人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ちょっと長くなってしまいました、申し訳無い・・・

マスターにとって、ギルガメッシュのイメージが酷いことに

本当はそんな気のいいあんちゃんじゃ無いのよ・・・


気迫

ゆっくりと黄金の波紋から、一本の剣を引き抜く

 

 

何故か、かの騎士王……セイバーと呼ぶとして。かの王に対する膨大な詳細が、この器に記録されていた

 

そして、かつての記録と知識を読み取り、得ることで、器がかのサーヴァントに抱く感情がゆっくりと見えてきた

 

 

竜の心臓を得ているセイバーは、必然的に竜属性を殺す武器に弱い

 

この洞察を頼りに、引き抜くは竜殺しの原典となる剣、いつかの次元で『アレ』とは違うセイバーと切り結んだ際に使用したらしい

 

功績があるのなら有り難く使わせてもらおう。弱点を知ったなら徹底的に突く。名前すら無い無銘の自分に、余裕と油断は無縁であらねばならない

 

――真名を解放していないセイバーの剣はこの鎧を砕く事はない、ともある

 

――これはあまり充てにしない方がいいだろう。見据えてみたところ、一撃一撃、体捌きに至るまで膨大な魔力を噴出して万事を遂行している

 

フルアーマーであるからロケットの追突なぞ意に介さぬなどと豪語するほど、無銘に王の気風は染み付いてはいないのである

 

――鞘の無いエクスカリバーなど取るに足らぬ。とある

 

鞘……?エクスカリバーの鞘の事か?

 

困惑がもたげる。鞘が刃より強いなどと言う事があるのだろうか。抜き放った刃の収め以外に用途が存在すると?

 

もう少し詳しく知ろうと思ったが、頑として事の顛末が器に記されていなかった。何故だ・・・

 

目の前の黒き騎士王を見やる。――鞘らしき物体はどこにも見られない。この器の王が危惧する事態に陥ることは無さそうだ。胸を撫で下ろす

 

 

――手に入らぬからこそ、美しいモノもある――

 

 

……?

 

どういう事だ?森羅万象、古今東西あらゆる財宝を手に入れ、蔵に収めた王に手に入らないモノがあったというのか?本当に?

 

 

――それがこの不快感の正体なのか。それがこの苛立ちの原因なのか

 

――まさかとは思うが、英雄王は、あの騎士王に……

 

……一瞬だけ浮かんだ考えを打ち消す

 

心を暴くような下衆な真似は無しだ。戦闘情報ならいざ知らず。かつて抱いた感傷を掘り返すなど、紛れもなく不敬な狼藉だ

 

――繰り返す。自分はこの器を支配したいわけでも弄びたいわけでもない

 

どんな顛末があろうとも、この器には紛れもない経験があり、偉容があり、矜持がある

 

英雄王ギルガメッシュという存在に払う敬意と、未だ自分を弾き出さない度量に。無銘たる魂の自分はせめてもの感謝を忘れてはならないのだ

 

他人の褌を見せびらかす、恥さらしな真似はしないよう自分を律していかなくては

 

 

「随分と熟慮しているな。あの頭の悪い児戯のような戦法に飽きが来たのか?」

 

冷厳な声音がこちらを射竦める。心胆弱き者ならそれだけで狂死に追い込めよう迫力だ

 

 

「なに、貴様に相応しい血化粧の方法を考えていたまでの事。貴様から出でた鮮血、死人か蝋のごときその白肌にはさぞ映えようさ」

 

あくまで泰然とした物怖じしない物言い。決して揺らがぬ価値観と言うのは感服するが、それは決して好機や勝機を呼び込むことはない

 

 

むしろ――

 

「……安い挑発、乗ってやろう。吐いた唾は飲み込めぬと知れ、金色――!!」

 

当然、耳にした存在は激怒しよう。生来に染み付いた王道とその生き様に、敬服と呆れが同時に去来する

 

 

放たれたジェット機の如くに飛来する魔力の固まり。知覚すらできず並みの英雄なら叩き斬られ絶命するだろう

 

 

――舐めるな、黒色

 

 

「ぬっ!」

 

知覚より早く経験で腕が動き莫大な斬撃をすんでの所で受け止める

 

受け止めた剣から伝わる衝撃は間近で爆撃を受けるが如くだが――生命を脅かすには至っていない

 

出鱈目さや存在の規格外において

 

 

この王ほどの存在を未だ二つと知らない――!

