人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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【おのれぇえぇえぇえ!!よくも、よくも【妾】に恥をかかせたな!この様な辱しめを、よくも、よくもぉおお!!】

『く、来るな、化け物・・・!』

【その様な眼で見るなぁあぁ!!妾はイザナミ!貴様の妻なるぞぉおぉ!!】

『うわっ、うわぁあぁあぁあぁ!!!』

・・・其処までは良かった。其処までは良かったのだ。別離し、別れ、怨みも怒りも呑み込んだ筈だった。

なのに──

『アマテラス、ツクヨミ、スサノオ。これよりは、お前達が日ノ本を担うのだ』

スサノオ「ねぇ、母君は?オレ、母君に逢いたい!母君に逢いたいよ!」

『ッ。──お前達に、母などいないよ』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・そうか

母は、いないか


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






死ね



【うぅん、うぅん・・・はっ!?】

(・・・夢か。夢見のなんと悪い・・・)

──大丈夫か?母君。今から私は四柱を・・・

【天逆毎!・・・いや】

(・・・いる筈も、無いか・・・妾は、真に独りの女神となったのだ・・・)

【・・・・・・挫けるな、妾・・・妾は不要でも、娘に託せる世界を掴め・・・】

四凶((((魂を寄越せと言いづらい))))


前哨決戦!禍肚を奪還せよ!!

『どうやら相手方の足並みに乱れが出ているようね。私は此処で一気に、地盤と足並みを揃える事を提案するわ』

 

オルガマリーが作戦の方針を唱え、全員に通達を行う。今までの争いはあくまで侵攻、迎撃、反攻の準備にしか過ぎなかった。勝てどもそれは戦略的勝利ではなくあくまで不利な状況を押し返すと言うもの。攻め込んでいるようで、こちらはあくまで不利かつ受け身な戦いを強いられていたのだ。理由は明白。相手の層が、攻め込むにはあまりにも屈強かつ無数に存在しているからである。

 

『ロストベルトの女王に相応しいのはイザナミ、其処から無限に産み出される呪詛とまつろわぬ民達。都を護る四凶、鬼門で宝を護る鬼達、そしてそれらを指揮する女神、天逆毎・・・。僕達カルデアだから真っ向から勝負になっているだけで、普通なら戦う事すら赦されなかっただろう。それほどまでに、イザナミの呪詛は強力だ。酸の雨とヘドロ、放射性物質とコールタールが満ちる底無し沼に脚を踏み入れて戦う様なものだからね。キャスター組を総動員して防護していたんだよ、こう見えて』

 

「ありがとう、ドクター。君、誰かに背中を押されると本当に頼りになるな」

 

『お互い、いつまでもヘタレや負け犬ではいられない理由がある。だろう?』

 

違いない。そう笑い合うカドック達の周辺に、不意に空間が引き裂け金髪の美女がひょっこりと顔を出す。

 

「今は諸事情で、天逆毎が戦線を離脱しているの。指揮はイザナミが行っているけれど、天逆毎より何倍も御粗末で大味よ。原初の女神とはいえ、武神や軍神の能力は持っていない・・・此処が最大のチャンスと言うことね。地脈、宝。全てを奪う機会よ」

 

「あのババァが戦線離脱か。余程桃の味を気に入ったみたいだな。いい気味だぜ、このまま黄泉の食い物ばっかで腐らせた舌ごと、ほっぺた落としちまえ!」

 

「何ッ!?ほっぺたは落ちるものなのか!?は、初耳だぞ酒呑!?」

 

「知らんやろねぇ。うちも知らんかったわぁ」

 

「紫さま、行方は御存知なのですか?」

 

「いいえ、リッカちゃん。でも心配しなくていいわ。必ず、先よりマシにはなるでしょう。幸か不幸か・・・ね」

 

賢者は含ませがとても好きなものである。くすくすと笑う紫に、対話と尋問は止めておくリッカ。取って食われたら怖いもの。そして守護神、武神たるタケちゃんが概要と方針を定める。

 

