人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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団子屋

リッカ「おうちに!」

「「帰れなくなったぁ!?」」

うどんげ「は、はい。私は竹林の中にある薬屋の雑用とか、売り子をやっているんですが・・・つい先日から、迷いの竹林と呼ばれる場所で迷う様になってしまって・・・」

早苗「帰巣本能が働かないんですか!?」

文「野性動物として致命的では・・・」

うどんげ「違うんですよー!今の竹林に入ると『狂っちゃう』んです!右も左も、前も後ろも解らなくなって・・・!ホントのホントに迷いの竹林なんですー!」

リッカ「・・・確かどんちゃんって、狂気を操る能力を持ってなかった・・・?」

うどんげ「(こくこく)・・・信じられないんですが、私の能力を上回るレベルで、竹林には誰かが狂気を張り巡らせているんです。このままじゃ私はともかく、竹林が死の竹林だなんて呼ばれてしまいます!お師匠様にも怒られて明日のウサギ鍋に・・・!お願いいたします!藤丸リッカさん!竹林に潜む何者かを、ぶちのめしてはもらえませんか!?」

リッカ「──解った!何がいるのか、誰がやってるのかは、貴女の力になってから考えるよ!」

「ありがとうございますぅ~!流石、お師匠様が仰有った『対話の龍』様!いい人で良かった・・・!」

文「永琳さん、リッカさんをご存知でしたか?」

うどんげ「は、はい。『もし幻想郷らしからぬ事が起きたら、彼女を頼りなさい』と伝えられていたので!あ、あとこれを!」

『うどんげメダル』

「渡せ、と言われていたんですが・・・なんですかね、これ・・・とにかく、どうかよろしくお願いいたします!」

早苗「リッちゃん、これは・・・!」

リッカ「・・・全部、月の賢者様の掌の上のやつかな・・・?」


人里に忍び寄る闇、現れし光

「外の世界、即ち現世の歴史を取り戻す為の組織、カルデア。その選ばれし戦士、マスター。そんな一人と知り合うことが出来たのは大変な幸運だ。・・・先の紹介の続きを。私は上白沢慧音。君達の観点でいう・・・わーうるふという種族であり、幻想郷の歴史を編纂する業務を行っている。この歴史の編纂の説明はまたいずれ。我ながら、とても抽象的な能力だからな。今は、此処にいるあなた方二人の力を借りたい為のお願い・・・助力の嘆願と受け取ってもらって構わない」

 

腰に届かんばかりの青メッシュの銀髪、高貴な宝石のような深い紅き瞳。豊かな胸元を大きく開き、上下が一体になっている青い服。袖は短く白。襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っている。胸元に赤いリボンをつけている。下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついている。誰が見ても、麗しき美女との評価を下す慧音に対し、キリシュタリアは神妙に問う。

 

「・・・慧音さん。つかぬ事を尋ねますが、その美貌では子供たちは勉強どころでは無いのではないでしょうか?」

 

「えっ・・・!?な、何を・・・」

 

突如予想外な切り口から言葉を受け、上擦り声を上げる慧音にキリシュタリアは続ける。大分ずれている事を。

 

「いえ、貴女のような絶世の美女が教壇に立っている光景を思うと、いわゆる『初恋が先生』という事象が大量発生してしまうのではないでしょうか。というか私なら確実にそうなります。どうか貴女に気づいてほしい。あなたは見目麗しき人間の守護者はうっ!?」

 

「申し訳ありません、彼にはギリシャの面汚しが混入してしまっていて・・・どうか本題に」

 

キリシュタリアの首にチョップが決まり、イニスが彼を沈める。美男子の誉め殺しに赤面しながらも、こほんと咳払いし慧音は続ける。

 

「で、では。つい先日から、人里にて原因不明の負傷をした者達が散見されている。本日付けで、被害者は十人を越えた」

 

「原因不明の、負傷?」

 

