エミヤ「この世界には、一つの予見が成されている。それはギルガメッシュ校長を始めとした千里眼を有す者の見た未来…終末の獣とその配下、そして七体のビーストが世界を滅ぼすという予見…」
グドーシ「なんと」
「その未来に対抗するため、学園そのものを『聖杯』として世界からサーヴァントを招き、それらと共に戦う人材…即ちマスターを育成する為の機関として設立されたのがここ、タイプムーン学園だ。相性の最高とされるパートナー達を作り上げ、来る厄災に備える。世界の破滅に立ち向かうサーヴァントの力を引き出す力を持つものが、マスターと呼ばれる存在だ。解ったかね?」
「委細承知。素晴らしく解りやすい説明でございました」
(…ここもギャラハマスク殿の介入なのか、はたまた凝り性のマシュ殿の自前か。非常に悩ましいですなぁ)
エミヤ「…──グドーシ君。一つ言っておくぞ」
グドーシ「?」
「私は味方だ。何でも相談したまえ」
グドーシ「エミヤ殿…」
「いたいた!おーい、じゃんぬー!」
先生に言われ、蹴り壊された立ち入り禁止の立て掛けの無残な状態の扉を開ければ、そこは突き抜ける晴天に近しい屋上空間。最近の学校では立ち入り禁止にされているイメージに則ったのか、魔女に壊された秩序の門をくぐり抜ければ、そこには空を見つめる黒い…いや、着崩した制服のヤンキー魔女。
「あ、リッカ。ちょうど会いたかったの。ほら、隣にいらっしゃいな」
給水塔の上でぼんやりしていた目付きの鋭いジャンヌ・オルタ。リッカを見つけ人懐こい黒猫状態になり手を振り返す。当たり前の様に隣を示す辺りはリッカとマシュの解釈一致が目覚ましい。言葉の通り、ジャンプで数メートルある頂点へと飛び立ち隣に座る。
「不良サーヴァントに付き合わせちゃってごめんなさい。でも、どうしてもなんか…」
「やる気が出ないってヤツ?」
「そう、それ。学園生活自体は嫌いじゃないのに…なんだかやる気が出ないのよね…だからこうして、空を見に来てるの。しょっちゅう」
空は晴天、流れる雲はのんびりと流れている。傍目から見れば息を呑む程の美人であるじゃんぬが、覇気のない猫の様に仰向けに寝転がりアンニュイ。たわわな胸が重力に負け外側に逃げている。ノーブラ。天然物の胸は外側に逃げシリコンは内側に寝転がった時に寄る。ノーブラは型崩れするのでサーヴァント以外の方は真似してはいけない。リッカのおっすご豆知識。
「なんで悩んでるのか、当ててあげよっか。周りにいる希望と夢に満ちた生徒さんを見て、自分の将来に思うところが出来たとか」
「…エスパー?」
リッカからしてみれば、この程度難題でもなんでもない。高校生とは多感な時期。目標に邁進する生徒もいれば、今のダラダラした時間が何より愛しいという生徒もいる。だが後者は今が楽しければいいという意思の下過ごしていて、実際卒業後の付き合いも続き疎遠になる可能性の薄い交遊を築ける場合も多いが、今のじゃんぬの悩みに陥りやすい。『今のままでいいのだろうか』
「…私、サーヴァントとしての今年の指名もゼロだったわ。アヴェンジャーだから気難しそうとか、魔力消費とか、人格面とか…色々アレなんだって」
「ありゃりゃ…」
「まあそれはいいわ。別に評価なんてどうでもいいし。単位落としたりしなきゃ卒業は出来るし。リッカみたいなマブダチやグドーシとかの信頼できる友達もいるし。…でもさ、思うのよ。楽しい今が続くのはあと一、二年。そこから先はどうなるの、って」
リッカの膝に頭を乗せ、覇気のない表情で彼女は空を見上げている。彼女は怠惰に堕ちきれる程、愚昧になれない真面目さと聡明さを持っている。
「リッカもグドーシも、自分の道を見つけるじゃない?絶対素敵な人生送るじゃない?もちろん応援するけど…じゃあそうなった時、私に何が残るのかなって。いつまでも一緒にいたいけど、あなた達の重荷になったら嫌だし。だからって今から頑張る気にも…なれない、かもだし」
「……」
「ついつい考えちゃう訳よ。私、このままふわふわしたまま過ごしていいのかなって。でも、それを変えたくても何をしたいのか解らなくて。で、またズルズルと似たような日々の繰り返し。なんとかしたくても、どうしてもダメで。…ユーウツと自己嫌悪で、倦怠っていうか…やる気が起きないのよね…」
何故リッカがこうも既視感と馴染みが深いのかというと至極単純。高校生時代に何度も聞いた悩みだからである。やる気が出ない、将来が不安。今の人類は自分たちの事しか考えていない。我が身を傷めぬ勝利が何をもたらす…アイデンティティの揺らぎは高校生ならではの悩みだ。リッカはそれはたくさんの同級(たまに先生の)悩みを聞き届けてきたのである。
(この時言っちゃだめなのは『らしくない』『忘れちゃいなよ』なんだよね。聞く側が思うよりずっと根が深いし、聞かせる相手への信頼が深い証拠だから)
パーッと忘れちゃいなよというのは問題の先送りであり、悩みの解決策では断じてない。らしくないというのもまずい選択だ。普段は見せてくれない表情を見せてくれるのは、紛れもなく腹を割って話せるという証である。それをらしくないというのは相手の信頼への裏切りにも等しい扱いになる。普段が勝ち気で男勝りだからといって、可愛いのは似合わないと人形を渡さないのは惨劇フラグである。
(この場合は──)
リッカコミュニケーションの秘奥をもって、じゃんぬの悩みを取り去ってくれよう!意気揚々と言葉を紡がんとした、その時だった。
〜
私があなたと一緒に生きる!
