人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カルデア

ギル《という事があった訳だ。我はこの一見、旧き土地神が絡んでいると見ている》

騎士王『土地神、ですか?』

《然り。マリアめは召喚の形式程度で揺らぎはせん。アレはそういう王妃だ。双子座の兄もまた虐殺には走らんであろう。エキドナに憎悪にて心を植え付けた諸行──同じ属性の神でなくば叶わぬ芸当だ》

騎士王『──忘却されし、旧き神という事ですか?』

《推論に過ぎんがな。霊基を反転汚染する程の憎悪、最も説明がつく論理だ。我モドキの混沌に、神の時代の再来を願う【何か】がその種子を巻き、マリアめを汚したのだとすれば・・・》

『──次のシーズンとは、そういう意味でしたか』

《フッ、長丁場にもなろうものよ。──後はエアの確信のみだ。さて、どういった決断をするのか・・・心配はしておらぬがな》


闇を光で抱きしめて、百合は燦然と咲き続ける

「そう。エア・・・そんなことが。そんなことがあったのね。私の側面が、私のオルタがあなたを、フォウを怖がらせてしまったのね」

 

ユニヴァースのフランスを後にしたゴージャス・・・ギル、エア、フォウは単独顕現を使い、一旦カルデアへと帰還していた。誰にも告げぬ一時の帰還。正確には一部の者達だけに会うための帰還。王は今回のケースに類似した、胸に秘めたる者に話を聞きに行っている。そしてエアとフォウはと言うと──

 

「うん。──ワタシ達は見た。マリーが、憎しみを露にしてフランスに復讐する姿を。その苛烈な憎悪を垣間見たよ。マリーの、きっとマリーだけが胸の奥に秘めた深い部分の想いを見たよ」

 

(凄かったよ!胸の奥に秘めた想いも、胸そのものも!)

 

楽園における信頼する友にして、勝手知り見知ったる輝きの王妃。マリー・アントワネットと一時のティータイムを行っていた。エアは決心したのだ。あのマリー・アントワネットになんとしても──自身の最善を尽くすと。ならばその為に必要な事。それは一つしかない。

 

「どうかな、マリー。反転した別側面の自分は、この世に顕れる可能性があると思う?凄く踏み入った、無礼な質問かもしれない。でも、ワタシは知りたい。もっとマリーの事を知りたいの。あのマリーが、造られたものなのか、それとも。・・・」

 

(君の胸にある、憎悪のカタチなのか。・・・だよね、エア)

 

──ありがとう。ごめんね、フォウ。

 

真っ直ぐ問わねばならなくとも、気遣いと躊躇いにてマリーの心に踏みいる事を迷ったエアに代わり、質問を引き受けるフォウ。お礼をいい、向き直るエア。本人を知るためには、本人に問うことは避けては通れない。エアは初めて、他人の心の最奥の扉にノックを行ったのだ。かのフランスの王妃を相手に。心から信じる友人に。

 

「──あぁ、やっぱり。そうなのね。オルタの私は、やっぱり・・・そうなのね。そして、それを見てもエアもフォウも、私を知りたいと。友達と言ってくださるのね」

 

その質問を受けたマリーははにかんだ。照れ臭そうに、嬉しそうに。申し訳無さげに、誇らしげに。ゴージャスとそれに連なる至宝に、この上ない笑みを見せてくれた。

 

「まずはお礼を言わせてね。ありがとう、エア。ありがとう、フォウ。ありがとう、ゴージャス様。紛れもない私を見てくださって。私の一番醜い部分を見て、嫌いにならないでくださって。・・・怖かったでしょう?ごめんなさい、エア。フォウ、幻滅してしまった?」

 

(とんでもないよマリー!君は何よりも、素晴らしい王妃さ!)

 

「・・・うん。最初はとても怖くて、信じられなくて、あんなにフランスを愛したマリーと同じ人だと、信じられなくて。・・・でも、それ以上に。『凄い』と思った」

 

最も強い憎悪を剥き出しにしたマリー。だがエアはあの時囁いた言葉を以て、ますますマリーへの尊敬の念を強めた。そして、彼女をなんとしても助けたいと決意した。それほどまでに、マリーは素晴らしく、気高かった。

 

「憎しみを懐いても、全てを憎んでいても。マリーはフランスを見つめ続けていて、ギルやフォウを誠心誠意もてなしてくれて、撫でてくれて。ワタシにまで慈愛を託してくれたの。『憎しみは醜い。私のようにはならないで。どうか全てを護って』って言ってくれた。・・・マリー・アントワネットという王妃は、何処まで素晴らしい方なんだろう、って」

 

どんなに憎しみに囚われていても、どんなに誰かが憎くても。彼女は何処までも誇り高かった。フランスのみを愛し、憎み、自らの隣人を害さず、己の後輩に自らに残った最後の慈愛を示す程にその在り方を失わない。狂気などとは無縁。たった一人で愛し、憎み、フランスを想う。表と裏というだけで、本質は決して変わらない。その誇り高さが、エアを何より敬服させた。そして──確信したのだ。

 

「あれはじゃんぬさんのような誰かの願いから産まれたマリーじゃなくて。──・・・マリア。あなたの本当の想い、だよね?」

 

エアの言葉と疑問に、マリーは頷く。そう、彼女は作り物でも、幻想でもない。

 

「──えぇ。そうよ、愛しいゴージャス様の宝物、エア。あなたが見た私は、紛れもなくマリー・アントワネット。あなたが私と受け入れてくれた様に、私自身が受け入れるべき闇なのよ」

 

