人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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惑星ヴォルスンガ・ホテル街『ヴァルハラ』

ブリュンヒルデ「今日もいい天気ですね。きっと素敵な一日ですよ」

?「ぅう、うー」

「ふふ、大丈夫ですよ。私は一緒にいます。いますから。今日は何をしますか?何でもいいんですよ」

?「ぅ、ぁうー、ぅー」

「はい、ご飯ですよ。作っておきました。はい、あーん」

「ぅう、うー。う・・・うー」

「ふふっ。大丈夫。何もかも忘れて、ずっと一緒です。何もかも忘れて・・・」

「ぁうー・・・うぅ、うー・・・」

『魔剣グラム』
『記憶メモリー』
『叡智の証』


ヴォルスンガの水入らず

「ワープアウトしたら、惑星ヴォルスンガね。ジークフリートがいてくれたならきっと顔パスよ。着艦をワルキューレ達がしてくれる筈」

 

イシュタルとXのスペースシップが、都合三回のワープアウト距離にして数千光年を跳躍し終える。惑星ニーベルゲンと惑星ヴォルスンガは宇宙規模ではあまり離れてはいない。同じスペース欧宙域付近である。来歴と元ネタが近しいからかも知れない。惑星ヴォルスンガの詳しい来歴は、先に配られたパンフレットの通りだ。

 

水晶が美しく、青い炎やオーロラ、肥沃な土地に巨大な世界樹。とにかく景観が素晴らしい一等観光名所。レジャー施設や避暑地としても人気が高く、夏と冬のシーズンには絶えず全宇宙から観光客や団体さんが毎年やってくる程の美しい星である。そして、最大の見所がもう一つ。

 

『こちらジークフリート。シグルド殿がきちんと伝えていてくれたなら問題なく合流出来るだろう。ワルキューレ達の指示に従い降下すれば間違いはない』

 

そう、主神オーディンが鋳造した生命体にしてオートメーション機構たる戦乙女『ワルキューレ』達がこの星を守護している。見目麗しい美少女達の歓待や催しは、男性を中心に絶大な人気を誇り、酒場やレジャー、ホテル営業のビジネス発展が目覚ましい。特に最高級ホテル街『ヴァルハラ』は強さと富を重ね合わせた者しか土地を買うことが赦されない至福のリッチや大富豪の証である。正確には『勇士』と呼ばれる存在なのだが。

 

『シグルド殿はヴァルハラの地に居を構えるエリート勇士であり、妻のワルキューレ・・・ブリュンヒルデ殿と暮らしていた。夫婦仲は睦まじく、幸せな夫妻であるのだが・・・』

 

「何故そこで言い淀むのかしら」

 

『・・・その、だな。互いに愛が深すぎるが故に迂闊に近付いては非常に危ない。まず穏便に話はすまない筈だ。何が起きても良いように準備と覚悟はしておいてくれ』

 

『なんかパンフレットに書いてあります!シグルドとブリュンヒルデの馴れ初めって!』

 

そう、銀河警察では語り草だという。ブラック環境で機械的に業務を行っていたブリュンヒルデ。仕事一筋のワルキューレであった彼女をシグルドは助け、彼女の分の業務も纏めて解決した。有能ビジネスマンであったシグルドからすれば何でもない事だったのだが、職務一筋の傾向が強いワルキューレ、とりわけブリュンヒルデはそのイケメン対応に致命的なエラーとも言える反応を示してしまった。ワルキューレとして、ある意味薔薇色の転機だ。

 

『素敵な殿方・・・職務から始まる愛。これが・・・好き・・・!』

 

ブリュンヒルデはその日から精神に少しずつ変調を来たし、シグルドに異常な執着を見せるようになった。初めは微笑ましいアプローチ、アタックでありシグルドもそれを受け入れ、美男美女カップルとして公認の付き合いとなったのだが。

 

『困ってしまいます・・・シグルドと一緒に過ごす時間が確保出来ません・・・困ります。凄く困ります・・・』

 

膨れ上がっていく感情、それは仕事一筋であったブリュンヒルデには鮮烈極まるバグにしてエラー。仕事しか見えなかったブリュンヒルデが見ているものは後にシグルドだけになってしまった。結婚を前提とした付き合いを約束されたブリュンヒルデは、銀河警察の殺人スケジュールのせいでシグルドとの時間が取れないことに不満を募らせていった。普段なら労基に駆け込むといった叡智を発揮したのだが・・・愛は、燃え盛る様に彼女を駆り立てた。

 

『だから、ごめんなさい・・・シグルドとの未来の為に。壊しますね、殺しますね・・・』

 

その恋慕の感情はある日突然ストレスと併発し暴走。神代ルーンと機能の全てを使い銀河警察と収監されていた犯罪者達を抹殺崩壊させるという暴挙に出たのだ。人を愛したワルキューレ、職場での初恋を経験したビジネスウーマンという要素が重なった大暴動。後に『ブリュンヒルデストライキ事件』として語り草になる事件を巻き起こしたのだ。

 

『俺もシグルド殿と協力して取り抑えはしたが、ブリュンヒルデ殿はワルキューレの中でもずば抜けて強く、シグルド殿は槍に串刺しにされ、同時に俺も貫かれてな。漸く抑えられた時にはシグルド殿のメガネは割れていた』

