人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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駿河 海辺

桐之助「影に彼女達を支え、共に語り合った時間を私は忘れまい。ぐだぐだどころか、スピーディーに物事を進める彼等の勝利を、今は祈るのみだ」

(成すべき事は大抵成し遂げた。後はマスターたる彼女達の奮迅を期待するのみ。・・・どうか、この素晴らしき日本に夜明けを)

「そうだ、神社巡りで無事の祈願を・・・ん?」

ふと、砂浜に目をやると。そこには人影が倒れていた。手にした槍を、握りしめて。

桐之助「!どうなさいましたか、大丈夫ですか!?」

女性「ッ・・・、・・・わたし、は・・・」

桐之助「!?人間ではない・・・まさか・・・」

「・・・・・私は、たいせつなひとの・・・力に・・・」

(何故シミュレーションでイレギュラー・・・海から打ち上げイベントはどんなイベントか解らないが・・・)

「もう、お困りの方は見捨てはしない。それがリッカ君から教えられ、私が誓った約束だから・・・!さぁ、ご婦人!しっかり!運ばなければ・・・!」

女性「・・・・・・キリ・・・・・・」



保護せよ!海辺の乙女!

「ぅ、っ・・・私は・・・ここは・・・?」

 

「あぁ、目が覚めましたか。良かった、浜辺にて打ち上げられていたところ、私が僭越ながら救助させていただいた。誤解の無いよう先に言っておきますが、やましいことは何一つ行っていないので御安心を」

 

駿河の海の家、寝台にて目を覚ます女性。褐色、そして水色の瞳を開き辺りを見渡す。桐之助が上着を羽織らせ、救助活動の後が見てとれたままである事に気付き、女性は桐之助に礼を告げる。

 

「ありがとうございます。私を海から連れ出してくださったのですね。優しい貴方、どうか御名前を教えていただけますか?」

 

「キリ・・・、・・・菩提桐之助。今の私はそれ以上でも、それ以下でも無いのです。楽園に在りし財を助ける、流れの風来坊。ですよ。麗しいあなた」

 

その返答を聞き、自身もそれに倣い返礼を・・・しようと口を開く女性だが、言葉が紡がれる事は無かった。

 

「・・・思い、だせない・・・私が何者なのか、私がどういった存在なのか、どうして此処にいるのか・・・私、自身の事を忘れて・・・?」

 

「嵐になぶられ、身体が損傷・・・消耗していました。欠損の話では無く、あなた自身を構成する要素が、です。──あなたは、人間とは少し異なるようだ」

 

「人間とは、異なる?」

 

戸惑う女性に、頷く桐之助。立て掛けていた槍を、優しげに女性に返還する。それは、神秘の満ちた槍。桐之助はカルデアと触れ合い、核心を得ていた。

 

「あなたはエーテルで編まれし奇跡、歴史に名を刻みし英雄の写し身。──サーヴァントと呼ばれる存在なのです。その証拠に、強く握り締めていた槍、それは貴女の半身たる宝具だ」

 

「・・・サーヴァント・・・宝具・・・私が?そんな、私が、英雄だなどと・・・私は、ただの娘・・・海を見るのが好きな、ただの女でしか無いというのに・・・」

 

桐之助の言葉に、驚きながら槍を手に取る。戸惑いはあれど、その槍の馴染みぶりに、彼女はそれを事実と受けとめた。

 

「でも、あなたはきっと嘘を云う方では無いと信じます。こうして助けてくださった、優しい方ですから」

 

「・・・私も、死にかけていた時を二度助けられましてね。一度目は名も知らぬ少年、二度目は燻っていた心をとある組織に。だから私も、そうしたまでです」

 

「ふふっ。義理堅いのですね、あなたは。・・・私は・・・私は、強い『想い』を懐いた事だけは、覚えています」

 

強い想い。身を焦がす想いのままに、自身は従い、そして全てを忘れあそこに流れたと語る。桐之助は茶化すことも追及する事もなく、真摯に耳を傾けている。

 

「誰か・・・顔も解らない、出逢った事も無いかもしれない。けれど、魂から湧き出る想いは止まらなかった。『誰か』の役に立つのだと。存在も知れぬただ一人の『誰か』の為に戦うのだと。私の心は訴えています。・・・こうして、何も思い出せない今も・・・」

 

「誰か?・・・それが、あなたがまねかれた意味だと言うのだろうか。あなたは誰かを助ける為に、此処へ?」

 

「はい。それだけは真実だと思います。この槍は悪ではなく、もっと個人的で・・・もっとロマンチックな理由で振るわれるべきものだと・・・私は、思うのです。何も思い出せなくても、私自身の心が、そう言っている・・・」

 

女性は槍を握りしめる。何も分からなくても、解らないからこそ魂が叫ぶ。顔もわからぬ、誰かも及ばぬ何者かを助ける為に自身は此処にいる。誰かの力にならんとするが故に此処にいる。ただ、それだけの事なのだと。

 

「ですが・・・叶わぬ想いなのでしょうか。私が英雄、戦う存在などとは思えません。契約する相手もいない、サーヴァントと呼ばれる存在の私が出来る事など・・・」

 

女性は目を伏せ、うつ向いてしまう。雄々しく偉大な槍に見合わぬ、しおらしく儚げな所作。言葉の通り、とてもではないがその槍を振るい戦場を駆ける彼女とイメージは難しい。そして、彼女の魔力も尽きかけているのは明白だ。海になぶられ、蹂躙され疲弊しきっているのは見てとれる。最早消滅を待つのみだが・・・

 

「いや、諦めるのはまだ早い。私は幸い、あなたのように困っている人を助けると言う点において、比類なき同胞達を知っているからね」

 

