イアソン「見えてるわ!ブラックホールとは大したもんだ。お陰でこっちもあの衛星に突っ込める!ロマン、ダ・ヴィンチ!艦をぶちこませろ!座標割れてるよな!」
ロマン「勿論!一気に突撃しよう!」
「突入したらすぐに戦いだ、皆覚悟を決めたまえ!」
イアソン「ヘスティア神は験担ぎについてきてくれ!オレ、オリオン、マンドリカルド、エレシュキガル、ヘスティア神で突入だ!後は船で待ってろ!すぐに脱出出来るようにな!」
マカリオス「死ぬなよ、キャプテン!」
アデーレ「待っています、ヘスティア様!」
ヘスティア「解ったわぁ~!」
イアソン「しゃあ!つっこめぇーーッ!!」
気合いを込めたイアソンの号令と共に、決死の突撃にて中枢に殴り込みをかける──!!
「ここがエキドナの中枢だよな。今更迷う迄もねぇ・・・!」
【────】
「でけぇ生産プラント女がこっち睨んでるもんなぁ!」
エキドナ攻略部隊、突入を果たした本隊のキャプテン・イアソンがそれを指差す。人間を思わせる人型の胴体に、足の部分に付属する肥大化した母胎ユニット。辛うじて人と認識できるその生産プラントの大本、エキドナの膝元に一同は辿り着いた。今は幸運な事に休息時なのか、子を産み出す動作は見られない。手薄な状態の際に鉢合わせる事が出来たようだ。叩くのは今と、イアソンは決断する。
「よーしお前ら!徹底的にぶっ潰──」
『待ったキャプテン!反応増大・・・何か出てくるぞ!』
「よっし任せたぞオリオン!俺は下がる!!」
「おぃい!?」
活動が再開された瞬間素早く後方待機するイアソン。船長は死なない事が仕事な為だ。オリオン、マンドリカルド、エレシュキガルが構え迎え討つ。エキドナは侵入者を感知し、新しい直衛に当たる魔獣を産み出したのだ。下部生産ユニットが生々しく蠢き、それは産み出される。
『この反応・・・まさか、もしかして・・・!?』
その反応、その外見には大いに見覚えがあった。一同はその魔獣の大本を知っている。巨大、三つ首の地獄の番犬。戦いと争いを好まぬハデスの相棒にして門番たる魔の獣。本体と違い、輪と三つ首の不完全な出来映えであれど肌にみられるクリロノミアの光沢はそれの脅威をさし示す。
【【【グギャゴァアァアァアァアァッ!!!】】】
「ケ、ケルベロスなのだわ!?オルトロスでも手こずる相手の更に上を作るなんて!?」
オルトロスの兄、ケルベロス。自らの直衛として造り上げた魔獣の誕生にエレシュキガルが衝撃を現す。その実力は温和なケルベロスの性格により未知数ではあったが、皮肉にも敵側に回ることによりそれを存分に味わうこととなる。
「二人とも、下がってろ!──ぬぅうっ!!」
【【【グギャゴァアァアァアァアァッ!!】】】
二人を下がらせるのと、オリオンに三つ首の番犬が噛み付くのは同時だった。強靭な肉体は砕けはしないが、かといって出鱈目な力に噛まれた狩人は抑え込むのに精一杯な程の拮抗を強制される。首の一つ一つの強さが、オルトロス以上なのだ。
(こいつら、純度の高いクリロノミアを使われてやがるな・・・!正真正銘の傑作モンスターってヤツか、笑えないぜこりゃあ・・・!)
「オリオン!今助けるのだわ!」
「踏ん張ってくださいっす!」
すかさず救助の為、マンドリカルドとエレシュキガルが攻撃を開始する。全身全霊の援護攻撃は、ケルベロスと言えど無傷で済まぬ密度となった噛み付きの強さをやや減衰させる。
【【【グガ、ゴォッ!!】】】
「隙あり、っとぉ!!」
瞬間オリオンがそのパワーにて無理やり首を自らより引き剥がし、地面へと叩き付ける。オリオンのパワーでなければ噛み千切られて終了を迎えていたほどの圧倒的な攻撃力に、イアソンとヘスティアは戦慄を隠せない。そして更に、驚愕的な事が発生する。
「傷が、猛烈な勢いで治っていくっすよ・・・!?」
マンドリカルドの言葉の通り、オリオンのパワーにて潰された首の一つ、そして援護攻撃によりダメージを受けた傷が瞬く間に修復されていく。事此処に至って、その原因の予測など容易いものだ。──母胎と繋がっているが故の効果に他なるまい。イアソンは忌々しげに目の前のエキドナは見上げる。自身を護るために拵えた魔獣への保護は万全な様だ。それは認める他無かった。
「ティアマト御母さまの親孝行でこういうタイプの攻略は弁えているわ!皆、沢山沢山攻撃するのだわ!」
「それしか無いっすね・・・!本体を攻めたいとこなんすが、あのケルベロスを抜けて攻撃出来る気がしねぇ・・・!」
「俺が前線を張る!二人は俺の前に絶対出ちゃダメだからな!喰われるぜ割とマジに!援護してくれたらスッゴい助かるから!」
【【【グギャゴァアァアァアァアァッ!!!】】】
其処からの戦いは膠着ながらも電撃戦の体を取った。ケルベロスがオリオンを噛み千切り他の者達を狩り尽くすか、オリオン達がケルベロスとエキドナの攻略の道筋を見つけ出すか。どちらかが切っ掛けを掴んだ瞬間、この戦いには決着がつく。そのチャンスを見極める戦いだ。確かにケルベロスは強大だが、断じて乗り越えられない壁ではない。イアソンは懸命に、戦術を考案し考える。
(ケルベロスはクリロノミアで不死身、エキドナはケルベロスを作ったせいか攻撃してこねぇ。ならなんとかケルベロスを切り抜けてエキドナを狩るのが一番だがそれが出来れば苦労はしねぇ。ヘラクレスなら死ぬまで殺すが出来るんだがオリオンは狩人だしな、不死殺しは期待は出来ねぇ・・・どうする・・・!?)