あなたの全部を私にちょうだい!
あなたは私の【運命】だから──
〜
(選択肢が!?)
リッカの脳内に浮かび上がる選択肢。それは彼女が選ぶべき、じゃんぬに向ける激励──なのだが、非常に雄々しく男らしい。一生責任を取るレベルの一大告白である。
(…これは間違いなく、ルートフラグ確定の選択肢。選べばどうなるかは未知数。しかしっ!じゃんぬにおいて腑抜けた選択肢をするはじゃんぬを推しにする私の全てを裏切る事になる!)
ならば!とリッカの選択は三つのうちの一つを──などといった選択ではない。選ぶといった選択ですらない。
「ならじゃんぬ。私と一緒に生きよう!あなたの全部を、私にちょうだい!」
「──えっ?え、えっ…!?」
脳内の選択ウィンドウをぶん殴り、選択肢を粉砕し、選択肢ではなく一つの答えとする。そもそも誰かに用意された選択肢等でコミュニケーションをするなどありえない。それが大切で、自分の半身とも言える存在なら尚更だ。
「あなたが嬉しいときは一緒に喜ぶし、あなたが哀しいときは一緒に悲しむ。悩みには解決するまで一緒に悩むし、解決できたら答えに向かって一緒に進む!生きる理由や人生に意味が見出だせないなら、私があなたの運命になってみせる!一緒に見つけよう、生きる意味を!」
全身全霊、最早退路など存在しないとばかりに紡ぐ言霊。じゃんぬは茹で蛸のように真っ赤だが、言葉に偽りなど介在していないことは明白なので、ただ想いの暴力を受け止めることしかできない。
「だからじゃんぬもなってほしい!私の【運命】に!一緒に生きよう!これから先、ずっと!」
どこの世界であろうと、どんな場所であろうと。リッカが初めて自分から求めたサーヴァントはじゃんぬである。その想いを阻むことも、偽ることも決して叶わない。例えそれが、再現された存在であろうとだ。まず初めに攻略するべき半身、それがリッカにおける。じゃんぬなのである。
「う、ぁ、あの、その。あの…その、えっと…」
アイデンティティの揺らぎに悩んでいたところに叩きつけられる、全肯定の暴力と誓約。私なんて誰にも必要とされてないのよね…的な憂鬱に叩き込まれるドクターマリオのメテオばりにクリティカルな特効薬。憎まれ口も、取り繕いも意味をなさない。
「じゃんぬっ!」
「あ、あぅう…」
極めつけに両手を握られ、じっと目を見つめられればそれは最早心の城など全開門。親友とされる相手だからこそできる口説き落としと殺し文句。極めつけにコミュニケーションが最大の武器とされるリッカ必殺の言霊のデンプシーロールの直撃。ふっじまる!ふっじまる!なラッシュを叩き込まれ──
「…な、なるわ。あなたのものに…あなただけの、魔女に…サーヴァントになる…だから、ずっと…よろしくね。リッカ…」
(よぉし!!)
結論・ヌクモリティを求める寂しがり屋な猫は全力で小細工抜きで愛し抜く。骨抜きにされたどたどしく上目遣いで手を握り返してくるじゃんぬを見て、リッカは自分の武器が決して奪われていない事を確信するのであった──
じゃんぬ「(照れ悶えている)」
リッカ(こんな風に、マシュとも絆を結べばいいのかな。だとしたらマシュとも何かしらきっかけが出来なきゃいけないはずなんだけど…む?)
じゃんぬ「(過呼吸を起こしかけている)」
「じゃんぬの頭の上に…ハートマークが!」
(これはつまり、攻略完了の証!?つまるところマシュの頭にも、完堕ちの証を上げればクリア…なのかな)
「じゃんぬ大丈夫!?」
(となると、イベントが起きる相手を注意深く見なきゃ…って、ん!?)
その答えを導き出した瞬間──リッカの目に飛び込んでくる景色。それは…
リッカ「ま…まぁ…人生が一番自由度高いって言うしね…」
広大極まる学園寮を埋め尽くす、!マークの吹き出し。全員に用意された、攻略フラグの証に、リッカは圧倒されるのであった…
じゃんぬ「(昇華されるじゃんぬ)」
リッカ「じゃんぬ大丈夫!?」
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