人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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恐ろしい事が、きっと起こる。全てを揺るがす恐ろしい何かが。妾には、解るのだ。だから、なんとか。なんとかしないと

・・・そうして、自身がどの様な存在であるかを自覚しながら、自らの世界を護らんと立ち上がる。しかし・・・あまりにも弱く、脆すぎた。英雄としては、無名も同然であるからだ。

元凶を突き止めたはいいが、誰も増援が来ない中、刺し違えてでも討ち果たす決意を固めていたが──

『母よ、私を使え』

『◼️◼️◼️!?なりません!また、あなたを犠牲になど・・・!』

『いいのだ。今度こそ、今度こそ。あなたの意志で、子らに正しく報いるのだ。私はただ、あなたの為に身を捧げん』

・・・醜いと言われた、不出来な子と言われた在り方が宝具となったそれは、彼女を完全に誤認する。今度こそ、自身の力で・・・!

・・・そう意気込み、挑んだ戦いは惨敗を喫し神器を完全に奪われた。そして、あまつさえ殺されかけたその時──

『──無理をするな』

防衛に、タケルが間に合ったのだ。──これが、まさに逆転の灯火・・・


死の女神、生の女神

【おぉおぉ、おぉおぉォオオォオオ!!!】

 

吠え猛り、人形の女神から異形に膨れ上がり、決戦に望む姿に変わる。獣のような四足の肉塊、腐食しきった肉からは膿が湧き、吸うだけで滅びをもたらす毒の陰気が満ち溢れ、巨大極まる醜悪な女神の姿。異聞帯の女王たる姿の真髄を顕す。それは、目の当たりにしたものを畏怖させ、戦慄させる異形極まる姿。人だった名残など、最早一部分にしか残っていない。旧き原初の死の女神の力を完全に解き放ったが故の最大にして最悪の姿。無数に編まれた骸骨と骨の骸たる女神が、泰然と腕を組む英雄王ギルガメッシュに慟哭の絶叫を叩き付ける。それが、御祓の戦いの開幕を告げる声なき警鐘と化す。

 

「ま、魔力総量・・・ティアマト神に匹敵!水爆級の魔力放出が始まっています!先輩、どうか私の後ろに!」

 

「お願いね、マシュは肝心な時は外さないから!ウラネキ、天逆毎おばあちゃん!」

 

全員がマシュの背後に退避し、確認よりも素早く宝具を展開する。ロード・キャメロットの展開と同時に──それは、起きた。ギルガメタブレットより、周囲の環境のデータがカルデアに送られる。

 

『──信じ、られない・・・!その女神からは【死】そのものが放たれている!理屈とかそんなの関係無い!イザナミ神に触れたものは【死ぬ】んだ!どんな防御も、概念も意味を成さないんじゃないか!?問答無用と理不尽にも程があるルールの押し付けだ──類似例はまさしく、ティアマト神の死バージョンだ!『その女神の前では生きていられない』!イザナミの出す全てに触れてはいけない!殺されてしまうんだ、ギル!』

 

「原初の神はまず、自らの法則に世界を飲み込む。事象の編纂など出来て当然と言った所か」

 

ギルガメッシュが鼻を鳴らし、女神の本懐を静かに見定める。死の魔力が加速度的に空間を呑み込んでいく。先に在った全てが意味消失し消えていく。何もかもが、死に飲み込まれていく。イザナミを中心に放たれる死の神威は、マシュ達にも牙を向く。

 

「はぁあっ───おぉおおぉおおぉお!!」

 

リッカ譲りの咆哮を上げ、歯が砕けんばかりに踏ん張り盾を構え死に抗うマシュ。盾から伝わる絶望と、倦怠感と締感に懸命に抗う。心が砕けてしまいそうな死の予感に、ただ真正面から白亜の城を展開する。

 

「マシュ、大丈夫。私を、皆を信じて!」

「最後の一番だ!踏ん張れよ!!」

 

リッカが魔力を直に託し、温羅と共にマシュを支える。白亜の城は心の在り方。大切なものを護る為になら、その城門はけして砕けはしない。

 

「・・・これが母の、星を覆いし死の息吹。この息吹に豊穣と繁栄の神々は殺し尽くされ、世界を死が覆い尽くした」

 

「つまり、ほっといたらどうなる!?」

 

「同じことだ。星の全てが息絶える。母の世に移り変わるのだ。未来永劫、美味なる歴史は途絶えよう」

 

絶望的な答えを、ギルガメッシュは静かに聞き及ぶ。エレシュキガルの静かで優しき平穏など微塵もない、苛烈で無慈悲な死の領域。獣、姫、王はその浸食に変わることなく対処を示した。

 

「ただ独りにて冥界を背負い、職務を遂げた大輪の華を我等は知っている。それに比べ、何と暗く冷徹な色よ。この有り様に比べれば、枯れ井戸の底すら極楽であろうな」

 

