人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

1037 / 2536
イザナミ【最早後は無い・・・イザナギの垢・・・いや、汎人類史がこれ程までに精強極まるもの達だったとは・・・】

イザナミ(最早新たに産み出す事は叶わぬ。ならば最早、妾が出る他に道は無し。なんとしても敗北するわけにはいかぬ。なんとしても──)

【──ただいま】

イザナミ【!?】

【長らく空けてすまなかったな、母よ】

イザナミ【あ、天逆毎!無事であったか・・・ではなく、何をしに来た!?最早敗北が確約されたこちらに今更・・・!】

【無粋な事を言う。子が母を労るに理由はいらないらしいぞ】

イザナミ【・・・え?】

【夫に拒絶されし哀しい女・・・。だが、今の私は貴女の哀しみと嘆きが正しく理解できる】

イザナミ【な、何を・・・?】

【あなたに伝えたい美味さがある。──我等の歴史は敗北の歴史。だがだからこそ、彼等に託せるものがある。──私は、最後まであなたの為に戦うとしよう】


イザナミ【・・・な、何を・・・どうしたというのだ、そなたは、そんな・・・】

【こういうのをな──『親孝行』と呼ぶらしいぞ、母よ】

イザナミ【・・・!】



麒麟『きもちいー!もっと、もっとー!』

温羅「お、なにやってんだ?」

リッカ「ブラッシング!やってほしいんだって!」

ザビ「ここか、ここがええのんか」

『あふふふ!くすぐったーい!気持ちいいー!』

リッカ「麒麟ちゃんすっごく可愛くてさー!見てみて、三十分くらい顔ペロされちゃった!」

温羅「おー!私もやっていいか──ぐっ!?」

リッカ「?どしたのウラネキ?」

「い、いや。なんでもないさ。すまんな」

(──胸騒ぎ?何にだ・・・?)


四凶討伐~西方・麒麟疾走~

「ここで最後だ。──僕達で最後だ、仕損じる訳にはいかないな」

 

「あぁ。だが・・・気負いすぎるな。案ずる事も気負い過ぎる事も無い。お前本来の力を発揮すればそれでいい」

 

残る最後の方角、西方。四凶も残すところあと一体となり、それに挑むカドックとアタランテという構図となる。少なくとも重圧となるこの巡り合わせと対峙する相手と相まって、何も思わぬと言うが無理と言うものだろう。

 

【クカカカッ、クカカカッ、クカカカッ】

 

巨大な犬の様な身体を持ち、自らの尾を噛みながら笑い続ける不条理と混沌を司る最後の四凶、即ち混沌が目の前の存在を嘲笑い続ける。彼は秩序を嫌い、安寧を疎み平穏を厭う。この地獄の様な都を、この暗澹たる世界を心から愛し、喝采していた怪物の一匹である。それ故に、秩序と平穏という概念は存在そのものが受け入れられぬ程におぞましく、排斥しなければならぬと強く刻み込まれている。故に──その概念を赦す汎人類史の存在を最も憎み憎悪しているモノでもあった。その様相は、対峙した瞬間に把握し理解する事となる。

 

【クカカカッ。──ギ】

 

「──来るぞっ!」

 

突如、混沌が笑うのを止め真っ直ぐにカドック達を睨み見据えた。その瞳は濁り澱みきっており、まともに見えているかも解らぬ程の腐敗ぶりをまざまざと示す。鼻をつかんばかりの悪臭と共に、秩序をもたらす外の世界の存在を──敵として認めたのだ。瞬間、その周囲一体が正しい意味で無秩序・・・【混沌】と化したのだ。

 

上下の概念が変わり、熱さと寒さが滅茶苦茶となる。一歩歩けば毒が満たされ、一歩進めば先と同じ景色が続く。自らが何であるのかすらも忘れ、忘却してしまう程の希薄さと、心臓の鼓動すら止めてしまいたくなるほどの重圧が一気にカドックに叩きつけられた。この禍肚が常人には余りに恐ろしい存在である事も、この混沌が作り上げた状態と言ってもいいものだろう。

 

「固有結界・・・──この陰気な出所はこいつだったか・・・!」

 

その様子を、カドックは冷静に対処を行いアタランテに指示を出す。何処が隙か、何処が活路か。何を行いどうすれば勝利に近付く事が出来るかを一つ一つ選択し、そして選び取り、マスターとしての指揮をアタランテに与え自分も懸命にそれに喰らい付いていく。

 

(解る、解るぞ・・・。一刻一刻と変わる状態に、戦況に付いていける。何をすべきか、何を行うべきかがいくらでも考えられる。理解できる・・・!)

 

一歩たりとも同じ戦況、環境とならないこの混沌がもたらす戦場にカドックは──瞬時に適応し順応してみせる。もたらす環境の変化、もたらされる戦況の状況。それを一つ一つ吟味し、考案し、状況を打開する為の一手をアタランテに伝え、カドックの指揮を信頼するアタランテが冷静に実行する。上下左右の感覚の反転、耐性と弱点の変化に完璧に対応してみせる。その指揮の精密さと的確さは、一流のマスターと呼ばれるに何ら遜色の無いものである。

 

(凡俗なら、何度でも思考を行う。才能に乏しいなら何度だって考案し考え続ける。──麒麟がくれたこの力、僕にとって一番の贈り物だ・・・!)

