人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ギル「──決着がついたようだ。程無く勝者が導かれよう。さて、どちらが的を射た見解であったかな?」

【・・・・・・・・・】

「だが、我は既に勝ちを確信している。事実を受け入れる覚悟はしておけ。無論──最善の結末への覚悟をな」

【・・・認めている】

──えっ?

【後は、そう・・・後は。そなたらへと働いた無礼と狼藉の清算のみ──】


裁定、そして御祓

「来たか。どうだ、日出ずる国なる原初の母よ。此度の戦い、どうやら我等の勝ちと相成った様だな」

 

【おぉ・・・なんと、なんという事か。よもや、よもやこうして敵たる我等にも、その輝きをもたらそうとは・・・】

 

リッカ達が辿り着いた黄泉の底。どこまでも暗く、拡がる暗闇の果て。其処には二人の歴史の覇者が存在していた。一人は黄金に輝く英雄達の王、ギルガメッシュ。傍らに至尊の獣たるフォウを侍らせる堂々たる姿の王は、冥界など容易い散歩道と鼻を鳴らす。そして傍らに在りし──

 

「・・・すまぬな、母よ。この通り、敗北を喫した」

 

「母さん?じゃあ、あの方が天逆毎様の母さんで・・・」

 

其処にいたのは・・・女性。だがそれは所作や振る舞いがそう認識させるというもの。その姿は、恐ろしく、そして・・・痛ましい。

 

【そうだ、汎人類史の娘。妾が・・・そちらの女神の母にして有り得ざる世界の女神。伊邪那美命である。・・・だが、そんな事は今はよい・・・】

 

身体には火傷が刻まれ、腐食の蛆が湧き、顔は溶け崩れ、片目の周囲以外はケロイドのように焼けてただれている。黒き包帯には血が滲み、恐ろしくもおぞましい女性の成れの果て。髪は最後の矜持として美麗ではあるが・・・。そのアンバランスさにして歪さが、見るものに恐怖と威圧を与える。その声音は、地響きか慟哭かの様な低温と金切りが入り交じったもの。そのイザナミが見つめていたのは、ただ・・・娘のみだった。

 

【・・・最早、疑う余地も無い。王たる者の言葉に妾は従い、その様に沙汰を待とう・・・】

 

「ど、どういう事だ?王様、なんかしたのか?」

 

「何、真っ向から挑む前に舌戦の一つでも交わし興じようと思った際、戯れに賭けを行ったのだ。──我等が財は、貴様の娘を殺す事なく貴様の下へ導こう。それを成さず殺したならば、我を恨みのままに害するがいい・・・とな。戦いながら、滅ぼす以外の手法を見出だせるか否か。その多様性と可能性を、こやつに示したのだ」

 

戦いはする。だが財は決して、滅ぼし駆逐するのみの選択を選びはしない。揺るぎない確信の下、王はイザナミに持ちかけた。

 

【・・・戦いに赴いた以上、覚悟はしていた。最早、二度とは会えぬ。戦いに敗れ、最愛の娘をも喪う。それこそが妾の結末、天命であると想うていたが・・・】

 

それは、覆された。戦いながらも生命を奪わず、確かに母の下へ娘を送り届けた。侵略を行った者達へすら敬意と礼節を忘れる事なく、辱しめる事なく此処へ脚を運ぶ。その様な奇跡を、慈悲を示す事などある筈がないとイザナミは了承した。そして待ち続け、──裁定は下された。

 

【今、こうして我が娘を此処に導いた。・・・──滅ぼし、簒奪する事しか浮かばぬ妾らすらも、そなたらは受け入れた。・・・これ以上に、我等に敗北を痛感させる事実は無い。妾と、娘では決してその心を芽生えさせる事は叶わぬだろう・・・】

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

【・・・妾は汎人類史に、かるであの者達へ敗北を認める。そなたらがもたらしてくれた子への変化、優しき慈悲を辱しめる事は出来ぬ。・・・我等へともたらしてくれた美徳を、無下にすることは出来ぬ。・・・娘を、今度こそ喪ってはならぬ・・・】

 

「──見事な健闘であったぞ。極東の島国に出でし民達よ。そして誇るがいい。我が財たる貴様らは、その研鑽にて世界を受け入れたのだからな」

 

その言葉にリッカ、マシュは喜色満面で顔を見合わせた。元凶にして、敵対するしかなかった筈の者達にも。自らの歴史の美徳は伝わった。──誠実にして、懸命に謳った生き様が確かに──伝わったのだ。二人は抱き合い、血を流さぬ結末に感銘を現した。

 

温羅は天逆毎を、イザナミへと託す。活人の拳は、天逆毎の身体を一日は指一本すら動かせぬ程の痛打を叩き込んだが故。──生命は、奪うことなく。親子の絆を引き裂く事無く。

 

「私も、母の言葉に異論は無い。──この戦い、お前達の勝ちだ。温羅」

 

「当たり前だ。相手を見て喧嘩売れって。──へへっ。良かったな、イザナミさんよ」

 

【うむ。・・・勝手な話だが。娘が亡骸と成り果てていたなら、こうしてそなたらと話す事すら出来ないほどに狂っていたやも知れぬ。・・・後の処分は、かの王に委ねている】

 

そう。敗北を認めた時点でロストベルト・・・未来を掴む戦いは王の、汎人類史の勝利となった。ならば次に待つものは、勝者の特権の行使と王の裁定の沙汰である。王は、高らかに告げる。

 

「ならば此処に告げる!この戦い、我等の痛快至極の勝利!敗者たる女神二柱に、我の裁定を下す!心して聴くがよい!」

 

──これが、王の決定にございます。どうか心して御受け取りくださいませ。

 

そして、開帳される二柱への沙汰。それは、二柱への『これから』を記された粘土板に示されていた。

 