【そうだ、この妾こそが世界を滅ぼした女神!子に片棒を担がせた邪神!我が身を見定め、裁きを下せ!全てが、全てが手遅れになる前に!!】

 

「無論そのつもりよ。愛を育み、命を想い、失意に堕ちた原初の女神よ。──今こそ、生ける魂の輝きに刮目するがいい!!」

 

その言葉が、合図だった。フォウが肩から頭に飛び乗り、魂と肉体を守護する絶対尊重空間を作り出す。あらゆる害意を七次元単位で遮断する、理想郷の疑似展開。王と姫の存在を絶対保証する結界を展開し防御する。

 

即座に、左手の弓型の終末剣より空間を穿つ弓矢が放たれた。その黄金の矢は暗き冥界の空間に一筋の光となりて突き刺さり、空間を──厳かに叩き割った。

 

【!!?】

 

瞬間、生命芽吹かぬ黄泉路に大洪水の波涛が雪崩れ込む。それらは原初の潮波、聖書に記された津波の原典。エアにより時を速める飾りを選定された事により、一週間の滅びを即座に招くことが可能なのだ。死すらも、大洪水が暴れ飲み込んでいく。

 

──宝門、全展開一万!賢王、並びに善良にして美しき人の極致たるウルクの皆様、どうかこの大地に王の決意の顕現を!

 

エアの選別、並びに嘆願により展開されるバビロンの蔵、総勢一万門。同時にウルクの民草総て、それを統括する賢王の決意を総結集した号令により巻き起こされる一斉掃射を行いしディンギルが厳かに展開し、一斉に死の総てに牙を向く。最早ゴージャスにクラスの縛りは在りはしない。ウルクの総て、自らの総ては今、至尊の魂により全開する──!

 

──『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』!並びに──『王の号砲(メラム・ディンギル)』──!!!

 

エアに全面の信頼を寄せられ託された英雄王の宝物庫の財宝、並びにウルク総力の結集砲撃が、闇を照らす綺羅星となり周囲を目映く照らす。押し寄せる死の波を、絢爛豪華な輝きの全てが迎え撃った。その砲撃は苛烈にして緻密。姫たるエアが選別、算出した射出と宝具の軌道は、数秒先の未来すら演算で導き出す程に研ぎ澄まされたエアの計算により、完璧な成果を叩き出す。

 

【お、おぉお──!!せ、生者達の力だと・・・これが・・・!】

 

叩き込まれる砲撃は、迎撃される瞬間に破裂や分裂を行う。放たれる刀剣は死を切り裂く生命の力が込められたもので占められイザナミの核以外をくまなく突き刺し突き刺さる。一秒の誤差なく、無駄なく叩き込まれる黄金の嵐。イザナミが怯んだ瞬間、王がいよいよ至宝の威を示す。

 

「実に興が乗った。時には我も羽目を外すとしよう。かねがねよりエルキドゥめに薦められし戦法を見せてやろうではないか!」

 

右手に厳かに握られた乖離剣、エアの刀身の臼が回転し暴風を撒き散らす。最大出力『天地乖離す開闢の星』へと移行する手段ではあるが──王は驚天動地の手段、或いは暴挙を執り行う。なんと『柄に天の鎖を巻き付け、乖離剣を振り回し始めたのだ』。それは、天地開闢の儀に吹き荒れた真紅の嵐の如く。

 

「吠えよ、唸れ乖離剣!!死に満ちた悉く、その風にて断ち切るがいい──!!」

 

刀剣そのものが振り回され、風圧が解放された瞬間、辺りの全てが巻き起こる風に巻き込まれ吹き飛んでいく。それは真紅の暴風雨、王が巻き起こした嵐そのものだった。壮絶極まる乖離剣の展開、されど真名は呼ばぬ暴風の顕現は、イザナミを空間毎無慈悲な迄に切り裂き、吹き飛ばし抜いた。創生の嵐を、受け止められるものなど誰一人として存在しない。死の概念、死の女神さえも。

 

【おぉおぉおぉおぉあぁあぁあぁ──!!】

 

絶叫と共に、イザナミの身体が吹き飛び蹂躙され、凄まじいダメージを致命傷と共に叩き込まれる。その余りの火力と、息を尽かせぬ怒涛の連射にて撃ち据えられたイザナミは、地響きを立てて倒れ伏す。

 

「原初の混沌に、生も死も在りはすまい。貴様の生誕が如何に旧くあろうとも、開闢の星に届くことは無いと知るのだな」

 

──王!まだです!

