人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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精神世界

ポセイドン『嫌だ、神が、神が滅びるものか・・・』

ニャル【欲の強い神だ。だがまぁ、語りかけても届かんだろう。最早妄執といってもいいだろうしな】

ポセイドン『・・・!?』

【だがまぁ、君の末期の想いに興味はない。・・・だが、一つ興味はある。お前は今死にたくないと言ったな?・・・本当にそう思えるか?】

指を鳴らすニャル。瞬間、末期のポセイドンの思念が変化する。

ポセイドン(美女)『・・・!?』

姿が定義付けられる。水色の長髪に、豊満な肉体。神に相応しい絶世の美女にだ。

『!?・・・!?』

【死んだ方がマシという言葉もある。だが、今のお前は死を嫌っている。『本当の窮地において、正しい感情はどちら』なんだろうな?気になって夜しか眠れない。だから──】

『──!?』

瞬間、ニャルの後ろに現れる無数の屈強な男達。筋骨隆々の男達は『ポセイドン像』と同じ姿をしていた。

【お前で試す事にしたよ。幸い、胸も痛みそうに無いしな。精神だけ壊れたならそれでよし。壊れてないならそのうち(眠れる)だろうさ】

ポセイドン(女性)『───!!』

【瀕死で儚げな艶やかな美女に、屈強なギリシャ野郎共──】

ポセイドン(端末体)『『『『『(ニマァ)』』』』』

【何も起きない筈は──無いよな?】



(描写するのも躊躇われる尊厳蹂躙の現場)

【愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ。だらしの無い下半身で貫かれる淑女の恐怖と苦痛を記憶野に刻み込むんだな。漫画ベルセルクの蝕を思い出すなぁ。おぉ怖い怖い】

(描写するのも躊躇われる絶叫)

【心配するな、壊したりしない。『傷物になる度治してやろう』。壊れてしまってはテーマの研究にならんからな。存分に学べ。痛みを学ぶには、同じ痛みを味わうのが一番だからな】

(精神グラフ、乱降下・・・まぁこの調子でいけば勝手に精神だけが死ぬだろう)

【さて、娘のサポートに行くか。娘が間に合うまで死ぬなよ?安らかに眠れる慈悲を持ってきてくれる筈だからな。ガンバれ!】

ナイア『お父さん!大変です!』

【ん?どうした?】

『皆がヒュプノス神により睡眠下に!報告を致します!』

ニャル【──今から通信を繋げる。詳しく情報を告げろ。サポートする!】

(ナイアとヘスティアちゃんは無事だったか。・・・恐らく目的は──)


神の死とは

「ヘスティア様、どうか私から離れる事なき様に。ギリシャ最高峰の女神の護衛という大役・・・全身全霊を以て果たしてみせますので」

 

「ごめんなさい~、お願いするわね~・・・ヒュプノスは優しい神だから、必ず訳があるのよぉ~。

お話しすれば、解ってくれる筈なのよぅ・・・」

 

星も見えぬ夜闇の牧羊的な空間を、ヘスティアを護りながら注意深く進んでいくナイア、そしてヘスティア。宇宙船二隻は棺桶の中の邪神宇宙にスモール処理し持ち運んでいる。ヘスティアは家庭を護る神。その祝福を受けた者は生命活動を損なわれないが、その代償としてヘスティア自体に戦闘力はほぼ存在しない。血と鉄にまみれた手で護る家庭は無いからだ。

 

【しかし驚いたな。ゼウス神を二度も眠らせた権能は伊達では無い。ヘスティア神はそもそも対象外だったか。我が娘を丹念にメディカルチェックしていた甲斐があったよ】

 

「毎日の健康診断の賜物ですね」

 

全システムが休眠中なため、急遽ナビゲーターとして通信を行うニャル。当然のように健在な娘と語り合う邪神に、目を丸くするヘスティア。

 

「ナイアちゃんは~、パパが一緒だから平気だったのかしら~?」

 

「私の身体は毎日邪神ニャルラトホテプに調整されております。様々なナノマシンや最先端の呪法、或いは何処からか見つけてきたロストテクノロジー。狩人としての身体能力の保持、トラペゾヘドロン運用の器としての細胞単位の改良。その気になれば生命活動や反射、代謝の有無も選択可能な程に」

 