 

そしてブリュンヒルデは重大な心神喪失としてシグルドと籍を入れた際に銀河警察を退職しヴァルハラへと隠匿療養。そしてシグルドは彼女がもたらした損害賠償とヴァルハラ一等地の一軒家のローンを返済するために銀河警察で住み込みで働いているという背景を持っている。看病はワルキューレ達に任せ、自身はほとんど家に帰らない。いや、帰れないのだ。

 

『シグルド殿をブリュンヒルデ殿が見てしまえば、二度とブラック企業に出勤しないために殺してでも引き留めるだろう。それではローンが払えなくなるし彼女の療養も上手くいかない。愛せば愛するほど二人は離れなくてはならない。そういった悲恋の二人なんだ、彼等は』

 

「・・・成る程ね。故意ではないといえ、『シグルドが帰ってきたブリュンヒルデが何をするか解らない』と」

 

『あぁ。ブリュンヒルデはシグルドを愛するあまり何をするか解ったものではなく、シグルド殿もそれを理解しているが故に全てが終わるまで家には帰らなかった。俺はブリュンヒルデ殿から弁当を受け取り、シグルド殿からブリュンヒルデ殿の介抱の経過を任されていた。だから理解している。シグルド殿が断固として愛する妻の下に帰らなかった理由を』

 

シグルドもブリュンヒルデも、互いの最愛をジークフリートに託していた。それだけでどれほどジークフリートの人格と人柄が信頼されているか解ろうものだが、それ故に彼は懸念する。二人が『出逢ってしまった』現状の『恐ろしさ』を

 

『誠実に事情を説明はするが・・・不安は拭えない。果たして漸く帰ってきた夫を、再びブラック企業に送り込むという事をブリュンヒルデ殿が許してくれるかどうか・・・』

 

「・・・・・・本当なら夫婦水入らずで過ごして欲しいんだけど、状況が状況だものね。力を貸してもらうしか・・・っ!」

 

『前方熱源感知。前方熱源感知。魔力増大。敵性反応です。対戦闘を推奨します』

 

スペースシップのエマージェンシーコールに従い、即座に停止を行うセイバー一行。ワープアウト直後の地点にいる。確かに展開しているという。

 

『この反応、ランサー・・・ワルキューレ達だ。ワープアウト地点先に展開している。・・・この熱源パターンは着艦モードではない!『戦闘モード』だ!我々を迎撃するつもりだぞ!』

 

「どのみちワープアウトしなくてはいけないの、びくついている暇はないわ!対戦闘用意、急いで!」

 

即座に対応を開始する一行。ヴァルハラに招かれる資格を持つのは、武勇を誇る勇士のみ。それが今、リリィ達に資格を求め槍の矛先を向ける。

 

しかし立ち止まる訳にはいかない。リリィ達が目指すのはヴァルハラの先。ギルガメスが待つ宇宙の果てなのだから──




惑星ヴォルスンガ周辺宙域


ワルキューレ「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」

ワルキューレ達は乱れぬ規律で隊列を組んでいる。正確極まる動作で、ワープアウトした二隻を威嚇していた。

ヒロインX「なんですか?アルトリアでも無いのに神直々にイラスト担当されるとは生意気な輩が、よくも私にガンをタレてくれるじゃないですか。セイバー忍法御面頂戴してあげましょうか?」

リリィ「師匠!抑えてください!」

ポルクス「押し通りますか?しかしギリシャと違って随分と繊細なモデルですね。ポルクス的には好きです。兄様のお土産に一人くらい欲しいですね」

ジークフリート「落ち着こう。俺の予測では彼女達はシグルド殿とブリュンヒルデ殿の夫婦水入らずを邪魔されないために警戒している筈だ。だから次に導かれる行動は・・・」

ワルキューレ『ブラック企業お断りです』

ワルキューレ『ようやくシグルド様が帰って参られました』

ワルキューレ『ブリュンヒルデ様はお喜びです』

ワルキューレ『出勤なんてさせません』

ワルキューレ『二人はこれからもずっと一緒』

『『『『『出勤を、私達は拒否します』』』』』

リリィ「ひゃあぁあぁ!?撃ってきましたぁ!?」

ジークフリート「やはりか・・・!シグルド殿を銀河警察に引き渡さないつもりだ!シグルド殿はこうなることを危惧し一度も帰らなかった!彼は全てを終わらせるまで帰らないと決めていた!彼女達は今、星に近づく全てを排除する筈だ。まさに夫婦水入らずの陣!」

イシュタル『と、とはいっても此方にも退けない理由があるの。手荒になるけど押し通るわ!』

ジークフリート「隊長クラスの三騎がいる筈だ、その者達とコンタクトを取るのだ!ポルクス殿、リリィ殿、力を貸してく」

リリィ「行きますよ皆さん!タケウチの加護はアルトリアの特権です!」

ジークフリート「ぬぅ!?」

イシュタル『ちょ、馬鹿!運転手が真っ先に席を離れる普通!?誰が操縦するのよ!?』

ヒロインX「え?──あっ!」

『ダメージ蓄積。緊急降下マニュアル起動。突入します』

ヒロインX「早まりましたーーー!?」

強行突破以外、道はなくなってしまった一行。今、ヴァルハラに挑む──!

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