人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『王命である!ヘラクレス、アタランテ、メディアは今すぐ管制室にて待機せよ!特にメディアは必ずだ!』

「何よ、改まって・・・マリー。一応席を用意してもらえる?」

「は、はい」

「嫌な予感がする・・・」

「⬛⬛⬛⬛(同感)」


下敷き

「ヘクトールの船は!」

 

 

ドレイクが叫ぶ。見失ってはいない。少し離れた場所に――

 

 

――その小舟の側にある、神秘を孕んだ豪奢な船

 

 

 

「なに、あの船・・・」

 

 

「・・・わぉ。あれって・・・」

 

 

「とりあえず撃て!」

 

 

「いいんですかい!?」

 

 

「ヘクトールが逃げ込んだんだ!敵に決まってるだろ!先手を撃つんだ!急ぎな!」

 

 

「へいっ!」

 

 

瞬く間に放たれる『黄金の鹿号』の砲撃。大砲が唸りを上げ神秘の船を撃ち据える

 

 

――だが

 

 

「ダメですぜ姉御!まるできいてやせん!弾かれてしまいやす!」

 

神秘の偉容、傷を受け付けず。その高貴な輝きはけして翳らなかったのだ

 

 

「くそっ、どいつもこいつも・・・やっぱアレかい?船を燃やすには燃やした船をぶつけるぐらいの気概が必要なわけかい?」

 

 

 

 

 

 

 

「――すみませんがキャプテン、助けてもらえますかい?」

 

 

暢気な口調でヘクトールが声をあげる

 

「いいだろう。私は失敗にも寛容だ。流石に聖杯は確保しただろうな?」

 

「あーはいはい。聖杯ならここに確かに」

 

聖杯を手渡す。にんまりとイアソンが笑う

 

 

「よぅし!後は『女神』と『アーク』で総てが揃う!この私が、世界の王となる!はは、はははははははははははは!!」

 

「世界の王、ねぇ・・・」

 

 

「イアソン様、ならば彼らを打ち倒しましょう」

 

 

「そうだ、そうだねメディア!やってやろう!君が弟をバラバラにした時のように無慈悲に!容赦なくね!」

 

「・・・?変な事を言いますね、イアソンさまは。あぁ、あぁ、いまのイアソンさまはそうなのですね。はい。私、頑張ります」

 

「――うすら寒いねぇ・・・お互いがお互いを全く認識しちゃいない。・・・もっとマシに召喚されたかったなぁ・・・」

 

「その前に挨拶といこうか!『ヘラクレス』!」

 

「――⬛⬛⬛⬛⬛!!」

 

 

「あの寄せ集めのガラクタたちに、目にもの見せてやれ。我等世界を正す英雄の力を、世界を修正する怪物どもに!」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

飛来する巨岩、剛力にて放たれる原始の砲撃

 

 

「!」

 

「うし、ろに!がぁあぁあぁあ!!」

 

アステリオスの怪力にて、即座に岩が砕かれる

 

 

「ダーリン、アレって」

 

「あぁ・・・間違いねぇ」

 

 

『アルゴ、ノーツ――』

 

 

呆然とした声が通信より聞こえる

 

『し、師匠?』

 

『いや、うそ。そんな、まさか・・・――嘘、嘘でしょう?まさか、そこまで・・・』

 

『しっかり!お気を確かに師匠!』

 

『――そこまで、愚かな筈はないでしょう――!?イアソン――!!』

 

「アルゴノーツ、イアソン・・・!?」

 

――聞いたことがない。いや、見知った知識は英雄王の知識しか無いわけだが

 

 

「あぁ!御名答だコンチクショウ!金羊の皮を求め、結成された最強最古の海賊集団『アルゴノーツ』!あれは旗艦『アルゴー号』だ!」

 

オリオンが叫ぶ

 

「では、イアソンというのは・・・!」

 

 

『アルゴノーツを組み上げた、あの船の首魁だ・・・!戦闘能力は皆無だが、その弁舌とカリスマは英雄王を彷彿とさせるものを持っている、人の上に立つ怪物――!』

 

「⬛⬛⬛⬛⬛・・・」

 

『・・・では、その傍らにいる者は・・・』

 

『マスター!皆!撤退なさい!今すぐ、そこから離れるの!アレが来る!アルゴノーツということは、イアソンという事はアレがいるのよ!』

 

 

 

「――フッ。同じ半神同士、やはり縁があるか?」

 

――ついに、見えた

 

 

「なぁ――大英雄よ!」

 

 

 

「――⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!!」

 

大英雄、ヘラクレス――!!

