人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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タケル「あの魔王は吾が討つ。リッカは温羅と共に、四方の何処かに待っていろ」

リッカ「え?でも・・・!」

タケル「あの魔王は攻勢に優れたものだ。万が一にもがあってはならぬ。──それに、ヤツこそは吾が喚ばれた意味なのだ。恐らくはな」

温羅「お前さま・・・あいつに一人で挑むってのか?」

「あれは本命、決戦ではない。只の前座に過ぎん。そんな輩に、お前達では役が不足に過ぎる。露払いは任せておけ」

温羅「だがよ・・・!」

リッカ「ううん、ウラネキ。・・・タケちゃんを信じよう。──解った、タケちゃん。だけど約束してね。絶対、絶対いなくなったりしないって!」

タケル「──無論だ。先んじて、高天ヶ原にて帰りを待っていよう。故に、振り向くな。リッカ。迷う母に、真っ直ぐに立ち向かえ」

リッカ「うん!皆と一緒に、ね!」

タケル「───短くも、あっという間の時間であった。本当に・・・愉快な一時であったな」

リッカ「うん!」

「故に、有終の美を汚しはせぬ。──次に逢う際は、神楽の一つも舞うとしよう」

温羅「楽しみだ。そんときゃ・・・アタシも秘蔵の酒を振る舞うぜ」

「フッ──では、少し待っていろ。我が命、最後の務めを此処に為す──」


神州に捧ぐ剱よ

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️】

 

都、禍肚の中心部。天を衝かんばかりの巨大な身体を誇る魔王、シユウが手にした武器を誇示し暴虐と戦慄の声を上げる。四方は既に取り戻し、浄化が終わっているというのにも関わらずその重圧と威圧は全ての存在を威圧し押し留め、押し潰すと確信するに相応しい迄の神威を誇っている。

 

その姿はキメラ・・・面妖そのものであり、銅と鉄で出来た頭を持ち、蛇のように長い首に亀のような太い足をどっしりと踏みしめている。八つの腕にはそれぞれ異なる武器を持ち、とにかくその巨体は見るものを圧倒し、滲む悪意と重圧は近寄る命を拒絶する。黄龍の存在無き中央の魔物に相応しき存在に、タケルは相も変わらず涼しげに佇むのみであった。その振る舞いは、暴虐の嵐の直中にも凪のように静かで流麗である。

 

「時間が惜しい、迅速に参るがいい」

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーッッ!!!】

 

その言葉を理解し、把握したのかは定かではない。だが確かに戦闘の意志たる行動は図られた。生やした腕に握られらし魔王の武装、一斉にタケル目掛けて振るわれたのである。

 

天が裂け、大地が砕け砂塵が舞った。血色の嵐が巻き起こると錯覚するほどにその連打は凄絶だった。戦闘機の爆撃や大空襲に匹敵、或いは上回るほどの破壊の狂乱にして暴風。振るわれた地が一瞬で消し飛び、灰塵と化す凶悪極まる八度の波状攻撃。サーヴァント毎マスターを消し炭にするに余りある力の奔流が、一人の人型たるタケルに一斉に叩き付けられた。固形が塵になり、巻き起こる嵐は、一目瞭然で致死と即死の光景を見るものに相起させた。

 

──だが。この場に在り、魔王が相対するは並のサーヴァントに在らず。それは紛れもなく、日ノ本に名を残す大英雄である。その名に偽り無き事象が、シユウを叩き打ちのめした。

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!?】

 

一つ、腕がもげていた。そう気付くと同時に、自身に突き刺さる武具が痛みをシユウにもたらした。タケルの攻撃──否。攻撃というほどの緻密さや稚拙さはそれにはない。何故ならそれは、突き刺さったそれは先に自身が握り締めていた武器、並びにそれを掲げた腕であるのだから。

 

「攻防を兼ねるも容易ではないなら、その身を千切りもぎ取る迄。さぁ、次々と自慢の武装を振るってこい」

 

僅かに額を切り、血を流す程度の損傷を受けたタケルが静かに目を細める。合気を極めたタケルでさえ無力化できぬ暴虐の武、それをタケルは相打ち覚悟で最大の効果をもたらした。即ち、肉を切らば骨を断つ。僅かな損傷と共に、魔王の武威を穿つのだ。

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーー!!!】

 

激震と憤怒に空間を振るわせ、最早都市や大地すらも切り上げ逆巻き粉々にする圧倒的な武威の顕現、無双の剛力がシユウにより発揮される。如何なる防御も粉々にする程の絶対的な攻撃を、タケル目掛けて振るい続ける。

 

その度に、タケルは静かに凪ぎ、流麗に攻撃を捌き続け、自らに被弾した瞬間に全霊で腕をもぎ取っていく。一つもぎ取り、引き抜く度に純白の神衣に血が滲み、端整にして白き肌から血が吹き出し、傷が刻まれていく。禍肚にて行われるその戦いは一歩も譲らぬ、互いの存続を願わぬ総力による武のぶつけあいに終始した。──そして、そのいつ終わるとも知れぬ均衡は崩れ去る。

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️・・・!・・・!!】

 

全ての腕をもぎ取られ、身体に余さず武具が突き刺さるシユウがぐらりとよろめく。最後まで討ち果たせず、武威をもたらす筈が自身に余さず返礼された今の状況に、僅かながらも戦慄を懐いた顔を見せる。

 

「多少、手間取ったか」

 

