人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ロマン『皆、辛いかもしれないが堪えてくれ!リッカ君が、リッカ君がビーストを打倒さえすれば必ず・・・!』

はくのん「なんの問題もない」

ムニエル『た、た、高天ヶ原の境界、損傷度1割以下!月の新王の防衛戦、突破されておりません!!』

サーヴァントドール『『『『『『『ザビー』』』』』』』

「ダ・ヴィンチちゃん、そしてニャルニャル、シオンが作ったザビーズを指揮する私のザビエル防衛戦線・・・妖怪には破れまい」

ダ・ヴィンチちゃん『・・・た、確かに全力で作ったよ?作ったけども!』

シオン『ナイナイ、まじでナイナイ!どんだけ数があると思ってるんですか!?敵もドールも!それらを全部把握して指示を出すとか!しかも、全部最適解とか!?』

ニャル【引くわー・・・】

「これぞ、ザビエルレガリアタクティクス。伊達に王様やってません。高天ヶ原のみそっかすはおねが・・・ヌッ」

『どうしたんだい!?』

「・・・プレローが不足してきた。糖分がたりぬ」

ムニエル『すいーつじゃんぬに連絡だ!特注御菓子を支給しろぉ!!』

『防衛線損傷一割を突破!!』

ロマン『今転送するから堪えてくれぇ!?』

マリー『御菓子って凄いのね・・・』




活人──大明鬼神降誕──

「お腹の風通しが良さそうだけど、大丈夫?」 

 

「世の中には心臓をえぐりだして割と平気だったケンちゃんって鬼もいる。アタシ様なら腹が無くてもピンピンしてらぁ」

 

「スゲェ、ってヤツね。でも見てくれは最悪だからこれで隠しなさい」

 

温羅に最高級の反物を羽織らせ、空間を開きとある場所へ降り立つ。このタイミングでの戦線離脱・・・敵前逃亡とも情報を見れば言えるかもしれない。だが温羅は頼れる仲間を、目の前にいる自身の盟友を信じた。今は、そうすることが勝利への活路になる事を信じたが故だ。そして、招かれた場所とは──

 

「おまっ、此処閻魔亭じゃねぇか!?まだ祝勝会には気が早いって!」

 

真紅と黄金の秘境、温羅が妖怪たちの拠り所として見出だした場所が一つ、閻魔亭。見知っていながらも訪れるべきは今ではない場所に声を上擦らせる温羅。酒の酌なら付き合うけどな・・・と首を捻る温羅に、紫は毅然と告げる。

 

「今こそ、貴女が託された総てを懸けて戦う時よ。──あるでしょう。持て余していて、預けたものが。総ての英霊の頂点たる七つの王冠の一つが」

 

「──グランドバーサーカーの霊基か!」

 

「そういう事よ。女神であるならば鬼神が負ける道理は無いけれど、獣に成らんとしているならばそれなりの格式と作法を用いて止めなきゃね。──貴女が挑むの。我ら妖怪総ての祖、天逆毎に。神を討ち果たす事が出来る妖怪は、あなただけよ。温羅」

 

妖怪は、生まれながらに序列と力が決まっている。多少力は変動すれど、大抵は大幅に成長する事はない。上昇思考も乏しく、発展性も種として見れば芳しくは無い。──だからこそ、総ての頂点を覆す程の力を持つ者が在りし時、それらに挑む気概が湧くものはいないのだと彼女は言う。妖怪としての種を護るために神に挑めるのは、此処にいる鬼神、温羅だけであると。その信頼の言に、温羅は目を丸くする。その言葉に、いつもの胡散臭さは微塵も無かったからだ。

 

「種としての生存競争であるなら、もちろん協力を惜しんだりしないわ。──あなたのために用意していたものは、もう一つあるの」

 

もう一つ・・・?問い掛ける前に、閻魔亭から走り寄る者がある。てちてちと走り寄って来たのは・・・

 

「おまたせちま・・・しました!紫さま、御注文のお品、此処に納品致します!」

 

「ありがとう、閻魔ちゃん。さぁ、受け取りなさい。これが貴女が紡ぎ、背負うべき希望よ」

 

「おっとと・・・!・・・こいつは・・・」

 

手渡されたもの。それは真紅の鉢巻と、純白特製の長大な特攻服であった。紅蓮の焔のトライバルパターンに、背中には『大明鬼神・冠位狂霊温羅』と書かれ、四本角の鬼神が刻印されたものだ。見るまでもなく、手製で編まれたものと理解できる質感のもの。自身の為に作られたものと確信できるものだった。

 

「慣れない手作業だなんてするものじゃないわね。老眼鏡が手放せなかったわ。内緒よ?」

 

