コロンブス「いいや、知らねぇな。だがスペース新陰流といやぁ、クソ真面目に悪い事する組織だって有名じゃあねぇか。そいつの首領を誰も見たことはねぇって話だが・・・」
イシュタル「クソ真面目に悪い事・・・矛盾しているわね。一体誰がやっているのかしら・・・」
コロンブス「なんだよ自分探しかぁ?記憶もねぇのにやるべき事は解ってるってか。好きだぜそういうの!根っからの奴隷!働き者!善いヤツってのは社会では泥と理不尽をおっ被るのと相場が決まってるのよ!だってよぉ、【悪いことした方が楽で良いもんなァ】!」
イシュタル「・・・・・・・・・」
「オイオイ、味方だと思ってた女神様は実は御冠だったってオチかい?参ったね、俺は神様に恥ずかしい真似なんざこれっぽっちもした覚えはねぇんだぜ?」
「・・・・・・」
一度、いや二度刀を振るうイシュタルを前に、コロンブスは全く悪びれもなくそう言った。取り繕いや誤魔化しではない。本気だ。彼は本気で自らの行いに胸を張っている。彼女はその懺悔・・・いや、信念の吐露に一旦手を止めた。
「俺なりの善、要するに善行ってヤツさ。あんたのその顔、見覚えがねぇことも無いが・・・問答無用ってのは善き女神様としてはナンセンスじゃないかね?」
「続けなさい」
「おぉよ。俺は別にアイツらをいたぶって苦しめているわけじゃあねぇし、それに作った商品で詐欺を働いている訳でもねぇ。キチンと報酬は払ってるし、しっかりとした本物のアルトリウムにセイバーバッチを提供させて貰ってる。製造過程でちょーっと見せられねぇ、人に言えねぇ秘密があるだけさ。企業秘密って言うのか?秘伝のタレと一緒だよ。俺なりの秘訣ってヤツさ。成果はどうあれ、作ったもので誰かの役に立っているのは変わらねぇし、間違いなく宇宙を救う役には立っていると思うがねぇ?」
問題は数だぜ、数。数の話さとコロンブスは告げる。その持論を、イシュタルは静かに聞いていた。
「俺は悪じゃあねぇ。それだけははっきり伝えておくぜ。一度でいい、誓っておきたかったんだ。神様ってヤツによ。俺は自分の信念に従った。悪いことしたのといやぁそうだな・・・『あいつらをもっと上手く使ってやれなかった』事か。あいつらを何人か資材に変えちまった。もっともっと上手く出来た筈なのによ・・・胸が痛むぜェ。経営者としてなァ」
本気で滝のような涙を流すコロンブス。・・・楽園にいる彼ならば。もし彼が事業を興したならば。文字通り一丸となった会社を立ち上げただろう。今より利益は少なくとも、だが確実に新米セイバーの力になる会社に。彼は言う。これは『数』の問題だと。
「もし仮にアイツらが苦しんでいたとして、だがアイツらが産み出す商品は宇宙の全てを救ってる。大を切り捨て小を取る。どこぞの時空の理ではこいつを善、正義の味方というらしいじゃねぇか。俺のやってることもそれと同じよ。昔の人類が家畜を澄まし顔で食っていた様に、俺はアイツラらを食い物にして正義を執行してるんだ。宇宙平和って善によぉ。こんな俺を、あんたの裁量で裁いちまったら哀しいぜぇ?宇宙は大混乱だ。俺が産み出す最高の御宝!『宇宙を救うセイバー』が産まれなくなっちまう!こいつを阻むヤツ、こいつを許せないヤツこそが悪だろうぜ!あんたが善の女神ってんなら解るだろぉ?俺は夢と信念に沿って世界を救う!この宇宙の『正義の味方』なのさ!ファッハッハァ!夢に一生懸命ながんばり屋さんって訳だ!」
「彼等の犠牲は必要。そう言いたいのね?」
「仕方ねぇだろぉ?ローマの皇帝もエジプトのファラオも、なんならギルガメスだって澄まし顔で使ってた筈だ。奴隷って文化をよぉ。サーヴァントとして現代に呼ばれ、『この時代ではダメなのか、なら止めておこう』と考えるのと『この時代ではダメなのか、だけど便利だから使おう』と考えるの。どちらが悪で善かなんてそれこそ神にしか解らねぇと思わんかね?少なくとも俺にとっては、それが当たり前だったんだぜ?」
彼の根幹において、宗教に属さぬものや肌の色が違うものは人としては扱われなかった。奴隷という文化は、差別と区別という文化は、【人類が善しとして産み出した文化】である事を彼はなによりも知っていた。だから言う。女神に彼は誓う。
『自分は正しい。宇宙を救う為に自身は正しい善の側にいる』と。彼は本気で、自らの夢が宇宙に貢献していると信じていた。神に、自らの正義と善を本気で誓っていた。
「そう。それがあなたの善なのね」
「そうだぜェ!な、ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に組もうじゃねぇか。手と手を取り合って、宇宙を救う夢を見る働き者の奴等を助けてやろうぜ!あのゴージャスなギルガメスモドキ、いっぱい金を持ってそうだからよぉ。いいスポンサーになってくれそうじゃねぇか!ハッハァー!こりゃあ次のシーズン掌握も夢じゃねぇなぁ!」