 

麒麟がもたらした力。それは思考能力の超高速化、並びに万里を見透し駆け抜ける麒麟の能力を落とし込んだ礼装の力の発露。そして、あらゆる場所を足場とし、あらゆる場所を踏みしめる踏破能力。マスターとして必要な洞察力を発揮する為の全てを麒麟は授けたのだ。

 

どの対応にどう対処して見せるべきか、どう選択を選ぶべきか。どの一手を打つべきか。それを万に圧縮した思考で考えて考えて考え抜き、凡人が導き出せる究極の一手、天恵を一瞬の瞬間で至るまでに叩き出せる様になる試行錯誤の極致。才能に恵まれぬ者を、才能に劣るものが導き出す天才を上回るたった一回の偶然を、強制的に叩き出すものだ。

 

それに並び、身体能力にも強化が行われる。マスターはサーヴァントと共に戦うもの。生き残る事を念頭に入れた振る舞いを完全のものとするための礼装の妙・・・天空を踏みしめ駆け抜ける、悪路や環境をも無力化する耐性を得たのだ。混沌の無秩序に対しても、決して動じず揺さぶられずアタランテと共に臆する事なく立ち向かい続ける。

 

(僕は何処まで行っても凡人だ。それを認め、受け入れ、チャンスとして活かせる。決して逃げず立ち向かう事・・・それが出来る事がこんなにも嬉しいだなんて)

 

もう自身は、劣等感と嫉妬にまみれた敗北せし凡人ではない。カルデアに、新しく編成された仲間たちと世界を救うために挑むマスターの一人なのだ。誰も彼もが個性的で輝かしい実力を懐く中、自身はあくまで天才ではなく等身大の存在として挑み、足掻き、困難に挑み続ける。それは決して卑屈な逃げではない。自身に配られた手札と人生を武器として、胸を張って生きていく。それが自分の選んだ楽園での自身の在り方だ。もう、自身の至らなさを言い訳の道具にはしない。もう自分は一人ではない。隣には臆せず、共に戦う自分と契約してくれたサーヴァントが在り、そして──

 

『見ているばかりも不親切ね。力を貸してあげる。だから無様を晒すのは赦さないわよ、カドック』

 

カルデアの援護として、吹き荒れる吹雪が混沌を凍てつかせる。誰かなど語る迄もない。悪戯好きで、いつもからかってくる・・・自分を気に掛け続けてくれる皇女様。

 

『さぁ、今の内よ。決めなさい、二人とも』

 

「──あぁ、そのつもりだ。アタランテ!狙うのは混沌の器官部分だ!射抜けるか!?」

 

「当然だ。魔力を回せ・・・!これで決める!!」

 

禍々しくあれど、サーヴァントとして従順に戦うアタランテが、指示のままに跳び立ち天空にて弓を構える。それは自壊と破滅をも辞さない、バーサーカーとしてのアタランテの全力射撃。カドックの示した通り、目や鼻、口に狙いを定めた精密射撃──否、顔面全てに狙いを定めた必殺の一射。

 

「【闇天(タウロポロス・スキア・)触射(セルモクラスティア)】──行けぇえぇえぇえーーーッ!!!!」

 

暗黒に染まりし魔力塊が、叩きつけられる様に放たれる。カドックの指示通り、混沌の顔面を指示通りに貫き叩き潰す。それらは全体のダメージとしては絶大、甚大とは言えぬが──最高の成果を叩き出す。

 

【ガ、カ───】

 

混沌は顔面を潰されたまま、いくつか身動ぎを行った後に倒れ伏し絶命し動かなくなる。それは、ただダメージが致死量を越えたが故の絶命という訳ではない。

 

「『混沌に目鼻を空ける』。顔に七孔を空けられ死んだお前自身の逸話だよ、混沌」

 

初めからカドックは、自身が挑む相手の末路と弱点を知っており、調べたままに実行した。概念における逸話の弱点ならば、どんな存在であろうと逃れる事は叶いはしない。

 

(ロストベルトの存在に効くかどうかは賭けだったが・・・、・・・というかよく考えたら、脳や顔面を射貫かれて、無事でいられる筈も無いか)

 

「戦闘、終了だな。・・・マスター、今のは痛快な指揮だったぞ」

 

『中々えげつない事をするのね。私、ゾッとしちゃったわ』

 

「ありがとう、アタランテ。・・・雪合戦の雪玉に固形物を混ぜ入れる君だけには言われたくはないな、アナスタシア」

 

一本取られちゃったわね。そう言いながら舌を出すアナスタシアに呆れと安堵を覚えながら、晴れ行く西方の空をカドックは見上げる。──これで、禍肚は全て奪還され──

 

【──見事だ。汎人類史。その輝きと力、心から敬服しよう】

 

──真の最終決戦が幕を開ける。

 




リッカ『!?天逆毎!?』

温羅『てめぇ、今まで何処に行ってやがった!?』

【知りたい事があったのでな。並びに、お前達が私に授けてくれたものの意味を学んでいたのだ】

温羅『!・・・お前・・・』

【──最早、世界の行く末やどちらが覇者かは私にはどうでもいい事だ。私は私の為に、私が知った美徳の為に。そしてなにより・・・お前達への敬服と共に戦おう】

明らかに先より様子が違う女神の様子に一同は警戒を露にする──その瞬間。

温羅『ぐぅ、っ・・・!?』

リッカ『ウラネキ!?』

【温羅。『余計なもの』を返してもらおう。──並びに、此を最後の関門としてお前達に捧げよう】

掌握せしは倒された『四凶』の魂。掌握したそれらを、真っ直ぐに『中央』へと叩き込む。──最大限まで高まった魔力が、中央部分にて形を為し──

【我等の最後の手駒だ。倒して見せるがいい。兵主神にして魔帝王・・・【蚩尤】をな】

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーーーッッッッ!!!!】

天を衝かんばかりの巨体、そして手にする無数の武器。──事態は、最終局面へと移る──

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。