人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ご、ごめんよ!君を哀しませるつもりは無かったんだ・・・!君を、君を見ていたら堪らなくて、どうしても、どうしても僕のものにしたくて・・・でも、君の涙を見て理解した。僕は間違っていた。間違っていたんだ。

こんな形でこんな場所に連れてきてしまい、本当にすまない。すぐに迎えが来るだろう。それに乗り地上に戻れる。だから・・・



何も、ない?そうだね。冥界にあるのは静けさだけだよ。死した魂が安らぐ場所だからね

・・・独りなのか、だって?うん。独りなんだ。だって、だれでも嫌だろう?暗い冥界なんて。太陽と海、天空の輝きの方がいいに決まっている。

・・・僕は?・・・。僕はね、此処でいいんだよ。だって──

好きなんだ。生命を終えた魂に『頑張ったね、お疲れ様でした』と言うのが。僕は冥界で、懸命に生きた魂達を労い、裁き、眠らせるこの仕事に誇りを持っている。

・・・重ね重ね、本当に申し訳ない。君は地上に帰れる。・・・でも、君の事は絶対に忘れない。一目惚れで、君以外の女性はもう目に入らないくらいに好きになってしまったから。

いつか、本当にいつか、時間が経ちに経って、君が冥界に来た時、せめて──


──また、君に話しかけても・・・いいでしょうか?


よく解る、ペルセポネーの円満夫婦術!

【円満な夫婦生活の秘訣・・・?ですの?】

 

休憩中、広間にてミントハーブティーなる冥界名物を嗜むペルセポネーに、口火を切る者が一人。邪神の箱入り狩人、ナイアがミントを噛みながら冥界の婦人に切り込む。本人は至って真面目であった。

 

「はい。物心付く前より父との二人家族であった私ナイアは、母方の苦労や想いを存じません。ヘスティア神も処女神であらせられ、その方面の話はやや専門外な模様」

 

「ごめんなさい~。家庭を護るのであって、私は家庭を持たない神なの~。ペルセポネーちゃん、なんとかならないかしら~・・・」

 

「私も興味があります。いつか、そういう日が来た時の際に。マカリオスは凄く複雑そうな顔をするのだけど・・・」

 

「サバイバルや護身術は父から学びましたが、母の温もりやゆりかごの安らぎとは無縁でした。それではいつか所帯を持った際に非常に困ります。ですので、ペルセポネー様の夫婦円満の秘訣を知りたいのです」

 

未来の夫を支えたいアデーレ、単純に幸せな家庭に必要なスキルを身に付け殿方に奉仕したいナイアと、方向性は似ている二人の懇願に、ペルセポネーは目を丸くするも把握する。つまり──

 

【──うふふふふふ!なるほどなるほど!つまり私とハデスを!理想の夫婦と認めた上で教えを乞うていると言うことなのね!?そうなのですわね!?なんて嬉しいのでしょう!ありがとう!】

 

(ギリシャの神で参考に出来る夫婦なんて、限られるものねぇ~・・・)

 

喜色満面。夫婦として妻として向けられたリスペクトにペルセポネーは有頂天。やる気MAXになった冥界の妻が、ウキウキとホワイトボードを持ってくる。

 

【よろしい!ならばその慧眼に応え!私の意識する重要なポイントをお教えしますわ!夫婦上手は人間関係上手!現世のあなたにもきっと活きるテクを慎んで拝聴なさるのがよろしくてよ!】

 

「「はーいヽ( ・∀・)ノ(。・_・。)ノ」」

 

「凄いわぁペルセポネーちゃん。冥界暮らしでも人間関係の事を考えているのねぇ~」

 

【それはもちろん!社交性がなければ馬鹿にされますもの。ヘラ達に!今は無様に!愚かに!無意味に!!滅び去った三女神!!所詮見せ掛けだけの美など風化するが定めなのですわ!少しは内面を磨きますのね!!ばーーーか!!】

 

あまりに苦渋を嘗めさせられて来たのか、罵倒が止まらぬペルセポネーの苦難を偲びつつ、冥界の妻のレクチャーが始まるのであった──。

 

~その一 御礼の言葉を口癖になさい!~

 

【よろしくて?婚姻の儀を結んだ伴侶とは生涯を共にするパートナー。其処から先最も長い時間を過ごす相手ですの。そんな相手との関係を長持ちさせるためには、些細な事にも感謝を忘れてはなりません】

 

ペルセポネーは正式に婚姻をした際から、どんな些細な事でも御礼と感謝を告げている。ハデスに炊事をやってもらった時、仕事を終えた時、共に寝る時、ご飯を作ってくれた時。必ず『ありがとう』と返すようにしている。今や意識せずとも御礼が出る程だ。口癖になっているのである。

