人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オルガマリー警部「事件の傍に探偵あり。…あなた達には、猫探しだけしていてほしかったんだけどね」

リッカ「マリー!?そっか、マシュのイメージじゃ警部なんだ…!」

オルガマリー「まぁ、男社会での出世は大変だけど…イメージ?」

リッカ「あ、あぁこっちの話!…被害者はどうなったかな」

オルガマリー「背後から凶器で刺突され即死。傷跡から凶器は槍のように尖ったもの…厄介な事に、この中の住人全員槍の心得があるのよね」

ヒロインXX「争った形跡も無し、完全に不意を討って一刺し。冷静極まる一撃は寸分も狂いなし。この屈強なガイシャを鮮やかに殺してのけるプロの犯行ですよ。不謹慎ながら見習いたい程に!」

ナイア「本当に不謹慎な言葉は慎みましょう。今現在事情聴取を行っていますが、スルーズ、ブリュンヒルデ、オルトリンデの3名は恐慌状態で、事情聴取のプロに交代しています」

下っ端ニャル【あれはダメですね。精神鑑定必須の困惑ぶりだ。余程近しい者の死が、永遠の別離が堪えたらしい。ヒルドが気丈に振る舞い対応してくれて把握はできたが…】

リッカ「しっかりものなんだね、ヒルド」

ニャル【あぁ。大なれ小なれ動揺するかと思えば…ある意味ワルキューレでは、彼女が一番出来がいいのかもしれませんね】

ナイア「部外者と駄弁らないでください、おとうさ…調査員」

【うっす!】

オルガマリー「私達としては、名探偵の助力が欲しいけれど…マシュは?」

リッカ「あー、マシュは…」


名探偵マシュ!~決断編・決して動じず、揺らがない~

「………」

 

遂に起こった、待ちに待ったとは不謹慎な殺人事件。探偵が輝く血塗られた晴れ舞台。温泉卵の探偵、マシュ・キリエライトは…予想外にも、沈黙していた。いや、或いはそれが彼女の善性であり、本来の人格なのだろう。実際に向かい合ってみれば、人の死はあまりにも重い。

 

(彼女は勇気で恐怖を乗り越えるタイプでありましたからな。実際平和な世界ならばこうもなりましょう。しかし…)

 

しかし、彼女のイメージした世界であり精神空間であるというならば些か不明瞭な点をグドーシは感じていた。じゃんぬの存在は、誰かを貶めぬ彼女の善性として…『彼女に都合が悪い』事が多く見受けられるのだ。

 

(妄想、想像と言うものは大なれ小なれ都合よく、自身が主役として立ち回る大舞台。マシュ殿は純真故にもっとシンプルな世界観かと思いましたが、些か凝り過ぎでござるな)

 

創作や想像あるあるとしてまず『自分のやりたい事』を第一に、他がおざなりになるというパターンが見受けられる。先に見た次回予告はとても構成がシンプルで、ブリュンヒルデがドタバタコメディめいてシグルドを殺すギャグ時空めいた世界の筈だった。しかし今はシリアス一辺倒。死体にマシュが意気消沈し、当事者達は茫然自失。彼女はシャーロックホームズのファンではあるが、自身の想像に御都合を許さないタイプではない筈だ。探偵なのにスプラッタに弱く、自身に不都合なハンデがつけられているのは不可解な部分とグドーシは思案する。

 

(もしやこれは、例のギャラハマスク殿が介入し、リッカ殿と協力する為に改竄されたシナリオなのやもしれませぬ。そうであるならば…拙者はそう迂闊な事は出来ませぬな)

 

ギャラハマスクが見たいのは、リッカとマシュの協力であり、グドーシの活躍ではないとしたら。ここはあくまで作られた世界を念頭に入れ、彼女達を助力する事に徹せねば何が起こるともしれない。そう考えるグドーシは…やはりアルカイックスマイルで皆を見つめるのみであった。

