人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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そんなに泣かないでくださいよ、所長・・・


健全なる想いは、健全なる拳に宿るッ!

「こ、これはあっ!?こ、この破壊的ラッシュの小宇宙はぁッ!?」

 

トロ兄、妹のボクシング式対話にてリングに導かれる。妹のポルクスはボクシングにおいて右に出るもののいない(ヘラクレスは殿堂入りなためノーカン)神が一柱。イアソンがヘラクレスの次に推薦する程の腕前と実力を持つ。持っている剣など及びもつかない程に鮮烈かもしれない残像が残るほどのラッシュを、先程から間断なく叩き込まれる。ボクシンググローブがなければとっくに砕け散っているほどの閃光がごときラッシュを一身に受け続けている。世界が爆裂するかのような一撃一撃。気絶すら赦されないほどの連打に、トロ兄様の意識は猛烈にシェイクされていく。

 

(お、俺は一体何を見せられているんだ!?俺はポルクスに何をされているんだ!俺はポルクスを激昂させるような真似をしてしまっていたのか!俺は、俺はっ・・・!)

 

殴られるたびに宇宙が見える。捩じ込まれる度にえげつない痛みがスローでやってくる。秒速300㎞は出ているようなラッシュが、自身の顔面と腹を打ち抜いていく。痛いという次元はとうに通り越した。彼の精神は今、彼自身の領域から飛び出し世界を俯瞰している。恐怖はなかった。やがて消え失せた。失神していく意識の中、彼はボコボコにされる自身を見ていた。

 

(ポルクス、これは、これはなんだと言うのだ・・・お前は俺に、何かを伝えようというのか・・・拳で・・・言葉では伝わらぬ何かを必死に伝えようとしているのか?拳で?何故拳で?言葉ではダメなのか?拳で、俺に何を伝えようと・・・何故拳で・・・)

 

綺羅星の様に瞬く思考と、ボロ雑巾の様にケチョンケチョンにされていく自らの肉体を冷静に見下ろす自分自身。そして、自分自身をボッコボコにしていくポルクスの表情を見る。その表情は、真摯でありあまりにも必死であった。癇癪や悪性の感情ではないことはすぐに分かった。ならば、言葉を尽くしても、届かない何かを伝える為に?それは何だというのだ?

 

(俺とお前は二人で一つ。互いの事は自分以上に把握している筈だ。そんな我等の間に伝えきれないものがあるのか?それはなんだ?それはなんだというのだ?妹よ、お前は俺の血で拳を染めて、一体何を伝えようと言うのだ?一体、何を?)

 

絶えず感じる痛み、原型を留めなくなってきた顔面。それでも止まない、ある種一方的な暴力。反撃を挟む事すら叶わぬ、凄絶極まる一方的な暴力・・・一方的な暴力。一方的な・・・

 

(・・・はっ!妹よ、ポルクスよ!お前は・・・お前はまさか・・・!)

 

その間断なき暴力を得て、トロ兄様は感じ取る。妹のポルクスの拳の勢い、何より、沈痛な表情で自身を殴り続ける妹の姿を見て宇宙を漂い肉体から漂流していた思考は一つの結論を導き出す。

 

(ポルクス、お前は訴えているのだな・・・!『暴力の痛み』を!理不尽に叩き付けられる暴力の苦痛と恐怖を!憎悪と共に俺が撒き散らしてきた暴力の発露がもたらした嘆きと痛みを、それを生み出す憎悪を諌めているのだな!そしてそれはッ!)

 

そしてそれは、【憎悪】に囚われていた自分自身が全宇宙に撒き散らしていた暴力そのもの。被害者にならねば決して気付く事のない痛み。それを他ならぬポルクスが、その拳で実践している。なんという苦痛、なんという痛み。しかしそれは、他ならぬ自身がもたらしてきたもの。

 

(ポルクス・・・お前は胸を痛めていたのだな。身を焦がす憎悪にて逸る俺の無様な姿に心を焼かれていたのだな。優しいお前の事だ。俺を諌め、魂を癒すために心を鬼にし、修羅となって俺に拳を叩き込んだのだ。痛みと暴力の恐ろしさを、身をもって理解させるために。俺の魂に響かせる程の決意を以て。その為に拳を振るっていたのだな)

 

人間の糾弾など痛くも痒くも無い。元々神がもたらした家系の叛図の複雑さ。誰も自身の気持ちを理解することなど叶わない。そうだと決めつけていた。そうだと思っていた。しかし、しかしだ。

 

(他ならぬお前なら。半身たるお前の拳なら!戒めとして振るわれる拳であるのなら!俺はなんの躊躇いもなく受け入れる事が出来るぞ!そうか、これが痛み!これが苦痛!これが暴力の嘆きか!これがそうかっ!これが!)