 

 

 

「はははははは!!はははははは!!はーっははははははは!!!」

 

高笑いを上げながら、一人の男がこちらを見下ろす 

 

 

「では、彼が・・・!」

 

 

「あぁ、イアソンだ!ケジラミの方がまだマシな人格を持つ、オレといい勝負な屑野郎!ソイツがイアソンだ!」

 

「いあ、そん・・・!」

 

 

 

 

「不敬だな。退治が定めの牛頭風情が私を呼ぶとは。私の名前は畏敬と崇拝を以て呼ばれるべきだ」 

 

 

傲慢にこちらを見下ろすイアソンと思わしき青年

 

 

「――」

 

「せ、先輩?」

 

「あのイアソンって人・・・昔告白してきたイケメンにそっくり・・・」

 

「えっ!?」

 

「では、碌な相手では無かったろうな。アレは酷い。特に魂が見るに堪えぬ」

 

「あぁ、君が古臭い英雄王とやらかい?あぁ、本当に古いだけの貧弱な体つきだ!ギリシャでは指を指されて嗤われるだろう!そんな細腕や身体で治めた国は、さぞかしちっぽけだったんだろうね!」

 

――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「何、貴様には一歩譲ろうさ。『下敷き』よ」

 

 

「・・・・・・・・・あ?」

 

――口を開く。王が道化を口撃する

 

 

「聞こえなかったか?『下敷き』と言ったのだ、道化。国を追われ、ケンタウロスの馬蔵に押し込まれ馬糞にまみれ育てられ、なけなしの才気を養い様々な功績をあげながら、しかしけして望むものを手に入れられず夢の残骸に抱かれ圧殺された哀しき男よ」

 

「――テメェ」

 

 

「我には治めた国があり、治めた世界があり。治めた家臣があり、納めた財があり――ついでに言えば、我を称える部員がいる。貴様はどうだ?何か我に、勝るモノはあるか?英雄(ぐしゃ)、イアソンよ?」

 

「テメェ・・・!!!」

 

「あぁ・・・すまんな、たった一つあったな。――我はそのような、無様で惨めな生は送っていなかったわ。よくもまぁ、その貧相な生で英雄となれたモノよ」

 

海に響き渡る程の溜め息と、哀れみに満ちた視線を向ける

 

 

「真っ当な英雄ならば生き恥と理解(わか)ろうモノだが・・・夢の残骸と共に、己の矜持も潰してきたか?」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェエェエ!!!!」

 

 

火を吹くように激昂するイアソンに、哀れみの籠った目線を突き刺す器

 

 

――ずるい。自分が抱いた怒りや不満を、総て痛快に返してしまうのだから

 

「お前に何が!!何が解る!!貴様のように総てを手に入れた男に!!英雄『王』と名乗る貴様に!!お前に俺の何が解る!!!」 

 

「知らん。知ろうとも思わぬ」

 

「――――――!!!!」

 

「そら、もっと愉しませろよ道化。貴様の無様さには皆期待しているのだぞ?顧客の期待に応えよ。――まぁ」

 

ククッ、とこのうえなく酷薄に王が笑う

 

「一番愉快なのは・・・『下敷き』となった瞬間の貴様の顔だったのだろうがな。あぁ――間近で嗤ってやりたかったぞ。無様な放浪の果て、打ち立てた栄光に押し潰される貴様の――間ぁ抜ぅけ面をなぁ・・・!フッ、クククハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

「―――――――!!!!!!」

 

 

顔を憤怒に染め上げるイアソン

 

 

「そら、撤退せよ」

 

 

「!?」

 

――あぁ、ここからは手筈通りだ 

 

 

「これでヤツめは我を標的にしよう。ヤツは逸話を宝具として昇華している。12度滅ぼさねば死の淵より甦ってくる。総出でかかるのも面倒だ」

 

 

『――ヘラクレスが生前、成し遂げたと言われる12の試練』

 

『味方の時は頼もしいが、敵だとインチキにも程があるぞ・・・!』

 

――だから

 

「――総督。あんたが囮になるって言うのかい」

 

 

「フッ、殿を勤めてやるまでよ。戦の華と言うではないか。――ヤツの試練を、11度使い潰させてやろう。そこからは貴様らの仕事よ」

 

――そうだ。11回の生命のストック、総て自分が剥がして見せる

 

「おう、さま・・・!」

 

「行け、アステリオス。我の代わりに女神を護れ。貴様の裁定の刻は、今ではない」

 

――生きてくれ。アステリオス。その為に、ちょっとだけ頑張らせてもらうから

 

『ちょっと、正気!?ギルガメッシュ、いくら貴方でも無理があるわ!いえ、どんな英雄だって――!』 

 

「たわけ。我をそこらの、矮小雑多の英霊どもと同列に語るでないわ」  

 

――そうだ。ヘラクレスが世界で最も強い英雄ならば

 

 

「我は人類最古の始まりにして、絶対の王。英雄殺しの武器など有り余っている。――ヤツを食い止められるのは、我しかおるまい」

 

