人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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イザナミ「彼女らは三日か四日前、幻想郷に向けて聖杯を砕き散らせたもう。こちらが鬼神温羅様で、こちらが伊吹大明神様であらせますれば」

リッカ「伊吹大明神…!」
早苗「鬼神様は皆知ってますね!」

イザナミ「彼女らの目的は平穏と停滞の対策と打破で、聖杯がその波となることを期待し幻想郷に試練をもたらしました。ですがそれが結果的に天邪鬼を通じて虚無の孔が空いてしまいあなや大変な事に」

早苗「穴だけに!」

ギル「ふはははははははははははははは!!!!」

──ギル、福を招くのは今は結構です。
フォウ(ニッコリ)

諏訪子「なんで胸に全部渡しちゃったの」

早苗「酷いです!?」

イザナミ「ですので…あー、えーと…?私達は5年前に高天ヶ原を攻撃?聖杯に対して破壊…?」

温羅「あー、お婆ちゃん。アタシが説明するよ。あなた様は、アタシ達が腹芸をしてない証人になってくだされば幸いだ」

イザナミ「そ、そうです?では私、引っ込みたもうや!見ています!あなや!(ガッツポーズ)」

理性的に話をしようとすると長話ができないお婆ちゃんに代わり、温羅はあらましと生い立ちを話す──


神への裁定

「ご存知かもしれないが、イブキ…まぁ要するに伊吹童子は、大江山に移行する前の神の側面を色濃く残した鬼子。伊吹大明神の娘…要するに八岐大蛇の血縁。娘さんみたいなもんだな。で、ここにいる伊吹は分け御霊…現界においてやってきた大本の一側面だ。幻想郷の結界の中に在る、異世界の山の神社に祀られた御神体の…」

 

「そう!サーヴァント!サーヴァントなのよね今の私!温羅から教わった知識や経験を、未来から遡って勉強して生まれたヘビお姉さん!それが今の私、NEW伊吹童子ってわけー!どう?驚いてくれた?実は私とリッカちゃん、声帯の作りほとんどおなじみたい!ゴッドボイス…流石世界を救ったマスター!素敵ー!」

 

「むふぉっ!!!」

 

リッカ、お姉さんの豊かな山脈に埋もれる。ニットに身を包み、お隣のエッチなお姉さん化した伊吹童子に抱きしめられるリッカ。彼女は伊吹童子…つまり、妖怪化する前の鬼、酒呑童子の別側面という事実が今告げられたのだ。

 

「イザナミばあちゃんが言うように、今回の異変の中核…それを砕いてばら撒いたのはこの伊吹で、知りながら黙ってたのはアタシ。要するにアタシらは今回の異変の黒幕…元凶って奴だ」

 

幻想郷にばら撒かれ、今回の騒動の中核になり、そして異変を巻き起こせし神器、聖杯。それは二柱の神霊クラスが画策したことが知らされる。大小なれど、それは衝撃を巻き起こす。

 

「伊吹大明神様に、鬼神様が…今回の異変の黒幕…つまり、EXボスという事だったのですね!?」

 

「温羅、水臭い事を…私に相談してくれないなんて酷いじゃない」

 

「すまん!もう平謝りするしかないくらいにこっちに非がある!アタシも最終的に楽園と幻想郷の皆が勝つよなと信じきって、静止を怠った!同罪ってやつだ!本当に…本当にすまん!」

 

今回の異変、それは二柱の与り知る所によるものであり、それは聖杯を砕き、下界に災いという形で降り注いだ。温羅、そしてイブキは深々と頭を下げ関与を認める。

 

「私の本殿、要するに供物が集う場所なんだけどね。そこには願いを叶える器もあったの。それを私の神通力で砕いて、一つに魔力をぴぴっとこめて幻想郷に飛散させたのは、他でもないこの私。だから、今回の大騒動の黒幕は私、という事なの。…虚無そのものなんて大捕物に発展すると読めなかった、私の浅慮が招いた事態です。謝って許される事ではないけれど…イザナミお婆ちゃんの前で誤魔化しはできないわ。本当に、ごめんなさい」

 

そして二人の謝罪に、イザナミもまた母として、女神として礼を重ねる。其処には偽りの無き、真言のみが在ることを示す。

 

「──葦原の母たる伊耶那美命の銘に誓い、二人の謝罪に嘘偽りは無き真なりや。深く悔やみ、改め、非を認めたまいし二柱に、何卒、何卒寛大なる処置を願いたもう…」

 

「…閻魔が出てこない理由に合点がいったよ。本当に伊耶那美命様がおわす勢力を、日本の十王程度が裁けるはずもない」

 