 

【いいこと?御礼を言うという事はその行いを輝かせる事なのですわ。この世に当たり前の事など存在しません。家庭を支え働く夫。家庭を護り家事する妻。そのありがたみと感謝を『当たり前』にしない事。それが大事な心構えですわよ】

 

「成る程。恐怖と同じように幸福にも鮮度がある、と」

 

【その通りですわ、麗しき狩人・・・はアタランテと被りますわね。光輝の深淵姫なんてどうでしょう?まぁそれはともかく。結婚は幸せの絶頂というでしょう?それは正しいですわ。ですが絶頂ならいつか必ず落ちるが定め。夫婦生活とは!いかに絶頂の付近で羽ばたけられるかの試練なのですわ!夫婦とは翼なのです!覚えておくように!】

 

「御礼を口癖に・・・。はい、ありがとうございます。ペルセポネー様」

 

「感謝いたします。最早崇拝しか無いのでは?」

 

【ふふっ。実践してくださいまして感謝!ありがとうございます!ね?気持ちがいいでしょう?】

 

その二~想いは秘めずに口になさい!~

 

【ZIPANGには夫の影踏まず、などというお付き合いがあるそうですが、私はその真逆ですわ。好きなものは好きと言う!溜め込まずに相手を信じてぶっちゃける!とても大事な事ですわよ。これはお子様やペットの人格形成にも関わるもの!頭に叩き込むように!】

 

「思っているだけでは伝わらない、と?」

 

【えぇ。以心伝心という諺がありましょう。私大好きな言葉ではありますが、夫婦とは其処に至るまでの道のりを歩むチームなのです。それらの長き道を走り抜けるのに、言葉を示し気持ちを表さなければ話になりませんことよ?そうでしょう?ヘスティア神】

 

「確かに~。神への祈りは口に出すものねぇ~。言われると嬉しいわぁ~。祝福多めにあげちゃう~」 

 

思っているだけでは、言ってくれなくては何も解らない。解り合う苦労や困難から逃げてはいけない。どんな事も、どんな時も。絆は言葉が運んで来るのだから。それは神でも同じである。

 

【髪の毛を切ったなら誉め、料理が美味しかったなら美味しいという!自身の意志を封殺して従う、それは奴隷と言いますわ。夫婦は対等!伝えたいならきちんと話すが肝要ですのよ!】

 

「しっかりと会話に・・・具体的には、どこまで言葉にするべきなのでしょう?」

 

【あなた、御父様の事はどう思っておりますの?】

 

「尊敬し、敬愛し、呆れつつも家族として愛しています」

 

【そちらのあなた、マカリオスの事は?】

 

「・・・。自慢の弟です。私を第一に考えてくれて・・・大切な、一人の・・・」

 

【難しい事はありませんわ。その想い、その言葉を伝えてさしあげなさい。然り気無くでも、雄々しくでもよろしくてよ。伝えられた側は、きっと嬉しい筈。そしてそれが、円滑な関係の秘訣ですわ!】

 

「うふふ~。ハグもいいわよ~。こんな風にねぇ~」

 

「ああっ!?な、なんて光栄な・・・」

 

「成る程・・・ペルセポネー様!私には最低でも一万三千人想いを伝えたい方々がおります。一人一人ハグしていくべきでしょうか?敬愛を込めて!思慕を込めて!こう、ぐいっと!」

 

【・・・・・・背骨を折らない程度にですのよ?】

 

その三!不滅の愛は造るもの!

 

【持論として。私永遠の愛なんて、不滅の美なんて信じておりませんの。エロスの弓矢は永遠ではありますがおぞましく、不滅の美を誇る三女神は嫉妬、浮気、競争ととても美しいと言える性格をしていませんわ。何故だか解りまして?】

 

「毎日が女の子の日~?」

 

【それでしたら物凄く同情の余地がありますわ・・・いくら外見を不滅にしようと!いくら美を保とうと!内面即ち心は、魂は劣化していくのですわ!肝に銘じなさい定命の者達!不滅なものなどありません!あぁいえ探せばあるのかもしれませんが今はそう仮定します!家庭も、幸せも、命も、人生も!この世に不滅なものなど何一つ無く!怠った数だけ朽ちていくのですわ!女神は心が!人は外見が!夫婦の愛は新婚の甘さが!まずは終わりを!終焉を意識なさい!不滅とは!終焉の瞬間まで朽ちぬことなく鍛え抜かれた全てに宿るのです!】

 

「おぉ・・・!退屈は死に勝る病と父はぼやいていましたが、まさにそれ!魂は朽ちるのですね、やはり・・・」

 

