人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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~数週間前

キリシュタリア「共に楽園へと来ることが出来たね、イニス!これから力を合わせて、今度こそ世界を救おう!」

イニス「はい、キリシュタリア。あなたのサーヴァントとして、全力を尽くします。・・・・・・」

キリシュタリア「?どうしたんだい?」

イニス「す、すみません。常に・・・厚着なんですねと感じて・・・」

「・・・。・・・そうだね。別に隠すものでもない。君に疑惑の種を撒くのはまずい。秘密は共有しよう。今から私は上半身を脱ぐよ」

「えっ!?」

「そして断っておきたいが、別に露出狂とかの属性は無いからね!脱ぎたいから脱いではいるが!」

「あ、あの、自慢げに語る処ではない気が・・・!?一体、何を・・・、──」

上半身を脱いで、イニスの目に飛び込んできたもの。それは、餓死する直前老人のような身体、手足。それは、穿たれた傷がいかに恐ろしいかと語るもの。

「・・・見ての通り、無茶は出来ない。君や楽園の皆に頼ることになる。・・・すまない。不甲斐ない姿だろう?」

・・・イニスも、自らを喪っているのと同じように。キリシュタリアもまた、かつて自身を失っているのだという事実を。キリシュタリアは伝えたのだった──




皆が貴方を信じ、見つめている

「聞いてほしい、イニス。今日の私はとてもテンションが高く、嬉しく、誇らしい!とっておきの茶葉を使って紅茶を入れちゃうくらいに!今日の出来映え、大いに期待していてくれると嬉しいな!」

 

「まぁ・・・。はい、キリシュタリア。私で良ければ、あなたの話し相手になりますよ。あなたと見る海は、好きですから」

 

テラフォーミングにより、極めて精巧な海の光景・・・正確には島一帯を再現したレジャールーム。其処に用意されたキリシュタリア専用の別荘。山頂から海を見渡せる場所に建てられたそれは、ギルが改築に至る前の急拵え、王的にあばら屋なそれである。だがキリシュタリアとイニスはこの場を気に入り、海を見下ろす地に建てられた別荘をティータイムルームとしていた。

 

「ありがとう、イニス!それでは早速情報交換と行こう。互いが楽園で重ねた時間の報告をね!」

 

キリシュタリアは楽園にいる際、ポッドの中で治療している時間がやや長い。豪奢な見た目で誤魔化していた肉体の磨耗と老朽化を、ナイチンゲールに徹底的に看破された為だ。本来なら絶対安静、素直に指示に従うか脚を折られポッドに放られるかのどちらかを無下にはできず、キリシュタリアはポッドリハビリに励んでいる。

 

「そうですね。私はヒッポリュテさんにお頼みして、カルデアの警備員に立候補しました。少しでも出来ることが無いかと──」

 

そんな時に、自分が見たいものを見て、感じて報告してくれるパートナー。それがイニスである。キリシュタリアが治療を受けている間、彼女はカルデアの皆と積極的に交流し作っている。得難い思い出、キリシュタリアに告げる記憶をだ。

 

「警備か!君に相応しい、勇猛さと繊細さが求められる偉大な仕事だね。私も心から応援するよ!」

 

「ありがとう、キリシュタリア。そして記憶や、自分を見つけるための治療方などを色々・・・」

 

イニス・・・カイネウスと名乗っていた本来の自分を探し求め、療法や話を聞き込みも行っていたと彼女は告げる。これはキリシュタリアの願いであり、失われた彼女の記憶、損傷した霊基の修復のきっかけを取り戻してほしいが故の指令。イニスとしての彼女は非常に好ましい。だが絆を紡ぐ際、本当の彼女から目を背けるのはフェアではないと判断した為である。彼女にはゆっくりでいい、彼女自身を見つけてほしいのだ。真に絆を築くために。・・・その過程で起きた事が、こうした日々の紅茶の菓子代わりになるのである。

 

「楽園、並びに生前の仲間たちもいるなら大丈夫さ。焦らずゆっくり、君を取り戻していこう」

 

「ありがとう。この思い遣りのお礼は、サーヴァントの働きとして必ず返してみせます。・・・報告は以上です。そちらは何か、楽しい事があったようですね」

 

満面の表情でキリシュタリアは告げた。自身が生まれ変われること。全霊を以て楽園の皆と肩を並べられる事。今度こそ、皆で世界を救える事。修復手術以外の事は、キリシュタリアが必ず話す枕詞のようなものだが。それ故に微笑ましくイニスは聞き及んでいた。故に、ナノマシンで自身を治す、というキリシュタリアの言う事象は大層度肝を抜かされた。なんと素晴らしい。そう祝福と共に返そうとした際、キリシュタリアは毅然と告げた。

 

「その治療は、ゼウス神のナノマシンを投与し魔術回路を身体機能ごと復活させるというものだ。臓器を全て、別のものに移植させる・・・そう言って良いものかもしれない。まぁ私の手術の状態は構わない。覚悟は決めてある。・・・一つ、懸念があるのが君だ。私の大事なサーヴァント、イニス」

 

「私・・・?」

 

「カイネウスは原典で、ポセイドンに非道な事をされた。もちろんポセイドンは存在していないが・・・ゼウス神は、ポセイドンの兄だ。記憶を、霊基を破損している君の精神に、非常に重い負荷をかけてしまうかもしれない。いくら私が強くなろうとも、新生しようとも。君を苦しめる強さでは意味がない」

