人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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タケル『遅刻を赦せ、黄金の。戻っていたら手間取った』

恩羅「おま、お前さますげぇ散り様だったって聞いてたぞ!?」

タケル『散ってはいない。ただ、白鳥にて高天ヶ原に戻っていただけだ。・・・紛らわしいとしこたま怒られたが』

マシュ「良かったです!その・・・身体がバラバラになったりしてなくて本当に!」

『さぁ、見届けるとしよう。カグツチと、それを宿すの最後の大一番を──』


御祓の終幕──最終縁起──

【そうか・・・。お前が、正しき歴史における妾であったか。初めから、お前は子に寄り添っていたと言うわけだな・・・】

 

目の前に在りし女神、ヒルコ・・・ではなく、紛れもなき原初の神の一柱にして自分自身に納得したように、イザナミは言葉を紡ぐ。

 

『母として子を護り、神として世を護る。最後の御祓の儀、妾を導いてくれた者達の前で見事果たして見せましょう。妾よ』

 

佇む伊邪那美の周り、総てに生命が満ちる。彼女の持つ力と矛の力は、冥界や根の国だろうと問答無用で生命をもたらす原初の神の力。国造そのものである。伊邪那美の力に、イザナミの死の力は完全に押し留められる形となる。先程より何倍も動きやすく、生存環境の整ったその場の神威とヒルコを名乗っていた女神の出現に騒然とするマシュ達。・・・そして、真なる姿を取り戻した伊邪那美は、イザナミに最後の本懐を問い質す。

 

『正しき歴史、そうでない歴史・・・それを分かったのが妾であるならば、其処には必ず成し遂げたもの、行ったものがある筈。それを、どうか、自分自身でもある私に話してはくれませんか』

 

【・・・それほど、難解な問題ではない。妾はお前と同じように生き、同じ様に死んだ。冥界にてその場における覇者となった。・・・それだけは、なんら変わらず事実だとも。・・・違うのは、妾の起こした過ちのみ。妾の起こした愚考のみ。──この姿はな、母ではなく女を求めたものの末路なのだ】

 

それは、歴史の分岐点。当人から語られる、世界が剪定に至る原初にして大いなる動機。イザナミは語る。それは、母である事を放棄したが故の末路であると。

 

『・・・・・・』

 

【死して冥界に至った妾は、意地らしく夫を待った。黄泉の其処であろうと、妾は心が通じ合っていると信じて疑う事はなかった。妾は、黄泉の地で待ち続けたのだ。──だが・・・私はイザナギの気配を感知した時、最早自らを省みる事が出来ぬ程に感極まっていたのだ。──分岐は、其処なのだろう。【妾は会いに行ったのだ】。夫を迎えんが為に、重苦しき岩を退かし、イザナギの下へ駆けたのだ】

 

そう──本来ならば、岩で隔たれ再会は叶わなかった邂逅の時。その際に、彼女は自ら出ていったのだという。待ちきれず、イザナギの下へと駆けたという。夫との再会を、ひたすらに待ちわびたイザナミは真っ直ぐに彼の下へと向かったのだ。・・・其処で、世界の命運は分かたれた。

 

【・・・私の姿を見て、イザナギは嘆き、戦き、そして・・・拒絶した】

 

来るな、化け物。イザナミがイザナギに受けた言葉はそれだった。懸命に走り、懸命に駆け、待ちに待ちわびていた夫から貰ったものは、喜びでも抱擁でもない。簡単にして単純な・・・。『拒絶』に他ならなかった。

 

【其処で私は、黄泉の泉に映る私の姿を初めて目の当たりにした。──今のこの姿に成り果てた私は、とても醜く。そう罵られても仕方ないと納得するに充分だった。──そして、私は嘆いたよ。黄泉の食物を食べた自身がどうなっていたか、失念していた自身の愚かしさに。そして・・・毎日の様に愛を語り合っていた者が、一皮剥ければこうも違う。思いも出せぬ遥かな太古に、かつて懐いていた感情すらも思い出せず、私は反転した憎しみに狂った。先に逢ったと言うに、イザナギは気付いていなかった。・・・妾とすら、認識していなかったのだ。その事実にこそ妾は、真に狂ったのだろう】