【イメージなさい。永遠の美を得た者は自ら以外の美を認められず、不老不死を得た生命が最期に求めるものは例外なく死。身体が不滅であろうと、魂は日に日に澱んでいく。新婚と結婚の時のときめきは、やがて消え去りマンネリと化す。それらは全て、終わりを直視しなかった者達の末路にして自業自得!良いですかアデーレ、あなたは老い、死にます!ナイア、あなたの愛する者達はほぼあなたを遺し死に絶えます!】

 

「っ・・・」

「・・・・・・はい・・・」

 

【だからこそ!!・・・死を想いなさい。当たり前など、不滅など無いと知るのです。今こうして生きて、心を通わせる奇跡を見失わない様に。夫婦生活、いえ・・・人と人との付き合いの極致。それは『あなたが其処にいてくれればいい』。よいですか?幸せとは探すものではありません。其処に在ると、気付くものなのですよ】

 

「「──はいっ!」」

 

【よろしい!これが私の大切にしている心構え!生きているうちに実践なさいますよう!よろしいですね!】

 

元気よく答える二人。ヘスティアは満足感げに微笑む。──ハデスが今まで頑張ってこれたのは、間違いなく・・・

 

「ペルセポネーちゃんもハデスちゃんも・・・素敵な結ばれ方をしたのねぇ~・・・」

 

その在り方と、歪まぬ心に。ヘスティアは確かに幸せ家族と太鼓判を押したのだった──




『この神は、この方は私が支えてあげないと』

な!?ペルセポネー!?何故また此処に!?

『この方は、こんなにも情熱的で、でも涙する私を心配してくれた優しさと誠実さを持っていて』

ケルベロス!彼女を、彼女を丁重に止めるんだ!

『きっと、この方以上に私を愛してくださる方はいないと信じられる。きっと、この方以上に好きになれる方はいないと信じられる』

それは!それはザクロッ!?ダメだ!ダメだーっ!

ペルセポネー『お離しになってっ!!わたしは決めたのですわ!』

ハデス【へぇ!?】

『私!あなたの妃になりますわ!このザクロにて!冥界に滞在致します!そうね!まずは四個ッ!(ムシャア)』

【ああぁあぁあぁあぁ!!?き、君は!なんて、なんて事を・・・】

『何を躊躇いなさるの!私を奪ったあなた!これが望みでしょう!えぇ!わたしの望みでもあります!よろしくてハデス様!?私はあなたを!愛します!』

ハデス【えっ!?】

『あなたを強く支えます!だからあなたは!私を愛しなさいませ!よろしくて!?浮気は赦しましょう!誘惑は赦しません!ペルセポネー、あなたに嫁入り致します!文句は言わせません!良いですねッ!』

【は、はい・・・】

『声が小さいですわっ!!』

【はいぃ!?】

あなたが侮られぬよう、あなたが挫けぬように支えましょう。あなたが死の安らぎを護るなら、私はあなたの安らぎを護ります。



ペルセポネー【このっ!このっ!このっ!このっ!このっ!この穢らわしい妖精風情がッ!私のハデスを!その臭いアバズレ穴で誘おうなどッ!!恥を知りなさいっ!恥を!!知りなさいッ!!!】

ハデス【す、すまないペルセポネー!悪かった、僕の気の迷いだった。僕が悪かった・・・!】

【悪い!?ハデス!あなた浮気を謝りましたの!?違いますわ!浮気はッ!!『夫を満足させられぬ妻』にこそ落ち度があるのですッ!】

ハデス【えぇえぇえ!?】

【浮気など男性がしない筈が無いでしょうッ!毎日肉を食べて飽きぬ者がありますか!魚を食べたくもなるでしょう!女がすべきは魚を禁止し肉を食わせることではありません!『やっぱりあの肉が一番だな』と!!再び食べたくなるような肉になることなのです!!ハデス!!!】

【はいっ!?】

【よろしくて・・・!?明日からもっともっと私は魅力的になりますわ・・・!他の女など野菜のヘタにしか見えないほどにッ!!この世全ての女性を私の添えものにするくらい!魅力的になってみせますわ・・・!!】

【ひぃいぃ・・・】

【愛 し て お り ま す わ ・・・ ! !ハ デ ス ゥ ウ  ゥ ・・・ ! ! !】

ハデス【ぼぼぼぼ僕もだよペルセポネー!もう君しか見えないぃい・・・!】

『潰れたミント』



ナイア「XX。ぎゅー」
XX「んなぁ!?なんですか急に!?あ、でもいいにおいですね!」

アデーレ「マカリオス?いつもありがとう・・・愛しているわ」

マカリオス「ななななんだってぇえぇ!!?」

ペルセポネー【うんうん!円満!ですわね!】

ヘスティア「良かったわぁ~。素敵ねぇ~♪」

オリオン「・・・なんか絵面ヤバくない!?」

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