人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ギル「ふむ、高天ヶ原の連中は引き続きかの地にて滞在を行う、か。改めて召喚し直す必要も無いとはエコな事よ」

──楽園、高天ヶ原、桃源郷・・・!なんだか凄く縁起のいい並びと響きが集いましたね!

《然り。あとは理想郷さえあればまさに完璧であったのだが・・・諸事情、そう抜き差しならぬ諸事情により理想郷は全て遠いのでな・・・》

(素直にセイバーに出会えませんって言えよ)

《黙れ珍獣!!我が曖昧にぼかしたと言うに!・・・とまぁ、それはともかく。召喚の儀に移るにはやや縁が弱いというものだ》

──あと一つは特異点を攻略し、縁を結びたいと思いますね!

《そういう事よな。・・・となると日本繋がりで・・・よし。あの輩どもを焚き付けるとするか》

──あの輩?

《然り。シリアス分は最早摂取した。そろそろ、頭を愉快に融かす時であろうよ。・・・して、エア。桃源郷の様子はどうなっているか?》

──はい!かの二柱は今・・・


償いの揺儖

・・・命を奪う事ばかりが、償いになるというものでもない。そう、罪を自覚させるには生かし、自覚させて生きていく方が何倍も効果的で、何倍も痛感するという場合もあるのだ。

 

「アマノさん、おはようございます。今日もいいお天気ですねぇ」

 

「えぇ、御婦人。今日も善き1日でありますように」

 

神の座から降り、この桜の花と桃の実が満ちる地、桃源郷の地を私は練り歩く。只人の身では生活の糧を自身で確保しなくてはならない。その為には日々の労働、他者との交流が不可欠だ。・・・それもまた、罰の一環であると理解させられる。

 

「解らない事があったら、何でも聞いてくださいね。私達、力になりますから!」

 

「せめて此処くらいは、助け合って生きていこう。世の中酷いことばかりじゃないって、私達なりに示して行こうじゃないか」

 

新参者と蔑む事もなく、語りかけ話し掛けてくる住人たち。生活に慣れるよう、様々な事を取り計らってくれた心優しきものたち。随分と、優しく対応をしていただいたものだ。この身に満ちていた神威を全て放棄し、深海で鎖に繋がれ歩いているような息苦しさも随分と軽減された。桃源郷の住人とは、それほどに美徳と美味に満ちていた。

 

「・・・滅ぼさんとしていた戦犯相手に、見事なものだ」

 

そう、自身はこの地を残らず・・・歴史を残らず滅ぼさんとしていた者。彼等とて、群がる蟻を蹴散らすが如くに滅ぼさんとしていたのがこの私。彼らはそれを知っていながら、親身に接してくれているのだ。その優しさが有り難く・・・また、心に深く咎の在り方を刻み込む。

 

この地、温羅が流れ着いたこの桃源郷。その地を詳しく調べてみた。これから永住するであろう風土を調べていく内、それなりに驚くべき事がいくつか判明した。それを、娘は知ってか知らずか・・・家の傍に流れる川の傍の石に腰掛け、思案に耽る。

 

(まず、『この地は生きている』。傷付いた人間や、行き場の無い善性の存在を招き入れる気質を持っているのだ)

 

この地脈や霊脈、土地の発する気脈からして導きだした結論がそれだ。この地は誰かを労り、誰かに優しく、優しくされるに相応しい人間に扉を開き手招きを行う。・・・無機質な存在に使用するべきかは不明瞭だが、『お人好しな土地』とも言うべき地なのだ。

 

勿論そうするには理由がある。迷い込んだ人間に、自身の特産物である桃を始めとした食物を摂取させ、そこから生まれる波動や生体エネルギーといったものを生活の中で産み出させ、それを地脈に還元させているのだ。つまるところ、善人や善性のエネルギーが好みな土地であるといったものが正解だろう。・・・その地の特色は、筋金入りのものだ。何故か?

 

(他者を排除し、防衛する機構が備わっていない。傷付き、迷った人間を招くがそれだけだ。もし僅かでも悪を企む人間がいたなら、この地は破綻するというのに)

 

選定に自信があるのか、はたまた人の美徳を信じているかは解らない。だが事実として、この地は山々と川、『招いた人々が不自由しないだけの富』を用意する。其処に、過剰や過度な資源は無いのだ。だからつまり、それらを独占し支配しようとした者がいた時点で桃源郷は崩壊する。御人好しというかなんというか。悪と暴虐の自由を実現させた身からしてみれば、あまりに迂闊で無用心といった印象を懐かざるを得ない。

 

だが、事実として桃源郷は運用されている。他者を食い物にせず、清貧と礼節、美徳を忘れず。他者が他者を思いやる。それだけでも驚嘆すべき事実だが、ここに先の条件『傷付いた人間』というものが関わってくる。

 

そう、彼等や彼女らは異世界からの迷い人。その生になんら悪徳を懐かず、それでいて他者の悪意に晒された存在。手酷く裏切られ、利用され、世から消えざるを得なかった存在。それ故に・・・悪や悪行の虚しさ、恐ろしさを痛感し身に染みさせている。だからこそ、彼等は他人に優しく・・・親身になる事が出来るのだ。他者に傷つけられる悲しみを、苦しみを知っているから。心に刻まれた傷を理解しているから。

 

(──或いは、そんな人間を助けたいとこの地そのものが考えているのやも知れんな)

 

もしかしたら、順序が逆なのかもしれない。善性の存在を招き、エネルギーを確保するのがメインではなく。『傷付いた人間の拠り所になりたい』とこの地そのものが考えているのだとしたら。だからこそ、この閉鎖しながらも優しい土地が成立しているのだとしたら。それはとても・・・

