人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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夜勤明け+用事でヘロヘロなので更新次第バタンキューします・・・。
感想返信は明日の朝から取り組みます。少し間があいてしまいますが待っていてくださいませ。


フォウ(うぅ・・・何て臭いなんだ・・・)

ギル《中世のフランスや諸国は、排泄物は外に捨て放置していたと聞く。貴族の衣装も立ったまま用を足す為の意図もあったとか。不衛生だが、文化であるなら旅人の我等がとやかく言う筋合いではないな》

──ギル。ワタシはどうしてもマリーが自身の理不尽を復讐の理由にするとは思えません。これ程の事の復讐を、マリアが我が身可愛さで行うとは思えないのです。

《よい着眼点よ。ならば掴むのだ、エア。我等の知るマリア、憎悪の王妃の相違点をな》

──はい!力を貸して、フォウ。どんな劣悪な環境でも、目を逸らさず友達を見失わない力を!

フォウ(任せてよ!一緒に解き明かそう、王妃の闇墜ちの謎を!)

ギル(手遅れならば星毎一掃するも手だが・・・未だ盤面は詰んではおらぬか。しかし、この憎悪の根幹は一体なんであるのか。──まるで読めぬな。だが・・・それでこその冒険よ)

マリー【?さぁ、ここが断頭の広場よ。サンソンに挨拶を行いましょう?】

──どうか、見極めさせて。ワタシ達にとって、ネフェルに並ぶ王妃、ワタシの大切なあなたの真意を・・・!


紅き血と涙と怨嗟に隠れたもの

【お疲れさま、サンソン。見事な人殺しの腕前で惚れ惚れしてしまうわ。本当に素敵な処刑人。私の知る限り最も崇高な理念を持つ殺人鬼。私の大切な客人よ?頭を垂れて挨拶なさいな】

 

「・・・サンソンと申します。皆様には大変見苦しいものを御見せ致しました。これは・・・重要な儀式ですので。死という恐怖を安らかなものにする為の・・・」

 

マリー・オルタに小突かれ、頭を下げながら挨拶を行うはシャルル・アンリ・サンソン。アサシンであり、第一特異点ではマリーの首を狙いに敵対し、月見に出会いそれきりであった処刑人。彼の目に生気と光は見られず、黒く染まった王妃の言われるがままにゴージャス達に頭を垂れるその姿に、掛ける言葉は存在していない。その手に、無数の傷と血を吸った刃が握られ付着している物体が、一体何を成されたものなのかを示す。

 

「どうか、王妃の事をよろしくお願いいたします。僕や、王妃自身の事にて反論と言葉を持たぬ故に。僕らの王妃の道行きをどうか・・・」

 

【処刑人として、あなたの作ったギロチンと、それに手をかかった民草の末路には心から胸を踊らせたわ。彼にはフランスのすべてを断ち切る役割を担ってもらっているのよ。老いも、若いも、だれであろうと関係の無い。フランスという国の処刑人。最も気高き人殺し。人を苦しませず殺すギロチンの産みの親。それがシャルル=アンリ=サンソンという御方ですものね?そうでしょう、サンソン?】

 

マリーの言葉は露悪的で、悪辣に精神を抉るものですらあった。聞いていて心を抉るような物言いを心から楽しむマリーに、それらの言葉を粛々と受けているサンソンの姿は、どちらが主従かをこれ以上なく鮮明に現していた。

 

「貴様、見ぬ顔だがこの様な場所にて敏腕を振るっているとはな。その手で民達を仕留め続ける気分はどうだ?何か王妃に異議の一つも唱えぬのか?それが貴様の正義であり希望であるのか?」

 

「・・・罪には、罰が必要だ。僕は、皆はその罪に対する罰を受けている最中です。どうか、お気になさらず」

 

──罪?そして・・・罰?それはフランスの、マリーに行った仕打ちの事を指しているのでしょうか。苦しませず、死の安寧と希望を求め続けた彼もまた・・・

 

彼もまた、マリーの憎悪の対象。自身の首を落とした相手だ、容赦や手心は微塵も存在していない。あくまで見に徹している王の前にて、気紛れに満ちた注文をマリーは行う。

 