マリー・アントワネットがほんの少し、或いは人並み以下に心に懐くもの。それは光が産み出す影。あの激動のフランスに生きた自分が感じた、紛れもない──ちょっぴりの憎しみ。

 

「フランスで、じゃんぬが産まれたでしょう?その時ジャンヌは、本心から覚えがないと言ったわ。その時、私だったらどうなのだろうとも考えて。・・・その時に私が思う事は、『あぁ、やっぱり』だと感じたの。ふふっ、意外かしら?」

 

「ううん。マリーは愛がとっても深いから。──それは、フランスに自身が裏切られた事?」

 

フランスが、最終的に自分をギロチンに送った事。裏切った事を。・・・エアはあえて、それを憎んだのかと問うたが、それは違うとマリーは首を振る。

 

「いいえ、違うのよエア。私はいい、私はいいのよ。私はフランスに恋し、精一杯生きた。その果ての全てに、微塵も後悔はない。本当よ?・・・でも、でもね。・・・これは、私の二度目の生で手にした、親友の貴女達に伝えるものだけれど」

 

「──ありがとう、マリア」

 

「・・・私は、ちょっぴり。でも確かに・・・夫を、子を、革命の名の下に惨たらしい運命を強いたフランスを、民達を。憎んでいて・・・恨んでいるの。その気持ちは、嘘偽りない本当の気持ち。だから、私の側面は有り得るの。あなたが見た恐ろしい王妃は間違いなく私なのよ、エア」

 

夫を、何より最愛の子を監禁し、虐待し、尊厳を破壊し、犯し、病に患わせ、全てを奪った者達。誰もそれを止めなかった民達。何もできなかった者たち。しなかった者たち。フランスに生きた、あの時代に生きた全てのモノたち。それらを彼女は──確かに、憎んでいる。だからこそ、オルタの存在を受け入れる。認められる。愛も、憎しみも、確かに自分の中にある。

 

「私は、きっと許せないわ。夫を、ルイ16世を惨い目に遭わせた時代そのものを、きっと。・・・忘れないわ。だから・・・オルタは、私なの。幻滅、させてしまったかしら?」

 

もちろんエアは否定する。ますますもって、素晴らしき王妃への敬愛を深めたと。

 

「とんでもない。──ワタシは貴女を、誇りに思います。自身の闇を、自らを裏切ったフランスを、その大きな愛と光で抱きしめて愛を謳うマリアの生き方、人類史に燦然と輝くあなたの全てを」

 

「闇を抱いて・・・。マスターが好きなウルトラマンが仰っていたわ。黒くて、うぉお!うぉおー!と叫ぶ、乱暴な御姿の言葉ね?」

 

そうだ。王妃は本当に強い。自らの闇を受け入れ、受け止め、憎しみより遥かに強い愛を光にして心の闇を抱きしめている。そんな素晴らしく気高い生き方が、果たして人間の何人が、自身の全てを奪った者たちの幸せを祈れるであろう。マリーの笑顔は、その領域にいる。彼女にしか出来ない生き方が、そこにある。

 

だからこそ。そんな彼女を知っているからこそ。エアは自分を信じる。彼女が、マリー・アントワネットだと言うのなら。

 

「・・・その黒いマリーは、復讐の理由を『解らない』と言った。マリーが愛と反対の憎しみを見失う筈がない。だって、愛と憎しみは共に回る織物とギルは仰っていたから。──だから、『マリーの憎しみを無理矢理引き出して、マリーを反転させた力がある』。ワタシ達が立ち向かうのは、きっとその憎しみそのもの。だから、ワタシはもう一度マリーに会いに行く。会いにいって──貴女の闇を、一緒に抱きしめてみせる。あのマリーにも、あなたのように。心から笑ってもらえるように。彼女を捕らえる憎しみをやっつけてみせるから!」

 

エアは今度こそ、覚悟を決める。誰かが手掛けた存在しないマリーなら恐ろしかった。それは誰かの尊厳を破壊せんとする何者かがいたからだ。

 

だけど、マリー自身が認めた憎悪ならば怖くない。ならそれを、自身も一緒に抱きしめるのみ。それが友人として、尊敬する王妃に自分が行う最善だと信じられるからだ。フォウに見守られ、マスターに、ギルに研鑽されたエアは最早迷わない。

 

「伝えてみせる。あなたの祈りと願いであなたの闇を抱きしめるから。伝えに行くね──フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)を!」

 

友達を、何よりも大切にする。それが、リッカとギルを繋げた縁の一つ。エアが何よりも信じる『尊重』のカタチの一つなのだから。

 

「──あぁ。本当に・・・ゴージャス様があなたを至宝と呼ぶ気持ちを理解できるわ。あなたは、こんなにも──」

 

自分の醜い心にも寄り添ってくれる。ワタシにもどうか背負わせてほしいと手を差し伸べ、受け入れてくれる。どんな闇にも染まらない、白金の輝き。

 

あなたはこんなにも輝いている。マリーもまた、かの旅路にて磨かれたエアの輝きを尊敬しているのだ──




エア「ありがとう、マリア!じゃあ──行ってきます!」

マリー「あ、エア!こちらを持っていって!」

『マリー・アントワネットクラスカード』

「これは──」

マリー「貴女に託すわ。私の想いを。宇宙にどうか伝えてくださいな。闇の私に響かせてくださいな。あなたの輝きに乗せて」

エア「──うん!せーの!」

「「フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)!」」

エア「──行ってきます!マリア!」

マリー「えぇ、行ってらっしゃい!エア!」

──行こう、フォウ!力を貸し・・・

フォウ(虹色百合の花畑)(と う と い)

──フォウ!?久々──!?


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