人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『人間は皆。頑張っているんだよ』

バカ野郎が。テメェはこんなザマになって…

それでも報われねぇのか。人類の為を願って足掻いたこいつは報われねぇのか。



カストロ【ふん。見苦しい。何に固執しているかは知らんが、セイバーに狩られるランサーの分際で無様に足掻くとは】

カイニス「く、そっ…!なんだ、この頭の記憶は…記録は…!」

【無力だ。無力だなカイニス。去勢も張れずただ逃げ去る弱者。ポセイドンに辱められ泣きついた女に相応しい末路だ】

「クソが…!!」

【落ちるがいい。蒼銀の遥か下。どことも知れぬ──低俗な地上へとな】



カイニス「……クソ、が…」

オレは、結局…何もしてやれなかった。何も…

「………」

…最後くらい、テメェみたいに…笑って死ねたら良かったのによ…



「…私は…一体…」  

桐之助「大丈夫かい?君は──」 

「わかりません…何も。何も…」


舞い戻る、黄金の鳥

「やあカイニス、イニス!待たせてしまったかい?何せ沢山の出前だ、何を買っていいか迷ってしまってね!ごめんよ、三人分買ってきたから許してほしいな!」 

 

「あ?…ん、おう。別に待ってねぇよ」

 

取り戻した平和、掴み取った平穏。その得難さを噛みしめるにはその最中に入るのが一番だ。人は実感してはじめてそれを理解する。平和ボケというのは素晴らしいものであり、そして人生の幸福とは、なんのしがらみもない日々を送れることにある。全員で乗り越えた試練の後の穏やかな時間を、キリシュタリアはカイニス、イニスと過ごすことにしたのだ。

 

『愛想よく…は、無理よね。カイネウスの私、現世で言うイキリ倒しというものだから』

「うるせぇ、なんで媚びなきゃならねぇ。ふざけてっと殴んぞ!」

 

「ははは、自己との対話とは実に高尚だ。流石栄光のアルゴノーツが一員、英霊カイニスだね!」

 

「~。歯の浮くお世辞並べやがって!オラ、行くんだろ!さっさとしろってんだ!」

 

「勿論だとも。リッカ君達と掴み取った平和、堪能しようじゃないか!」

 

着物姿にポニテ結な桐之助、草笛しながら歩き出す風来坊スタイル。カイニスに歩幅を合わせながら、歩き出す。

 

「テメェ、買いすぎだろ…三人分って身体は一つだって解ってんのかよ」

 

「あはは、いやぁ実は女性店員にサービスされたり、道行く女性にプレゼントされたものばかりなんだよ。幻想郷は本当にいいところだ!護れて良かっ」

 

この後、即座にローキックを受けたのは言うまでもない。「この頭ゼウス野郎!」との罵倒付きで──。

 

…その後は、人里をのんびりと回り、出店を巡り、お土産を見繕い、時に何かを買うなどをして時間を過ごす。キリシュタリアは愉快げな態度を全身全霊で現し、カイニスが表層に出ている彼は、そんな様子を呆れながらもついていく。

 

「おっと、荷物であれば私が持ちましょう。何、財布を落とした!それは大変だ、探すのを手伝います!道ですか?あぁ、それならばこの道を──」

 

懇切丁寧に、女性に対する紳士的な態度を貫きながらキリシュタリアは道行く人々に声を掛け、手助けを繰り返し歩んでいく。首を突っ込んだ問題を5秒程で解決するは流石の手際の良さであり、元Aチームリーダーである。

 

「随分とお優しいじゃねぇか。そいつも誰かの影響かよ」

「?美少女や美女であるならばそれだけで助ける理由には十分だろう?私は常に女性の味方である紳士であり、フェミニストでありたいんだ」

 

頭ゼウスだコイツ、早くなんとかしねぇと…呆れ果てながら、二人は良さげな茶屋を見出し腰を下ろす。どっかりと座るカイニス、行儀よく座るキリシュタリア。どちらも向かい合った様子だ。

 

「オレがカイニスとしての側面を有し、ここにいる理由だったな。約束しちまってたし、きっちり話してやるよ。腰抜かすんじゃねぇぞ」

 

