人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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私には、憧れている人がいる。

その人は真っ直ぐで、快活で、優しくて、素敵で。一度知ってしまったら、忘れる事が出来なくて。

とても、とても眩しくて。とてもカッコよくて。

いつだってあの人は中心にいる。誰もがなりたいセンターに、『皆があの人になら大丈夫』と太鼓判を押すくらいに愛されている。


初めは眺めるだけで良かった。見ているだけで幸せだった。

けれど気がついたら、『一緒にいたい』と感じる自分がいて。

自分なんかが近寄っていい筈がないと、自分に言い聞かせて。それでも、とやっぱり、を行き来する日々。

苦しくて、切なくて。でも、それを打ち破る勇気も持てなくて。

だから私は、あの人を遠巻きに見つめている。

あの人を見ているだけで幸せだと、自分に言い聞かせて。

…いつか、何処までも羽ばたくだろうあの人に、ほんの少しでいいから。

『一言』でいいから。あの人に何かをできる瞬間を、来ないはずの瞬間を…ずっとずっと待っている。

ずっとずっと…待っている──


藤丸リッカは告る!!

「おはよー!」

「リッカ、おはよう!今日も頼むよー、学園の星!」

 

通り過ぎる生徒達のほぼ全てがリッカへ挨拶を交わす。ハイタッチ、肩叩き、走り抜け。様々な対応なれど、そこには溢れんばかりの親愛が満ちている事を確かに感じリッカは一つ一つに誠実に返していく。

 

「流石の人徳でございますな、リッカ殿。親友として実に誇らしくありまする」

 

「話しかけやすいイメージって大事だからねー。ほら、気安く分け隔てなく話しかけられる相手はついつい頼っちゃうみたいなアレ。マシュの再現精度、ギャラハマスク付きでも凄いレベルだよ。職員さんやみんなをいっぱい観察したんだろうなぁ…」

 

(ギロッ)

 

「ひぃっ!?」

 

(ギンッ)

 

「し、失礼しました〜!」

 

「そして、パートナー以外に決して懐かぬ大きな闘犬の如きじゃんぬ殿がこちらです」

 

グドーシの言葉通り、リッカやグドーシに不必要に近付く輩を片っ端から威嚇して回っている黒き魔女がじゃんぬことジャンヌ・オルタ。リッカに完全攻略されたわんこ系アヴェンジャーは、二人に接近しようと試みる者達を片っ端から睨み殺さんばかりの目線で追い散らす。彼女は徹頭徹尾、リッカ以外に預ける心身を持たぬ理性ある狂犬の生き方をしているのであった。

 

「じゃんぬ!眉間にシワが寄っちゃうから威嚇はめっ!」

 

「わ、解っているわ。別に独り占めしたくて追い払ってる訳じゃないの。いえ、独り占めしたいけど!リッカの事!」

 

「わかりみ、いと深し」

 

(ほら、リッカとグドーシはなんだか隠してる秘密があるんでしょ?私が追い払っておくから、今日の過ごし方をしっかり話し合いなさい。なんとなくだけど、この学園生活の他にやることがあるんでしょ?)

 

その理解の深さと献身ぶり、紛れもなく本物と言っていい程のじゃんぬっぷりである。どうやらマシュにとってじゃんぬはどんな人物なのか、明々白々である。

 

(ありがとう、じゃんぬ…。どこでもいつでも私を、皆を助けてくれるんだね…)

 

(黒は決して邪悪ばかりでなし。ピータンも味は最高ですからな。──リッカ殿、拙者はエミヤ殿と接触するでござるよ)

 

(エミヤ先生と?)

 

(困った時には、正義の味方でござる。拙者と手分けして解決に至りましょう。リッカ殿が会うべきは…無論、胸に刻まれておられますかと)

 

それはもちろんと、リッカは頷く。そう、じゃんぬをチュートリアルヒロインに配置し全キャラにフラグルートを用意した凝り性のドリームマスター、マシュである。話をしなくては、無論ながら話にならない。きっかけを掴むためにも、どうしても対話を果たさねばならない相手だ。

 

(それでは、情報を集めまた昼休みにて合流いたしましょう。じゃんぬ殿とはクラスが同じな故、共に参りますので御安心を)

 

「勝手に写真撮るな!肖像権侵害でケツの毛まで毟るわよこらぁ!」

 

「ひぇえぇ!ごめんなさーい!?」

 

(うん、よろしくね!…むっ)

 

視線!リッカが感じた方向へ弾かれるように目をやると、遥か数十メートルの木陰にて慌てて引っ込んだ影を捉える。見間違える筈もない、あの謙虚なSilhouetteは紛れもなく…

 

(なすび発見!グドーシ、じゃんぬ!またあとでね!)

 

新聞部を締め上げているじゃんぬをグドーシに任せ、猛烈なスピードで駆け抜けマシュを追いかけるリッカ。グドーシはその背中を見据え、穏やかに手を振る。

 

「ご武運を。さぁじゃんぬ殿、サーヴァント組も登校でござるよ」

 

「フィルム寄越しなさい、焼くから。そういうのは直接頼みなさ…えっ?あ、解ったわ。グドーシ」

 

(…リッカ殿と近い印象を懐いてくださっているのは実に僥倖。そちらは任せましたぞ。リッカ殿)

 

魔女を宥め執り成す覚者として、彼女の道行きを祈るのであった。ちなみにカメラとフィルムはきっちり粉砕された。

 

 

「はっ、はっ、はっ…はぁ、はぁ…」

 

一方こちらは、眼鏡を掛けた儚げな紫色の髪と発育のよい肉体を兼ね備えた理知的かつ消極的な印象を持つ少女。肩で息をし下駄箱にもたれかかる少女…マシュ・キリエライトその娘である。

 

