人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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痛いよ、苦しいよ、母上。

・・・・・・

どうして僕はこんな目に会うの?王家だから?あなたの息子だから?

・・・ごめんなさい。

僕は悪いことをしたの?生まれてこなければ良かったの?

ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。

謝ってばかりじゃ解らないよ、母上。どうすれば良かったの?僕は何のために生まれてきたの?

・・・そうね。間違いだったわ。全部、全部間違いだった。

私が王妃であった事も。フランスを愛した事も。フランスをなんとか良くしようとした事も。私があなたを産んだ事も。全部全部、間違いだったのよ。

じゃあ、どうするの?母上はどうするの?

えぇ、そうね。無かった事にはもう出来ないから・・・

味わわせるわ。あなたが受けた苦しみを、私が受けた哀しみを。家族が受けた嘆きを。フランスの全てに味わわせるわ。そうすれば・・・

母上・・・痛いよ・・・母上・・・

あなたは、泣き止んでくれるかしら──


王宮・謁見の間

マリア【・・・デオンも役立たずね。期待なんてしていないけれど】

ラマッス仮面「マリー・・・」

マリア【また会えて嬉しいわ。けれど、ちょっぴり恥ずかしい。憎しみに満ちた姿は醜いと言ったばかりなのにね】

『見えてたのか!エアが!流石マリー!』
《いくら雑念にまみれようが、マリアはマリアと言うことだ。流石は我が見込んだ王妃よ》

「・・・仮面のまま、失礼します」

【いいのよ。・・・あなたたちになら倒されてもいいけれど、まだ終わってはいけないの。この宇宙を、フランスを、全てギロチンに送るまで。私は止まってはいけないの。だから──】

《来るぞ、エア!》

「ッ!」

【──御手柔らかに、お願いするわね?】








尊重の姫、憎悪の王妃

【───】

 

マリー・・・憎悪に満ちたマリー・アントワネットが戦闘体勢を取る。エアがフォウ、ギルと共に身構えると同時に──其処から飛び退く。それと同時にマリーが手を振るい、【その場にギロチンが落ちた】。

 

『何もないところからギロチンが!?』

《油断するな、エア!この星はヤツの心象、法則はヤツの下にあると心得よ!》

 

「はいっ!──ッ!」

 

側転、バック転、飛び退き、前転。一歩たりとも留まる事を許さぬギロチンの乱舞から逃れ続けるエア。黒き魔力で練られたギロチンは壁を、床をえぐり飛ばし続け三人を追い詰める。

 

【・・・・・・】

 

マリアは無言のまま指を鳴らし、攻撃パターンを変える。首の無い兵士達が四方八方から現れ、エアを取り囲み刃を突き付け、突撃を行ってくる。漆黒の憎悪にまみれた刃、一撃でも喰らえばただでは済まないだろう。完璧な回避が要求されるが──

 

《ハッ、小賢しいわ!マリアめには存分に手心を加えるが、貴様ら雑念に遠慮などせん!疾く失せるがいい!!》

 

エアの手にギルが赦せし王律鍵が握られ、彼女が手を捻ると同時にバビロンの宝物庫の扉が開かれる。無駄遣いの無い、心臓のみを狙った一撃が射出され兵士達を一瞬で無力化する。

 

【───】

 

マリーはそれを目の当たりにし、黒きヴァイオリンを召喚し奏で始める。そのメロディーは金切り音の様な、人の断末魔や絶叫、慟哭のごとき音色を奏で逃げ場の無い全方位攻撃を叩きつけてくる。

 

「くっ、ぅ・・・!~~~っ・・・・・・!」

『大丈夫!ボクが付いてるよ!』

 

絶望の音色に動きが止まるエアを、フォウとプレシャスパワーが包む。慟哭と戦慄を、尊重と慈悲が癒し相殺する。僅かな一瞬で対応し、エアは自由を取り戻す。傍らにいる王と友の手厚い援護に万感の感謝を覚えながら──マリーの刃を鎖で受け止めた。

 

【・・・・・・】

「ッ・・・!」

 