そう告げ、遠方に待機させたリッカの治癒を受けるタケルも、傍目は満身創痍そのものだ。片目は閉じ、左手はだらりと下げられ、着物は紅く染まっている。その有り様は、タケルと言えど魔王との戦いは容易ではないことを告げていた。武に特化した神性無きものでは、霊核の破砕は避けられぬ攻撃の万を越える飛来。これだけの損傷で抑えぬきしはまさしく神業に他ならない。決着はついた。そう判断するに相応しい傷を負ったシユウではあるが──

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!】

 

その身が速やかに敗北を受け入れる筈も無い。天を穿つ絶叫と共に、シユウはそれらを解放し、タケルの危惧した戦法を執り行ったのだ。

 

「悪足掻きを・・・」

 

吹き荒れし疫病の暴風、酸の雨、そして漆黒の焔が禍肚の中央を満たし尽くした。人為的に起こせし天変地異の具現が、タケルを徹底的に撃ち尽くす。それらはまさに猛毒にして、かつての草原に放たれた焔をより一層邪悪に、禍々しく変生させたと形容するに相応しいものだとタケルは静かに思い至る。

 

やがて、タケルの姿を焔が飲み込んだ。風が煽り、酸の雨が更に勢いを煽る。その焔はやがて周囲を覆い尽くし、天にまで届く火柱となり禍肚を染め上げる。魔王の力に、タケルが呑まれた。何より勝利を確信したシユウが、高らかに吠える。

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーーーッッ!!!】

 

勝敗は決し、漆黒の焔に生きるは我一人。そう確信した勝鬨をあげる魔王。──しかし。その認識は、余りにも速きに失し。

 

『───かつて、我に火を放ちし愚者が在り』

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?】

 

魔王は、詰めを誤った。──黒き焔の中心に、高々と掲げられし色がある。

 

『帝に命受けし皇子なりし我に仇なすれば』

 

焔に消えず、雨に腐らず、風に靡かず。その手に握るそれに纏わる物語を、詠唱として静かに謳う。

 

『即ち其の愚、日ノ本に弓引くまつろわぬ魔なり』

 

その言葉と共に、辺りに満ちる邪気が瞬時に潰える。魔王がもたらした天変地異、並びにその全ての邪気が厳かに消え失せた。現れしは、日本武尊。その手には──厳かに輝く、神の剣が握られている。

 

『天命、我が身に在り。黄泉路の果てに、沙汰受け引導を持つが善し』

 

【◼️◼️◼️◼️◼️◼️・・・!!!!】

 

──相模の国で、国造に荒ぶる神がいると欺かれた日本武尊は、野中で火攻めに遭う。

 

その折に、日本武尊は天叢雲剣で草を刈り掃い、迎え火を点けて炎を退ける。

 

だがそれは神剣の力ではない。日本武尊は怪力乱神の英雄として知られているが、同時に武田流合気術の太祖でもある。

 

真に己の気と周囲の気の和合させたことにより最早彼にとって距離と言う概念は不要となった。

彼の探知が届く場は彼の間合い。

 

その距離、3kmを優に越える。

 

その極致をもって日本武尊は剣を横に薙いで、総ての民草と焔を切り裂いたのだ。

 

『其は()を薙ぎ、(益荒男)を狩り、()を滅ぼす粛清の刃———』

 

その神威、その伝承を再び此処に。未来に生きる民の為、未来のために太古の伝説を再び此処に奉らん。まつろわぬ魔王に終止符を。今尚歩む者達に希望と未来を拓く活路を。これこそ、日本武尊の誇る宝具が一つ。究極の一なる一刀──

 

 

『───断ち斬れ。『草薙の太刀』』

 

厳かに。静かにその一刀が薙ぎ祓われ、全ての邪悪と邪気にその神剣が振るわれた。

 

光が満ち溢れ、焔も、風も、雨も、暗雲も、魔王も、何もかもが太刀が産み出した光の中へと消えていく。やがてそれは、禍肚全てを呑み込んだ。

 

・・・どれ程、時間が経ったのだろうか。天の御柱が如くに立ち上った光が収まる頃には、禍肚の邪気、おぞましき気は総てが根幹から打ち払われ、其処の中央部には何も存在してはいなかった。

 

──魔王も、剣を握りし武神も、誰も、何もいた痕跡も無く。ただ、静かに・・・

 

・・・黄泉へと至る空間の歪みが、導き出されていた。




リッカ「タケちゃん!タケちゃーん!!」

温羅「遠目から見ても解るくらいスゴかったなぁオイ!そんな隠し業持ってたとは、それモモが持ってるヤツ・・・あれ?」

リッカと温羅がやって来た中央に、いるべき男子はいない。辺りを見渡しても、いた痕跡すら見受けられはしなかった。

「──タケちゃん?おーい?」

温羅「──リッちゃん、あれを見ろよ」

温羅が指差し、見上げた先には──一羽の鳥が羽ばたいていた。清き、美しき白鳥が、空へ向けて飛んでいく。

「───」

やがてその鳥は、今度こそ邪気が祓われし空に飛び立ち消えていった。その姿を見て、リッカは静かに前を向く

「──行こう。ウラネキ。私達は進まなきゃ」

「──・・・あぁ、そうだな」

・・・自身が君臨することで万事を為すではなく、礎として他者の道を拓く。タケルが悩み、挑んでいた課題の成果を、二人は静かに見届けた。

白鳥は静かに空を舞い、遠く高天ヶ原を目指し翔んでいく。

──誰も追い付けぬ程に、翼を羽ばたかせながら──

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