【私の愛情や親愛も、最初の内は実益を切り離せなくてね。その感情が愛情だったとしても、人体実験と相違ない調教を肉体に施した。その結果寿命は一万年近くに伸び、生命活動のオンオフも切り替え可能になっている。要するに食事も睡眠もその気になれば不要なのさ】

 

邪神としての実益は肉体を自らの考える最高水準の戦闘マシーンに。親としての親愛は娘の身体外見と精神を善良かつ無用な差別や批判をされないように。そうして形作られた狩人ナイアはその気になれば睡眠、食事といったものすら不要にする。加えて緻密かつ精密な細胞単位の改造により、ナノマシンや催眠といった肉体、精神攻撃系列の干渉を打ち消す事が出来たのだ。ナイア本体の火力を抑え、生存と極地行動に適性をもたらした結果・・・機械神たるギリシャ神話の神々の干渉を上回る事が出来たのだ。それは紛れもなく、父の愛情の勝利である。

 

「あらぁ~・・・それってつまりぃ~・・・パパとの絆と愛情が護ってくれた事なのねぇ~。素晴らしいわぁ~」

 

【でしょぉ?(にへら~)】

 

「お父さん、作戦行動中ですので」

 

【おぉすまん。・・・私が思うに、こちらのヒュプノスは敵意は無い筈だ。見つけてヘスティアちゃんの説得でなんとかなる筈だ】

 

そうなのですか?問うナイアにニャルは応える。そもそも皆殺しにする気ならタナトスも一緒に来る筈だと仮定する。眠らせた無防備な魂など即座に狩れる上、ヘスティア神はともかくナイアの行動を阻害しない理由はない。

 

「でもぉ、私の竈の近くにいた皆まで眠らせるだなんて事をしたのかしら~・・・ゼウスも眠らせたヒュプノスなら出来るだろうけれど~・・・」

 

【案外、眠らせる以外の歓待を知らない・・・なんてオチなのやも知れませんな。死を司るハデス君の冷遇を見る限り、目覚める保証の無い眠りなんて嫌がられても無理もない】

 

逸話の少なさも、忌避された概念とするならば納得が行く。タナトス、ニュクス、ヒュプノス。死、夜、眠りとは最先端の科学で照らされぬ古代からしてみれば未知の恐怖でしか無かったのだろう。だからこそ、深淵の未知の神話たるクトゥルフにもヒュプノスは羅列されているのだろう。

 

「お父さん、これは私の推論ですが・・・そもそもこれは善意や労りの気持ちではないのでしょうか。家庭の女神たるヘスティア神の祝福を貫通したのは、『幸福の眠り』という幸せな生活に不可欠なものだからだったから、攻撃と見なされなかったのでは」

 

【性善説でものを考えられる様になったな。素晴らしい傾向だ。ヘスティアちゃん、これは案外あなたの助力になりたいヒュプノス神のメッセージなのかもしれませんよ】

 

ヘスティア神は家庭の守護神。そのヘスティア神の庇護下にある者たちを眠らせ、しかしヘスティア神を狙わなかった理由。それはもしかしたら・・・

 

「たまにはゆっくり休め・・・そういう事かしら~?ヒュプノスはあまり生者と話さないしぃ・・・宇宙を駆け巡る私達を心配してくれているのかもぉ~。もしそうならぁ~・・・」

 

「はい。話せば解ってくれる筈です。いいえ、解ってもらいます!あなたのその力が必要なのだと!今!世界中があなたを待っていると!」

 

【戦えウルトラマン!オー・・・コホン。まぁ単体でクトゥルフ神格をぶっ潰す光の戦士は置いといて・・・そう上手く行くかな】

 

珍しく娘の言葉に苦慮を示すニャル。ヘスティア神が怪訝そうに首をかしげるも、邪神には懸念している事があるが為に楽観はできないとしているのだ。

 

【サーヴァントユニヴァースはほぼ全てがサーヴァントだ。サーヴァントは本来食事も排泄も必要としない。宇宙における睡眠の意義は大きく削がれているだろう。ギリシャの支配下では人間らしい生活の為に睡眠は民に推奨されていたかもしれんが・・・ギリシャは滅び、全宇宙が戦国乱世思考なこの宇宙で、果たして何人が穏やかな眠りを望むのやら】

 

「!それはもしや神が信仰を喪い、精霊にランクダウン・・・或いは、自然に還ってしまうという事なのでは・・・?」

 