血染めのレイピアを構え突撃してきたマリーを、天の鎖が寸でのところで刃に巻き付き絡め取っていた。鎖から引き抜き繰り出す無数の斬撃と連続攻撃を、天の鎖は阻み続ける。エアの肉体に宿る最高クラスの神性(ギルと異なり、神を疎む事によるランクダウンが無いA+)に握られ、神性に比例する天の鎖は最高強度でエアを守護する。マリーのレイピアの攻撃は、全てが阻まれ無力化された。マリーはその様子を目の当たりにし、笑みを浮かべる。

 

【ふふっ、素敵だわ。あなたは戦いは苦手だけれど・・・沢山の方に護られ、支えられながら頑張っているのね?】

「そうなの。本来なら、ワタシは後方で宝物や戦況をアレコレする役割がメインだから・・・!」

 

【そんなあなたが、私の為に頑張ってくださるのね。なんという事かしら。私はそんなに素敵なの?あなたが好いてくださる程に?】

 

「ワタシだけじゃ、断じて無いよ・・・。フォウも、ギルも、ワタシも、皆も。あなたの事が大好きなの。マリー・・・!」

 

憎しみだけではない。憎しみを肥大化させられていても、決して狂ったりはしない。誰かをもてなし、労り、そして憎しみに呑まれないよう祈りすらしてくれた。彼女の高潔さや美しさは、決して翳らず喪われていない。そんな貴女が、皆は大好きなのだとエアは伝える。

 

【──。それは違うわ。ワタシを好いてくれるのは、此処にいるあなたたちだけ。私とこうして一緒にいてくださるあなたたちだけ。この私を好いてくださっているのは、あなたたちだけなのよ】

 

「そんな事、ッ──!」

 

マリーの陰鬱な声音と共に、頭に響く声がある。それはフランスの民達の怒号と、革命を煽動する者達の絶叫。王宮を糾弾し、王家を批判する無数のノイズ。

 

「こ、れは──ッ・・・」

 

《あのマリアめを蝕む塵芥どもの雑音か!エリザベートの頭痛の種と同じようなモノだ、王妃としての完成度の高さゆえ、アレが愛した者らの不平不満をも余さず受け止めている状態・・・成る程、心の安らぐ暇など在りはすまいな!》

 

マリーが受け止めている憎悪、マリーが受け止めている怨嗟。それは彼女の全てを縛り、捕らえている。近くにいるエアが影響を受ける程だ、彼女には常に、耳鳴りや断末魔といった雑音として響き渡っているのだろう。正気を保っていられる事が奇跡に等しい。よろめくエアに、哀しげに眉を潜める。

 

【聴こえまして?これが私を責める民の声。私が愛した国の答え。私という愚かな女の、恋の末路。私を苛み続ける現実というギロチン】

 

「これが、マリーの・・・感じているもの・・・マリーの、憎悪・・・!」

 

【私にとって、フランスというものはこうなのよ、仮面の獅子さん。私はもう、フランスという国に憎まれきっているし・・・私はフランスという国を憎みきっている。お互いがお互いを決して赦しはしないわ。永遠にこの責め苦は続くでしょう。それが、私と言う王妃の末路にして最期なのだもの。私は愛されてなどいないのよ。でも・・・あなたたちは違うわ】

 

そう、目の前にいるエア達は違うという。こんな自分との一時を愛してくれたとマリーは告げる。御茶会を受け入れ、自分を受け入れてくれたと感じたのだとマリーは告白する。

 

【フランスという国はどうしようもないし、私は決して赦さないけれど。あなたたちはフランスではない素敵な方達よ。私に、もう一度会いに来てくれた。それがどれだけ嬉しいことか解ってくださって?】

 

「───」

 

【醜い私に、憎悪に狂う私にもう一度。こんなに嬉しいことは無いわ。二度とあり得ない奇跡。どうか私の手を取って、素敵なあなたたち。私と友達になりましょう?そしてフランスという国を、どこまでもどこまでも弄びましょう?あなたたちになら、フランスの全てを差し上げましょう。一緒に素敵な紅茶を飲みながら、民を、国を、男を、女を、子供を、大人を。どう殺すか、どう滅ぼすか話しましょう?素敵な時間になると思わない?私達、きっとかけがえのない友達になれる筈。そうでしょう?】

 

