柳生「落ち着かれよ、お福殿!今はただ、事を成すのみ!」
カーマ「・・・まずいですね、パールヴァティー。魂だけの方がそんなに動揺したら・・・」
パールヴァティー『はい!手が離れてしまう・・・!』
キアラ「いいえ、不幸中の幸いであったかもしれません。獣との際にこうなれば、致命的な隙となったでしょう。──このままマーラに挑むは危険かと」
信綱「・・・武尊殿」
タケちゃん「うむ。──」
リッカ「わっ!?」
グドーシ「──強制退去にござるか」
「案ずるな。次に来るはまた此処よ。・・・慢心が目に余るが、マーラは魔王にして獣。その足並みで勝てる相手に非ず。策を練れ。磐石なる道を敷け」
リッカ「タケちゃん──!」
タケちゃん「勝つための手は緩めるな。──これが、お前達に出来る吾の『あまやかし』という奴だ──」
~大奥入り口
グドーシ「そして、弾き出されて今に至るというわけですな」
リッカ「春日局さん、大丈夫かな・・・ちょっと励まして来る!」
カーマ「ストップです。リッカさん、グドーシさんも今は休んでください。作戦会議も兼ねて、最後の大詰めですから。あのおばあさん、私がなんとかします」
グドーシ「なんと」
リッカ「本当に!?」
カーマ「ちょっと、愛の女神っぽいことをしてきます。皆様はきちんと、勝利の法則を見つけてくださいね。──まぁ、負けるだなんて全然思ってませんけど」
リッカ「カーマ!ッ・・・!」
瞬間、龍哮が震え、鼓動と熱をもたらし脈動する。湯気が立ち上るほどに灼熱をもたらすそれは、リッカにやる気満々を示すサインに感じられた。
グドーシ「・・・。残った印籠、徳川の皆様の総てを龍哮に御祓いでもらいましょうぞ」
リッカ「う、うん!──まるで・・・」
それはまるで──『羽化寸前』の龍が如くに。龍哮はその時を待っている──
徳川汚染度 0/100
龍哮満腹度 ∞
龍哮忠義度 100/100
「どうですか?大丈夫ですか?衝撃的な事実・・・聞かされちゃいましたけど」
衝撃の告白、真実を突き付けられた後、タケルの力により大奥の外へと一時的に弾き出された一行。最後の作戦会議となる時間を設けられた事により、勝利の最善を導き出す刻を一同が刻む中。愛の神たるカーマはパールヴァティーに声を掛ける。そう、先に衝撃的な真実を突き付けられた当事者にだ。
「カーマ。心配・・・してくれるんですね」
「あなたは別にどうでもいいんです。私が心配なのはお福さんです。春日局さんの魂はどうなっていますか?」
カーマの問いかけに、パールヴァティーは哀しげに目を伏せた。反応を示さない放心状態。存在維持すら危なかった動揺、或いは狼狽であったとパールヴァティーは語る。本来は魂だけの存在など稀薄も稀薄。楔となる存在なくば、即座に霧散してしまうくらいの儚い存在だ。それが存在の根底を揺るがされてしまう事実を提示されてしまえば、実在も危うくなるのは道理だろう。それほど迄に、自身が全ての徳川を弄んだ原因となった事への衝撃と自責は大きかったのだ。カーマは何も告げず静かに頷く。
「そうですよね。一生懸命取り戻そうとしていたのに、自分が他ならぬ元凶であり、黒幕だった。それは確かに、とても辛いことだと思います。今の私には解ります。愛が、まさか破滅に繋がってしまっただなんて。流石にこれは茶化せません。本気で、気の毒に思います」
「カーマ、貴女は一体・・・」
「口を出さないでください。私は今、春日局さんに話しているんです。・・・あなたは、自身の生命を全て燃やして、徳川という存在を愛して、愛して、愛し抜いた。その愛が、今のこの状況を作った。あなたが徳川を愛した事で、マーラがそれに目を付け徳川の総てを喰らい、今回の事件が起こった。──私の好みじゃありませんが、これもまた、愛の果てに起きた奇跡に他なりません。私が保証します。あなたの愛は、紛れもなく本物。だからマーラも、こうして私達の前に立ち塞がっている」
声は静かだが、カーマの言葉は・・・真摯であり、誠実だった。言葉を返さない春日局にも構わず、愛の神は語り掛ける。真実の愛を知って、愛の神としての本懐を取り戻したものとして。
「──『取り返しましょう』。あなたが心から愛した徳川を。あなたが愛したいと願った徳川を。あなたが愛そうとした徳川を。・・・あなたの愛を、徳川を食い物にした魔王を倒すことで」
『──・・・!』
「あなたの愛は本物です。あなたの愛は真実です。だから・・・私も心から応援しますし、皆さんも協力します。取り返しましょう。あなたの愛を。取り戻しましょう。あなたの愛した総てを」
『・・・かぁま、殿・・・』