「裂傷、打撲といった・・・弾幕勝負では頻度の低い怪我で、まるで夜盗に襲撃されたかのようだった。そして被害者の証言に『弾幕勝負を挑む前に襲い掛かってきた』というものがある。つまり・・・」

 

「つまり『幻想郷のルールにそぐわない方法で、何者かが善良な民達を襲った』。そういう事ですね、慧音先生」

 

慧音は頷く。幻想郷の美麗な決闘ではなく、悪意と暴力にて力を振るう何者かが、人里の人間を害したのだと。

 

「それは、妖怪の仕業なのですか?」

 

「あぁ。──人里、並びに竹林の自警を受け持ってくれている協力者がその本拠地を割り出し、勝負を挑んだのだが・・・手傷を負わされ、撤退を余儀無くされたんだ」 

 

沈痛な面持ちで、慧音は告げる。その者は決して弱くはない。だが、弾幕勝負という決闘ではなく、純粋なる悪意と殺意に遅れをとったのだと彼女は語る。

 

「・・・その主犯の名は、一体・・・」

 

「鬼人、正邪。この幻想郷にて唯一、その首に賞金がかけられ、スペルカードルールを無視した攻撃が許されている対象・・・天邪鬼と呼ばれる者だ」

 

鬼人正邪。長い幻想郷の歴史の異変の中で唯一他者を欺き、騙し、悪意を以て幻想郷を騒がせた存在。かつて弱者が虐げられない幻想郷を作る、という題目を掲げ、善良な妖怪から秘宝を掠め取り自らの力を増大させんと目論んだ、危険な思想犯。

 

「昨今はまるで活動をしていなかったんだ。紫殿、そして温羅様の二人に徹底的に鎮圧され、制裁を受けた為だ。・・・だがこの数日、突如活動を開始したと見るのが正しい。決して派手に動かず、水面下で・・・」

 

「その話を聞いて、私は天邪鬼の活動の理由を『聖杯の欠片を確保した』ためと予測したよ。公に活動しないのは、力の使い方の模索。被害がそれほどいないのは、異変とされない為。実に小物らしい気の張り様だからね。十中八九、その天邪鬼は拾ったんだ。聖杯の欠片をね。慧音先生、その協力者の持ち帰った情報に『影』らしきものを使役してきたとの報告はありましたか?」

 

慧音は頷く。靄のような、影のような複数の影。それらは高い近接戦闘力を持ち、不意を突かれ遅れをとったと。

 

「これは恐らくシャドウ・サーヴァントだ。聖杯の欠片の力を使って招いたものだろう。正規の英雄ではないのは恐らく、自身が扱いきれないリスクの低下、量を大量に揃えた侵攻作戦の計画・・・予測できるケースは、これくらいだろう」

 

つまるところ、その天邪鬼が考えているのは聖杯の欠片を手にした事による【クーデター】。現体制の転覆なのだ。その為に、聖杯の力の試運転として人里の弱者に危害を加えた。

 

「許すわけにはいかない。幻想郷に生きる者の為になんとしてもヤツを止めなくてはならない。温羅様にお伝えしたいのだが、巫女や鬼神、紫殿を差し向けられたヤツがどんな破れかぶれに移るか予想がつかない。ヤツは指名手配の身だ、自己保存の為に手段は選ばないだろう。弾幕勝負にも応じない輩──荒事に慣れた、外部の協力者が必要と私は判断した」

 

相手は幻想郷の理を平然と無視する輩であり、殺傷すらも辞さない外道。そんな輩が、聖杯の欠片の力を有した。まさに由々しき事態に、彼は幻想郷の新たな歴史を見た。『外来の世界を救った組織』の来訪を。

 

「伏してお願いする。どうか世界を救った手腕を人里の為に振るっては貰えないだろうか・・・!初対面に等しいにも関わらず、このような願いをするのは道理が無いと理解している。しかし私は・・・人里の、幻想郷の安寧を護りたいんだ!どうか、頼む・・・!」

 