「一つ!天逆毎、並びにイザナミの二名は神性を楽園の預かりとし、身柄を監視の下僻地へ幽閉するものとする!その地の名は桃源郷!楽園の入念な監視の下に、これよりの生を我が庭に侵攻せし償いに費やし生きよ!神の座より降りる事こそ、至上の罰と知るがいい!」

 

神ではなく、其処にいる他愛のない命として。最早、何者でもない一つの命として生きる事を、二柱は頷き合い受け入れた。

 

「──甘んじる」

 

「そして、其処で二人共に汎人類史のなんたるかを存分に学ぶがいい!其処で汎人類史の感性と成り立ちを学び、自らが摘み取ったものが如何に重く大きいかを思い知れ!その行いを、親子として支え合い全うせよ!離別は断じて赦さぬ、それは我が決定への反逆!並びにこやつらへの裏切りと心得よ!」

 

歴史をこれからも学ぶこと。そして、自身の世界に生まれるものがどれ程得難いものだったか。そして、それを摘み取り世界を剪定させたことがどれ程罪深いか。それを知り続ける事が最大の償い。その言葉に、イザナミもまた頷く。

 

【誓おうぞ。妾らは決して、そなたらの慈悲を裏切るまい】

 

「うむ。──その儀を以て、こやつらの裁定と為す!異議を申し立てるならば我に物申すがいい!不服とあらば、万象の王の名の下に受けて立つ!!そして、我等以外が罪を糾弾するもまた赦さぬ!二重処罰、それは恥ずべき愚行と知れ!!以下、この場にこの決定が不服な者はあるか!!」

 

その裁定は厳しく、また優しくもあった。容赦なく価値観と喪失したものの重みを突き付け、同時に母と子を引き離す事無く監視という名目で離れぬように見守り面倒を見る。決して投げ出さぬ、そして逃がさぬ王の決定。不服をもたらすものは、この場に誰もいなかった。

 

「となると、イザナミさんも母ちゃんも桃源郷の世話になる訳だな。──安心したぜ。存分に喰らいやがれ。人間の美徳の味をな。・・・あと、はなよ達とも仲良くしてやってくれな」

 

「寛大な処置、心から感謝しよう。──一からやり直しだな、母よ」

 

【うむ、だが・・・良い。何度でも一から始めよう。償いの旅路を往こう。そなたが美味と感じた歴史を、どこまでも知るとしよう。──リッカ、というのはそなたか?】

 

「は、はい!」

 

【──我等と戦った歴史の命が、そなたで良かったと心から思うぞ。妾の一人娘を奪う選択をしなかった優しきそなたよ。真に・・・感謝する】

 

「イザナミさん・・・!」

 

「で、では・・・これで、一件落着なのですね!私達の戦いは、どちらも滅ぼす事無く・・・!」

 

マシュの言葉に、リッカは頷く。──確かに、世界の行く末は護られた。

 

「──さて、では最後の儀を始めるか」

 

【手間を掛け、相済まぬ。だが、これは御祓であり、必要な事なのだ】

 

「母よ・・・?」

 

「お、おいおい・・・?」

 

──最後の御祓。その名の通り、王と女神は向かい合う。最後の確執の、尋常なる決着。そして・・・『世界を手にする戦い』を始めるために──

 




マシュ「ギ、ギルガメッシュ王!?ど、どういう事でしょう!?」

ギル「狼狽えるな、マシュ。これは滅ぼす為の戦いではない。言うなればけじめ、御祓に他ならず・・・我等が歴史へと行う王手でもある」

エアを傍らに浮かばせ、周囲に天の鎖を浮かばせ、左手には終末剣。右手には乖離剣──世界の命運を背負う、王の全身全霊が示される。

【歴史の戦いは終わった。──後は、妾が行った狼藉と愚考を裁かれねばならぬ。世界を滅ぼした、剪定に至らせた罪。他者を踏みにじりし罪。それは、償わねばならぬ。禍根無く、共に歩むためにもだ】

天逆毎「し、しかし・・・!今の貴女では・・・!」

【良いのだ。・・・妾はあの歴史の転換点、そして女神。子に罪をもたらさぬ為に、御祓は行わねばならぬ】

ギル「それにな。我等には仕上げが残っている。こやつらが迎えた転換点、ロストベルトそのものの是正がな。その為には、決着の下に世界を手にせねばならぬ。他者の庭を手入れする義理は無いが、我の庭であるなら話は別だからな」

──レイシフトで要因を解決するためにも。王としての戦いに打ち克ち、世界を手にする。其処ではじめて、行き止まりの歴史を解決する資格を得るのだと王は仰ったのです。それが決定ならば、存分に!

フォウ(けじめ、ってヤツだね!酷いことしたりされたりの想いを、此処で生産するのさ!)

リッカ「──そういう事なら!マスターとして、私も立ち合う!」

ギルガメッシュ「そう来なくてはな。我等のマスターに相応しき豪胆ぶりよ!」

【天逆毎。これは、新しき命を過ごすために必要な事。・・・最早、我等を裁く者も法も消え失せた。ならば・・・】

「万象の王に委ねる、か・・・。・・・異論は無い。存分に、裁かれよう」

温羅「ははっ、いいじゃねぇか!殺し合い、憎み合うよりずっといい!天逆毎、見ようぜ!大一番をな!」

マシュ「──では、お願い致します!皆様の歴史を、どうか!」

──はい!

「任せておけ。さぁ、開幕を告げよ!我が庭へ働いた狼藉、此処で全て精算してくれよう─!!」

【討ち果たせ、我等の世界を!その果てに、禍根無き未来が在らん!!】

リッカ(──なら、きっと来る筈だよね。ヒルコさん・・・!)

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