【よろしいかしら。何度も言うけれど、数が間に合わなくなったなら纏めて殺しなさい。あなたの為に絞首台を用意して差し上げたの。纏めて殺すには最適でしょう?何を拘っているの?】

 

「・・・死は安寧への旅立ちと考えています。王妃、どうかせめて苦しみを伴わぬ終わりを・・・」

 

【あなたに首を落とされた私に、苦しみと哀しみが伴わなかったと思う?そんな下らない理に拘りを見せるなんて、あなたとアマデウスは同類ね。なんと理解に及ばぬ愚かしさでしょう。私と客人に恥をかかせようなんて、偉くなったものね。殺人鬼風情がとても】

 

──ッ・・・。これがマリーの憎悪の発露。口から黒き刃を吐き出しているかのような鋭さを有しています・・・

 

口調は冷淡で淡々としているが、その口調には嫌悪と侮蔑が多分に含まれていることが見てとれる。今のマリー・アントワネットにとって、このフランスの全ては弄ぶオモチャであり敵なのだ。その言葉に、サンソンは静かに俯いた。身も心も飲み込まれている訳では──

 

【デオン。一度か二度教育しなおしなさいな。あなたの監督不届きでしょう。その愚鈍さでよくも密偵など出来たものね】

 

【──申し訳ありません、王妃。粛々と厳命を遂行致します。御客人にも、大変見苦しいものを・・・】

 

黒き百合の騎士、デオンが軽やかに現れ、サンソンを痛め付けんとレイピアを抜く。徹底的な再教育と言う名の拷問が、ゴージャスの目の前で起こらんとしたとき。城下町の各所にて怒号が巻き起こる。

 

【【【【【悪しき貴族達に報いを!悪しき王家に死と革命を!!】】】】】

 

──こ、この声は・・・!?町中から上がるこの声は!?

 

(この三人のギスギスからして、果てしなく嫌な予感しかしないけれどね!)

 

「・・・これは、貴様が用意した催しか?マリー」

 

【えぇ。無様で愚かな民衆のゼンマイが巻かれたと言う合図なの。口だけの革命家、金勘定しか取り柄の無い聖職家。何より──自分で考える事の無い、愚昧なる民達を使って遊ぶ時間ですのよ】

 

マリーの言葉通り、街から、通路から、あらゆる場所からフランスの民たる存在が雪崩れ込む。それらは一様に、マリー・アントワネット・・・このおぞましいフランスの象徴を討ち果たさんとやって来る。怒濤の革命として、王妃に迫り来る。

 

【元気だけはよろしいでしょう?世に不満を持ちながら一人では何もしようとしない者達も、大義と正義により褒美に向かう犬と化すのです。せっかくだもの。彼等を使う催しを御覧になって?】

 

サンソン、デオンが即座に迎撃、鎮圧に向かう。マリーが王宮より下りし時、巻き起こる革命の渦。マリー自身はそれらを楽しんでいる。再び自身を葬らんとする民達の変わらぬ愚昧さと愚かしさが楽しいものなのだ。非常に救いがたいとも考えており、何よりも自らが手を下し、なぶり甲斐があるフランスの民達を蹂躙する事は素晴らしい。首の無い黒き馬が現れ、殺到する民達を踏み潰し蹴散らし、首を切り裂きなぶり殺しにしていく。

 

《あまりにも徹底した憎悪よな。フランスに連なる者達を呪縛と革命の意志で捕らえ、正式な判断やまともな思考すらも与えてやらぬとは》

 

──ここにいるフランスの民の皆様は、革命と・・・それにマリーの行う蹂躙と殺戮の為に招かれ、或いは造られたもの・・・という事なのでしょう、か・・・

 

目の前に起きている事を現実として見つめ返すのが精一杯のマリーへの歩み寄りと信じて、エアは黒き王妃を見つめ続けた。非力なフランスの民達を滅ぼす勢いで断首する王妃、処刑人として、安らかに穏やかに殺すことを至上とするサンソン。変幻自在、凄惨なレイピア捌きで串刺しにしていくデオン。地獄と呼ぶ他無い躯が集いし王家の蹂躙劇を、王とフォウの傍らでエアは逃げずに見つめ続けた。