 

数多の王の全ての威光を叩き込まれながらも──イザナミは【速やかに顕現する】。彼女は最早【死】そのもの。殺そうが、害そうが、彼女を殺める事は決して叶わない。滅ぼすことが叶うとすれば、それは天地乖離す開闢の星・・・或いは、邪神が持つとされる光輝と抹消の誓約で世界を切り裂くか、世界を切除するかの偉業を用いる他にはあり得ない。それほどまでに、ロストベルトの王たるイザナミは強大かつ、絶対敵であった。塵も残さぬ全力で殺そうとも、即座に復活を果たした女神の規格外さに、王は愉快げに鼻を鳴らす。

 

《ふはははははは!殺しても死なぬ英雄どころか死を宿す女神とは!殺し尽くすであれば話は早いがこれは御祓!ある程度楽しみは残しておくものだがその神威、世界の覇者に相応しい!》

 

【まだだ、まだ妾は終わらぬ!娘に、なんの憂いもなき未来を歩ませるまで妾は死なぬ!まだだ、まだ妾は死なぬぞ英雄王・・・!!】

 

なおもまた足掻き、死を支配し厭わぬイザナミ。完全に滅ぼされる事はなくとも、だが決して終わりはしない。その執念と気迫に、一同は息を飲む。

 

【全ては、全ては我等の御祓を果たさんが為に!まだだ、まだ私は戦うぞ・・・英雄王・・・並びに麗しき魂よ・・・!】

 

母が、罪を背負う覚悟。それを目の当たりにしたギルガメッシュは、終末剣と天の鎖をエアに預ける。

 

「良かろう。ならば引導をくれてやる。但し──『渡すのは、あくまで貴様だがな』」

 

【何──!?】

 

そして──王は頭上を指差す。其処より舞い降りしは、純白の白鳥。地に降り立ち、ある影を送り届ける。

 

『・・・ありがとうございます、王様。参列を赦していただいて』

 

「先の一撃で一度は仕留めた。尚も生きねばならぬのならば貴様らの出番だ。見事飾ってみせよ」

 

王の言葉に、頷くヒルコ。その手には、神の国造の力たる『天沼矛』──

 




【貴様は・・・ヒルコ・・・!?今更、今更何をしに来た・・・!!】

『勿論、未来を護りに。礎となるために。──リッカ様。どうかこちらへ』

リッカ「──うん。決心したんだね」

マシュ「せ、先輩!?」

ヒルコに歩み寄るリッカ。その足取りに、迷いはない。向き合う女神に、イザナミが猛り狂う。

【我が子と言えど、邪魔立ては許さぬ──!!】

死の歪みをもたらし、リッカ並びにヒルコ、白鳥を殺めんとするイザナミ。しかし──それは叶わない。

【・・・何故だ、何故死なぬ。王以外に堪えられるなど・・・!】

『無駄ですよ。──私は、同じですから』

リッカ「──」

歩み出す、ヒルコ。──リッカは、静かに頷き合いその傍らに在る。

【同じ・・・?──いや、待て、貴様・・・なぜ、なぜそれを・・・!?】

イザナミは、見えなかった。ヒルコを名乗るその神が持つ矛を。度を越した嫌悪が、捉えることを拒否したからだ。

『──ヒルコは私の呼び掛けに、応えてくれた。そして私に、世界を救う力を託して果てた』

何故、誰も疑問に思わなかったのか。何故、主神の力を息子が自在に振るえる道理がある?

『冥界の女神であった私を信じ、宝具を展開し消え去った。我が霊基を、ヒルコの霊基へと見せ事までしてくれて』

リッカ「──」

・・・何故、誰よりも早く侵攻に気が付いたのか。何故、高天ヶ原などという凄まじい固有結界を展開することが叶うのか。何故、タケルやあまこーに親しげに接する事が許されたのか。

『──今こそ、貴女にこそ与えられるべき安らぎをもたらし、その愚行を終わらせるために。我が最愛の子の手向けを解き放ちましょう。』

何故、神霊を呼び出せたのか。何故、あまりにも英雄としては弱者であったのか。──何故、『誰かに料理を振る舞うことをさけていたのか』。『何故、呪いに触れたリッカが解呪を果たせたのか』。『何故、ヒルコがくれたにぎりを食べてから、冥界でなんの支障も無く活動が出来たのか』
。──全ての答えは、この一瞬の最中に

『冥界に在るというならば、再び此処を豊芦原の祝福の地へ。豊穣の風をもたらし、我等が子達の明日を救いましょう』

【──馬鹿な、そんな・・・馬鹿な・・・!?】

リッカ「──お願いします。あなたの名前のままに。そう、あなたは──」

『はい。ありがとう、リッカ様。──天沼矛、顕現。宝具開帳。我が真名の下に奇蹟を起こさん』

満ち溢れる、生命の息吹。今此処に、初めから全てを見守りし者が姿を現す──

伊邪那美『・・・『伊邪那美命』の名の下に。『天津豊芦原之営福(あまつとよあしはらのまかない)──産屋を建て、生命を満たさん』

天逆毎「──イザナミノ、ミコト・・・だと・・・!?」

温羅「ひ、ヒルコじゃなかったのかよ!?」

リッカ「──良かった。ちゃんと、自分を取り戻せて・・・」

冥界に満ちていく命を眺め、リッカは満足げに笑みを溢す──

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