 

それが、ロストベルトにおけるイザナミの選択。彼女は母としてではなく、一人の妻として。女として伴侶を求め。完膚無きまでに破局をもたらされた。二人は、拒絶と失意のままに別れを交わした。待たず、会いに赴いたこと。─それこそが、彼女のもたらした剪定の分岐点であるのだと。

 

『貴女に、そんな事があったのですね。自身から、イザナギにへと赴いたが歴史の分岐。狂い果てた歴史の根源・・・』

 

【後は、顛末の通りだ。私は娘を産み出しイザナギの垢・・・人やそれらの未来を奪い閉ざした。呪いを世界に満たし、太陽を覆い隠した。・・・我等の未来は、此処に閉ざされたのだ】

 

何の意味も無かったと、イザナミは消沈する。自ら紡いだものを、自ら積み重ねてきたものを、統べて喪い、消し去ってしまった。愛する子も、自らの運命も、確かに存在していた絆も。全ては嘘のように消え去ってしまったと。

 

【・・・妾は、最後まで何の意味もない女神であったな。母と呼ばれるには、あまりにも身勝手で愚かに過ぎた女。これが、目の前にいる醜女。有り得たお前の末路だよ、伊邪那美】

 

静かに示される真実。それを聞いていたイザナミは頷き・・・リッカは憤慨を露にする。

 

【逢いたいって思うことが、間違っている筈ないのに・・・!そんなの、絶対におかしいよ!】

 

『リッカの言う通りです。それらの気持ちは、全く間違いではありません。むしろ貴女は、私より深く、大きく愛を懐いていたと確信できます。世界の運命よりも、神の在り方よりも・・・イザナミ、あなたは掛け値なく『夫』を選んだ。・・・その結末は確かに、世界には不要な選択だったのかもしれません。・・・ですが』

 

その選択には、行動には、確かな意味と心が在った。世界よりも、自身の心に従った。それはかつての自分が執ることが無かった、自身の他者へむける『愛』・・・──

 

「ロマン。先の言葉は聞いていたな。心せよ。我等は此より、『異聞帯の原因』へと向かう。ロストベルトは敵を倒すだけが勝利の道ではない。歪んだならば、元手を正せばよいだけの話だからな」

 

王が成すべき最後の仕上げ。それは王が世界を手にした際の手入れに相応しき事業を達せねばならない。その為には、ロストベルトの王から聞き及ぶ必要があったのだ。何処からを間違えて、何処からを誤ったか。それを攻略、善き結末にもたらす為の最後の下準備だ。

 

 

『解った。座標さえわかれば──!』

 

『どれだけ反転しようと、どれだけ憎もうと。『愛し合った』過去は消えない。過去に刻まれた感情が、憎悪しか無い筈がない。あなたの選択は女として、一人の妻として・・なんらおかしくない感情の発露。──良かったです。私が選んだもう一つの結末の根底が、愛であることを知れて良かった』

 

【・・・・・・愛など、もう妾に語る資格はない。私はただ世界の王として、そして娘の未来の為にこの御祓を全うするのみ・・・!】

 

その言葉と共に、再び立ち上がらんとするイザナミ。互いが互いにぶつかり合い、その果てに罪の償いを終わらせ、未来に至る為に御祓を行う決意を見せる。自身には愛を語る資格もないと告げるイザナミを、伊邪那美は静かに受け止めた。──そして・・・

 

『いいえ、残っています。僅かな時間であろうと、確かに妾達が残したものがあるのです。──それは、今度こそ。子としての矜持を・・・此処に。妾達が見据えるべき焔は、今此処に顕れるのです』