マリーは手を差し伸べる。どうか手を取ってほしいと。友達になりたいと告げる。共に尽きぬ憎悪に身を焦がそう。ギロチンに血を飲ませよう。その魂を縛る憎悪をグラスに注ごう。この国を共に破滅させよう。エアに語る、憎悪の共感。

 

「・・・ありがとうございます。本当に、光栄です。そして、心からの敬服を。マリー・アントワネット。そんなにも何かを、誰かを憎む事の出来る・・・貴女の、尽きぬ愛に」

 

【・・・愛?愛、と言ったの?】

 

誰が、何を?疑問げに首を傾げるマリーに、エアが真っ直ぐに応える。

 

「はい。恋をし、貴女は愛として民を、国を照らし輝かせた。唯一無二の王妃として。フランスの象徴、マリー・アントワネットとして。ワタシも、フォウも、ギルも・・・あなたに心から敬意を抱いています。貴女の生き方は、何よりも、誰よりも眩しい。だから──だからこそ・・・!」

 

だからこそ、その手を取るわけにはいかない。憎悪と怨嗟が世界で一番似合わない王妃が、無理矢理引き出されているその痛ましい姿に寄り添う訳にはいかない。自分達は、笑いながら涙し、嘆きながら殺意を振り撒く王妃を助けに来たのだ。

 

「ワタシ達はやっつけます!マリー、貴女ではなく・・・貴女を捕らえて離さない憎悪の全てを!燃え盛るようなその黒い怨嗟を鎮めて、その先にいるキラキラ輝く王妃様と、一緒に御茶を飲みたい!あなたがその憎悪を、自分ではどうしようもないというのなら・・・!」

 

耳に届く憎悪を振り切り、精一杯伝える。戦いではない、彼女の貫く信念。

 

「ワタシと一緒に抱きしめよう!本当なら、あなたがいつも抱きしめていたほんのちょっぴりの憎しみを!その為にワタシは此処にいる、あなたに寄り添いたいと願って、此処にいるのですから!」

 

憎悪に燃えるマリアを恐れず、エアは尊重を掲げる。それが、憐憫の獣すら昇華した姫の真理なのだから──




マリア【・・・・・・でも、どうすればいいのかしら。私はもう、これ以上フランスではないあなたたちを憎めないし、害せないもの。何も変わらないわ・・・】

そう、憎しみが当たり前になってしまったマリーでは、どう変わればいいのか、どう受け止めてもらえばいいのか分からない。でも、それでもいいとエアは言う。

ラマッス仮面「大丈夫。その為の力は借りてきたから!言ったでしょ?今からワタシはあなたの全てを──」

そして取り出したるは、エアの最愛の王妃から受け取ったクラスカード。

「力を貸して──マリー!」

それをインストールし、彼女は今、決意と共に鎧からドレスを惑い、獅子の仮面を王冠へと変貌させる。白百合がごとき美しきドレスを身に纏う──

フォウ『マリー・エア!ベストマッチさ!』
ギル《似合っているぞ、当然だがな!だが気を抜くな、此処からが正念場よ!》

マリー【・・・・・・ふ、ふふっ。あははっ。あはははははっ!ふふっ、うふふっ・・・くすくす、あはははははっ!】

堰を切ったように、マリーが笑い出す。その笑い声は、とても愉快げで、楽しげで。

《ふははははははははははは!!》
『何つられて笑ってるんだ!』

【あぁ、ありがとう。本当に素敵よ。あなたは私のかけがえのない友達に相応しいわ。だって私の願いを叶えてくださるんだもの。そう、私はずっとずっと殺したかった。八つ裂きにしたかったのよ。・・・フランスなんていう、くだらない国に恋をした・・・】

マリーの憎悪が、何十倍に膨れ上がる。辺りに、首の無い馬が、ギロチンが、兵士達が現れる。金色の瞳がエアを──否。

【──私自身という、王妃そのものを!フランスに産まれた私と言う存在を!!八つ裂きにしたくてしたくてたまらなかったの──!!!】

マリー・エア『──おいでください!ワタシが、皆が、あなたの闇を抱きしめてみせる──!』

憎悪の王妃と、尊重の姫が向かい合い──スペースフランスの命運を懸けた決戦が始まる──!

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