人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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トロ兄様「・・・・・・・・・・・・・・・」

ポルクス「に、兄様?大丈夫、大丈夫ですか?す、少し殴りすぎてしまったかもしれませんが・・・」




ポルクス「うっしゃああぁああぁあぁあぁッ!!」

トロ兄様「うげぇえぇえぇっ!!」



ラーゥン、ツー

「我がギリシャの格闘技術は!世界一ィイィイィイィイィイ!」

トロ兄様「うぼあぁあぉおあぁあぁあぁ!!」



ラーゥン、スリィー

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

「ブァガッ──!!!」



ラーゥン、フォー

「ドラララララララララララララァー!」

「うぐぁあぁあぁあぁー!人間のクソカスどもがぁぁー!!」



ラーゥン、ファーイ

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

「ヤッダーバァアァアァアァ!!?」



ラーゥン、シーックス

「ウシャアァーッ!!」

「うばわぁあぁあぁあぁあぁあ!!?」



ポルクス「掛け声が気持ちいいのもあり、つい・・・」

カストル「・・・・・・頃合い、なのやも知れんな」

ポルクス「兄様?」

カストル「ポルクス、付いてこい。お前の戦いに、手土産を持たせたい」

ポルクス「手土産・・・?」

【(・・・来た・・・!)】


ギリシャの遺産

「兄様。一体何処へ行かれるのでしょう?このボクシングジムに地下があったのは驚きですが・・・」

 

拳での対話、ポルクスも驚くぐらいに効果抜群だったコミュニケーションを終えたディオスクロイの二人は今、ボクシングジムに設置されていた地下階段を降りていた。回復してからすぐの行動に、ポルクスは困惑しながらもトロ兄様へと追従していく。

 

「黙っていてすまなかったな、ポルクス。お前が選んだ道行きに、お前達の向かうべき先の旅路への手土産になる『遺産』を、これよりお前に託そうと思うのだ。この先に、その遺産が眠っている」

 

「遺産・・・?」

 

「そう。我等がギリシャサーヴァントが宇宙の混沌に呑まれ、主を失った武装、或いは装備、或いは戦艦・・・それらを回収し、悪用や転用を防ぐために保管していたのはこの俺だ。イアソンが何処ぞに消え去る前に、俺に保管場所を教えていたというのが正しいがな」

 

ギルガメスの改革は宇宙全土へと震撼したのは周知の事実であり、それには当然ギリシャ宙域も含まれていた。精強極まるギリシャ宙域のサーヴァント達は、当然徹底抗戦を選んだのだが・・・ギルガメスの戦力と保有する艦隊の蹂躙の前に、最強を誇っていたギリシャ戦力は真っ向から蹴散らされたのだ。双子の英雄は、それを目の前で見ていたのだから間違いない。それは、完全敗北といっていいものだ。ギリシャ宙域は、念入りに重点的に叩き潰されたのだ。そんな中、スペースイアソンはヘラクレスと共に消し飛ばされた訳だが・・・備えはキチンと行っていたという。

 

「接収、滷穫されぬ様に爆発偽装し最高機密たる戦艦や、サーヴァントの宝具の一部や武装を何処かに隠し秘匿した。隠し場所は俺のみが知っている。何しろ俺が隠したのだからな。我等がギリシャの装備、遺産は今俺が管理している。煌々戦艦スペース・アルゴーを始めとした、宝具の一部をな」

 

航海を祝福する神であるディオスクロイ、成すすべなく蹂躙されていくギリシャ宙域の敗北の前に、イアソンはそれらを彼に託し隠させた。いつか反攻に出る者が現れた時、それを戦力の一端に使うことを想定し。敗北の先を見ていたのが、イアソンの数少ない功績だと語る。

 

「は、初耳です兄様・・・!」

 

「許せ、極秘のやりとりだったのだ。それに俺は、宇宙の有り様などどうでも良かったゆえ先ほどまで忘れてもいた。・・・だがなポルクス。お前とその朋友達が、宇宙を取り返すために戦うというのなら話は別だ」

 

ならばそれを、兄として。航海を祝福する神として助けてやるのは当然の事。先の拳の乱打にて頭の靄と心の憎悪を祓われたカストル、トロ兄様は漸く八つ当たりと発散を乗り越え、大局を見据え動くことを決意したのだ。それが、本来の神の成すべき事であり、妹を見守る兄としての行動であると信じて。そして、その行いこそが。

 

「お前を導き、俺を憎悪から解き放った人間への縁に繋がると信じて。俺はお前の決断を『尊重』し、お前とお前の友にギリシャの遺産を託そう。それが、長らく自身を見失っていた俺の、旧き神たる俺の航海への『祝福』とする。この宇宙、この世界を守護する神としての働き・・・真面目極まったハデス、最期まで民達へ寄り添ったヘスティア、終わりの眠りにて介錯を勤めたヒュプノスらに続く『カストロ』の成すべき事と信じよう。──俺は今、愛する妹に、妹の決断に未来を託すのだ」

 

「に、兄様・・・!」

 

ポルクスも、この様に高潔極まる決断と、輝きを魅せる兄を前に納得するより他は無い。サーヴァントユニヴァースならざる世界には、神にすらこうして心を揺るがす対話と思いやりの手法が存在し、そしてそれは神にも通ずるものであるのだと。そしてその理念と手法は、我が手に宿り確かに兄の尊厳を取り戻したのだと。

 

(いつか出逢って礼を告げたいものです。我が兄を導いてくださった人間、その人に出逢う機会があるならば・・・)

 

