ギル「四凶めを単身討伐しに向かったわ」
エルキドゥ「皆の分まで頑張るというなら、そうしてもらわないとね」
──こ、これが・・・噂のこち亀両津巡査左遷END・・・!?
禍肚
イシュタル「えーと、トツカノツルギ、ヤサカニの・・・カニ?カニって何?日本語って状況によって一つの言葉が十くらい意味を持つのよね・・・世界一難しい言語だわ・・・あ、鏡!鏡を探しましょう!」
トウテツ(まつろわぬ神だと思っている)
トウコツ(まつろわぬ神だと思っている)
コントン(まつろわぬ神だと思っている)
キュウキ(まつろわぬ神だと思っている)
イシュタル「・・・なんでこいつらこんなに大人しいの?まいっか。私の美しさの得ね!得!」
伊邪那美(新たに邪神を招いたか。不調気味で心配していたが・・・如何な神性か・・・)
天逆毎(善性について頭がいっぱい)
~
私にこんな思いをさせるのならば、私はお前の国の人間を一日千人殺す──
ならば私は、一日に千五百の産屋を建てよう──
「ヒルコさまー。おーい、ヒルコさまやーい!」
花香る高天ヶ原、草木が歌う神の地にて、タケちゃんが握ったおむすびを手に持ちながらヒルコを探し呼ぶ少女が一人。楽園のマスターが一人、藤丸リッカである。料理を皆で食べようとしていたところ、ヒルコの姿が無いことに気付いたリッカは誘いの為に席を抜け出したのだが・・・
『これを渡してやってくれ。精神の糧になる筈だ』
そうタケちゃんに呼び止められ、おっきなおむすびをヒルコに届けようとやってきたのだ。・・・思い返して見れば、ヒルコは飯時になるといつの間にか何処かへ行ってしまい、共に食卓をまだ囲んだ事が無いのだ。あれだけ献身的に、賑やかに尽くして貰えているのだから、仲間外れのような真似はしたくないのが本心と言うものだ。それに・・・
(なんとなーく、ヒルコ様も落ち着く時間はほしいんじゃないかな。なんというか、あのテンションが素じゃないような気もするし)
躁鬱気味、とタケちゃんが言ったのを思い出す。あのテンションが、気負いと高揚に基づくものであれば良いのだが。そして、いつかプッツリと切れてしまわない様に、リフレッシュさせてあげたいと願いリッカはやってきた。まだ圧倒的に草原の比率が多い中、天の川辺に人影を見つける。白と桃の羽衣、ヒルコで間違いないだろう。
「いたいた!おーい、ヒルコさ・・・」
声をかけようとしたリッカは、すぐに口をつぐむ。2・0程ある視力は、ヒルコの川辺での様子を遠方から捉えたのだ。それはいつものヒルコとは、全く違った表情だった。
「伊邪那岐や、火具土や・・・どうか出雲の国、豊葦原の国を救いたもう・・・。どうか、あなたの子に力と未来を・・・」
矛を洗い、祈りを込めて握りしめ言葉を紡ぐヒルコ。御祓の風景に相違無いが・・・その顔は、哀愁と悲嘆、郷愁の念に満ち々ちていた。人など及ばぬ美貌に目の覚めるような苦悩の味わい。愉悦部聖堂協会支店やヒトヅマニアであれば即座に声をかけていただろう。そしてリッカはなんとなくとも、その言動の違和感に気付く。意を決して、ヒルコに背後から声を明るく呼び掛けた。
「イザナミ様には、御祈りしないのですか?」
「あなやっ!?」
余程予想外の声だったのか、ミシミシと矛から音がなるレベルで力み雷に打たれたように背筋を伸ばすヒルコ。声をかけたのが申し訳無くなるほどに見事過ぎるリアクション。ご意見番もニッコリの満点バラエティーリアクションだった。
「り、リッカ様!すみませんこれは実は槍に神威をまとわせる儀式でありまして!はい!その、皆様を避けているわけでは決してなくて!そのですね!ほら!愉悦の民よりいただいた食べ物をこっそり食べようと・・・あはは・・・」
「──。お隣、よろしいですか?」
親しき仲にも礼儀あり。神の礼節を忘れぬままにリッカはヒルコの隣に座る。何も聞かずにいてくれた優しさを汲んだのか、ヒルコも体育座りにて肩を並べる。天上の川のせせらぎと、楽園の皆の喧騒が遠くに聞こえる。程無くして、ヒルコは口を開く。
「・・・イザナミは・・・日本の恥にてございます。黄泉の国に来てまで迎えてくださったイザナギを裏切り、カグツチやヒルコ、もう一人の子・・・きちんと産んであげる事の出来なかった不能の母。そして未来の子々孫々に死の呪いまで飛ばした、自身の事しか考えられぬ女・・・」
口にした言葉は、リッカの問いの答えだったのかもしれない。母たる女神への躊躇いない侮辱だった。短いながらも、いつも見るヒルコからは想像できない語り口だった。
「ヒルコ様・・・?」
「・・・あまつさえ、子が懸命に積み上げ、子が駆け抜けていく歴史にまで侵略を行う。これを恥知らずと言わずなんと言いましょう。・・・タケちゃんがいなくては、危うくイザナミの呪いが成就するところまで。・・・嗚呼、おぞましい・・・」
ヒルコが素早く気付き、そしてその呼び掛けに最強の武神たる武尊が間に合ったからこそ抵抗が叶った。そうでなくては、危うくイザナギの子らをイザナミが呪いの通りに殺し尽くすところであったと。その嘆きは、イザナミを深く深く蔑む言葉であった。リッカはただ、静かに聞いている。
「・・・。でも、ヒルコ様は大切にしているんですね。その矛」