「まず、吾と平の君、天照が四凶を押し留める。その最中にマスター達は朱雀、玄武、白虎の霊脈を攻略するのだ。平のが日ノ本の英霊達を、温羅が妖怪の百鬼夜行を、茨木がつくもっち、・・・そして、龍華の泥龍達も総動員し行軍をサポートする。・・・王の財達の力も借りれるのは心強い。そして──」

 

『ますたぁ・・・龍華は鬼門に赴く。桃太郎は鬼退治。金時、源頼光は群がるまつろわぬものから、守備がやや手薄になったますたぁを防護するべし。鬼門を首尾よく奪還した暁に、ヒルコが宝を御祓ぐ事により霊脈を正常化させ、三つもろともに奪還する。そして──』

 

「マスター達は速やかに帰還!私が呼び出す四霊と力を合わす契約を結び、それぞれの方角に対応する四凶を一対一で討ち果たすのです!そして都を奪還し、何処かに潜むイザナミを討つ!!それでめでたく!こちら側の勝利となります!!」

 

まさに総力戦かつ電撃作戦である。個人のスペックを極限以上にまで引き出し総員を導入する大一番。天逆毎の神を払う禍津神無月、全てを焼き払う禍津黒天照覧、未だ見せぬスサノオとイザナギの神威・・・それらが総て発揮されない千載一遇の好機に総てを終わらせんと思い至ったのである。

 

『今度はボクらも抜かりはない。万か一のために、紫氏と協力して即座に転移できる術式を組んだんだ。つくもっちがいれば作動できるものだから、つくもっちが全滅しないように気を配ってほしい。まぁ、有り得ないだろうけどね!』

 

「当たり前だ。指揮をふるうを誰と心得る、天下の大江山の首魁!茨木童子なるぞ!!・・・それはそうと。おい、女神」

 

「・・・~はい」

 

「奴等を倒し、イザナミを討ち取るまでに覚悟を決めておけ。迷い、決心できぬなどは断じて許さぬぞ。よいな」

 

「──はい。皆様の決心、皆様の覚悟に応えましょう。あやつらを倒した後も、皆様には高天ヶ原を立派にしてもらう手伝いをしてもらう予定ですから!」

 

「なぁおい、ばらきーよ。そろそろ教えてくれてもいいじゃないかよ~。誰を喚ぶつもりなんだ?鬼神か?鬼神なら目の前にいるだろぉ?そう!アタシ様だ!見ろこの四本角!立派だろ!」

 

「確かに立派だが貴様ではない!・・・まぁ、喚べるかどうかも解らぬものだ。別に良いか。吾はな、『火之加具土』を招きたいのだ。イザナミを塵も残さず焼き払う業火を乗せた、火之加具土大炎儀──くはは!吾を辱しめた報いを生前の死因にて返してくれようぞ・・・!」

 

やる気と復讐の意に満ち溢れし茨木を、酒呑と温羅は感嘆半分呆れ半分で見やる。受けた恨みとつらみは決して忘れない。笑って赦す温羅にそれもありやね、と楽しむ酒呑とは違う、生真面目な鬼の姿が其処にあった。

 

「リッちゃんの命、確かに預かりました。鬼門に巣食う鬼、何するもの。この桃子並びに三匹のお供、誇らしき益荒男達にお任せを!」

 

「・・・ま、益荒男・・・金時にあっては間違っておりませんが・・・その・・・うぅ・・・」

 

「言葉のアヤだ、アヤだぜ頼光サン。オレっちらはもっぱら妖怪退治、あっちは生粋のオーガスレイヤーと来た。ゴールデンオーガハンターの腕前、見せてもらおうじゃねぇか!」

 

「我等!鬼退治源氏一家!・・・まぁそれはともかく。多分だけど、三人はそんなに苦戦しないと思うよ。あの形だけの鬼には」

 

リッカは冷静に、経験からそれを予測した。どういう事だとカドックが聞き返すと、相手側の大半には、積み上げた『歴史』が無いという。

 