人里に来ていたキリシュタリアに声をかけ、事情を話すと告げた慧音。それは、彼と彼女への要請だった。大人数ではなく、少数による事態の解決と速やかな排除。人里の防衛・・・

 

「君と、その従者の力を貸してほしい。奴の警戒が薄い今のうちに、我々で討って出たいんだ・・・!」

 

見ず知らずの、或いは関係の薄い相手に命をかけろとの要請の意味を知り、それでも深々と頭を下げる慧音。人里の重鎮が此処までする事の意味を、理解できない二人ではない。

 

「顔を・・・あげてください。慧音先生。──私達に、出来ることがあるのですね?それを、教えてくれますか?」

 

「で、では・・・!?」

 

「勿論、力になりましょう。力あるもの、高貴なる者は常に・・・誰かの為に犠牲になるもの。それが高潔なる願いであるならば尚更です。私とイニスの二人で、その天邪鬼から聖杯を奪還してみせましょう。人里の平穏の為にね!」

 

二人の意志は一致し、そして正しき道と信じたものに殉ずる。困った人を見捨てない・・・それがカルデアの、楽園の基本理念であるが故に。

 

「本当に・・・本当に、感謝する!人里を代表して御礼を言わせてほしい!本当に、ありがとう・・・!」

 

感激のあまり、キリシュタリアとイニスの手を握り涙する慧音。冷静に見えて激情家の一面を見せる慧音を、イニスは好ましく思う。

 

「いえいえ慧音先生。これはまさしく宿命、いえ・・・運命と言えるものでしょう。私は一つ、心に決めた想いがあります」

 

「えっ?そ、それは・・・?」

 

「それは『美女に哀しい思いをさせない』!幻想郷の、人里の未来を案じる慧音先生!見目は勿論、何より美しいその魂に私は心を奪われてしまいました!どうか任せてください。この桐之助、人里の皆様の為何より貴女の為ほうっ!?」

 

「『しょっちゅう馬鹿さらしてんじゃねぇ!』」

 

イニスが考えるより早く、キリシュタリアの脇腹に手刀が深々と突き刺さる。鎮圧され、悶絶する面白外国人。

 

「す、すみません・・・!今の私は、少し不安定で・・・時折マスターにこんな野蛮な真似を・・・」

 

「い、いや。紳士的な気遣いな事は伝わっている。その・・・愉快な方だな。あは、あはは・・・」

 

当の先生は──褒められ慣れていないのか、黙っていれば絶世の美男子に言い寄られ、顔を真っ赤に照れ笑いしていたのだった。




慧音「では、堅苦しい物言いはここまで。どうかよろしくお願いいたします。・・・イニスさん、と言いましたね」

イニス「は、はい」

慧音「桐之助から聞き、今拝見しましたが・・・あなたは今、不安定な状態だとか」

イニス「・・・はい。ポセイドンから神の槍を与えられた肉体でありながら、精神は・・・乙女であった頃の精神で。時折、さっきのように本来の人格が顔を出すような状態です」

慧音「私の能力・・・歴史を編纂する能力ですが、もしかすると・・・あなたの力になれるかもしれません」

イニス「!・・・本当ですか?」

慧音「『イニスとして今まで過ごした歴史』と、『英雄カイニス本来の歴史』を、あなたの中でも両立させるのです。上手くいけば、イニスであるあなた、カイニスであるあなた・・・共存が叶うやもしれません」

イニス「・・・イニスであり、カイニスである。そんな私として・・・?」

慧音「よろしければ、お力添えをさせてもらえませんか。せめてもの、お礼として・・・」

イニス「・・・はい、よろしくお願いいたします・・・!」

チルノ「せんせー!今日もべんきょーするぞ!ん?なんだおまえら!」

ブリュンヒルデ「まぁ。あなたたちは・・・」

キリシュタリア「むぎゅっ・・・チルノちゃん、踏んでる、踏んでるよ・・・」

チルノ「誰だお前は!」

慧音「・・・ひとまず、おやつとしましょうか」

イニス「ふふ、はい!」

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