 

「ほら、甘いものと紅茶よ。しんどい時は甘いものって決まってるんだから。リッカもマシュも食べなさい」

 

じゃんぬは特に動揺する事なく、リッカとマシュにパティシエの腕をふるいメンタルケアを行っている。彼女としてはこの四人が無事ならどうとでもなることでしかない。パニックになることもなく泰然と構えている。肝の据わった聖女は、強い。

 

「マシュ。探偵の出番だよ」

 

その強さの源泉であるリッカは、単刀直入にマシュに発破をかける。彼女には確信があった。今回の事件は、ギャグの弾みやいつものネタではない。間違いなく、シグルドは殺されたのだ。予期せぬ誰かに。

 

「証拠や根拠は私達が集める。あなたは探偵として、真実を掴むものとしてそれを毅然と真犯人に突き付けるの。そうして、事件の全貌を暴く」

 

「先輩…。私が、探偵として…ですか?」

 

頷くリッカ。リッカも気付いていた。マシュの狼狽ぶりと困惑ぶり。おそらく世界レベルの筋書きが異なっているのだろう。次回予告との差異、それが髄著に起きている。だが、だからこそ彼女を甘やかすわけにはいかない。

 

「…不安です。あれほど待ちわびていた事件なのに…いざ向き合うとなると、不安で…。仲良しに、幸せに見えていたあの家族の内、一人が殺人鬼だなんて。私がそれに立ち向かえるのか…」

 

探偵といえど、街のなんでも屋でしかなかったマシュに突き付けられた生死と悪意の発露。その退治と闇の暴露の恐ろしさに二の足を踏むマシュ。彼女の見ていた物語の世界は、こんなにも張り詰めている。

 

「それでも、やらなくちゃ。真相を解き明かして、犯人を突き止めて。第二、第三の悲劇を無くすために。犯人を野放しにしていたら、また犠牲者が増える」

 

だからこそ、リッカはマシュを叱咤する。あこがれから一歩踏み出したなら、探偵を名乗るなら。尻込みして知らんぷりは許されない。助手として、支えなくてはならないのだ。

 

「探偵の仕事の8割は決断、あとはおまけみたいなものだよ、マシュ。マシュは探偵なんでしょ?今真実を掴めるのは、あなただけなんだよ」

 

「先輩…で、でも。私に出来るでしょうか。真実を射止め、真犯人を暴く事が…」

 

「出来る。私がいるし、じゃんぬもいる。グドーシもいる。後はマシュ、あなたが決断するだけだよ」

 

リッカは断言する。慰めも励ましも必要ない。ただ肯定する。あなたなら出来る。皆がいると。ならばこそ、後はマシュ自身が選び取るのみだ。どうするべきか、どうしたいのか。

 

「名探偵を貫くか、負け犬になって逃げるか。マシュはどうしたいの?決断は、あなたがするんだよ。それが、探偵っていう仕事なんだから」

 

「先輩…」

 

マシュはリッカの力強い言葉を耳にし、飲み込み、そして勇気を奮い立たせる。名探偵と名乗った理由、それは自身への発破。ウソが本当になるように、自身の本当になるように。

 

 

──私は探偵になります!探偵になって、鮮やかに事件を解決します!

 

卒業式に、リッカに宣言した言葉。リッカは尋ねる。

 

──へえ?なんで探偵になりたいの?

 

リッカの言葉に、マシュは迷いなく答えた。

 

世間に潜む闇や悪を暴き、言葉無く涙する弱き人々を助けたいからです!どんな犯罪者も逃さない、正義の味方がいるのだと弱者の希望に、悪の警鐘になりたいんです!そう、それこそが──名探偵なのですから!