「これ編んだのお前さまかよ!?はぁあ、道理で姿が見えないかと思ったら・・・」

 

「それだけではないでち、ですよ。温羅様。裏地を見てみるとよろしいかと!」

 

裏地?紅のニコニコな言葉に従い、そっと裏返してマジマジと見つめる。──其処に書かれていた、何よりの激励に。温羅は息を呑んだ。

 

「──あいつら・・・」

 

「いいものでしょう?閻魔ちゃんが宿を格安解放して、皆を招いて寄せ書きしてくれたのよ。行方が解らなかった人は、私が見つけてね」

 

其処には、今まで温羅が救い、助け、未来を示した妖怪達の手書きの感謝の言葉が所狭しと記されていた。今まで懸命に、妖怪達の未来と明日を案じてきた温羅が積み重ねてきたもの・・・それが今、こうして形となって示されている。

 

『俺達木っ端にまで、優しくしてくれてありがとうごぜぇやす、姉貴!』

『今じゃ嫁も子供もいます。あなたのお陰です』

『生まれなんて関係無く、消え去る私達に力を貸してくれた。本当に強いとはどんなものか、あなたが教えてくれました』

 

「・・・──」

 

『負けないでくれよ、温羅の姉さん』

『本当にカッコよくて、本当に憧れです!』

『今だから言える。好きだ!温羅の姉貴!』

 

『私達の未来、私達の明日。あなたになら託せるよ』

『離れていたって、あなたへの感謝を忘れた事はありません』

『いつまでも、あんたは俺達の英雄だ!』

『戦え!負けるな!私達の鬼神!』

 

「大人気ね、温羅?」

 

『おかあさんと、おとうさんをまもってくれてありがとう』

『おれも、つのよんほんはやす!』

『だいすきです うらはすてきなおにがみさまです』

 

「皆、閻魔亭に殺到してきてくれました。温羅様の為なら、力になれるならと。鉢巻にも、きちんと書かれているでちよ」

 

そうして、鉢巻を広げる。其処には、『勝利祈願大明鬼神温羅』と手書きにて書かれた文字。──今まで、がむしゃらに未来を見据え戦ってきた温羅。見返りなどいらない、ただ世界の、妖怪達の未来の為に、人間の明日の為に無私無欲で走り続けてきた。

 

「勿論!閻魔亭も心から応援、支援致します!ゴージャス番頭王様が守り立ててくださったあの日から、貯めに貯め抜いた神気千年分!総て鬼神さまに奉納するでち!」

 

「ふふ、それはやり過ぎではないかしら?」

 

「何を言うのですか紫さま。此処でかるであ、温羅さまが負けたら商売どころか世界がおわりまちゅ。此処こそ、天下分け目の踏ん張りどころなのでち!・・・温羅さま」

 

「──・・・」

 

「今まで、本当に本当にありがとうございました。あなたは、自分は客人だから何も礼はいらない、何も必要ないと言ってくださいましたが。そんな事はありません。善意にはたくさんの善意が。あなたが成してくれた行いには、閻魔さまもにっこりするほどの素晴らしい因果応報がやって来たのです」

 

温羅は一言も発しない。発せないのだ。自身の行いが、生きざまが、こんな形で結実するとは夢にも思わなかったからだ。目は潤み、大粒の涙が鬼神羽織に落ちる。

 

「温羅さまはもう、よそよそしい他人ではありません。私達にとっての大英雄!強く大きい鬼神さま、大明鬼神にござりまチュン!──今こそ、あなたに託されたものを御返し致します!」

 

言葉と共に、閻魔亭が光輝き溢れ出した神威が総て温羅に流れ込む。かつてぬえが使用したものとは、質も量も比べ物にならない神気。真エーテルとも呼ばれるそれは、温羅を満たし腹に澱んでいた妖怪達の力以上の覇気と威厳を授ける。

 

「さぁ、袖を通しなさい。それには宿っているの。あなたが世界より授けられた究極の資格。決戦の七騎の一柱として世界を守護する冠位。──グランドバーサーカーの霊基がね。それはきっと──」

 

「──あぁ、そうだな。きっとこの為だったんだな。アタシが、あのババァを止めるためにくれたのがこの力なんだ」

 

涙を拭い、希望と善意の羽織に袖を通し鉢巻を巻き付ける。腹の傷が一瞬で治り、霊基の位が強く・・・否。より高位に上昇する。

 

「グランドバーサーカー・・・その資格とはきっと、狂い果てていようとも、誰にも理解されずとも。誰かの為に、何かの為に戦い、護る破綻した存在、狂った存在。それだけではただの酔狂でしか無いけれど」

 

『こうして、アタシのやった酔狂に意味をくれる皆がいる。アタシに、アタシの気狂いにかけがえのない意味をくれる皆がいる。アイツが愛を知って獣になったように、アタシもそうなんだ。──皆がいたから、アタシはこうなれた』

 

獣を止めるために。かつての世界の侵攻を止めるために。──世界の営みと、平和を護るために。

 

『なら、アタシもそれに応えるぜ!グランドバーサーカー、大明鬼神温羅!カルデアの皆様と共に!お前様らの世界と未来をばばぁんっと救って見せらぁ!!

