人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
(何かの欠片・・・普通に考えて、御機嫌王の試練の一環、とでも思うのだけれど)
三途の川
ギル「船頭、もっと速度は出ぬのか?えぇい、貸してみよ!」
死神「あぁっ、無茶しないどくれよぉ。転覆したら責任問題になっちゃうだろぉ~?」
──わぁ・・・静かですねぇ・・・
フォウ(船から落ちたら地獄行き?こわっ!)
~
紫「・・・温羅?何か知っているかしら?幻想郷の、不思議な欠片について」
温羅「うんにゃ?とんと解らんね。じゃ、行ってくるわ!」
「あぁ、そう言えば。幻想郷に来たら『あそこ』に行く決まりだったわね」
「そゆこと。さ、開けてくれ!」
「えぇ。──あの御方に、よろしくお願いいたしますわね」
「おう!」
(・・・見たところ、問題児にばかり欠片が行っている・・・大丈夫かしら・・・?)
「さって、と。幻想郷に来たんなら、挨拶しなきゃ日本があぶねぇからな。酒と土産話でもって、顔を出してやらなきゃだ」
人類史より浮きし都、秘境なる幻想郷。人も妖怪も、神すらも暢気に過ごす幻想の受け皿にて、彼女──歴史総てと引き換えに産まれた鬼神、温羅は気安い旧友と会うような足取りで、彼女のみが知る秘境にして神気満ちる場所へと赴く。
そこは威厳と、呪詛と、資格無きものあらば即座に狂い果てる霊験満ちる『社』。誰も近寄れず、誰も近寄ろうとしない、いつぞや神話の名にて語られるのみの者がありし鬼神の秘密なる場所。そこに行くには友たる妖怪の力を借りねばならず、そしてそこに在るものは、ただ待っている。社をくぐり、在りしは物音一つせぬ神の社。此処ではない、人の世には有り得ぬ神秘満ちる場所。──桃源郷に並ぶ、彼女のお気に入りな場所。
「お邪魔します、と。おーい!いるかー!」
二礼、二拍、一礼。何も恐れず、魑魅魍魎百鬼夜行すらも塵芥と蹴散らす鬼の神が行うは挨拶。礼節しきたりを護り、逢うべき者が此処にある。
「いいお酒持ってきたぜ!一緒に飲もうじゃないかよ!土産話もつまみにさ!これが酒が倍々旨くなる特製なんだ!ほら出てこいよー!」
──瞬間、空間を歪ませる形が在る。形を為す、神威そのものが此処に顕現する。鬼神の無類にして無双の肉体無くば、即座に魂魄砕かれ霧散する程の重圧、威光、そして威圧。
『おそい』
言霊が大気を揺らし、空間を軋ませる。矮小な人間が見れば世の終わりと嘆き、妖怪が見ればたちまち狂う災厄と呪詛の具現。それを、春風のように受け止め大笑する鬼神、温羅。──彼女に見せる、楽園で造り上げた酒の銘柄。
「悪い悪い。激動の数ヶ月だった訳だ!桃子は元に戻り、アタシにゃ家族がたくさん増えた!お前様にくれてやる銘柄もどんどん増えた訳だ!さぁ、飲み比べと行こうじゃねぇのよ!」
『そうだ。待ちわびた』
「へへっ、お手柔らかにな!──イブキ!」
イブキ、と呼ばれし、白髪、紫肌の神衣を纏いし女神。親しげに名を呼ばれようとも嫌な顔一つせず、温羅の手の酒を見つめ──
『うん。ゆかい』
──心から、楽しげに笑い舌なめずる。それはまさに、酒樽を前にした大蛇の如くに。
──大明神酒盛中・・・
『うん。うまい。神酒の醸成、うまいな』
「そりゃどっちのうまいだ?日本語ってのは珍妙なことに、前後の文体で単語の意味が変わるだろ?紛らわしいからなぁ」
『うまいは、うまいだ』
「フッ、まぁどっちでもいいな!ありがとさんよ。あれやってくれよあれ!」
『いいぞ』
「来たー!イブキ奥義、一升瓶らっぱ呑み!タケルも仕留めた神威の具現は伊達じゃあないねぇ!よっ、日本一の大明神!」
『ふふん。ゆかいだ』
神威の社にて、行う偉業は只の酒盛り。其処は尊く厳かなる山の頂。幻想郷の結界を、上から見下ろす程に雄大な山の天。そこにて下界を見下ろし、鬼神と──大明神と呼ばれし女神は盃を酌み交わす。
『幻想郷に、招いたか。あそこはどうだ?』
並の鬼なら1ヶ月酔い潰れるであろう鬼神の酒を、こともなげに飲み干すイブキなる社の主。あぐらをかく温羅の隣で、十一本目の一升瓶を飲み干し始める。
「そうさなぁ・・・変わらんな。少しの異変にわちゃわちゃして、元凶と巫女が酒呑んで、またのんびりの繰り返し。穏やかなもんさ。楽園が、旅行先に選ぶくらいにはな」
蟒蛇もかくやの飲みっぷりのイブキなる神とは対照的に、瓢箪と御猪口一つ分の酒を嗜むは温羅。彼女が持ってきた酒は、九割イブキへの捧げ物なのだ。自身の酒は、桃源郷の秘宝より湧き出るもののみ。
『ゆかいなものたちだな。知っているぞ』
「さすが、耳が早いぜ。なんでもまるっとお見通し、ってか?」
温羅は気安く、酒場の同級生のように振る舞う。目の前に在るものが、なんでもないものであるかのように。
──彼女は、神霊である。山の頂に居を構え、最早数えるのも億劫な年月を過ごしてきた、神代の御霊。幻想郷の存在がある故に在る、とある大明神。