「ははは、ゼウスに限って腰砕けなんてあるわけないじゃないか。腰痛は持っていたらしいけどね!」

 

「死ぬ程いらねぇその情報。…まぁテメェがどうおもうかは知らねぇし興味はねぇ。ただ無慈悲に事実だけを教えてやんよ」 

 

決心したように茶を飲み干し、準備は出来たとばかりに端的に結論のみを話すカイニス。

 

「オレはとある記録を座から引き継ぎ、それがサーヴァントユニヴァースのオレと混線し弾き出され、例の仮想現実を作る機械に紛れ込んで出来上がったチグハグな英霊だ。その記録で、テメェは俺のマスターだったわけだ」

 

「もう既に、君とは縁が結ばれていたのか!」 

 

「おぉよ。『人類の裏切り者』として『クリプター』なんぞと呼ばれてたギリシャ異聞帯の担当者。キリシュタリア・ヴォーダイムの使い魔、カイニス様としてな」

 

吠え面かきやがれ、と突きつけた戦慄の事実に…桐之助は、微塵も揺らがぬ様子で問い返した。その様が非常にらしく、同時に面白くないと感じたイニスは告げる。

 

「テメェは一つ間違えてたら、人類の敵になってたんだよ。人類を一つ上の段階に引き上げる…そんなお題目をかかげて、カルデアと盛大にやりあったってわけだ」

 

別の世界のカルデアの地球は、人類もろとも漂白されてしまった事。7つの異聞帯をカルデアは潰し回っており、ちょうどキリシュタリアの世界が5つ目に潰された異聞帯であり、キリシュタリアをリーダーとしたAチームは『異星の神』とやらに選ばれ、異聞帯を育て上げるクリプターと名乗り、カルデアと…汎人類史に敵対したのだと。

 

「ハッ、どうだ?此処じゃないテメェはとんだ大罪人だぜ?人類を救うマスターが、人類を見捨てたクリプターなんだからな。そこのオレの記録を、記憶を持ってんのがオレなんだが…クソの双子にボコられて、リスポーンするつもりが時空の歪に巻き込まれて、ポセイドンのクソに辱められる前の人格なんぞ有してあのガラクタに再現されたって訳だ」

 

「なるほど、セイバーウォーズ→ぐだぐだイベントの珍妙不可思議な経歴を辿ったサーヴァントが今の君というわけか。…ギルガメッシュ王とギルガメシア姫のような特殊極まる霊基というわけだね。一粒で二度美味しい!」

 

『そんな一石二鳥みたいな…ではなく!キリシュタリアが、人類の敵ですって…!?Aチームのみなさんも!?そんな…』

 

「ちょうど今年の年末からだ。そこから地球の漂白は始まった訳だ。テメェら、冷凍保存でくたばりかけだったんだろ?まとめてスカウトされてめでたく人類の裏切り者になったって訳だ。…まぁ、あっちのカルデアとは比べ物にならねぇくらい、こっちのマスターはバケモンだがよ。ありゃあとんでもねぇな。良かったなぁオイ?折れかけの枝葉みてぇなテメェの体じゃぶち折られてたろうぜ。で…オレもテメェも負けて、ゼウスが率いた異聞帯は御破算って訳だ。要するに、オレは負け犬ってこったよ」

 

──カイニスは微塵も気にしていないが、これは値千金というレベルを大幅に越えた情報である。何が起こり、いつ起き、どうなったのか。未曾有の危機を、人類への警鐘を。彼はもたらしたのである。取り戻した人理の、成れの果てを。

 

「どうだ?少しはたまげたか?こっちじゃあんだけワイワイ楽しそうにやってるテメェが、一つ間違えたら世界の敵な訳だ。運命ってのは残酷に出来てるもんだぜ、全くよぉ」

 

「あぁ、その通りだ!だからこそ、今ここにいる私は、私達は無類の奇跡だと確信出来るのさ!」

 

キリシュタリアはその事実を聞き、絶望──等はせず、笑みと共にそれを受け止めた。ずっこけるカイニスに、キリシュタリアは胸を張る。

 

「平行世界の私の選択の是非を問うつもりはない。私はやるべきことをやらなくてはすまない人間だ。その結論を選んだと言う事は、それをやらなくてはならないと判断したが故なのだろう。理解はしないが、納得はできるさ。むしろ──」

