人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ニャル【精神的ロック、か】

ナイア『確かに、精神を破壊するわけには参りません。ですがロックに対するアプローチは続けるべきかと思われます。精神的作用はお父さんの得意分野と思いますので・・・』

ニャル【勿論やるつもりだが・・・気が乗らんなぁ。じじぃの介抱って私的に凄くイヤ】

ナイア『そんなワガママを言わずにお願い致します。大切な瀬戸際なのですから』

ニャル【解ったよ。だからくれぐれもそちらも無事でな。ヒュプノスにはな】

『了解。行ってきます』

ニャル【・・・。そういえばヒュプノスには相手の姿を変えられる姿があったな。・・・TS、馬並み性欲、女好き・・・】

【・・・閃いちゃった♪】


『ワープ開始。目標、ヒュプノス神殿。目標、ヒュプノス神殿──』




眠りとは精神における絶対的作用

「ギリシャ界隈の調査はあまり進んでいなかったので、銀河警察ライブラリーにもギリシャ方面の知識は無かったんですよね。ナイアー、パンフレットあります?」

 

「ありますあります。ケイローン先生から貰いました。ヒュプノス・・・あぁ、ギリシャにも同名の神がいらっしゃったんですね」

 

ヒュプノス神の座する神殿、その宙域に向かっていくXXの駆るドゥン・スタリオン。操縦パネルコンソールを操作しながら、XXは背後のナイアに情報マテリアルがあるかを訪ねる。ギリシャは日本ほどではないが、神様が多数いるのだ。ヒュプノスはそれほど有名な神ではないものの、きちんとした逸話は残されている。

 

「ヒュプノス。ニュクスを母に持ち、兄にタナトスという家庭関係を持つ眠りを司る神であり、その名はズバリ『眠り』。非情にして冷徹な兄タナトスとは対照的に優しい性格で、ギリシャにおける死はヒュプノス神のもたらす最後の眠りというのが通説の様ですね。成る程・・・」

 

ヒュプノス神は眠り、女神ニュクスは夜の全て、タナトス神は魂を狩る死神と言う家系であり、翼を生やした青年の姿で描かれる事が多い。疲れた人間の額に木の枝で触れたり、角から液体を垂らすことにより眠りをもたらす優しい神だとされている。その眠りの力は、他の追随を許さないほどに強い。

 

「・・・なんと。ゼウス神を二回も眠らせることに成功している様です。この実績だけで今回の役割に適任なのは自明の理なのでは」

 

「マジですか!?どういうシチュエーションでどんな風に眠らせたんですかね!?」

 

パラパラと電子パンフレットをめくるナイア。そこにはやっぱり、あの嫉妬の女神が絡んでいたようである。

 

「ヘラクレスを迫害したヘラに頼まれ、ゼウス神を眠らせた事が一回目だそうで。ゼウス神に罰を受けそうになった所を母ニュクスに助けられていた様です。二回目はトロイア戦争の折、戦争から気を逸らすためにヘラに頼まれ、ゼウス神を眠らせたとありますね。その後、ヘラに娘パシパエと結婚する権利を貰っていますね」

 

二回ともゼウスを眠らせることに成功し、罰も受けずに生還する事に成功している稀有にして強力な神。ちゃっかり嫁もゲットしているヒュプノス。立ち回りと力を同時に兼ね備えた神。その実績からも、その力・・・眠りが如何に強力で絶対的なものかを知らしめるに足るものである。

 

「他には何か逸話とか無いんですか?それくらい強いならなんかこう、盛り盛りに盛られるものだと思うんですけど」

 

「・・・その他にはめぼしいエピソードは記されていませんね。この二つが重要かつ端的な逸話な様です。後は所在が、遥か下にあるタルタロスに居を構えているとか、世界の果ての洞窟にいるとか・・・所在が安定しないですね」

 

「あぁ、成る程、逸話がそんなに盛られなかったケースなんですね・・・」

 

実は逸話はそんなに少ないヒュプノス神。やはり死、それに連なる眠りを司るヒュプノス神も人気は振るわなかった様である。むしろこうしてゼウスを出し抜いた逸話が用意されている辺り、破格と言っても過言ではないだろう。大神であるゼウスに僅かでも力を通す事が出来るという事実こそが、イアソンの狙いが正しい事の証明となる。ゼウスに効くと言うことは、あらゆる神々にその効果が望めるということである。ポセイドンの精神ロックすら鎮められる事だろう。