 

伊邪那美の言葉と共に──『紅蓮の焔』が、燃え猛る。

 

『──漸く、漸く此処までやって来たぞ。カグツチの涙を、絶望を目の当たりにした時より。吾の優先する度合いが様変わりしおったわ』

 

真紅、そして清澄な焔を纏い、その者が言葉を紡ぐ。それは──始めに利用され、使役された今回における始まりの鬼。

 

『最早吾の怨嗟など二の次、三の次!見るがいい、異なる歴史の女神よ!怨みに怨みで返すのではない、我等こそは、終わらぬ憎悪の連鎖を断ち切る結末を望むことが出来ると言うことを思い知れ!!さぁ受けよ──!貴様を想い、嘆き続け、それでも尚望み続けた母への親孝行を願った神の全身全霊!!──走れ!!高天ヶ原!!』

 

焔が鬼の形を取り、力を茨木に託す。其処には鬼の形を模した巨体なる火神の姿が君臨する。──自身の為ではなく、いつまでも泣いている幼児の、親孝行と願いを叶える為に・・・

 

『究極奥義!!『火之加具土大縁儀(ヒノカグツチだいえんぎ)』ーーーーッッッッッ!!!』

 

全ての願いを込めた両腕を放ち、渾身の力で放たれる気迫と決意の神威を、今放つ。全幅の信頼を乗せ、巨大な掌がイザナミに迫り──

 

【・・・これは・・・この焔こそは・・・お前なのか──カグツチ──!】

 

──そのまま、紅蓮の輝きの両手はイザナミを掴み取り、猛烈な業火にて呑み込んだ。そして身を焦がす焔に包まれる中。其処で。・・・母はかつての家族のような存在からの『声』を聴く──




【これは・・・】

焔の中に在れど、其処に燃やされる苦しみと熱さは無い。逆に暖かく、ゆるやかで、清らかで穏やかに包まれているかのような感覚。

そして、変化が起きる。イザナミの身体に刻まれた火傷が、傷が、膿が消えていく。元の、美貌の女神としての姿に立ち返らせていく。火傷と穢れを、焼き尽くしているのだ。

【──!】

そして。垣間見る。焔に浮かび上がるは──かつての、イザナミとイザナギの記憶。共に国を作らんと、幸せにしようと意気込むイザナギの傍らにあった頃の、自身の姿があった。

其処に浮かび上がるは、幸福な記憶ばかり。かつて体感し、味わった全てが、焔の中で示される。・・・そうだ。手酷く裏切られたからと言って、嘆くことは無い。こうして示されているように──『愛し合った』記憶や心は、決して間違いではない。

【・・・カグツチよ。まさか、お前がこのような事を行うとは。このような事を、行ってくれるとは・・・】

死に至るまでも、後も、焔に輝くその営み。それらは決して、無かった事にはならない。どれだけ堕ちようと、愛し合った記憶はけして消えないように。

『私はこの矛を、託されました。別れは最低最悪だったとしても。こうして、愛し合った絆は途切れない。あなたもそうなのです。イザナミ』

【・・・・・・───名も知らぬ、鬼よ】

『茨木だ。茨木童子!』

【茨木童子、か・・・──一言だけ、言わせてもらう】

穢れは清められ、心を洗う焔の蔓延。冥界の肉塊たる身体は焼け落ち、そして──

【───カグツチの背中を押してくれた事、心より・・・感謝する──】

───焼き尽くされた焔の下には、身体中の穢れが祓われたイザナミが倒れ付していた。再生も行えぬ、引導を渡す清澄なる焔。それこそが・・・

『恩義には恩義、怨嗟にすらも義憤に置き換わる。それが叶うのが・・・我等の生きる歴史よ』

それが、茨木のみが心を溶かしたカグツチの使う『火之加具土大縁儀』

──母と子を繋ぐ、鬼がもたらす縁結び──

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