 

見てみれば、ポルクスのグローブも血塗れである。殴る側も無事ではすまぬ。理由があるとはいえ、半身に拳を振るい痛みをもたらす決意のなんと凄絶極まる事か。こうまでせねば自身を省みれぬ自身の不徳を恥じ入らぬ程、愚鈍な兄ではいられぬとトロ兄様は深く頷く。

 

(解ったぞポルクス。お前の気持ちを、お前の想いを!憎しみに囚われ、哀しみを撒き散らしていた邪神たる俺を止めるために、お前は!お前が殴っているのは俺ではない!お前が仕留めようとしているのは俺ではなく──!)

 

そうだ。最愛の妹が殴っているのは自身ではない。最愛の妹が対しているのは我が身ではない。我が身を殴っているのではなく──

 

(俺の心を燃やす憎悪!そしてその憎しみを、悲しみを広げてはならないと!誇り高き神の在り方を思い出せと!そう告げているのだな!そう言っているのだなポルクス!我が最愛の妹よッ!!我が愚かなるこだわりを粉砕せんとしているのだな我が妹よッ!!)

 

ならば、是非を問う必要もない。ならば何故などと聞く必要もない。ただ、ありのままに妹の拳を受け止めればいい。深く沈み込み、脇を締め振りかぶった。あぁ、渾身の一撃が来るのだろう。ならばそれを、兄として──

 

(受け止めねばなるまいッ!!来いポルクス、我が妹よッ!!お前の真の愛!此処に受け止めてみせるぞぉおぉおぉ!!)

 

憎しみではなく、怒りではなく。誰かを案じる為の拳もある。野蛮と粗暴でしかなかったソレに、こうして尊い意志を乗せて振るうことも出来る。それはなんという──

 

「───フッ・・・」

 

唸りを上げて空を切るポルクスの拳が顔面にめり込みながらも、沸き上がるのは笑み。健やかで爽やかな、憎悪とは無縁な笑み。きりもみ六回転で吹き飛びながら、この短期間でその境地に達したポルクスに賛美を贈ると共に、ボロ雑巾めいた兄は想いを馳せる。

 

(神は成長も発展もせん。起きるのは人格のエラー、バグのみだ。ならば、ポルクスの拳に尊き意志を乗せた者がいる。対話と拳を一つに昇華させたものがいる。ポルクスの拳を、高みに導いた者がいる)

 

その事実が、本当ならば。暴力以外に、拳を振るう何者かがいるのだとしたら。ポルクスにそれを教えた何者かが、万が一、あれほど嫌い憎悪していた人間だとしたならば。

 

(我が憎悪、打ち消してあまりある。ポルクスを、我が半身を天より高く導いた功績。賛美し讃えねばなるまい。よくぞ、我が妹を導いた!我が妹を飛翔させた!実に、実に素晴らしい!)

 

「・・・に」

 

「?兄様?」

 

「人間も・・・・・・なか、なか・・・やるもの、だ・・・」

 

・・・或いは。そんな人間がいるというのならば。そんな人間が、やはりどこかにいるというのならば。かしずくまではいかないまでも。

 

(我が妹の導きの礼に、その航海と旅路を、祝福してやらんでも・・・ない・・・ぞ・・・光栄に・・・思うの、だ、な・・・)

 

その道行きに、力を貸してやらんでもない。まだ見ぬその存在に・・・

 

 

 

 

 




ポルクス「・・・・・・・・・」

(ほ、本当にこれで大丈夫、大丈夫なのでしょうか・・・本当にこれで・・・!?)

トロ兄様「・・・・・・」

「に、兄様・・・?」

「・・・ふ、はは。ふはははははは・・・」

「!?」

カストル「・・・人間も、中々やるではないか。無意味無作為に、殺すのは・・・賢くないな。ポルクス・・・」

ポルクス「・・・え」

(えぇえぇええぇええぇえ~!?)

?【・・・いや、そうはならないだろう・・・】

カストルの人間への評価が、ぐぐーんと上がった!

ポルクスはドン引きした・・・

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