伊耶那美命とは、地獄どころか日本が綿飴のような形状の太古より命を育みし創造神にして女神。彼女無くして日本は無い。それを理解したが故、冥府は黙認を貫いたと神奈子は推測する。閻魔など及びもつかぬ遥か高み。八百万の頂点とはそういう存在。比類なき神なのだ。そして、それを有し勢力があるとなれば。

 

「頭の固い閻魔であった故、説明にはやや手間であったが…格式高き輩を招くも傲慢に居直らず礼節を貫く我等を信じると腰を下ろしたという訳よ。冥府に赴いた甲斐があったというものよな、ふはは」

 

「ギルが説得してたんだ!?」

 

──噂のサンズリバー、目の当たりにしてきました…賽の河原石積みは今のアトラクションなのですね…

 

そう、ギルは漫遊がてら全容を掴み説明していたのだ。これは異変であり遊戯。我等が完璧に事を収める故、静観せよと。それは、乗り越えた先の財宝を得るための苦難と試練。これを乗り越えた為に、幻想郷と楽園は段違いの成果と、実益を手にした。

 

「破壊なくして創造はなく、温風だけでは人は成長する事はない。伊吹がやらねば我等が用意していた試練を先んじてこやつらが用意したに過ぎん。まぁ、いささか悪役の立ち位置が才覚の塊であった事が誤算といえば誤算であったか」

 

「…じゃあ、幻想郷を困らせたり悪さをしようとした訳じゃなくて。純粋に、レクリエーションを面白くするつもりの善意って事、かな?」

 

リッカの言葉に、早苗は頷く。「神様の善意なんて基本ありがた迷惑ですから!」なんて言った結果諏訪子にローキックをかまされていたが。

 

「で、どうだ?賢者に同じ神共よ。糾弾と断罪を求むるならば、我が手ずから終わらせるのも吝かではないが?」

 

裁定者として、神を裁くは英雄王のみ。例え全能の神であろうと、不要であるならば処断する。その見極めの為に、王は同伴しているのだ。裁定が下されたならば、何者であろうと覆すことは叶わない。二柱の命運は、賢者と同じ神々、そしてリッカに委ねられる。

 

「──私はこの一件を糾弾するつもりはありません。温羅、そして伊吹様とも変わらぬ関係を所望します」

 

口火を切ったのは、紫だった。幻想郷の管理者として、彼女は伊吹を、温羅を寛容する意志を示す。

 

「紫…いいのか?」

 

罰の一つもなく赦される事を問う温羅に、紫は扇子を開き告げる。口調は、あくまで穏やかだ。

 

「確かに大事になったわ。幻想郷中が大騒ぎのね。楽園の皆様がいなかったなら、私達は終わっていたかもしれない。…でも、それがあなたの望んだ事でないくらい、親友の一人としてわかっているつもり。それに、一つや二つのやらかしなんて打ち消すくらい、私は…妖怪や神秘はあなたに大恩がある」

 

「!」

 

「次はきちんと、相談してくれればOKよ。次は不確定要素を廃して、もっと素敵な催しを目指しましょう、我等の鬼神様?」

 

紫は彼女を知っている。彼女が幻想郷に弱きものを招き匿いし事を知っている。彼女が力と責任を理解していることを知っている。なんのことはない、彼女にとっての損失は、この豪快無比な親友を永遠に喪うこと。

 

「あ、罰がほしいならそうね。酌とショッピング、家事手伝い全部やってもらうなんてどう?」

 

「──解ったよ。藍ちゃんやちぇんの面倒も見てやらァ!あと幽々子の飯もな!」

 

彼女にとって、至上の切り札を手放す愚策など…選ぶはずも無い。変わらぬ友誼を条件に、紫は鬼神を受け入れた。

 

「神様なんて理不尽なものだよ。下界をいちいち見て心を痛めたりしないのが普通さ。だからこそ、省み、心を痛める事がどれほどの奇跡かもわかるというもの」

「伊吹大明神様に、伊耶那美命様。私達木っ端がどうこう言える身分じゃないもんね。皆様の真心を信じます」

 

神奈子、諏訪子も伊吹大明神の沙汰を受け入れる。そもそも悪びれぬなら神が謝罪などする筈もなし。同じ神であるからこそ、その反省がどのようなものかを信じられるのだ。

 

「間違いなんて誰にだってあります!私も祝詞とちりますし、神事間違えたり転んだり!でも、それを改めるからこそ成長できると思うんです!だから、その、烏滸がましいですが!私は、受け入れたいです!こうして誠実さを示してくださった皆さんを!」

 

守矢神社…即ち神の視点からも、伊吹達の誠意の真価を見抜かせる。王はただ、当事者達の意見を見定めている。

 

「そうか。ではマスター、お前はどうだ?こやつらを裁くか、容認するか。最後の意志はお前に掛かっている」

 

──リッカちゃんは、どうしたいですか?