――この王は、世界で最も偉大な王なんだから

 

 

「ですが――!」

 

「行こう、皆」

 

マスターが、断固とした裁定を下す

 

「私たちじゃ『まだ』アレには勝てない。ここはギルに任せて、私達は活路を探そう」

 

「先輩・・・!?」

 

「――ギルが大丈夫っていうなら。絶対大丈夫。でしょ?」 

 

見つめてくるマスター。――その眼には、僅かな恐怖と、揺るぎない確信

 

「うむ。この我が盟約を違えた事などあるまい」

 

ぽふ、と頭を撫でる

 

 

「必ず戻る。そら、飴でも舐めておけ」

 

マスターに飴を手渡す。・・・震えながらそれを受け取るリッカ

 

 

「王の帰還を、楽しみに待っておけ。今までの奮闘、御苦労であった」

 

「――うん・・・!」

 

 

 

「――撤退だ!撤退するよ!全員船に乗りな!!」

 

 

ヴィマーナを取りだし、飛び移る

 

「近場の島で待つ!――死ぬんじゃないよ!総督!アタシたちの契約はまだ破棄されてないんだからね!」

 

 

「財の切れ目が我等の契約の切れ目、であったな。――確かに、まだまだ我の蔵には余裕がある。履行は続こうともさ。」

 

「――あぁ。リッカとマシュは任せときな」

「任せる。気張って護れよ。星の開拓者」

 

 

「英雄王!」

「おう、さま・・・!!!」

 

 

「ではな。アステリオス。その喧しい女神は任せたぞ」

 

 

 

――やがて離れていく、『黄金の鹿号』  

 

 

 

「――さて」

 

 

がっしりと腕を組み、大英雄に向き直る

 

 

「待たせたな、ヘラクレス」

 

「――⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!」

 

「――その身を犬畜生に堕させ友に顎に遣われるやるせなさ、多少は汲んでやろう。だが、我が前に立つと言うならば下される裁定は一つだ」

 

――財を選別する。総てが最上級のモノを、余すことなく

 

 

「来るがよい、大英雄。貴様が相手ならば、我が武器の撃ち甲斐もあるというもの」

 

 

「何をぶつぶつ言っている――!!末期の命乞いなどき――」

 

「――おいおい。俺も忘れるなよ」

 

――来てくれたか

 

 

「ひぎゅ――!!??」

 

無様な声をあげるイアソン。腹に、拳がめり込んでいた

 

「――嘘だろ、おい」

 

そこにいたのは――人類最速の英雄

 

 

盟約にて、同盟を結んだギリシャもう一人の大英雄

 

 

「兜輝くヘクトールが、本当に人類を滅ぼす側に加担するとはな。――複雑な心境だな。サーヴァントってのはままならねぇ」

 

すぐさま反撃に移るヘクトール。だがアキレウスはその槍を掴み、

 

「がっ――ぎゃあぁあぁあぁあ!!」

 

背後のイアソンに突き立てる

 

 

「悪いな。今の相手はお前じゃねぇ」

 

 

俊足の移動にて、ギルガメッシュの横に並び立つ

 

 

「間に合ったよな?」

 

 

「うむ。これより開幕だ」

 

 

「よし。俺がまずはいっていいか?」

 

「フッ。俊足の意地か?」

 

「何。一番槍は大事だろ?」

 

 

「許す。好きにするがいい」

 

 

「あぁ。――五回殺したら、後は任せたぜ」

 

「うむ。安心して滅ぶがよい」

 

 

――ならばこちらは、ヘクトールとメディアを見張っておかなくては

 

 

「イアソン。こりゃあ逃げた方がいい。うちらに万に一つの勝ち目も無くなっちまった」

 

 

「にげ、る、だと・・・!!ふざ、けるな!!たかが、ゴミ二人に、俺達の、頂点が――負ける、ものか・・・!!」

 

 

「――こいつは『単純な算数』の問題なんだが・・・参った。ここまで救えなくなってるとは。いつものあんたならすぐに解るだろうにさ・・・」

 

 

「いいえ、ヘクトール様。イアソンさまはこれでいいのです。イアソンさま、ね?」

 

「あたり、前だ・・・!殺せ!ヘラクレス!!!!」

 

 

 

「⬛⬛⬛⬛⬛――!!!」

 

「よし、じゃあ始めようじゃねぇかヘラクレス」

 

 

トン、トンと脚を鳴らす、アキレウス

 

 

最速(オレ)最強(おまえ)――ギリシャの頂点の争いを!オリュンポスの神々よ!我等の戦いを祝福したまえ――!!!」

 

 

 

――十二の試練に、王と俊足の英雄が挑む――!!

 

 

 

 

 




「――⬛⬛⬛⬛(この身に、理性と知性があれば・・・)」

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