人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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惑星ニーベルゲン

ヒロインX「此処が禁忌区域、惑星ニーベルゲンですか。なんでも恐ろしい竜が増えてばかりの怖い土地だとか・・・眉唾ですがねっ」

イシュタル「・・・!ちょっと待って、今蹴飛ばした石・・・!」

ヒロインX「?・・・(ゴシゴシ)げっ!?あ、アメジストの原石です!?」

リリィ「見てください!木には各世界の紙幣が成っています!少し掘られた土には延べ棒が、垂らされた蔦のように見えるのはネックレス!木の実のように見えるのは宝石です!向こうに見える山の岩肌、恐らくダイアモンドで出来ています!」

イシュタル「石ころに至るまで金銀財宝ですって・・・?まさかこれ、惑星環境が産み出しているの?無尽蔵の宝石箱の様な、ってちょっと!?」

ヒロインX「静まれ!静まってくださいイシュタルさん!」

リリィ「落ち着いてください!誰のものでもないからといって持ち帰りはいけません!」

「しないわよ!?もしこれが原生環境だとしたなら、無闇な採取は惑星資源保護法に反するわ。エレシュキガルがジークフリートを招いたというなら、ここは銀河警察が監視区にしているはず。手を出したらたちまち犯罪者よ、善の女神として手を出すわけにはいかないわ」

ヒロインX「良かったまともです!でもこのいいようの無い気持ち悪さは一体!」

リリィ「ギルガメッシュさんに招かれて拝見した宝物庫に比べたら可愛いものです!さぁ、この先の洞穴に行きましょう!」

ヒロインX「あなたはイシュタルにあるまじき悪ですね!」

イシュタル「どういう意味よ・・・」

そして彼女らは、紙幣の森と札束の泉をかきわけジークフリートへと近付いていく──


?『では兄様、また後程』

『気を付けろ、気を付けるのだ』

『はい』

「・・・ふぅ。早く、コンタクトしなくては。兄様がもっと血迷う前に・・・」


邪竜、ただではすまさない

「成る程、君達が・・・エレシュキガル一日所長の意志を継ぐものか。俺はジークフリート。見ての通り、銀河警察の一員だ」

 

惑星ニーベルゲン、その秘境に設立された洞窟の奥。──なぜか設立されている執務室に、大量に山積みにされた資料に向かい合うジークフリートがそう告げ、腰を上げる。このあらゆるものが財宝の惑星で、少し壁や地面を掘れば宝が出てくる惑星で、彼は大量の業務書類を片付けていたのだ。『無私無欲』。そんな印象が、三人の脳裏と印象に刻まれるほどに真面目であったのだ。

 

「あの、その大量の書類の山は?見た限り仕事を溜め込むタイプでは無いような気がするのですが・・・」

 

「あぁ、これは殉職した職員達の仕事だ。代わりに俺が片付けている。エレシュキガルに頼んで送ってもらったんだ。仕事が残っていては、同僚達も死んでも死にきれまい」

 

「あなたがやってあげてるの!?・・・こんな黄金まみれの惑星で脇目も振らずに・・・」

 

「此処にある財宝は物質ではあるが、星が産み出した環境の一つなのだ。エレシュキガルはこの星を俺に託したのだ。『自然保護』の名目で・・・君達がこの惑星を奪いに来た、というなら業務命令に乗っとり、『ただではすまない』のだが・・・」

 

──その一瞬見せた眼光の鋭さは、紛れもなく本物だった。粗製乱造のセイバーとは隔絶した実力と気品。静かながらも泰然とした所作、威風堂々の佇み。業務用のメガネキラーン。アルトリアのアホ毛がゲイボルクめいてジークフリートを指し示す。間違いなく・・・ゴールドクラスのセイバーだと。

 

「違います!私達はこの宇宙を正すためにやって来たのです!」

 

しかし、怯まずにリリィは誠実さを刃にジークフリートに問いかけた。誰もが殺し合い、虐げる混沌のセイバーウォーズ。それを平定させ正しい姿に宇宙を戻すために、一人でも正しきセイバーが必要なのだと。その為に、あなたを仲間に引き入れたいのだと。

 

「礼節と手順を欠いたお願いであることは重々承知しています!ですが私達は、未来を皆に取り戻したい・・・平和で愉快ないつものユニヴァースを取り戻したいんです!」

 

「承知した。君達への助力を誓おう」

 

「ですからどうか・・・!・・・って、えぇっ!?」

 

あっさりすぎる承諾だった。噂には聞き及んでいたとはいえ、迷いも躊躇いもない即断即決。速やかに立ち上がり、パソコンを持つ筋骨隆々のスーツ丈夫はメガネキラーンを欠かさずに微笑んだ。ビジネスマンに必須なスピーディー契約締結の体現。セイバーでなければ見逃していた。

 

「・・・試験とか試練とか、無いのかしら。顔パスでいいの?」

 

「必要はない。『此処に来た』という事実で充分だ。・・・この惑星に降り立った者は、ほぼ全てが黄金の夢を見る。この財宝を手にするために邪悪なる竜となる。そしてその血肉が再び財宝となる。黄金地脈『ライン』がそうさせるんだ。この惑星は、黄金を餌にあらゆる生命を喰らう」

 

この惑星を見付けた者はまず狂乱し、歓喜の雄叫びを上げる。この星が手に入るならば、末代まで遊び呆けてもまだ余るほどの富が手に入るからだ。貧困の呪縛より解き放たれるからだ。

 

しかし、富んだ者は目が眩み、新たな恐怖に追われる事になる。一度味わった富の『消滅』あるいは『簒奪』『窃盗』『強奪』。財を手に入れし者は、今度は財に試される。まばゆい財宝、黄金の富は所有者を試し、呪う。