 

楽園のマスターのリーダーにのみ赦された絶対特権。それは『決める』事。その判断を、王が真とする事。彼女の意志が、裁定を下す意義となる。

 

「決まってるよ!──私は温羅さんと伊吹さんを…受け入れます!!」

 

それは、彼女が王であるギルガメッシュのマスターであると同時に、光と闇のなんたるかを理解するからこそ。その彼女が今、自身の意を示す──。

 

 

 




伊吹「…理由、聞いてもいい?リッカちゃん」

リッカ「大前提として私は人間です!人や神様を裁く資格なんてありません!私は正義や正しさの為じゃなくて、私がしたいように、やりたいように生きているので!だから私は、悪意より善意を信じます!二人の善意を信じます!」

温羅「アタシ達の、か?」

「はい!教えて下さい、どうして今回の事をやろうと思ったんでしょう?私はこう考えたんです。『幻想郷の閉塞的な空気に、新しい風を送り込みたかったのかな』って」

伊吹「…!」

リッカ「正邪ちゃんが言ってたんです。平穏と停滞で、幻想郷に先は無いって。幻想郷はいい場所だけど、いい場所過ぎて自分たちだけで完結していて、発展も終わりもない。…袋小路だって、正邪ちゃんは言いたかったのかもって。だから私は、思ったんです。聖杯を配った誰かは『新しい何かが始まりますように』って願いを幻想郷に届けたのかなって」

「リッカちゃん…」

「だったらそれは、幻想郷を前に進める『善』だと私は思うんです!誰かのために良かれと思ったことが裏目なんて、当たり前に起こります。…私の親友は言ってました。『何故やったか』が大事だって。もしそのなぜが、善意に基づくものなら!私は嬉しいなって思いました!その願いを呪いにしないよう頑張ろうって思ったんです!だから──」

ギルガメッシュ「───フッ」
──はいっ!

「今度は皆で一緒にやりましょう!皆が笑顔で終われる世界へのアプローチや、善意の結末に向かうための頑張りを!だから──私は二人の事を受け入れたいと思うんです!」

イザナミ「えぇ!えぇ!」

「伊吹さん、温羅ネキ!だからどうかこれからも、よろしくお願い致します!!…ギル、こうでいい?大丈夫?」

ギル「ふははははは!よいぞマスター!上申、確かに受け取った!裁定は下った。即ち──反省し次に活かす事!それ以上の罰は要らぬ。善意の連鎖を噛みしめるがいい!」

温羅「──あぁ。ホント…ありがとな。皆」

伊吹「リッカちゃん。皆も勿論だけど…温羅の言ったとおりだわ」

リッカ「?」

伊吹「あなたが、人類を救うマスターで良かった。こんな迷惑なワガママを受け入れてくれて、ありがとう。ギュッてしていい?」

リッカ「ふぁ、あ、えっと…よろしくお願いします!」

伊吹「ふふっ。──私、きーめた!」

温羅「何をだよ?」

「楽園、だっけ?この私、仲間に入れてもらおっと♪勿論マスターはリッカちゃんで!ね?」

ギル「ほう?」
リッカ「ふぉっ!?」

伊吹「ケジメは必要でしょ?私は人に寄り添う道でそれを果たすわ。リッカちゃんのこと、大好きになっちゃった!だから、ね?よろしくね♪」

リッカ「ふぉいっ!!」

──埋まっています…!ニットのおやまに、リッカちゃん!

イザナミ「うんうん!それではこれにて!」

紫「一件落着…かしら?」

「また言われた!?」

ギル「よし!堅苦しい話は終わりだ!今しばらく宴は続く!貴様らも堪能せよ!我の奢りだ!!」

「「「「「おーっ!!」」」」」

伊吹「強いね、リッカちゃん。誰かを許せるのは、ホントに強い人にしかできないもの」

リッカ「ぶはっ!私はたくさんの人に赦されたんです。だから私も、そんな強さを誰かのために振るいたいんです!」

伊吹「赦された?何を?」

リッカ「生きること、です!」

「──そっか。ならいっぱい幸せにならなくちゃね!これからよろしく!リッカちゃん!」

リッカ「はぶぉっ!!」

裁定は下る。奇しくもそれは、元凶と酒を飲む幻想郷の宴会と同じもの──


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