「うふふっ──仮に手を組むとして。私達はあなたに何をすればいいのかしら?」
「そうだなぁ。やっぱまずはこれだ。【とりあえず死んでくれや】」
言った瞬間、彼は微塵も躊躇わず発砲した。イシュタルに向けて銃を放ったのだ。殺気も何もない、完璧な不意討ち。彼は自分の信念に従ったのだ。
「俺は自分だけが儲けてぇんだ。秘密を知っちまったお前さんと付き合う訳にはいかねぇなぁ!俺はアイツらを利用する、真相を知ったお前さんは消える!ありがとよぉ!素敵な協力関係だぜぇ!ファッハッハァー!!」
高笑いし、ひたすらに銃撃を放ち、止めに携行式ランチャーを撃ち放つ。極め付きの追撃に、彼女は木っ端微塵に砕かれた。邪魔者は消す。相棒は金と地位と名声だけ。そう確信し高笑いするコロンブスに──
「ファッハッハ──ゲファアァッ!!???」
『施設、ダメージ限界を突破。全機能ダウン。ノルマ達成不可能。フィーバータイム・イズ・オーバー』
頸動脈と心臓、身体の急所を抉り斬られた斬撃が刻まれるのと、非常事態アナウンス警報が鳴り響くのは全くの同時だった。彼は致命傷を受けた。自身と、夢の両方に。
「一つ教えてあげるわ。命を天秤にかけ救うだなんて事がそもそもの間違い。いつか切り捨てた数が救う数を上回るわ。そんなものは正義でも善でもない。ただの殺戮の機械よ」
「て、てめぇ・・・何を、何をしやがった・・・!?」
「私は善の女神。どんな理由であれ善ならば一定の慈悲を与えるわ。あなたの善は『独善』。何処までも独り善がりの様だから、あなたに終わらせて貰ったわ。『さっきの攻撃を、施設の中核に転移させた』のよ」
これは、楽園の技術班が解析、修理してくれた携行ワープドライブシステム。自身への攻撃を何処かへ転移させる彼女のみが持つ総統式防衛機構。──彼女が触れた、素晴らしき善意により甦った護り。
「そして今気付いた斬撃は、あなたが喋りだす前に叩き込んだものよ。さっき振ったでしょう、刀を。そのときの斬撃。『あなたが友好的であろうが抵抗してこようが、確実にあなたを始末する』為に。やはり私達は善側ね。こんなに考えが同じなんだもの。私達、違う会い方をしたならばきっと仲良くなれたわよ。もしかしたら、宇宙を牛耳る秘密結社になれたりして」
「ゲボッ、お、オメェ・・・ヒュー、ヒュー・・・最初から、俺を、やるつもりで・・・ハナッから、そのつもりで・・・俺は、アンタを信じてたってのによォ・・・!アンタを、俺と同じ善い人だってよぉ・・・!」
「女神は時に無慈悲なものよ。特に──異教徒の侵略者に掛ける情けなんて無いと知りなさい。そもそも自分を知るのね・・・本気で女神があなたに微笑むと思ったの?・・・誰かの幸せを、平気で踏みにじるような人間に」
「こ、このっ──最低のゲス女神がァアァアァァアァァーーーーッ!!」
破れかぶれになった瀕死のコロンブスの──今シーズンの最期の言葉。
「──スペース新陰流・獄奥義!【阿鼻叫喚・無間獄】!」
一つの瞬きに、一、十、百、千、万・・・次元を何重にも屈折させ、時空と時間を歪め一瞬に何億、那由多、無量大数分の斬撃を叩き込む必殺奥義。彼女は最初から、この奥義を叩き込むことしか頭に無かった。コロンブスが、その存在の分子レベルにまで切り刻まれていく。今までの負債を、身体で払い尽くすように。
「ぢぐじょぉおぉお~~~~~めぇえぇえぇえぇえぇ~~~~~~!!!!!!」
夢半ばで果てる無念さ。粉々に粉砕された自身の計画。その全ての不条理に、涙を滝のように流しながらDNAやエーテル単位まで分解されていくコロンブス。
「正義や善の定義を学び直してくるのね。善は誰かが目の当たりにして、自身も誰かにしてあげたくなるような行い。正義とは弱きを助け強きを挫く普遍の理念。鉄の心が貫く尊い理想」
そして──コロンブスは、塵一つ残さず霧散する。完全に、イシュタルの前から消え去った。次のシーズンにも、消えない記録として残るだろう。未来永劫の傷として。
「その生き方を、誰からともなく称えるもの。それが不滅の『正義の味方』という存在よ」
──此処に、女神による労働基準一斉改革は成されたのであった──
そして、ヒラリと。イシュタルの前に巻い落ちるカード。
イシュタル「・・・」
拾い上げ、部屋のリーダーに読み取らせその場を後にする。それは皮肉にも──
『退勤の時間だぜェ!気を付けて帰れよなァ!』
イシュタル「永遠に、お疲れ様でした」
コロンブスの今シーズンからの退勤を、善の女神が確定付けた瞬間であった。
──仕事は終わり、希望の朝が来る──
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