 

──これ程の憎悪。彼女は一体・・・何を以て復讐としているのでしょう・・・

 

マリー・アントワネットがフランスの全てを憎んでいることは痛感する。嬉々として民達を殺戮していることから明白であろう。しかし、エアはその憎悪を目の当たりにし些細な疑問を懐いた。『そこまで憎む理由とは、一体なんなのか』と。憎悪に理由は無くとも、切っ掛けは、今になりても懐く藁、或いは薪となり燻る火種が存在している筈だ。それをせめて知りたい。エアは目を逸らさずマリーを見つめる。目を逸らしたくなろうとも、友達の側面から逃げ出したりはしたくない。善悪を受け止める事の素晴らしさを、エアはマスターや王から学んだのだから。

 

【あら、私がフランスを憎む理由?そうね、ごめんなさい。解らないの】

 

「──解らぬ、だと?」

 

ギルが代わりに問い、帰ってきた答えは予想を越えるものである。彼女には、憎しみを燃やすルーツと火種が最早無いのだと言う。虐殺を首なし馬と手駒に任せ、血と死体の腐臭に満ちた川を見つめるマリー。フォウもまた見逃さなかった。橋の縁に乗せられるフランス王家の豊満な胸を。

 

【突然理由が増えた・・・増えすぎた、とでも言うのかしら。急に全てが憎く、フランスの全てを恨んだわ。私を裏切ったフランスを。私を見殺しにしたフランスを。私を・・・】

 

「私を、か。徹頭徹尾、今のお前はお前しか見えぬのだな」

 

【えぇ。・・・もしかしたら、あなた達にも私の気持ちを解ってもらえるかもしれない。こんな風にすれば、ね】

 

(わわわ!何をするのかぁ!?御戯れをぉ!)

 

ヒョイ、とフォウをマリーは掴み上げた。手は首に回っているエアはその危機的状況を前にすれど。親友の窮地に至宝の空間を選別すれど──敢えて、マリーを信じ動かなかった。

 

【・・・なんて、ね。あなた達はフランスではない、大切な御客だものね。乱暴な真似なんてそれこそ恥と言うものだわ】

 

(あ・・・王妃・・・)

 

マリーは王とエアの視線を受け入れ、フォウをそっと下ろす。その振る舞いには、決して無差別な狂人ではない理性の輝きが備わっている。憎み、恨むはフランスのみ。其処だけは、徹底していた。

 

【興が削がれてしまったわね。パーティーは一旦御開きと致しましょうか?是非またいらしてくださいな。私はもう少し、この革命を擂り潰してから戻りますわ。御気を付けてお帰りになって?】

 

「──次に来る時は、こうも穏やかな時間では無いであろうがな。・・・よい一時であったぞ、王妃。その憎しみ、ますます以て見定め甲斐がある」

 

民達の尽きぬ改革を弄ぶ事を優先したマリー。彼らのよく知る笑顔にて、背を見送る。辺りから響く凄惨な殺戮の毒気より、一刻も早く離脱する事を王は判断したのだ。

 

──マリー・・・あなたは・・・

 

《その違和感、早急に確かめに行くぞ。そして見る必要の無いものに、無理に刮目する必要は無いのだ。フォウ、ケアをしくじるなよ》

 

(解ってる!・・・でも、エア)

 

頷くエア。そう、かのマリーにはいくつか違和感がある。不明瞭な部分がある。其処にもしかしたら、切っ掛けがあるのかもしれない。そう考え、マリーに背を向けたその時──

 

【──。──】

──!

 

・・・──見えていたのだろう。感じていたのだろう。背を向け、浮遊していたエアに、黒き王妃は近付き──

 

【──】

 

エアにだけ伝わるような、囁きの言葉を投げ掛ける。

 

──それを聞いたエアは、一つの確信を得るのであった。それは、紛れもなく己の全てを、黒き王妃に懸ける理由──




──醜いでしょう?憎しみに囚われた者の在り方は。おぞましいでしょう?

あなたは、こうなってはいけないわ。どうか、大切な総てを護りなさいな。私のようにならないように

今日はありがとう。久しぶりに、楽しい一時を貰えたわ──

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