兄と共に招かれ、力と剣を振るうその機会がいつか訪れることがあるならば。ゴージャスを名乗るその旅路に、その人間がいることを願いつつポルクスは笑みを溢す。兄の煩悶は、確かに晴れたのだ。想いを込めた拳で。それは何より──

 

「?ポルクス、何を笑っている?」

 

「いいえ、何も。神と言えど、嬉しい時には笑うものです。最近は兄様の仏頂面しか見ていませんでしたから、尚更です」

 

「そうか、お前が笑顔であるのは喜ばしい事だ。・・・此処だ、ポルクス。お前の剣と私の得物を掲げるのだ。認証は解かれよう」

 

「はい、兄様」

 

それは、単なる競技であり暴力であったボクシングや様々な相手を傷付ける手段を、対話や友好に昇華したという事。人間の利点であり美徳である改良、改善が遂に暴力にまで至ったという事。

 

「・・・ふふっ」

 

その事実に・・・ボクシングの神として名を馳せるポルクスとしては、やはり緩む頬を止められぬ理由となってしまう。そして、彼女もまた思うのだ。

 

(先ほどは驚きましたが、この様な素晴らしい結果をもたらしてくれたリリィ達や、そのマスターなる人間にはお礼をしなくてはなりませんね。・・・遥か過去に失われた人間、ひいてはマスター。我等が仕えても問題ない善き人間であればよいのですが)

 

そんな、まだ見ぬ縁に想いを馳せるポルクスであった。そして扉の向こうにある『遺産』と、双子の神は相対する──

 

 

「こ、これは・・・!スペース・アルゴーに『トロイの木馬』・・・!女神アテナの遺したスーツにアイギスも・・・!」

 

ギリシャ・スペース・ドック。秘匿ドックであり、トロ兄様しか所在を知らなかった其処に導かれたポルクスは声を上げた。かつて自身らが搭乗していた黄金のスペース・シップ。ギリシャ艦隊旗艦アルゴー。先のギルガメス大戦で轟沈したとされていたソレに、トロイアを壊滅させた機動兵器木馬とそのパイロットスーツが安置されていたのだ。ギルガメスに、奪われる事なく。

 

「ギリシャ艦隊前線指揮官であったオデュッセウスは、ギルガメスの保有する艦隊とその力にギリシャの敗北を読みきっていた。事実神嫌いであったギルガメスに神々の本体は入念に破壊し尽くされ、艦隊も投降の余地なく破壊された。神々の血を引いていた英雄が数多であった事も災いし、あの忌々しい鎖に蹴散らされていった。屈辱の敗北だな」

 

「・・・はい。我等はすんでで光速離脱し壊滅は免れましたが・・・」

 

先の折、ギリシャの戦力を入念にギルガメスは始末した。人を愛玩し弄ぶ在り方を良しとしなかったか、その蹂躙は徹底的だった。財宝を解放した宇宙全域を覆える程の私有艦隊、銀河警察と互角なる戦力を発揮するギルガメス艦隊の蹂躙に、神々とその血を引く英雄達は成すすべなく消えていった。世界を切り裂くギルガメスに、傍らに在った天の鎖。まさに、最悪の裁定だった。

 

『最早敗北は必定だ。カストロ、お前に頼みがある』

 

『妹以外は嫌いなお前の事だ、チャンスは逃がさないだろう!腹立つが、本当に腹立つがお前に任せる!いいな、ギリシャは負けたがアルゴノーツはまだ負けてないからな──!』

 

しかし、敗北を認められず殲滅の憂き目にあった神々を尻目に、オデュッセウスとイアソンは敗北を読みきり、いつか訪れる反攻に足る戦力として宝具たる遺産を隠し託した。カストロに、航海を祈る神に託したのだ。未来の希望を。それが、アテナのアイギスにトロイの木馬、旗艦たるアルゴースペースシップ。それらは今、雌伏の時より解き放たれる。

 

「反攻する者達の手土産として、これを持っていけ。俺は、お前とお前を導いた人間を信じるぞ。ポルクス」

 

「兄様・・・!流石兄様です!ありがとうございます!」

 

そうして、カストロ兄様はポルクスに、ひいては人間に託したのだ。ギリシャの希望たる遺産の全てを。それは、航海の神たる彼の祝福であり・・・

 

──偏屈な彼の、物言わぬ祝福に他ならなかった。




ボクシングジム地表

?【やはりあったか・・・!ギリシャの遺産、かつての旗艦、スペース・アルゴーに木馬・・・!】

(見つからぬ筈だが、ギリシャの生き残りたるディオスクロイを見張っていればボロを出すと踏んでいたぞ!よし、後はあれらを奪い王妃に捧げる!そうすれば、次のシーズンをも・・・!)

?「やはり、小賢しく嗅ぎ回っていた羽虫がいたな。餌を見せれば食い付くと思っていたぞ」

?【何ッ──!?】

(い、いつの間に・・・!真下の地下にいた筈だぞ・・・!)

カストロ「俺が蹴散らし、滅していたのはギリシャの遺産を狙う輩どもだ。そんな俺が、嗅ぎ回る密偵の隙を見逃すと思うか」

?【・・・!】

カストロ「名乗るか、死ぬか、選ばせてやろう。何、どのみち殺すが名誉は護りたかろう?」

?【・・・フン。いいだろう。だがこれでも私はスパイだ。素性を明かすわけにはいかない。──私は黒百合の騎士。それ以上でもそれ以下でもない】

カストロ「では、死ね。妹が起動を果たす前に決着をつけてくれる!」

周りを嗅ぎ回っていたスパイに、冴え渡る兄の光が今照らされる──

ヒロインX~賞金を稼ぎましょう!~

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