「せ、先輩に気付かれてしまいましたでしょうか…」

 

下駄箱からそっと来た方向を振り向く。追ってきた様な人影は見えない。良かった、バレなかった。そっと胸を撫で下ろすマシュ──しかし。

 

「何処を見ているッ!私は此処だ!」

 

「ひゃあぁあぁ!?」

 

下駄箱を足場に、マシュを見下ろす覇気みなぎる少女。そう、藤丸リッカは既に物理的に優位に立っていた。マシュの視線、意識、盲点など手にとるように把握している為、樹木のカバーリングからの校舎の窓から先んじて侵入、ミスディレクションからの屹立仁王立ちなど朝飯前であるのだ。およそ意志の介在する全てにおいて、研ぎ澄まされたリッカの一挙一動を見切る事、欺くことは不可能に近い。

 

「知らなかった?藤丸リッカからは逃げられない…!」

 

とう!とヘビーアームズめいた回転捻りを加え着地するリッカ。眼前に現れた先輩への対処は、リッカが知るマシュとはやや異なるものであった。

 

「あ、あわわ…せんぱ、先輩…こんな、近くで…!」

 

腰を抜かし、眼鏡をずり落としかけ見上げている。その反応は完全なる──畏怖、であった。

 

「…?あれ?」

 

そしてリッカは再び違和感に気付く。──この夢に脚を踏み入れ、じゃんぬと絆を結んでから見えた、絆のきっかけを示している頭上、或いは胸の!マーク。それは先の生徒達、はたまた無名の存在にすら浮かんでいたものだったが… 

 

(マシュには…浮かんで、ない?)

 

そう、マシュには何処にも『浮かんでいない』。フラグ管理の証であるそれが、何処にも見当たらないのだ。それはつまり、フラグ管理が出来ずルート開放が成されていないと言う事。通常の場合、不足や至らぬ部分があり開放されていないと言うのが通例だが…

 

「大丈夫?」

 

「えっ!?」

 

そっと手を差し出したところ、マシュは全力で握り返す程の力を込めリッカの手を取り、慌てた様子で立ち上がる。その様子は動揺を通り越し、最早狼狽であった。

 

「あ、あの、あのっ!り、リッ、リッ…藤丸、せんっ、ぱい…ぱい…ぱい…!」

 

「おっ、πの話?」

 

「し、しし…失礼致しましたーっっ!!」

 

角度90度、美しすぎる最敬礼を披露し一目散に駆けていくマシュ。眼鏡が最早フチでひっかかっているレベルのずり落ちっぷりだが、彼女は一顧だにせず駆け抜けて去ってしまった。その反応はガンガン押せ押せななすびに慣れきっていた今のリッカからしてみれば懐かしく、そして何よりも…

 

「…そんなによそよそしくしなくっても…」

 

少なからず、マシュに距離を置かれた事は事実なので。多少なりとも凹み案件になったのであった。そして、それと同時に──

 

「──ううん、燃えてきた…!今回はマシュが焦らして私が追いかけるって訳ね!よーし…!」

 

燃え滾るガッツが湧き上がる。当然ながら、彼女は絆において妥協などあり得ない。リッカは最近全肯定されて来たが、本来は距離を詰め全肯定するタイプなのだ。だからこそ。

 

「あなたを先輩最高ですしか言えない様にしてあげちゃうからねー!よぉし!やるぞーっ!!」

 

決意を燃やし、闘志を滾らせ。マシュの完全攻略を誓うリッカ。彼女にとって、心のスペースの取り合いは告った方が勝ちだの負けだのは関係無い。

 

「最終的に──!仲良くなれれば良かろうなのだァーーッッ!!!」

 

課程や方法にも妥協せず、通じ合い繋がり合う。それこそがリッカの生き様。その生き様を誰よりも伝えるべき後輩に示す為に。リッカは気合を入れ直し──

 

【■■■■■■…!】

『キャウ!』

 

「ファッ!?ロボ、ブランカちゃん!何故──」

 

校舎を巡回していたブランカにじゃれつかれ、ロボにやかましいと頭を甘噛みされくっきりと歯型を付けられましたとさ──。

 




職員室

エミヤ「多人数ときっかけを作るにはどうすればいいか、かね」

グドーシ「えぇ。例えるなら一歩を踏み出せない方が自然に話しかけられるようなシチュエーション、誰にも遠慮せず、邪魔されることのないきっかけ…そのような手段を、今模索しているのでござる」 

じゃんぬ「えーと、アヴェンジャーはルーラーに強くて…ムーンキャンサー…月の蟹?月に蟹なんていたかしら?」

エミヤ「ふむ、そうだな。これはあくまで私の実体験であるのだが…放課後のグラウンドというものは、何かをしていれば誰かしらの目に入るというものだ。ただの一日、結果も出せず何のためにやったのかもわからん愚行も、ね」

グドーシ「ほう、ジョギングなどでしょうか?」

「ただ走るだけではやや弱い。そうだな。例えば──『跳躍』し『記録』に挑むものならば、応援してやりたくはならないかね?」

じゃんぬ「えっ、アルターエゴって弱点ないの!?何よその面倒なクラス…」

グドーシ「…それは、例えば」

「フッ──チャイムが鳴ったな。さぁ、戻りたまえ。それと、君にはこれを渡しておく」

『体育倉庫の鍵』

「放課後にでも片付けておいてくれたまえ。なんなら、器具の調子も記録してもらえると助かるよ」

グドーシ「!」

エミヤ「さぁ、ジャンヌ・オルタ君も行きなさい。よい一日を」

じゃんぬ「わかっ…解りました。ほら、グドーシ」

グドーシ「えぇ。…」

(…やはり掃除屋などより、そちらの方が似合っておりますぞ。エミヤ殿)




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