 

マスターとサーヴァントは絆を紡ぎ、勝利を掴むもの。確かな理論と最適解としてリッカが示した楽園のマスターの流儀に、自身が賛同しない筈がなかった。だからこそ、心を抉るマスターが後ろに控えていては戦えないというならば、この治療を先伸ばしにする決意すらあったのだ。

 

「リッカ君はサーヴァントを大切に、対等の隣人・・・家族、友達、運命、パートナーとして接してきた。グランドマスターの彼女の流儀に、私だけ強くなるという考えは容認してはならないものだ。だから、手術を受ける前に聞いておきたかったんだ。私のサーヴァント、イニス」

 

イニスに告げるのは問いだ。ゼウスの力を宿すマスターを、マスターとして認めてくれるのか。イニスはゼウスの存在を自身を通してなんと思うのか。楽園の流儀にて腰を据えた問いを投げたのだ。

 

「どうだろう。新しい私を受け入れる覚悟や決意・・・ゼウスと共に戦うマスターを、君は受け入れられるかな?」

 

キリシュタリアは決定権をイニスへと委ねていた。彼女が否と言うのならば、自身はゼウスのナノマシンを体内に摂取せずナノマシンを活かした魔術の燃料へと舵を切る。彼の覚悟は変わりはしないが、どんな些細な事でも、イニスの繊細極まる霊基を壊してはならないと決めているが故の問いだった。イニスはその言葉の意味を理解し、そして──頷く。

 

「カイネウスが、こんな時どんな反応を取るのかは解りません。マスターはスッ込んでろ、と言うのか、神と肩を並べる事を不敬と怒るのか。それともかつて、槍を神に見立てたように神に反旗を翻した事を笑い飛ばすのか。今の私では・・・解らない」

 

そう言った上で。カイネウス・・・カイニスが取るであろう選択肢は、自分の選択ではないとイニスは笑う。そして、頭を下げるキリシュタリアに諭す。

 

「だから私は、私自身の判断に従います。イニスとして、本当の自分を見つけるその日まで生きる、キリシュタリアのサーヴァントとして。・・・手術、どうぞお受けになってください。私も微力ながら、あなたを共に応援なさいますから」

 

カイネウスは神々を好ましく思わないとしても、イニスは今の自分には関係無いと首を振る。大切なのは、自身の過去の傷を慰めてもらう事ではない。

 

「サーヴァントとマスターは一蓮托生。こんな壊れかけのサーヴァントを大切にしてくださるあなたの姿を、受け入れない筈がありません。これは確かな、私の意志です」

 

マスターと共に戦い、人類史を護り、仲間たちと勝利の美酒に酔うこと。それは、決めていた事なのだ。

 

「好色なゼウス神の力を、リッカちゃんやアイリさん達に託す訳には参りません。ゼウスの力はきっと、あなたが担うべきもの。あなたなら、出来る筈です。星の冠位を臨む、あなたなら」

 

だからイニスはキリシュタリアの背中を押す。自分のマスターなら、自分のパートナーがいてくれるなら。悲しい記憶やかつての傷も受け入れられる気がしているから。浜で打ち捨てられていた、壊れていた自分を助け、パートナーに選んでくれた、誇り高く優しきマスターを知っているから。

 

「キリシュタリア。我等が天空神を・・・よろしくお願いいたします」

 

「──ありがとう、イニス。これはあくまで、私の見解なんだけれどね」

 

「?」

 

「君は、マシュやじゃんぬちゃんにも負けないくらいのサーヴァントだよ。私のパートナーが、君で本当に光栄だ」

 

ありがとう。全幅の信頼を寄せてくれた麗しき褐色の神霊に、キリシュタリアは万感の想いを込めて礼を行った──




深夜

アスクレピオス「長丁場になる。昼まではかかると思え。覚悟はできたな」

キリシュタリア「勿論です。パーティーと、噂の召喚には間に合わせ、受け止めてみせます。ゼウスの力・・・新しい自分を」

アスクレピオス「いいだろう。待合室で待っていろ。準備が出来たら呼ぶ。覚悟を決めておけ」

キリシュタリア「──はい」

待合室

キリシュタリア「皆・・・私に幸運と勇気をくれ・・・」

『イニス』

「?着信」

イニス『キリシュタリア。負けないで。あなたは大切な、財なのだから』

『添付画像』

キリシュタリア「──!」

そこにあったものを見て、キリシュタリアは涙を堪えながら歯を噛みしめる。そこにある画像は、人の優しさに満ちていた。

「皆・・・」

イニスが微笑みと共に掲げるのは、色紙。そこには様々なカラーで、文が書いてある。イニスがヒッポリュテと共に、書き上げてもらったものだ。

『皆があなたを信じています。どうか、信じて。あなただって──』

そこには──キリシュタリアの完治を祈る、全職員の寄せ書きがあった

『Aチームの皆だって。グランドマスターなのですから』

リッカ『私達で未来を取り戻そう!私達は皆で、グランドマスターだから!』

「・・・あぁ。あぁ・・・!」

最早、キリシュタリアに迷いはない。生き延びる理由が、こんなに溢れているから。

アスクレピオス「時間だ。入れ」

キリシュタリア「はい!」

尊重を胸に、祈りを胸に。キリシュタリアは自身の新生に臨む──
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