イザナミを嘆けど、イザナギと共に国造りを行った神具たる矛は、ある種の慈しみといっていい取り扱いを行っていた事をリッカは見逃さなかった。その事を指摘され嬉しかったのか、やや弾むようにヒルコは言う。
「それはもう!この矛は、イザナギとイザナミが仲睦まじく、欠けたるものなき幸せの中にいた証の矛。善き国を造ろうと肩を寄せ合った頃の幸福の証!・・・と、イザナギは言っておられました。ヒルコには、それらは預かり知らぬ事なのですが。イザナミが先に声かけをしたばかりに、要らぬ苦労を強いたのですから・・・」
「・・・イザナギ様って、素敵な人だったのでしょうか」
「素敵ですとも。一人になれど気丈に日ノ本を支え、礎を築き上げた素晴らしき御方!・・・まぁ、癇癪でカグツチを斬ったのが破局の原因でも大いにありましょうが。あの方無くてはアマやも、ツクヨミも、泣き虫のスサノオも産まれじと。まさに日本の原初の神に相応しき御方!ちょっと直情的というか、現代における若者に通じる無軌道さがありましたけど!・・・ヒルコに、カグツチにした仕打ちを考えれば、親としては失格もよいところ。あの妻にしてあの夫あり、でしょうか。・・・未来の展望もなくその場のノリで結婚したどきゅん夫婦との名がぴったりですよ、えぇ」
割と重い罵倒を口にしながらも、その口調には怒りも憎しみも籠ってはいなかった。ヒルコはイザナミの事を口にする以外は、まるで懐かしむように言葉を紡ぐ。失望と蔑みを向けるは、イザナミのみであるのだ。リッカはそんなヒルコに口を挟まず、静かに話を聞いている。
「今やイザナミは下劣にも邪神に堕ち、子を脅かさんとする悪鬼羅刹。何の躊躇いもなしに倒すべき悪なのです。ヒルコはその覚悟を懐き、こうして馳せ参じたのですから。・・・まぁ、とっても足を引っ張っちゃいましたが・・・」
「そんなことないですよ。ヒルコ様がいなかったら、私達は一手も二手も遅れていたんですから」
「そうですか!?えぇそうなんです!虐待や子捨てにも負けずに恵比寿となったヒルコはそれはもう立派なのです!えぇ!リッカ様、皆様も!どうか恵比寿神を信仰してあげてくださいな。親に捨てられても決して挫けず、本州にて神となった不屈の恵比寿を!」
恵比寿神が本来至る姿である故に、信仰されるのが嬉しいのかヒルコは朗らかに唱う。沈んでいた気もアゲアゲになったのか、リッカが持ってきたおむすびをモグモグと食べ立ち上がる。
「辛気臭い所を!見せちゃいましたね!さぁリッカ様、あのイザナミの黄泉を攻略せしはまだまだこれから!頑張ってまいりましょう!」
「はい!・・・あの、ヒルコさま!」
「はいな?」
「貴女のこと、もっと知りたいです!だから時々、こうしてお喋りしませんか?」
その提案は、ヒルコにとっても嬉しいものだったのか。喜色満面と呼ぶに相応しき笑顔で頷いてくれた。そしてそのまま、やるぞー!と叫びながら皆の所へ戻っていく。
「やっぱり、色々複雑なんだなぁ・・・相談相手にはなってあげたいけれど、どうしよう・・・」
・・・対話を武器とするリッカにも、苦手な話題が存在する。それは『親子』の話。魂で繋がった家族の愛情を除けば、リッカには親子として過ごした時間は人生の何処にもない。肉親の情がどこにもなかった人生を過ごした為、高校生の時も家庭の相談だけはうまく出来なかったのだ。
「・・・そんなに卑下する事もないはずだよ、ヒルコ様・・・」
だが、これだけは解る。子が親を蔑み、親が子を嘆くのはとても悲しいこと。──ヒルコの懐く心の哀しみを癒すことが出来るかどうか。それも、完全無欠の結末には必要な事だとリッカは感じたのだ。
「ワフン?ワフ?」
「あまこー・・・」
遅かったですね、どうかなさいましたか?と視線で語りかけてくる優しき慈しみの
──優しき、親の情と一緒に。
あまこー「ワフ、ワフン」
リッカ「おっ・・・あまこーモフモフ・・・」
(・・・もっともっと労ってあげなくちゃ。あの矛から流れてくる記憶のせいかは解らないけど、イザナミ様視点で話してるのか、ヒルコ様視点で話してるのかヒルコ様自身も解らなくなってるところ、あるかもしれないしね)
あまこー「ワフン・・・ワフ?」
リッカ「・・・ねぇあまこー。イザナギ様とイザナミ様の事、好き?会った事、あるかも解らなくても・・・」
あまこー「ワフッ!」
リッカ「!」
その鳴き声は、肯定の弾みに満ちていた。例え会っていなくても、アマテラスは父と母を慕っていると。
「──そっか!そうだよね!うん、解った!じゃヒルコ様も、いつかあまこーみたいになれるよう支えて行こうね!」
「ワゥン!」
やっぱり、太陽は暖かい。あまこーのぽかぽかに包まれながら、リッカは其処に親子の情を確かに感じるのであった──。
~
タケちゃん「良い事があったのか」
ヒルコ「えぇ!あなリフレッシュ!」
「・・・次はどうする?神喚びか、進行か」
「そうですね!それじゃあ──あ、その前に!おむすび、ありがとう!」
タケちゃん「・・・握りすぎたからな」
「余り物!?」
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