カーマの言葉は、マーラとは対極。辛い事実に立ち向かえ。立ち上がれ。戦え。取り戻せ、あなたの大切なものを。そのために、前を向け。傷心、狼狽せし魂に突き付ける、叱咤激励。しかし・・・その言葉には、真摯なる労りと想いが満ちている。マーラの堕落の焔ではない、暖かい、思い遣りの炎。愛を護る神としての、ダウナーながらも慈愛のこもった言霊。
「始まりは貴女の愛であることは事実かもしれません。徳川の皆さんは、あなたを基点に蹂躙されたのかもしれません。愛によって、堕落させられたのかもしれません。──だからこそ、あなたは立ち上がり、奪われた愛を取り戻さなくてはいけない。だって、『あなたが愛したからこそ、徳川は徳川でいられた』。あなたの愛あってこそ、徳川は徳川として生き抜けたんです」
『私が、愛したから・・・ですか?』
「そうです。あなたが家光さんの代から乳母として仕え、正しい教育をして、教養を教えて、大奥を纏め上げ、規律正しいものにしたんでしょう?あなたが愛した徳川は、マーラが作った大奥とは違うんでしょう?私達は何よりも、あなたの頑張りと戦いを見てそれが真実だと思っています。あなたの大奥は、あなたの愛こそは。マーラが狙う程に正しかった」
『そう、言ってくださるのですか。愛の神である貴女が、私の徳川への愛を・・・』
「勿論です。──だからこそ、悔しいじゃないですか。嫌じゃないですか。本物の、苛烈なくらいに燃え盛る愛を利用されて、愛する人達を好きなようにされて。許せないじゃないですか。取り返したいじゃないですか。心から愛するものを奪われたなら、どんな事をしたって取り戻したいじゃないですか」
それは、カーマの立てた誓い。どんな理由があろうと、どんな理屈があろうと、自分が見出だした愛を阻むものは許さない。──二人の少年少女が紡ぐ未来を、なんとしても守護する。奪われたのなら取り返す。その為に、戦う事を諦めない。
「あなたが愛した事により生まれた事態であるならば、あなたが率先して奪われたものを取り戻さなくてはならないんです」
「カーマ・・・!」
「愛は、ちっぽけで。とりわけ人間の愛は宇宙に比べたら最小単位。でも、だからこそ──『護らなくちゃいけない』んでしょう?あなたは、徳川は、こんなところで終わっちゃうんですか?あなたの愛は、徳川の愛は。あんな魔王ごときに潰されちゃうものだったんですか?──立ち上がってください。護るために戦うんです。その為にリッカさんが、グドーシさんがいるんです」
取り戻すんです。真実で、儚くて、それでもかけがえのない『愛』を護るために。どうか、立ち上がって。──愛の神としての、厳しくも優しい言葉が、春日局へと向けられ、告げられる。
「私が認めます。私が許します。『愛することは間違いなんかじゃない』。──徳川の皆さんの危機ですよ?乳母なんでしょう?あなたが立ち上がらなくて、誰が徳川の皆さんに微笑んであげるんです?──あそこは、あなたが育った場所。マーラの、獣の巣でもなければ堕落の園でもない。あそこは──」
愛の神としての。・・・本当の愛への、祝福と共に。
「あなたの居場所。──『大奥』でしょう?」
『──!!』
──その言葉が、或いは。最後の激励にして喝だったのかも知れない。春日局の魂が、震える。
(・・・そう、でした。自分が生の総てを捧げたあの場。味方などほとんどいなくても、強権で支配してきた自分を疎むものだらけでも)
其処は、愛するものが過ごした場所。愛するものが紡いできた場所。そして、自分はそこの管理者。愛の魔王が狂わせようと、徳川の総てが踏みにじられようと。
(あそここそが我が人生。あそここそが我が魂の行き着く場所。あそこにて、徳川を支えた者こそがこの私)
斎藤福。朝廷より賜りしは、春日局。大奥を、大奥を作り上げた女。その大奥が危機だと言うのに、愛した徳川が危機だと言うのに。
『──そうです。かぁま様。愛の神たるあなたの言葉通り』
どうしてこの身が呆けていられよう。大罪人、徳川を獣に捧げた悪女、大いに結構。
嘆くときは今に非ず。
哀しむときは今に非ず。
今は戦う時だ。戦う時なのだ。私の生きる総てを取り戻すために。私の愛した徳川を取り戻すために。
何より──『私が愛した、正しき大奥を取り戻すため』に。自分は今、娘の様にさめざめと泣くのではなく──
『そう──!この暴れん坊乳母!春日局!誇りと決意を胸に!魂の大薙刀を振るう刻なのです!どりゃーっと立ち上がる刻なのです!!そう──』
戦うのだ。総てを懸けて愛を取り戻すのだ。それが春日局としての総て。それが、大奥の管理者たる──
『それこそが!徳川を愛し!徳川を愛し抜きたいと魂を燃やした『春日局』という女の総てなのですから──!!!』
春日局としての在り方なのだから。──愛を胸に猛りし、大奥の支配者たる強き女傑。愛の女神の言葉の下に、再び燃え盛る魂として復活を遂げる──!