 

高らかに宣言する温羅。拳を高々と掲げると同時に、閻魔亭の総てが沸き立ち震える。

 

今此処に、大明鬼神の生誕は成る。獣に完全に落ち果てる前に、自らの手で決着を付ける為に。

 

(今いくぜ、リッちゃん!──歯ぁ食い縛れよ、ババァ!)

 

今こそ、総てを懸けて。鬼神は母たる女神に挑む──




紫「待って。実はまだもう一つあるの」

温羅「まだあるのか!?もうこれ以上もらったら胸がいっぱいで戦うどころじゃないんだけどなぁ・・・」

紫「そう言わない。心構えの話よ。ほら──」

はるえ(はなよの母)「温羅!」

「!母上さま!?」

「あぁ、よかった・・・間に合ったよ・・・。──紫さまから聞いたよ。また、私達の為に頑張っているんだってね、あんたは」

温羅(お前口が軽すぎるだろ・・・!)

紫(~♪)

「いつもいつも、あんたは皆のために、誰かの為にだ。そんなあんたにしてやれること、あたしたちには全然無くて・・・ごめんねぇ・・・」

「何を言うんですか、母上さま。アタシに命の素晴らしさを教え、家庭を支える強さを教えてくださったのは母上さまです。アタシに、家族を護る強さを教えてくださったのは父上さまで、優しさを教えてくださったのははなよたち・・・。全部、皆様から教えてくださったんですよ」

「ありがとう・・・。じゃあ、そんなあんたに、お節介をさせてもらうよ」

「お節介・・・?」

「あんた・・・今、お母さんと戦ってるんだろう?詳しくは解らないけど、その人はお母さんの為に戦ってるって」

(紫ィ!)
(まぁまぁ)

「・・・無茶苦茶を言うようだけれど。どうかその人を、殺さないでやってはくれないかい?」

「え・・・?」

「あんたにも伝わるよう、一生懸命愛してきたつもりだよ。・・・親はね、自分が死ぬより子供に先立たれるのが何万倍も辛いんだ。戦地から子供が帰ってこなかった御両親はね、ほとんどが立ち直れないんだよ。とても、とても辛いことなんだ」

「・・・・・・はなよ、なつき・・・アイツも、そうなのか・・・」

「だから、だからだよ。難しいかもしれない。無茶苦茶かもしれない。戦って、勝っても。どうか、親から子を奪わないでやってくれないかい・・・?やっつけて、反省させたら。どうか活かして、母ちゃんの下に返してあげてはくれないかい、温羅や」

「──!活かす・・・殺さずに、反省させて・・・」

紫「ご婦人、ご安心ください。どんな滅茶苦茶であろうとも、どんな無理難題であろうとも。必ずや温羅はやり遂げます。何故なら、彼女こそは最強の鬼神。相手を殺さずに倒すなど、造作も無いのですから」

温羅「──そうか。・・・そういう事か・・・。ありがとう、母上さま!見えました、アタシなりの、ハッピーエンドの繋げ方!」

はるえ「良かった・・・!・・・あと、それと一つ」

「?」

「仮にも母に向かって、ババァババァと言うもんじゃありませんっ!!」

温羅「あぐふぁあっ!!いっっっっったぁあぁあーーーっ・・・!!!」



温羅「見ろよこのデカいたんこぶ」

紫「最強なのは母ね。桃源郷へきっちり送り届けるわ」

「任せたぜ。・・・わるいな。何から何まで」

紫「いいのよ。・・・あなたは特別だから」

「は?」

「妖怪として生きてる間柄、私は本心で言葉を紡ぐ機会は少ないの。私の箱庭、見目麗しいのは多いけど、性格や性根が清らかなのはあんまりいないし。権謀術数ばっかりしていると、疲れるしね」

温羅「賢者の憂鬱ってヤツか」

「友人はいるけどのほほんとしているしね。・・・だから、一人くらいは欲しいのよ。嘘偽りなく、心から信用、信頼できる盟友って存在がね」

温羅「──」

「終わったら飲みましょう。とびきりの酒、用意しておくわ」

「あぁ、未成年用のジュースもよろしくな!」

約束を交わし、二人は別れ温羅は今度こそ飛び込む。──母たる存在に、拳に宿った真理をぶつけに──


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