人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カドック『そんな訳で、僕たちは一行と調査を分けて活動するよ。こっちの事は心配ないから、君は今までのダメージを抜けきるまでゆっくりしていて構わない』

キリシュタリア『君も含めた美少女でいっぱいの幻想郷!回らないなんて損だよ、大損!君も鰻重を食べてみたまえ、凄いから!』

「解った!そっちも気をつけてね!」

『またな。合流したら、互いに見えなかったものを交換しよう』

紫「ふふっ、特訓の間に仲良しね?」

リッカ「あ!姐さん!お疲れです!」

「うふふ、まずはおめでとう。弾幕デビューは終わったから、次はより高みを・・・」

──瞬間、天地が揺れた。砲撃を叩き込んだ様な激震、やがて空気が嘆くような衝撃、やがて地響きの様な振動。

早苗「地震です!リッちゃん地震です!私はいつも自信満々です!」

リッカ「じ、地震!?」

紫「・・・ちょっと、席を外すわ。特訓、頑張るのよ?」

リッカ「あ、はい!」

慌てた様子でスキマに消える一人の背中を、リッカは不思議げに見つめるのであった──

紫(あなた、本当に断るのもはぐらかすのもへたっぴなんだから、もう・・・!)

リッカ(・・・どこに行ったんだろう?)

文「地底!ですよ!」

「え・・・【地底】・・・?」


鬼の旧友、孤高の煩悶

謎の地震、空間振動が起きた同時刻・・・幻想郷の地下、そこに広がる世界・・・幻想郷の住人は『地底』と呼ぶその空間にて、一つの再会が起こっていた。それは、幻想郷においても頂点に立つ力を所持する者達の会合と言っても相違ない邂逅といってもいい程の者達。

 

「さて、と。おーい!へべれけ鬼どもー!望みの酌しに来てやったぞー!まさか酔い潰れちゃいないよなぁー!」

 

桃色の瓢箪を掲げし、白肌紅眼の黄金と真紅の脚まで届かんとする逆巻く怒髪天を衝く髪と四本角の鬼神。旧友にかける酒盛りの誘いのような気安さを含んだ声音を発するは、幻想郷への来客にして紫の切り札、温羅。地底という魑魅魍魎が蔓延る無法地帯であろうとも変わらぬ気楽さと泰然さを見せる彼女が、声を上げている。すると、それに応えるかの様に、二つの人影が現れる。

 

「お~!待ってた待ってた、待ってたぞ~!いつぶりだ~?昨日ぶりか?さっきぶりか?明日ぶりか~?」

 

小柄で、オレンジ色の長髪を湛え何よりも横向きに生えた長大な二本角が目を引く、酒気を存分に帯びた少女が温羅の呼び掛けに応え姿を現す。

 

「よう、萃香。相変わらず酔っぱらいまくってんなぁ~。伊吹の名に恥じない蟒蛇っぷりで大変結構ってやつだ、全く」

 

伊吹萃香。それが彼女の名前・・・れっきとした鬼であり、幻想郷の妖怪達の頂点である種族の一人である。温羅からしてみれば、汎人類史原種の鬼である、酒呑や茨木に近しい間柄。要するに酒盛り仲間だ。

 

「酔っぱらいは素晴らしい状態なんだぞ~。めんどくさいこともなーんもかんも忘れて飲んで飲んで飲む!それが今の鬼の最適な過ごし方なんだぁ~。おかえりぃ、うら~、酒寄越せー!」

 

よろよろと酩酊する萃香の拳をひょいと避ける温羅。すると拳がめり込んだ大地がひび割れ、砕け散り崩壊し粉々となる。その無軌道っぷりに、温羅は呆れため息をつく。

 

「うおっと。お前さんなぁ・・・むやみやたらに自然を傷つけるなっての。全然酔っ払って大丈夫じゃないじゃないか」

 

そう、彼女は名前、由来の通りの超酒呑み鬼である。イブキと呼ぶ神ほどではないが、まぁ飲む。素面であった時期はもう千年を数える程であるのだから。今のふらついた拳を受けていたのが人間なら、粉々に消しとんでいただろう。

 

「うるひゃい!酒を出すか私に投げられるかどちらかえらべぇ!」

 

彼女は鬼であり、温羅は鬼神。そこに力加減など存在しない。山を崩す力のやりとりが頻発する交友に、苦笑まじりに拳を鳴らす温羅。

 