 

「ほぅ……軟弱な細腕で我が一刀を小癪にも防ぐか」

「蝿が止まるわ。力にのみ振り回される野蛮な太刀筋なんぞ、見るのも汚らわしいぞセイバー!」

 

反応できねば致命となっていたのは事実だが。露と感じさせぬ器の言葉に気持ちを奮い立たせる

 

 

「……ククッ、楽しみだ」

 

ゴオゥ、とエンジンが始動するような音を皮切りに

 

「その虚勢が剥がれ落ち、いつもの憤慨を顕す貴様がな――!」

 

爆速にして凶悪な噴射と共に、猛烈な聖剣の乱打がギルガメッシュに襲い掛かる――! 

 

「ぬ、おぉおぉおぉおぉお!!」

 

無数の剣戟が火花を散らす。一合、二合、三合――刹那の瞬きに無数に交わされる致死の連戟

 

斬り結び損ねれば鮮血の大輪が咲く死亡遊戯の渦中にて、金と黒がぶつかりあう

 

その勢いは暴風となりて辺りを席巻し、大地軋み天を震わす大鳴動を巻き起こす

 

『凄いな、拮抗しているぞ!なんて器用な王様なんだ!慢心しないでやれば出来るじゃないか!』

 

ロマンが感嘆の声を上げる。何故か、英雄王には特別くだけた物言いを崩さない

 

「凄いです先輩!英雄王はアーチャーでありながらセイバーのアーサー王と斬り結べていますよ!」

 

 

「うん……!なんでも出来るんだね……!ギルって!」

 

マシュとリッカも、目の前に繰り広げられる凄まじい光景に興奮を隠すことなく気概を昂らせる

 

 

「お願い、勝って――!」

 

オルガマリーも固唾を飲んで見守る中、冷静に事を見守る戦士が一騎

 

「――準備しな、嬢ちゃん」

 

「え?」

 

突如口を開くクー・フーリンに、リッカがすっとんきょうに言い返す

 

「あの、準備、とは……」

 

「決まってんだろ。次戦のだよ」

 

 

「――負けるぜ、あの金ぴか」

 

「――え」

 

 

――無銘の失策、というのは語弊があるのかも知れない

 

肉体の戦法に未だ馴染まなかった、という物言いも確かにある

 

しかし、戦法を慣らす為に選んだ相手が、あまりにも近接に特化し過ぎていたのだ

 

 

 

「え、英雄王が負けるってどういうこと!?」

 

あまりに残酷な宣言に立香が聞き返す

 

「言葉通りだ。奴は弓兵、セイバーは剣士。アドバンテージの距離を一発でゼロにされちまった」

 

 

「でも、ああやって捌けてるじゃん!」

 

 

言う通り、まだ致命的な一撃を食らってはいない

 

――だが。あまりのセイバーの猛威に、ギルガメッシュは有効打を繰り出す暇すらないように見える

 

「捌けちゃいるがそれだけだ。宝具の解放も擲ちも、あの距離じゃあ間に合わねぇ。それにヤツは近接戦なんぞ滅多にやらねぇんだとよ。まあ無理もねぇわな。撃ってりゃ事足りるんだからよ」

 

キャスターが淡々と紡ぐ。歴戦の戦士の勘に基づいた、冷徹なまでの俯瞰による戦況分析を

 

「じり貧ってヤツだ。いずれ圧し切られる。あんだけ近けりゃ、アイツの十八番も、他の武器にも持ち換える暇も与えちゃくれねぇだろうさ。そういうヤツだ、今のセイバーって奴は」

 

 

「いずれ、首が飛ぶぜ。金ぴかのな」

 

 

「そ、んな――」

 

まるで、意味が解らない異界の言語を目の当たりにしたように、耳と心が理解を拒絶する

 

負ける?ギルが?

 

 

あの、偉そうだけど優しくて、おっかないけど心配してくれる英雄王が、負ける――?