『神とて、退屈の毒は厭う。ゆかいなものを見ていたい』
「違いない。なら、とびきりだぜ?これから暫く、幻想郷から目を離すなよ?愉快な事、めじろ押しだぜ?」
彼女は、蛇の神であり、温羅とは酒呑みの間柄。世を巡り、駆けて手にした目にした鬼神の話を聞き及び、酒を酌み交わす程度の仲。彼女を畏れず、狂わぬままに傍らに在りしは今は最早、規格外の鬼神たる彼女のみにて。
『マスター、たちと。幻想郷の輩の事だな』
「あぁそうだ。その奮闘は、その頑張りは最高に熱くなるつまみであり、隠し味だ。酒が旨くなる、な。今も皆、懸命に頑張って研鑽してるんだぜ?」
温羅は幻想郷に住む四天王の一角たる鬼、伊吹たる鬼に頼まれた。自らの山に、奉り上げてほしい者がいると。その頼みを聞き、豪雪極まる伊吹の山を踏破し、今ある頂の社に辿り着いた。其処にいたのが、ここにある神気溢れる大明神に他ならず。温羅は厄災そのものたる彼女と出会った。
『客か。珍しい』
彼女は、あらゆる厄災の具現であり。正しく日本の荒ぶる神であった。総てを呑み込む程に強く、旧き神の一柱。
『邪魔させてもらわぁ。いやしかし、高いなここ!』
幻想郷の結界と、現世を見下ろす山の頂から臨む景色を、鬼神はいたく気に入った。それ故、酒盛りの場所を桃源郷と此処に定め、彼女は足しげく通ったのだ。鬼神すらやや手を焼く山の頂上にて、彼女は酒を嗜む地と定めた。
『いい場所を使わせてもらってる礼だ。酒、差し入れんよ大明神。一緒にいっぱいやろう!』
『やるのか』
そんな朗らかな鬼を、大明神はあっさり受け入れた。単純に、自身と同じ程の格を有する彼女を気に入ったのもあり、持っている酒が美味そうだったので、だ
『うまい。うまいな』
「だろ~?やっぱ酒は、上質なつまみだって!」
そして、幻想郷に用がある際は必ずや脚を運ぶことを条件に、温羅の存在を許可している。酒を飲み、土産話に華を咲かせる一時が、もう何年も続いている。
『嵐が来るだろう。やや、地震も起こる。備えさせておけ』
「おう、サンキュー!」
酒を酌み交わし、次に来る厄災を知らせ、また幻想郷の者達を眺める。そんなのんびりとした酒盛りの関係たる、旧きもの。温羅が会いに来る者が一人と、こうして語り、笑い合う。
『スタンプだったな。おしてやる』
「ったく、何アタシにも課題作ってんだっての!」
そう、今回来た理由はなんと『山の頂に在るものに酒を奉じろ』などという覚えなき依頼を温羅は果たしに来た故だ。昔からの、或いはカルデアに在るもう一人の『伊吹』と差別にならないようへの通いの邂逅。
『理由があったら、来い。理由なくても、来い』
「そりゃあもしかして・・・」
『あぁ、ゆかいだから、だ』
そして、彼女はそんな邂逅を気に入っている。鬼神と過ごす時間を、楽しみに待っていながら下界を見ている。それは、鬼神が自らと同等以上の存在と認めており・・・
『随分と汚れた。帰る前に、手入れと掃除をしていけ』
「・・・たまには自分でやるとかしないのかお前さんは」
『しない。お前にやらせた方が、ゆかいだから、な』
彼女が献身的に自らを敬っているため、自らの世話回りをさせているが故である。幻想郷にて紡がれた縁は、ここに旧き神とも結ばれている。
『うまい。ゆかい。すばらしいな、温羅』
「そりゃあ見てるなら愉快かもしれんがなぁ。ちょっとは自分でやろうとは・・・」
『思わない。お前にやらせた方が』
「愉快って言うんだろ?わかったわかった、やってやるよ!」
久しぶりの旧友をいじり倒し、愉快に笑いながら。伊吹の山の大明神・・・『イブキ』は、再び一升瓶を手に取るのだった。
イブキ『そう言えば、だ。酒器がいくつかある。金色の、酒を呑むためのもの』
温羅「ん?それがどうしたよ」
『それをな、砕いて幻想郷に撒いた。廻り合いの呪いをかけたからな。新たな出会いを望むものと、惹き合うようなまじないを、だ』
「・・・?」
『拾ったものは必ず、出会うぞ。お前のいう、人間達と。この様な事を行うのも・・・』
「愉快だ、って言うんだろ?」
『そうだ』
「いい性格してらぁな・・・」
『だが、同時に・・・停滞への楔。必ず、幻想郷にも波瀾は起きる』
「・・・お前さま・・・」
『きっと、ゆかいになる。これはそれへの・・・褒美だな。好きに持っていけ』
「・・・何事もなきゃいいがな。少なくとも、殺傷沙汰はな」
『うん。・・・さぁ、さけをのもうか』
「何杯目だよそれ・・・」
今、幻想郷で起きる波瀾の肝要を伝えながら。二人は愉快な酒盛りへと戻り下界を見守る。
(リッカ、皆よ。万が一にも、死んでくれるなよ)
『そろそろ、無いな』
「一升瓶をペットボトルジュースみたいに飲むやつ、そうはいないよなぁ・・・」
イブキの悪戯と酒豪ぶりに、流石の鬼神も祈りの一手なのだった──