「鬼の割に雑で不誠実。変わってないな、お前さんは。よし、じゃあ眠気覚ましに一発・・・!!」

 

「待った待った。あんたと萃香がタダでやりあうなんて勿体ないだろ?とびきりの対戦を安売りするもんじゃあないよ。拳、納めなって」

 

臨戦体勢を整えた温羅を制止する、温羅と気質の似た声。同時に、萃香の頭にげんこつが落とされた。頭蓋骨が軋むか砕けるかのギリギリである、怪力乱神。

 

「ぎゃんっ!」

 

「あんたも鬼神の前なんだ、最低限の威厳は保ちな。鬼の恥になるんだよ、こういう場ではね」

 

「いったぁ~・・・!殴られる謂れはないだろ勇儀ぃ!やるか!やんのか~!」

 

片手に杯を持ち、体操服と透けたスカートの出で立ちの長身の美女。額に星が描かれた一本角を持つ泰然とした風格を醸す、もう一人の鬼・・・それが彼女、星熊勇儀である。彼女は萃香を抑え、温羅に笑顔を見せる。

 

「随分と久し振りのような気がするよ。里帰りしてるんなら真っ先に会いに来てくれなきゃ寂しいじゃないか、温羅?」

 

「悪い悪い。桃子がちょっと不調続きだったのと、家族のゴタゴタがあってな。そいつらを纏めて解決できたんで、ようやくの帰郷って訳よ。寂しい思いさせて悪い悪い」

 

笑いながら返し、握手を交わす。彼女達は幻想郷にて『四天王』と呼ばれる程の実力を持っている鬼の二人、神秘を色濃く残す稀少な鬼である。当然鬼神として生まれた温羅とは意気投合し、こうして酒盛りを行う程の交流を行っている。実際のところ、温羅と『割と』近しい力を持つ二人の存在もまた、温羅には好ましい相手でもある。距離感の近しい学生仲間、的な距離感である。温羅に伊吹大明神の社を訪ねるように依頼したのもこの片割れ、萃香であるのだ。幻想郷に来てから、紫を除けばもっとも距離の近い相手である。

 

「あぁ、とっても寂しかったよ?私も萃香も遠くに在るあんたを思って酒が進んで進んで仕方なかったねえ」

 

「そりゃ嬉しいし、悪い事しちまったな。いつもみたいに、桃源郷由来の酒を振る舞うからさ」

 

「それはもちろん嬉しいけど・・・ほら、あるだろ?私達の歓迎の挨拶が、さ」

 

「そうだそうだ~!付き合え~!」

 

そういって取り出されたるは、酒樽をひっくり返した互いに向かい合える二つの勝負空間。肘を立て、互いに組み合える程度の──

 

「おいおい待ってくれって・・・!『腕相撲』は禁止されてるっていつも言ってるだろうが!どやされんの私なんだからな!?」

 

そう『腕相撲』である。鬼が全力を出せる絶好の機会、鬼神が種の強さを知れる機会を出逢う度に行っている。それを心待ちにしていたのが鬼の二人であるのだ。

 

「だからやるんだ!責任は温羅が持つからこんな楽しい事をするんだからな~!」

 

「鬼は嘘をつかないのが美徳だが、もうちょっと申し訳なさそうにしろせめて!」

 

「まぁまぁ、固いこと言いっこなしだ。積もり積もる話もあるんだろう?私達にも聞かせてくれるんだからその余興さ余興。あんたがもたらした恩、スキマ妖怪にも強く出れるものなんだから自信持ちなって。ね?」

 

「そういう問題じゃ・・・っておい!?」

 

言い終わらぬうちに、いつの間にやら二人は樽の向こうで左腕、右腕を置き構えている。もはや有無を言わせぬ問答無用、暴虐ぶりはまさに『鬼』のそれだ。

 

「かかってこいこい!まさか怖いのかぁ~?」

 

「人間達の社会の中で鈍っていないか、試してあげるよ。私と萃香の同時の相手、不足は無いだろう?ほら、おいでおいで!」

 

酔っ払いの悪絡み酒の翠香、解っていても、結局は自身の楽しみを優先する勇儀。根本的な部分で自身の我が儘を通さんとする『強さ』を有する幻想郷の鬼達に、呆れまじりに溜め息をつく温羅。

 