桐之助は彼女を見捨てなかった。見捨てず、手を差し伸べる事を諦めなかった、心から尊敬する一人のマスターの姿勢をリスペクトし、体現するように。

 

「私があなたを紹介しよう。魔力もきっと補充され、良きマスター達が待っている。あなたの困難は、たちまち皆で解決出来る筈だ」

 

「本当ですか・・・?すみません、迷惑をこんなにも・・・」

 

「構うことはありませんよ。人は、誰かに何かをしてあげられる素晴らしい存在だと・・・最近教えていただいた身なので」

 

もうすぐバサラ信長との決戦が始まるが、一人の悩める女性を受け入れられない楽園では無い筈だ。信頼の下、早速越後へとワープゾーンへ向かう桐之助。

 

「あ、あのっ」

 

そんな桐之助を、女性は呼び止めた。その所作はたおやかなれど、芯は決して揺らがぬ強さを垣間見せる。

 

「あなた様は・・・サーヴァントを御存知でした。であるなら・・・サーヴァントを使役する立場なのでしょうか?」

 

「残念ながら違いますよ、麗しき人。私は風来坊、気儘に流れる旅の風。そんな私が、誰かを従える事などありません。ですからこうして、海辺で皆の無事を祈っていたのです」

 

「そう、ですか──あの、桐之助様、どうか私と契約をなさってくださいませんか?」

 

「私と?しかしあなたは、助けるべき相手がいるのでは・・・」

 

桐之助は困惑したが、女性は首を振る。自身の悲願の前に、まずは返すべき恩があると。

 

「命を救われました。なんだか、私は海にいると酷い目に遭う予感がしていて・・・あなたは私を丁重に助けてくださった。その恩義に、報いたいのです」

 

「大袈裟ですよ。誤解しないでいただきたいが、恩を着せ服従させようといった他意は無い。ただ、そうしてあげたいと願っていただけで」

 

「なら私も、あなたに力を貸したい。あなたの力になりたいのです。あなたが私に、そうしてくださったように。・・・それでは、ダメでしょうか?」

 

「むむ。・・・私が出来るだろうか。リッカ君達のように、善きマスターの在り方が・・・」

 

サーヴァントとマスターの関係と言うものは、強さだけではない。相性というものがある。彼女と自身は、上手くやっていけるのかどうか。即興の主従が、楽園の足並みを崩さないだろうか。新参者が前へ前へ出てもいいのだろうか。桐之助は深く悩み・・・

 

「──了解した。あなたの申し出を受けよう。仮契約を交わす事により、あなたと私は一時的な主従関係を結ぶ」

 

「仮契約・・・一時的な主従・・・」

 

「記憶を無くした女性に、契約を迫るのはアンフェアだ。記憶喪失のあなた、風来坊の私。・・・本当の契約は、互いが名乗り合うその日までとっておこう」

 

「そういう、事ですか。分かりました。それではどうかよろしくお願いいたします、桐之助様」

 

「う、うん。英霊たる存在と仮とはいえ契約を結ぶのはこんな感じなのか。緊張と不安が渦巻いている。リッカ君は凄いなぁ・・・。えぇと、あなたの名前は・・・」

 

となると、必要になるのが名前だ。クラス名は無機質だし、とはいえ凝った名前では彼女が可哀そうだ。何か、良き名前は・・・

 

 

「・・・」

 

「──ならば、イニス。イニスと呼ぼう。あなたの真名を知るまでの、一時的な名前だ。由来は、とある海辺の美女からのもじりさ」

 

「イニス・・・。・・・なんだか、不思議な響きです。それでは、イニス・・・一時的な契約の下、あなたに力をお貸し致しますね」

 

頭を下げ、挨拶をするイニス。・・・予期せず生まれた主従環境だが、桐之助の表情に喜びは薄い。

 

(付け焼き刃にして部外者たる私が、皆の足並みを崩さず戦えるだろうか。自身も戦えない事はないが、風来坊という自称に無理が生じる。・・・いけない、このままでは桐之助厄介者フラグだ・・・)

 

訪れる戦いを前に、自身と彼女をどうカルデアに貢献させるか。桐之助はただ、それのみを考えていた。何よりも、今勝つべき相手の力になる事を彼は願っているのだから──

 

 

 

 




越後カルデア城

桐之助「海辺で遭難していた所を保護した形となった、ランサー・・・イニスと言います。仮契約ながらも契約をしているので、リッカ君達のサポートに一層赴けるでしょう」

ロマン『彼女、サーヴァントなのかい!?流れてきたの!?サーヴァントが、海から!?』

ダ・ヴィンチちゃん『奇跡とは、神秘とは一体・・・』

イニス「自らの名前も思い出せない始末ではありますが、この槍に全面的に頼り桐之助様を御守り致します。よろしくお願いいたしますね」

リッカ「美人さんのサーヴァント!良かったね、桐之助さん!」

「やることは何も変わらないさ。私が私達になって、君たちの力になるだけだからね」

イニス「すみません、私と同じ英霊がそちらにはいらっしゃいますか・・・?」

リッカ「んーん、いないよ!」

「そう、ですか。英雄達の楽園ならば、もしやと思いましたが・・・」

桐之助「焦る必要はありません。まずはバサラ信長を倒す会議です」

イニス「はい、桐之助様。待機していますね」

リッカ「後で記録皆に見せて回ってくるから、ちょっと待っててね!」

桐之助(霊基の損壊が激しい。私も彼女をサーヴァントとして頼りすぎないようにしなくては・・・最悪の場合・・・)

「御安心を。必ず見つかりますよ。あなたの本当の成したいことが」

「はい、よろしくお願いいたします・・・!」

自身もまた前線に出るしかない。静かに決意する桐之助であった──

海辺の乙女 イニスが仲間になった!

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