春日局「ありがとうございます!かぁま様!私は見失っておりました。そう・・・愛を奪われたなら!取り返すが女のサガ!徳川を、大奥を取り返すために今は戦う刻なのです!」
カーマ「はい、良くできました。じゃあもう大丈夫そうなので、私は失礼しますね」
「はい!本当にありがとうございます!行きましょう、マーラを倒しに!!」
パールヴァティー『カーマ。あなたは本当に変わったんですね・・・』
カーマ「はぁ?これが私の元々の仕事ですので。ただ、私に仕事の喜びを教えてくれた人達がいてくれたから、やってるだけですから」
パールヴァティー『はい。・・・本当に、すみませんでした』
カーマ「いいんです。もうどうでもいいんで。さ、最後の決戦に行きますよ」
「『はい!!』」
~
シオン『作戦を、タケルとカーマの言葉と情報にて纏めました。これはマーラの有する宇宙に対する『防波堤』、即ち領域確保による陣取り合戦が肝ですね』
カーマ「マーラ、あと私はシヴァに焼かれ宇宙と繋がりました。形なきマーラは、宇宙そのものと一体化し領域を確保しています。これを破るために、私達の領域を奪い取るんです」
はくのん『大体のプランは、リッカ達と相談した。後は展開できるかどうか』
龍哮【───】
リッカ「あつつっ!龍哮も熱い!やる気だよ!」
グドーシ「拙者も、僅かに救世の力を解放致す。・・・マーラ殿にはてきめんかと」
カーマ「二人は私が護ります。あとは展開の隙をどう作るか、ですね」
はくのん『二人の力で、五分にはできる。・・・後は、もう一押しが欲しい』
春日局「そういう事なら、私にお任せを!私に秘策アリです!」
マシュ「本当ですか!?」
春日局「はい!はくのん殿、しおん殿、また・はり殿、しぇへらざぁど殿!私にありったけの物語、心を操る業、魔術の種を用いて再現していただきたいのです!強く猛々しい、大奥の完全なる支配者たる女傑!物語の主人公としての春日局を!」
シオン『──宇宙に、大奥そのものたる春日局さんを展開する。私達が考えた、最強の春日局さんを・・・』
マタ・ハリ「最強の自分へ洗脳する、という事ね?」
シェヘラザード「物語に語られる、最強の春日局様に・・・」
シオン『──トライする価値は、充分にあります!』
はくのん『後は、皆の領域を展開する時間。少し時間があれば、私がレガリアで展開できる』
柳生「時間稼ぎ・・・」
グドーシ「では、拙者がマーラ殿に語りかけましょう。元々、拙者には倒すべき敵などおらぬ故、会話にて穏便に、は悪くない選択にござる」
リッカ「グドーシなら、絶対に大丈夫!私が保証する!」
藤丸「──オレにも、考えがある。絶対に、マーラを驚かせられる裏技がある」
マシュ「立香さん・・・?」
藤丸「キアラさん。──オレの心を、操ってくれ。『傷を抉ってほしいんだ』」
キアラ「まぁ──」
リッカ「な、何する気!?」
藤丸「大丈夫だよ、リッカちゃん。・・・痛くて、辛くて、苦しい旅だけど。だからこそ──オレは負けない自身があるんだ。どんな誘惑にだって勝ってみせるから!」
カーマ「・・・・・・」
・・・そして、決心した一同は遂に向かう。マーラの待つ、大奥の最奥へ。
──獣との、最終決戦が始まる。
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