「・・・ごめんな、紫。あとでうんとアタシを叱ってくれ・・・」

 

覚悟を決め、二人の手を両腕でがっつりと組み合う。二人同時で相手取る為、倒す分のスペースを確保した、温羅は脇がしまらず力が籠りにくい体勢。これが、鬼神として外界と関わる際の距離の戒めとしている姿勢。

 

「萃香、目ぇ覚まさせてやるよ。勇儀、見ない間に鈍ってないかの心配なんざ、それはアタシ様の台詞だぜ!」

 

「やる気だなぁ!こぉい!かかってこ~い!」

 

「私と萃香、バラバラじゃ勝負にもならないのはよーく知ってる。だかろこうして二人で、腕をもぐつもりでやらせてもらってるんだ。──軟弱で悪いね、温羅?」

 

「気にするな。人間から離れた時点で妖怪はみんなそうなる運命なんだ。──じゃあ行くぞ・・・!」

 

両腕をガッチリと組み合い、力が万全に伝わるよう深く、生きを吸い、吐き──

 

「よーい・・・!」

 

温羅の掛け声と同時に、腕を握り潰さんばかりの腕力と、肘から先をもぎ取るかのようの渾身の力を込め──

 

「「「勝負!!!」」」

 

渾身の腕相撲が始まった途端──幻想郷には猛烈極まる突発的な災厄が襲い掛かった事だろう。

 

──組み合った瞬間の衝撃が、結界を激震させ、拮抗せし力の震動が地震となり幻想郷を揺るがし、酒に酔っていた二人を薙ぎ倒した衝撃が幻想郷全員に伝わる振動として伝わったのである。まるでうなぎの身動ぎたる地震の様な衝撃であり・・・

 

「あいたたたた・・・負けたぁ~・・・」

 

「アタシに本気で勝ちたきゃ千年は酒を絶ちなっての。前後不覚のへべれけになんぞ負けてやれるか」

 

「いやぁ相変わらずだねぇ!はっはっは、やっぱりふんぞり返るより挑む側の方が楽しいよ!今回もありがとね、温羅!」

 

「お前さんは勝とうとするより勝負を楽しんでるわけだから勝ち負けなんざどうでもい──うぉ!?」

 

瞬間、温羅の足下に空間の裂け目、『境界』が開き──

 

「あー・・・・・・・・・」

 

その中に、温羅は成す術なく落ちていった──




紫居住区

紫「あなたはどうして、あの二人と絡むと理知と自重を投げ捨ててしまうのかしら・・・!決闘する時はスペルカードルールでっていつも言ってるでしょう!もー!なんでいつも童心に帰るのよあなたはー!」

温羅「め、面目ないぜ紫・・・あいつらは全力を出す機会に飢えてるからな・・・力比べをしたくて仕方ないって気持ちが解っちゃってな・・・」

紫「全くもう。確かにあの二人に真正面から組み合えるのはあなたくらいなのは解るわ、解っているわ。・・・でも、気づいてはいるのよね?」

温羅「あぁ。・・・あいつらが真剣勝負したいのは『人間』だろう。かつて鬼が拐い、人が助けに勇ましくあった時代を忘れられないんだよ。きっとな」

紫「・・・とはいえ、無理やりあなたをあてがっていても効果は無しと。人間の誰かと、勝負をして納得しなきゃ・・・か」

温羅「流石にリッカに頼む訳にもいかんだろう。彼女は未来を担う子だ、鬼の戯れでカタワにするなんて許されないからな」

「・・・・・・いえ。頼んでみましょう。温羅」

温羅「は?」

「彼女は人を労り、苦難に立ち向かい、邪悪に挑む。永遠とは対極にいる刹那の少女・・・彼女なら、やってくれる筈よ」

温羅「話聞けって!だから彼女はなぁ・・・」

紫「それでも、よ。カドック君達には欠片の回収があるから、お誂えむきじゃないかしら?」

「・・・・・・・・・」

「心配なのは解るわ。でも、大丈夫なのよ。私を信じて彼女に声を・・・そして」

『三枚の硬貨』

「このうち二枚を、彼女達に手渡してもらえないかしら?」

温羅「こいつは・・・ウルトラメダルの技術流用か!?誰がこいつを!?」

紫「それは後で。幻想郷の耐震を・・・リッカちゃんが救ったらに致しましょう──」

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