 

(──美味な事だ)

 

土地が、人が、理由を知る善意で支え合い。理由なき善意で保護を行う。それらの在り方の尊さが今は理解できる。その在り方は、とても美味い事だ。自身もまた、それらを守っていきたいと感じている。

 

──だからこそ、その善性が自身達に与えられた【罰】なのだと、痛感せしめる事となる。何故ならこの地こそは、『自身らが作れたかもしれぬもしも』であるからだ。

 

この世界の人間と、かつて我等の世界にいた人間に違いはそう無い。生物学的にそう差異は無く、外部の干渉がなければ繁栄できていた種族であっただろう。それらを我等は【滅ぼした】。自身の都合で、破滅をもたらした。

 

儚き人間だからこそ、かよわき人間だからこそ。その懸命さが未来を開く鍵であった。それらを、我らはまとめて摘み取ったのだ。もしかしたら、これらの景色を我等の世界にて作り上げる事が出来たかもしれない。だがそれはもう、叶わぬ願いだ。自身らの世界は、もう何処にもない。覚えているものは、楽園の皆と我等のみ。それは我等が世界にもたらした愚行の重さを突き付ける。

 

(この様な世界も、確かに存在し。我等は再びこの地もろとも滅ぼさんとしたのだな)

 

懸命に生き、楽しげに笑う桃源郷。それらを我等は踏みにじらんとし亡ぼさんとした。危うく、この地すらもかの地の様に消し去る所であったのだ。優しさと美徳に溢れた心に、その事実はとてつもない痛みと悔恨をもたらす。

 

(願うなら、この地のような世界を手掛けて見たかったものだ)

 

もう叶わぬその願い、それでも自身の心は思わずにはいられない。破壊と暴虐の楽園ではなく、小さくも輝かしいこの地のような世界を手掛けていたならば。力もあり、資格もあったかつて・・・だが、それを選ばなかったかつての自身に、無念を募らさずにはいられない。

 

母とて同じだ。朝も昼も穏やかに過ごしているが、人知れず母は涙しながら償いとして祈りを捧げている。己が費やした生命、殺意がもたらした結果に。そしてこの無念と後悔は、永劫もたらされていくのだろう。この地で生きていく限り、かつて神として破壊した美徳に包まれて生きるのだろう。誰も咎めぬ罪を数え続けていくのだろう。数えきれぬかも解らぬ罪を。

 

(長い・・・長い贖罪となるだろう。だが・・・)

 

だが、けして逃げはしない。逃げてはならない。それが我等に与えられた罰であり、我等に課せられた償いであり、我等にもたらされた『救い』なのだ。

 

「!・・・ふふ・・・」

 

リスや猿、犬といった動物達が、桃や果実を持ってきた。・・・それらはこの地の意思であるのか。そうでないのかは判断しかねるが・・・自身には、下を向く暇はない。

 

【おぉ、帰ってきていたのか天逆毎!実はな、皆様に教わって風土料理を作ったのだが・・・一緒に食べぬか?】

 

それでも、懸命に前を向き生きている母がいる。美徳をもたらす命達がいる。今なお、駆け抜けていく楽園の者達がいる。・・・償いはまだまだ始まったばかりなのだ。

 

「勿論いただこう。料理の手伝いは任せておけ」

 

【そうかぁ!きっと美味しいぞ!何せ皆様から教わった料理だからな!】

 

「・・・お前達も食べるか?」

 

騒ぐ動物達。了承の意を見せた彼等を認め、立ち上がる。──償う為の活力は、充分に貰っている。

 

「それでは、始めるか。母よ」

 

【うむ、そうだな!美味しく作るぞ!】

 

漆の様に暗い、黄泉の地でなく。明るき空の下で笑顔を浮かべ過ごす母。それだけで、自身の恩赦には事足りる。

 

そう、いつまでもいつまでも共に歩むことができる。母を支える、一人の子として。その事実さえあれば苦痛ではない。いつか、罪を償い終わるその日まで。

 

【明日の献立は何がいい?妾に任せておけ!なんでも作るぞ!】

 

「火傷には気を付けるのだな。神話級のトラウマだろうに」

 

【うぐっ、そうだな・・・!だが大丈夫!ミトンとエプロンをきちんと作ったからな!】

 

この永劫の旅路も、きっと歩んでいける。・・・この地を償いの地に選んだ楽園の者達に感謝しながら・・・

 

今日もまた、私は償いの日々を送るのだ。




・・・そして、内緒だが。私にも生きていく楽しみというものが出来ている。それは何かと言うと・・・

イザナミ(汎人類史)『お邪魔しまーす!こちらお裾分けとなっておりますぅ!皆様で鍋!鍋と参りましょー!』

カグツチ『こんにちは、なの』

イザナミ【おぉ、いらっしゃい!ちょうど料理するところだったのだ。上がって上がって!】

酒呑「うちらも一緒でよろしおすか?ねぇ茨木?」

茨木「う、うむ!家族の団欒にやや空気を読めないぶりはあるが・・・伏して願おう!」

【構わぬ構わぬ!そう!】

『どーんと任せておいてくださいよ!イザナミに、ね!』

【それ!】

騒がしい隣人達もいる。そして何より──

温羅「あ、あー、えと。その・・・だな。せっかくだから様子見と一緒に、飯でもと・・・」

「──いいから上がれ。ここは、お前のもう一つの家だ」

図体がでかい癖に、妙に気を回す娘に向けて。

「お帰り、温羅」

「おう!ただいま、母ちゃん!」

お帰りと声をかけるのが・・・今の、何よりもの楽しみであるのだ。

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