 

それこそが、名探偵を名乗る理由。自身の道を定めた始まりの誓い。

 

 

「…やります!先輩、私はやってみせます!大切な誓いを、果たすためにも!」

 

それこそが、名探偵の意味。誰かの力になりたいという、清い願いを思い出しマシュは決断する。

 

「みんなの力を貸してください!犯人の特定はまだですが、名探偵としてやりきってみせます!」

 

「──うん、よく言った!マシュ!」

 

リッカの激励に、奮い立ったマシュ。リッカはあくまでマシュを立て、彼女が自主的に頑張る形とスタンスを導いたのだ。

 

(自分に都合の悪い妄想するほどマシュはネガティブじゃない。多分、今の状況はマシュ以外の意志がある。メタ的な視点だけど、次回予告がヒントだったのかも)

 

グドーシと同じ理論を組み立てたリッカ。ならばマシュこそに華を持たせなくては、繰り返すや否かも解らない。自身が解決し、マシュを引き立て役にしては意味が無いのだ。

 

「決まりだね、じゃあ私の把握したヒントを伝えるから、マシュはきちんと覚えてね!グドーシは聞き込み、じゃんぬは証拠集め!私の推論が当たってるなら、犯人は大体あの人だから証拠を突き付けるだけ!」

 

「えっ!?もう犯人を突き止めていたんですか!?」

 

「ふふん、流石リッカ。どっちが名探偵か解んないわね?さ、指示をおねがい。なんだってするわ!」

 

「同じく。事件解決を示談の条件と致しましょうぞ」

 

「め、名探偵は私です!名探偵として、助手さんの意見を聞こうではないですか!」

 

四人は一致団結し、見据えた犯人への道を作る。マシュの考えていた誰も死なない名探偵の道筋から離れた、仕組まれたこの殺人事件を解決するために。

 

「うん、まずは──」

 

リッカは語る。そのヒントは、その答えは。既に初邂逅の時点から散りばめられていた事を。真犯人は、既に散らばった羽根が如くに撒き散らしていたのだということを──

 

 




ブリュンヒルデ「……」

ヒロインXX「心神喪失状態で自身が手にかけた事を覚えていないかもしれないので自首…ですか」

ブリュンヒルデ「お好きな様に裁いてください…あの人が、シグルドがいない世界に、居場所なんて…」

スルーズ「どうして、どうしてですかお姉さま!あんなに愛していたのに!愛がある限り死なないのでは無かったのですかシグルド!どうして!?」

オルトリンデ「どうして、こんな事に…どうして…」

ヒルド「責めても仕方ないよ。私達も、どうせいつものこと、みたいな油断と慢心があったんだから」

オルガマリー「…まずは、詳しく話を聞かせてもらいます。あなたとシグルドさんに、どの様な関係があったのか…」

ヒルド「お姉さま…」

マシュ「──『ブリュンヒルデお姉様は精神的に不安定で、常にシグルドを殺傷していた。弾みで殺してしまい、それを受け入れられずに記憶を改竄したかもしれない』」

ヒルド「?」

マシュ「常に殺してしまいそうな危うさはあった。彼女は人格的には破綻している部分が大いにある。──擁護の割には、随分とブリュンヒルデさんのイメージを損なう発言ばかりを致しますね、ヒルドさん」

ヒルド「探偵さん…?」

オルガマリー「ニャル、あなた聴取記録を漏洩したのね…!」

ニャル【あぁー!しまったぁ、書類をどこかに置いていたままでしたぁー!?】

ヒルド「何が言いたいの?」

マシュ「愛があれば死なないシグルドさんを殺せるもの、それは愛なき一撃。…もっと言えば『無感動』の一撃。──感情というものを全く介さない、極めて無機質な方のみが放てる一撃こそが、シグルドさんを討った。…それが出来るのは、この状況であろうとも微塵も自己が揺らがない、いえ『自己がない』ワルキューレのみ!」

ヒルド「……」

マシュ「犯人は──あなたです!ヒルドさん!!」

名探偵マシュの指が、無機質に首を傾げるヒルドを指し示す──

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