「確か牛鬼、悪路王、大嶽丸・・・。あれらがいたんだけど。こっちと比べて多分、逸話も信仰も無いと思うんだよね。ただ、強いカタチを取った鬼ってだけ。スズカや坂上さんと戦っていないだろうし、アテルイとしての生は無いだろうし、牛鬼は語り継がれてもいないと思う。──鬼とか、妖怪とか神様の強さって、結局の所歴史と信仰だと思うから」

 

そう。ロストベルトの穴、或いは限界。行き止まりはきっちりと其処なのだ。歪なれど、独自なれど。積み重なるべきだった『歴史』が抜け落ちており、独自の道へ逸れてしまった。枝はより太く、より強靭に育つかもしれない。しかしそれは決して、汎人類史の積み重ねた『歴史』の到達点より先に行く事は無いのだろう。だからこそ、切り捨てられてしまう。敗北の歴史となる事が、その証明なのだ。

 

「その発想は正解よ。私の幻想郷も、人が妖怪を畏れる様にシステムを組んでいる。結局のところ、人間無しでは生きていけないのよね。・・・ロストベルトとやらは、人間無しで生きてしまっている。人間無しで生きることが出来てしまっている。・・・妖怪の到達点ではあるかもしれないけれど、私は遠慮したいわね。ほら、人間は・・・」

 

「見ていて最高に面白い!だろ、紫?」

 

「もう。こういう時にさとり妖怪の真似なんてしないでもらえるかしら」

 

何にせよ、次の戦いは大いに戦況が動く戦いとなる。・・・否。『戦いを始める戦い』を執り行うのだ。妖怪の祖たる女神が戦線を離脱している今、此処が勝負時なのだ。

 

「ワフッ!ワウ、クーン。ワンワンッ!」

 

「やる気満々だね、あまこー!・・・。」

 

「ワフ?」

 

「──見せてあげようね、あまこー。歴史は違ったとしても・・・イザナミは、私達の『お母さん』だもんね!」

 

「──ワンッ!・・・ワフッ」

 

そして、リッカにとあるものを託すアマテラス。一枚の紙に記された『ソレ』・・・

 

「──!」

 

・・・それは、アマテラスが書き記した一枚の絵画。笑顔の『アマテラス』と『ヒルコ』、『タケル』が、天沼矛に祈りを捧げ、『イザナミ』と『イザナギ』を祝う絵画──




そして、禍肚へと向かう最中、ヒルコはリッカを呼び止める。

ヒルコ「もし、リッカ様。・・・よろしければ、これを」

リッカ「?おむすび?」

タケル「・・・!」

「は、はい!・・・ヒルコの、久方ぶりに作った手作り握りでございます。勘を取り戻す為に、まずはリッカ様に食べていただきたく・・・」

リッカ「・・・ごくりっ・・・い、いただきます!はむっ・・・!」

瞬間、リッカの舌は蕩けんばかりにふやけ、舌鼓フルコンボが行われる。ほかほかと湯気が立ち上ぼり、キラキラ輝く白米の瑞々しさと適度な塩が噛む度に口を満たしていく。目を閉じれば、悠久の太古に笑顔を浮かべ作物を創る神々の顔が脳裏に浮かぶ。断言してもいい。──リッカが口にしたあらゆるものの頂点に立つ、まさに神威の握りであった。

「お、おいひ・・・おいひぃ・・・!」

ヒルコ「・・・財の民に背中を押され、私も決心いたしました。『イザナミ』を受け入れるのだと。ならば、イザナミが愛した作物のおむすびを創るもまた然り。・・・どうかイザナギと、イザナミの二柱が。リッカ様を護ってくださいますように・・・」

リッカ「ヒルコ様・・・ありがと!じゃあ、行ってきます!!」

そして、駆けていくリッカの背中をヒルコは静かに見守る。タケルは、そっとヒルコを労った。

「──よくぞ、決心したな」

「色んな方が、背中を押してくれましたから。・・・アマや」

アマテラス「ワフッ」

「どうか・・・護ってあげて。イザナギと・・・イザナミの子を。愛しい愛しい、天照や・・・」

アマテラス「──ワンッ!!」

任せろ!力強く頷き、タケルを乗せて天照は駆け抜ける──

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