 

キリシュタリアはカイニスの手を強く握った。イニスに行う優しく手を取るリードではなく、同志に行う力強い握手だ。

 

「ありがとう。平行世界の私がお世話になっただけに飽き足らず、私との時間を大切に思ってくれて。私は最早いないだろうから、この世界に生きる私が君に告げよう。我がサーヴァント、カイニス。本当に…お疲れ様」

 

「……チッ。うるせぇ!」

 

…本当なら、不甲斐ないサーヴァントと責められるべきだ。護ることも、勝利をくれてやることも、願いを叶えてやることも、命を救ってやることも出来なかった。ただ、八つ当たり同然の憂さ晴らしを行っただけだ。サーヴァントとしては三流もいいところだ。

 

『でも、あなたはこうして力と知恵を託してくれた。私を消すことなく、此処にいるキリシュタリアを受け入れてくれた。キリシュタリアのいうありがとうは、そういった…』

 

腹が立つ。目の前のこの男は自分だけでなく、本当の…『無力な女』である自分とすらも絆を結んだ。どんな場所でも、どんな状態でも。コイツはどこまでもコイツだった。

 

「うるせぇ、うるせぇ!何が、何がありがとうだ!何が…!」

 

腹が立つ。これが本当のテメェなら。これが本当のテメェのやりたいことだったんなら。かつての、仏頂面を貫いて鉄面皮を装い、カルデアと戦ったテメェは。

 

「…テメェの笑い顔を見てるとムカつくんだよ!」

 

どんだけ、無理をしてやがったのか。どんだけ、辛さを感じていたのか。それを突き付けられているようで。何もできなくて。何もしてやれなくて。だから…

 

「精々ヘラヘラ笑ってやがれ!スカした面より、テメェはそれがお似合いだってんだよ!解ったか!このゼウス野郎!」

 

せめて、此処にいるテメェだけは。無理も偽りもないテメェでいてほしいと。

 

──ただ、もう一度。テメェの槍になってやるのも悪くはねぇと思った自身への、せめてもの…

 

「あぁ、勿論だ。だが、私が笑顔でいるためには皆がいる。私が人類を護るには皆が必要なんだ。イニス、カイニス。勿論、君達もね」

 

『キリシュタリア…』

 

「此処にいる私は、楽園の皆と共に歩むと決めている。リッカ君や、みんなとね。ゼウスに生命を託されてから、私はどうも落ち着きがない。いつも優しく、時に殴ってでも諌めてくれる相棒が必要だ。それはきっと──君達二人にしか出来ない役割だよ」

 

「…へッ。そのうち本当に殺されない程度にしろよ?」

 

『キリシュタリア。私は既にあなたのサーヴァントです。ずっと、共に参りましょう。ね?』

 

「うるせぇ!」

 

──せめてもの願いだと、胸に懐いて此処に来た自分のワガママだ。

 

今度こそ、テメェの願いを叶えてやる。テメェのサーヴァントとして。今度こそ…

 

…テメェのサーヴァント…カイニスとしてな。




キリシュタリア「ではその世界の話を詳しく教えてほしい。報告書を纏めて提出するからね。できるだけ詳しく、明確に。茶と団子は私が奢るからね!」

カイニス「は?あー、そういや偉い騒ぎだもんなよく考えたら」

イニス『よく考えなくてもそうよ。本当にキリシュタリアしか頭に無かったのね…』
「気持ち悪い言い方してんじゃねぇ!!」

キリシュタリア「仲良しで何よりだ!情報は得難い、私は非常に恵まれている!誰も失わない為の対策を練れるのだからね!」

カイニス「わーったわーった、思い出すから待っとけ!あーと、なんだったか…」

…オレも、もう少しだけ頑張ってやるよ。

「そだな…ゴルドルフのクロワッサンはめちゃくちゃうめぇ。今度全員で食おうぜ!うめぇからな!」

だから、またな。

キリシュタリア「ふっ、ならば私は紅茶を振る舞うとしようか!」

イニス『記録に残るくらい美味しかったの…?』
カイニス「ああ、くそうめえ!」



だから、またな──

──マスター。

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