 

 

負けたらどうなる?当然、消え去るだろう。生かして帰すほど慈悲の望める相手ではない

 

彼との出逢い、邂逅が脳裏に浮かぶ

 

 

――あなたは……

 

――や、我が知りたい

 

 

 

「……ギル……」

 

マシュ以外で、初めて召喚できたサーヴァント。召喚の時に冗談を飛ばして、私の緊張を解してくれたお茶目な王様

 

 

初めて見た時は凄く怖かったけど、右も左も解らない自分とマシュを護ってくれた。危ないからって、一人でサーヴァントを倒してくれた王様

 

どんなにみっともなくても、見捨てずに付き合ってくれた、怖くて優しい王様

 

 

消える?もう会えなくなる?本当に?もう二度と?

 

 

また召喚できる?それは本当に『今ここにいるギル』なのか?全くの別人じゃないのか?

 

 

嫌だ、そんなの嫌だ 

 

「……そんなの」

 

私は、英雄王ギルガメッシュが好きなんじゃない。サーヴァントとか、そんなの、全部どうだっていい

 

「そんなの……」

 

私の召喚に応えてくれた

 

 

マシュを励ましてくれた

 

所長を褒めてくれた

 

 

皆が仲良くできるようにって、飴をくれた

 

今ここにいる、私のギルが好きなんだ

 

 

召喚できるからなんだ

 

また新しく呼べるからなんだ

 

そんなの――私が肩を並べたいギルじゃない・・・!

 

 

『ここで一緒に戦ったギル』が、私には必要なんだ!

 

「ああっ!」

 

悲鳴のような声をマシュが上げる

 

 

――そこにあったのは、甲高い剣戟の音を最後に

 

「――あ」

ギルの手にしていた宝具が砕け

 

「ぁ――」

 

返すセイバーの一撃が、ギルガメッシュを切り裂いた瞬間だった

 

「――ギル――――――ッ!!!」

 

――

 

 

慢心ではなく、思い上がっていた

 

戦いで自らを査定すればいいと。戦法は次で確立すればいいと

 

 

――甘い見通しだ。人間ならではの甘い考えだ

 

 

上半身は繋がってはいる。だが、上半身の鎧は粉々に砕かれ、逆立つ髪は衝撃でしなだれている

 

 

「慢心していたのか否か理解は及ばなかったが、愚かとだけは言っておこう。剣の児戯などでこのブリテンの赤き竜に張り合おうとしたのが貴様の落ち度だ」

 

 

冷徹な声が響く

 

 

「――チ、おのれ……我ながら惑ったモノよな。遊びが過ぎたわ」

 

「殊勝な懺悔だ。いささかもの足りぬが、末期の言葉はそれで良いのだな」

 

……本当に感心する

 

呪詛でもなく、強がりを。不徳も不手際も自分が背負う、とは……

 

今回の判断を誤ったのは自分だ

 

剣を取った時点で負けていた。踏み込まれた時点で負けていた

 

剣戟に持ち込まれた時点で――負けていた

 

 

自分のどこかに鈍さがあった。敗因はそれだ

 

器はむしろ、よくやってくれた。あれだけの剣をよくぞ捌いてくれた

 

だが――その先の勝機を、自分が掴めなかった。それだけの話だ

 

 

「では、首を断ってやろう。迷うな――英雄王」

 

 

「――……」

 

――諦めるのか?ここで?

 

 

魂が揺らぐ

 

終わるのか?ここで?

 

 

魂が揺らぐ

 

 

消えるのか?ここで……?

 

 

魂が――

 

 

「――いや」

 

 

「――ここからが、我の本気よ!」

 

 

魂が――燃え上がる

 

 

「……ッ!?」

 

セイバーが右手に違和感を感じたのは、剣が振り下ろされる瞬間だった

 

「これは――!」

 

 

「フッ、これこそ我の秘中の秘!何かの間違いで絶体絶命になった際に最終的に我に勝機をもたらす至高の財宝!」

 

鎖、――そう鎖だ。

 

右手にがんじがらめに巻き付けられた銀色の鎖、英雄王ギルガメッシュが最後の頼みにする最終兵器―― 

 

 

「世話になるな!『天の鎖』よ――!!」

 

 