 

「成る程、ギリシャ神話のヒュプノスはこの様な立ち位置だったのですね。興味深いです」

 

「・・・?ギリシャ神話の?どういう事ですか?」

 

まるでギリシャ神話のヒュプノスの他に別の個体がおり、それを知っているような物言いのナイアにXXが聞き返す。ナイアは、というよりナイアの父に仇なす存在に、同じような存在がいるのだと彼女は告げる。

 

「深淵の神話・・・仮にクトゥルフ神話と名付けるとして、父ニャルラトホテプを外なる者という勢力と定義し、それらに抗う勢力を『旧神』と呼びます。遥か太古から闇の者たちと戦ってきた旧き神々・・・その中に、性質が似通い名前も同じな神、『ヒュプノス』が存在しているのだそうです。夜の子守唄がわりに、お父さんが教えてくれました」

 

クトゥルフ神話におけるヒュプノスは、性質は似通ってはいるものの、その相違点は外見である。クトゥルフ神話のヒュプノスの本性たる外見は悪夢のように恐ろしくおぞましく、そして夢の中に訪れたものを望みのままの姿に変える力を持っているのだ。

 

「あれ?見た目だけは恐ろしいですが割といい神様なんですか?理想の自分に変えてくれるんでしょう?」

 

「『ヒュプノス神にとって』の理想の自分ですが」

 

「・・・・・・」

 

「そして、ヒュプノス神に姿を変えられた者はヒュプノス神と永遠に暮らすことを義務付けられるのです。私はまだ会った事がありませんが・・・油断はしない方がいいでしょう。眠りと言うものは、精神活動の一環。人間であれ、神であれ、その精神活動には大層な違いはありません。いくら武装をしようとも・・・心そのものは護れない。闇の者どもはそれを狙って来るのですからね」

 

狩人として、強固な人間が深淵に堕ちていく姿を目の当たりにし見続けてきたからこそ。精神と言うものは狂喜や狂気に容易く崩されるものだとナイアは理解している。そこに、人間も英雄も違いは無いのだ。

 

『おいお前らー、頼むぞ直衛部隊。まぁ眠りの神だから、よくも悪くも戦いは起きないだろうけどな』

 

「えぇー?本当ですかー?」

 

『嘘なんて言ってどうするんだよ。まぁ、念のためオート操縦にはしておけよー。ほら、ワープアウトすんぞ!シートベルト締めろよー!』

 

イアソンの言葉と同時に、アナウンスが響き渡る。それを聞き、ナイアもパンフレットをしまい所定の位置へ着く。

 

『ワープアウトします。各員は衝撃に備えてください。ワープアウトします。各員は衝撃に──』

 

「しっかり掴まっていてくださいよ!ナイア!」

 

「勿論です。操舵をお願いいたしますよ、XX」

 

頷き合い、ワープアウトするドゥン・スタリオン。待ち受けるは、眠りの神が待つ神殿領域。ヒュプノス・クリロノミアを獲得し、ポセイドンのロックを解除する為に、今未踏の地下領域へと挑む──




ヒュプノス神殿領域周辺

ナイア「これは・・・」

一行が辿り着いたワープアウト宙域。そこは──睡眠と安眠をもたらす安寧に満ちた空間。牧羊的な森林に、のんびりとくつろぐ羊たち。夜闇が満ち、静寂が耳に痛いほどの空間。言うなれば、絶対安眠領域──

ナイア「・・・はっ。もしや銀河警察にヒュプノス神を招いたならば、最高品質の眠りを提供してもらえるのでは?」

XX「・・・・・・」

ナイア「こちらドゥン・スタリオン。無事にワープアウトが完了致しました。そちらは──」

ヘスティア『た、大変よぉ~。ナイアちゃんは大丈夫~?みんな、みんな・・・』

ナイア「──どうなさいましたか!?」

『みーんな、眠ってしまったのよぉ~。オリオンや皆も・・・眠ってしまったのよ~!』

ナイア「な──」

まさか──ヘスティア神の祝福すらも貫通する力に戦慄するナイア。そしてそれは当然・・・

「XX、緊急事態です!あちらのメンバーが全員・・・!」

XX「ぐぅ・・・」

ナイア「──そんな・・・!」

相棒たるXXすらも、例外でなく。女神と狩人を除く全員が深き眠りへと堕ちる──

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