 

名乗りを上げる知らない親類、絶えず舞い込む融資の連絡。親しい者、そうでない者の、肉親からの金の無心。不相応な財を手に入れた者は、財に人生を食い荒らされる。豊かであるが故の煩悶はやがて、所有者を【竜】にする。

 

【この財宝は自分だけのものだ。誰にも渡さない。奪おうとするもの全てが敵だ】

 

財宝の前から一歩も動かず、誰も信じず何もせず。ただ財宝を護るためだけに生きるようになる。何のための財か、その財で何をしたかったのか。欲しかったものは、本当に財で買えるものだったのか。

 

「この惑星はそんな黄金の夢を見せる。呪われた黄金の惑星・・・心にこの地に満ちる宝よりも輝かしい何かを持たない者は、やがて財を護る邪竜へと成り果ててしまった。一年絶えず現れる密航、不法侵入・・・しかし、この星を出たものは俺の他には誰もいない」

 

だから、彼はただではすまさなかった。定期的にこの惑星の黄金の魔性に魅入られた竜達を、エレシュキガルの命令で討ち果たして来た。黄金を産み出すこの星の『環境』を護るため。無私無欲のセイバーたる彼が、この星の管理を任されていたのだ。彼しか、この地で理性を保てず・・・真に富める者はこの地に近付かないからだ。

 

「中枢を護るため、俺とシグルド殿を脱出ポッドに押し込んだエレシュキガルはこう仰った。『真に富める者の剣となってあげて』・・・彼女は、銀河警察の希望だったのだ」

 

実際の所、銀河警察の内情はあまりの劣悪かつ多忙な勤務形態に暴動寸前であった。何より効いたのが『脱獄者の方がしっかり厚生されている』と謳われた事だ。

 

「エレシュキガルは犯罪者であろうと一人の生命、対等なサーヴァントとして接していた。差別やいじめをすることなく、可能な限りの人権を尊んだ。・・・いつしか、立場は逆転していった。奴隷のような警察、健やかな囚人。それが爆発寸前だった。暴動が起きる寸前だったのだ」

 

【俺達よりいい暮らしをしている囚人をブッ殺せ!】【俺達に過酷な労働を強いる組織をブッ壊せ!】『善なる女神を虐げるこの宇宙を改革する!』『投獄されてる場合じゃねぇ!女神の尊厳は我等が護る!』

 

混沌の坩堝と化した銀河警察の惨状を重く見た上層部は、エレシュキガルを一日所長にし事態の鎮静を図り、改革をエレシュキガルに託した。彼女は信頼も篤く、銀河警察を変えられる存在だと期待を以て迎えられた瞬間、あの惨劇が起きたのだ。

 

「俺には、エレシュキガル所長を推薦し補佐した者としての責任がある。彼女の言葉と溜まった業務の引き継ぎ、なんとしても果たさなければならない」

 

その為に、まずはこのシーズンを終わらせなくてはならない。ラストポリスマスターとなってしまったエレシュキガル政権を、右腕社員として再興しなくてはならないと彼は強く誓っていたのだ。

 

「故に迷いはない。竜をただでは済まさない俺の力、存分に使ってくれ。業務外労働、サービス残業、受けて立とう。背中にパワハラを食らわない限り俺は不死身だ。15徹連勤のユニヴァース記録保持は伊達ではないさ」

 

(突っ込みが・・・!突っ込みが追い付かない・・・!)

 

(まさに革命と改革の転機に滅んだのね、エレシュキガル・・・この人を見る限り、部下には恵まれていたのが幸いかしら)

 

彼は誓った。なんとしても、エレシュキガル女神の尊厳と功績を復活させ、銀河警察に改革をもたらすことを。その為に、力を振るい貸すのだと。

 

「ありがとうございます、ジークフリートさん!銀河警察代表の一人として、とても頼もしい仲間が出来ました!」

 

「あぁ、よろしくお願いする。みなぎる知性とエナドリ『ファヴニールの血液』により産み出されるインテリジェンス的バルムンクカスタマーのペイルブルービームをお見せしよう」

 

「なんて!?」

 

「それと、リリィ。これを持っていてくれ。俺が生み出したものだが、所長手作りの『いつも頑張ってくれてありがとう勲章』を保持する俺には不要なものだ」

 

そうして彼は、リリィにそれを託した。黄金に輝くバッチ、即ち──

 

「あ、ありがとうございます・・・!」

 

黄金の・・・セイバーバッチを。彼はこの瞬間を以て、同盟関係を締結した──




ニーベルゲン・宇宙船停泊地

ジークフリート「光に襲われた?それは本当か?」

リリィ「何か御存知なのでしょうか!?」

ジークフリート「いや、すまない。俺は人付き合いが苦手なため人物に疎くてな。だが、彼なら解る筈だ。俺を上回る知性を持つインテリセイバー、シグルド殿なら」

イシュタル「確か北欧のヴォルスンガ・サガが出典の英雄だったわね。彼は何処に?」

「恐らく彼の実家『惑星ヴァルハラ』だろう。彼は常に愛する妻からの愛ゆえの殺意を受け止めるために邁進している。力になる筈だ」

ヒロインX「・・・あの人のお嫁さん、いいお話を聞かないんですが大丈夫ですかね・・・」

リリィ「大丈夫です!解ってもらえるまで話しましょう!」

?「・・・その意気です。そして、そんな皆様にお願いがあります」

イシュタル「何者!?」

ポルクス「・・・私は敵ではありません。私はポルクス、先に粗相を行った兄様の片割れであり、そして──暴走する兄様を止めたいと願う者です」

ジークフリートを仲間に引き入れた三人の前に、スレンダーを極めた神たる兄妹の片割れが現れ、深々と頭を下げた──

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