瞬時に剣を抜き取る。魔剣、竜殺しの原典を再び取り出す

 

「ぐっ――!!」

 

 

その一瞬の停止こそが仇となった。鎧を貫き、魔力を穿ち。セイバーの身体に深々と剣が突き刺さる

 

「フハハハハバカめ!我が素直に敗北を認めると思うか!王とは誰よりも図太くあらねばならん!過労死で死ぬなど論外よ!想像したくもない!」

 

「貴、様――!」 

 

「長々と講釈を垂れていたのが仇となったなセイバーよ!獲物の前で舌なめずりとは愚昧極まる!!砕けた我が鎧は惜しいが我の玉体さえ残っていれば些末な事だ――さぁ、返礼だ!」

 

黄金の波紋が空中に波打つ。その数、五門。

 

「存分に――味わうがよい!!これが真の弓兵と言うものだ!!」

 

弾丸のように設置された刀剣に宝槍が音速で放たれ、続けてセイバーの四肢に次々と突き刺さる

 

「っつ――!!」

 

 

四肢を害されようと息があるのは流石竜を名乗るだけある。鎖を押し退け、一瞬で距離を離す

 

――斬られたからなんだというのか

 

こんなもの、あのとき味わった無力感に味わえばなんてことはない

 

傷を負ったからなんだと言うのか

 

 

こんなもの、あのとき味わった空虚に比べたらどうってことはない

 

 

そうとも。この魂はやっと歩き始めたばかりなんだ

 

 

為すべきことを為すために

 

 

自らの生きた意味を残すために

 

 

第一、こんな傷を一々気にしていたら――

 

 

「さぁ、――しかと見よ!これこそ弓兵の極致!アーチャーたる我にのみ許された無二の射撃!」

 

 

――怖くても、不安でも歯を食い縛って頑張るマシュに

 

――自分の運命から目を背けずにいるマスターに

 

 

「貴様に我が至高の財、その一端を見せてやろう!」

 

黄金の波紋が波打つ。十、二十、三十、五十――総勢百門の波紋が

 

 

セイバーを『全方位に取り囲む』様に配置される

 

 

何より――

 

この器に宿った自分自身に――英雄王ギルガメッシュに!

 

「『王の(ゲートオブ)――――財宝(バビロン)』!!!」

 

 

申し訳が立たないのだから――――!!!

 

 

「――!!!」

 

 

無数の剣が、斧が、槍が、戟が。ありとあらゆる武具がセイバーに降り注いでいく

 

何をどれだけ吐き出そうとも決して尽きぬ至高の弾丸。あまりに無慈悲な絨毯爆撃

 

更に今回は――その総てが竜殺しの武器と厳選したラインナップだ

 

先程の失敗を省み、僅かな手心も与えぬよう、器が高らかに吠えている際に武器を必死に選別していたのだ

 

そう、英雄王の射撃が雑ならば、装填する弾を此方が選別すればいい

 

 

乱雑に放たれる無数の弾丸が敵に合わせたどれも致死に至る必殺ならば――それは質と量を合わせた至高の射撃に昇華する

 

王の慢心と無銘の用心を兼ね備えた無尽必殺射撃

 

ここに――宝具『王の財宝』は開帳を成したのであった

 

 

――やがて、霊核が砕け散るのを魔力の霧散で感じ取りながら砲撃を中断する

 

 

身体中をくまなく武器に突き刺されながらも、仁王立ちにてこちらを睨むその姿は不沈艦が如くだが

 

 

――静かに口を開く

 

 

「……無駄な武器の投擲なら弾き返してやったものを、竜を殺す武器を総動員されては是非もない」

 

「貴様へのせめてもの手向けと思え。――雑念さえ纏わなければ、その斬撃で仕留められたものを」

 

「――貴方にもいずれ解る。英雄王」

 

 

「聖杯を巡る旅――グランドオーダーは始まったばかりと言うことを」

 

「――」

 

何を、と訊ねる前に、黒き騎士の王は消滅した

 

 

……強かった。彼――いや、彼女もまた、自分の魂を鍛え上げる強き英雄だった

 

その魂に感謝を。願わくば、また別の形で見えることが叶わんことを――




長くなってすみません!

おっ!(エルキ)友ゥ――!

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