神にとって信仰は力である。神の死とは定義がいくつかあるが、最大のものは『信仰されなくなる事による意味消失』である。自然の擬神化、或いは伝承にて生まれた神はこの定義に当てはまる。そもそも信仰を必要としない恐ろしき外世界の神々は例外として、神は人なくては生きていけないのだ。ニャルが人間を蔑む神を嘲笑う理由がここにある。何処まで行っても、神は人間のシステムでしかない。その軛から外れ、人を愛する神をニャルが尊敬する理由も然り。日本の神格はかなり好きなのである。良いよね、大神。ねんどろいど予約しよう。

 

「そ、それは大変~!眠りの概念が無くなったら~、神が意味を失ってしまったら、次シーズンにいてくれるか分からないわぁ~!ギリシャ宙域から眠りが無くなっちゃう~!」

 

【ギリシャの民たちは何百年単位の不眠症か。寝たくても寝れなくなるのか、そもそも眠る必要が無くなるのよう改造するのか・・・非常に興味があるな。人を同じ目線で愛せない神々がそんな試みを成功させられるかは知らんがね】

 

「事態はギリシャに生きる人々の存亡に掛かっているようですね。なら助ける事に異論はありません。急ぎましょう、お父さん。ヘスティア様」

 

「あ、ありがとう~!ごめんなさい~、ギリシャの個人的な都合に巻き込んでしまって~・・・」

 

「いいえ、ヘスティア神。光に生きる者の幸福は護られねばなりません。カルデアの皆様も、部員の皆様も、ギリシャの民達も光溢れる世界の住人。ならば助けます、護ります。生命を懸けて」

 

【・・・・・・フッ・・・】

 

「理由無くブッ殺していいのはお父さんを始めとした外なる者共のみ。参りましょうヘスティア神。あなたの愛すべき民の安寧の為にも!」

 

「~うん!ありがとう~、別の宇宙からの勇者達が心優しい皆で、本当に良かったわぁ~・・・!」

 

【・・・ん?あれ?ナイア、私はノーカンじゃないの?】

 

「娘としては全霊で大好きですが、狩人としてはあなたを除外する理由はありませんので」

 

そんなー。まぁそれはそれで娘に殺されるなら狩人としての箔になるしいっかと割り切り、ヘスティア神の手を引くナイアの姿を見守るニャルであった──

 

「・・・そんな日は来てほしくないですが」

 

【何か言ったぁ?】

 

「な、に、も!」

 

「うふふ~。仲良しなのねぇ~」




羊農場エリア

羊「メッ」「メェ」「メェ~」

ナイア「羊です」

ニャル【もうちょっとリポート頑張ろ?】

ナイア「もこもこしていますね」

ヘスティア「眠れないときは羊の数を数えるぅ~。凄く素敵な風習もあるのよねぇ~。ヒュプノスも喜んでいるかしらぁ~」

?{だが・・・その文化も廃れつつある。睡眠が、宇宙に不要な時がそこまで来ているのだ}

ナイア「!」

ニャル【神霊反応、お、羊が柵に向かっていくな】

「「「「「メェ~」」」」」

とことこと走っていく羊が、柵をぴょんぴょんと飛び越えていく。一匹、二匹、三匹・・・

ナイア「・・・・・・!」
ヘスティア「あらぁ、かわいい~」
ニャル【働くウルクの活動を娘にもやらせたかった。中途参加の辛いところだ・・・】

~五分後

「三十匹、三十一・・・」

ニャル【ヘスティアちゃん、こちらクッションです】
ヘスティア「ありがとう~!」

~十分後

ナイア「七十一、七十二・・・七十三・・・」

ヘスティア「ポケット竈で作ったピザ!どうぞぉ~!」

ニャル【ナイア、いただきなさい】

ナイア「いただきます!」

~二十分後

羊(百匹目)「メ・・・」

ニャル(プレッシャーすごいんだろうな・・・)

ナイア「大丈夫!勇気を出して!」
ヘスティア「絶対大丈夫よぉ~!」

羊「め、めぇ~!」

ピョイーン

ナイア&ヘスティア「「やったぁ~!(ヒシッ)」」

ニャル【てぇてぇ】

{・・・。よく見守ってくれた。君達の善良さを認める。不躾な試練を二度もすまなかった}

羊達が集まり、立ち上る靄から現れる、角の生えた──羊飼い姿の神。

{私はヒュプノス。ヘスティア神、並びに来訪者よ。君達を歓迎する}

ニャル(・・・マ○オ?)

睡眠を司る神は、見た目も割と牧羊的であった──

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