し訳なし、さ、たちあがれますか?・・・ようこそ訪れなすれば日ノ本の故郷!うぇるかむ故郷!そして・・・はじめまして!」
ロマン『も、もしかしてあなたたちが・・・!』
ヒルコ「はい!私こそ、此度の悪意を晴らしに詣りしらんさぁ、槍?矛?まぁ何でもよし。ヒルコにござりまする!さ、タケル。挨拶なさい」
タケル「・・・日本武尊、またの名を」
ヒルコ「声が小さい!!」
「タケルと申す!(やけくそ)下総ぶりだな」
ヒルコ「はいよろし。もー、あなたはすぐ他者に理解を委ねるー。ハキハキキチンと挨拶!神の基本でございます!はい、二人揃って宜しくお願い致しますね。楽園の皆様!」
アマテラス『ワゥンッ!!?』
ヒルコ「そして此処が、神々のおわす国高天ヶ・・・アマや!?今の鳴き声はアマや!?はあぁ
何処!?何処に!?姿見せてたも!アマやー!」
タケル「・・・あい、すまん」
温羅「ヒルコぉ・・・?」
リッカ「なんか、バイタリティー溢れてる・・・」
高天ヶ原を冠する地にて、二人の不思議なペアと出逢う──。