「ん~・・・なんとかしてケルベロスを貫いてエキドナに攻撃が当てられれば~・・・」
「それが一番大変な──待てよ?・・・そうか、もしかしたら──!」
ヘスティアの言葉で閃くイアソン。この方法ならやれるかもしれない。オリオンの腕次第だが、上手く行けば逆転が叶う──!
「くそ!コイツッ!ごめんなさいねハデス様!」
首を潰しても潰しても食らいつくケルベロス。オリオンの頑強な肉体が紅く染まるほどに強烈な噛みつきが繰り出され、ギリギリの所で拮抗を続ける。三騎のサーヴァントが苦戦するほどの密量の魔獣。エキドナの護衛は伊達では無かった。マンドリカルド、エレシュキガルがそれぞれの首を担当していなければ押しきられていただろう。しかし、それも長くは続かない。劣勢に陥りかけているのは、オリオン達が如実に感じていた。せめて一矢引けることが出来たなら、一息にケルベロスとエキドナを貫けるものを──!
「オリオン!!」
「!?」
瞬間、声を張り上げるキャプテンの言葉に意識を向ける。イアソンがいつもより気持ち前に出ている。そして声を張り上げている。──その意味を、オリオンは勘で理解した。何となくで把握したのだ。
「殴り飛ばせ!此方に来い!!エレシュキガルとマンドリカルドは一瞬時間を稼げ!!」
イアソンの言葉を全力で信じ、二騎は全力でオリオンが離脱する時間を稼ぐ。キャプテンの指示を理解し信じたのだ。
「───そらよっと!!!」
怒濤の猛攻に怯んだ隙に、オリオンがケルベロスを殴り飛ばし数歩後退する。イアソンの傍らに位置する場所に陣取る形となった。そこに到達し、オリオンはすべてを理解する。その位置は、即ち──
「あぁ、成る程ね!そういう事か──!!」
「お前ら!攻撃は止めろ!!来るぞ!オリオン!!」
指示の下、怒り心頭のケルベロスがオリオンへと飛来する。攻撃に晒されることなく、最速の跳躍を行って、だ。
【【【グギャゴァアァアァアァアァッ!!】】】
一瞬でオリオンとイアソンを噛み砕ける距離。其処にて、イアソンは確信する。その終わりを──
「終わりだ──テメーらがな!!やれ、オリオン!!」
【【【!?】】】
そう、これは始めから計算の内の行動だ。イアソンが囮になったのも、オリオンを下がらせたのも。わざわざ怒らせつつ手を緩めたのも。ヘスティアの助言を聞いて閃いたイアソンの計算尽くな一幕だ。弓矢をつがえ、渾身の力で引き絞るオリオン。
「一、二の──!!」
【【【!!】】】
瞬間、ケルベロスは理解する。狩人が何を狙っているのかを。ケルベロスは今、オリオンらに覆い被さるように飛びかかっている。真ん中の首は、瞬間にはオリオンに食らいつくであろう。それ故に──
「───三!!!」
背後にいるエキドナと、『重なっていた』のだ。射線が、軌道が、完全に重なっていた。一矢放てばもろともに貫くその軌道に誘導されていたのだ。これはまさに、獣を狩る人の智恵──!
「バカ野郎が!人間は智恵と勇気で困難を乗り越えてくんだよ!よーく噛み締めてくたばりやがれ!バーカ!!!」
【【【ガ──】】】
ケルベロス、そして背後のエキドナを貫かれる。その瞬間、プラント機能が異常をきたし──ケルベロスは爆発四散するのであった──
「「やった!!」」
ヘスティア「オリオン君~!大丈夫~!?」
オリオン「平気平気!へっちゃらっすよ!見ててくれましたかこのファインプレー!会心の一発!」
イアソン「調子乗んなバカ!まだ多分、終わってねぇぞ・・・!」
冒険者、キャプテンとして気を緩めるのは凱旋の時のみ。最高に油乗ってるイアソンは油断を行わなかった。ならばこそ──次の瞬間に明暗を分けた。
「伏せろぉっ!!!」
ヘスティア「ひゃぁ・・・!?」
ヘスティアを渾身の跳躍で庇い伏せ、一同もそれに倣う。──瞬間、巨大な鞭が辺り一帯を薙ぎ払った。直撃したならば。まっぷたつになるほどの超威力。
?【────】
ロマン『反応、更に増大中!まだ終わっていない、気を付けるんだ、皆!』
イアソン「あぁ・・・見りゃわかる・・・!」
エキドナ【───】
ゆっくりと歩いてくる、人型の美女。鞭と盾、神威を纏う邪悪なる獣の女神。
ヘスティア「・・・ヘラ、アテナ、アフロディーテ・・・!?」
オリオン「扼い組み合わせ過ぎない!?だから見た目があんなキレイなのね!」
魔獣女神、エキドナ。三女神のクリロノミアを使用した神体が、姿を顕す──
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