人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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きっと、お前は立派なマスターになるな。そんなお前を兄として支えることを誓うよ、マシュ




タイプムーン学園に、特待生として二人の席が用意された!もう少しで編入できる!やったな、マシュ!僕達の頑張りが、認められたんだ!これで、人生が暗いものと諦めなくていい!自分達の力で切拓けるんだ!明日を!



安心しろ、マシュ。お前の兄が必ずお前を──



お前は、生きろ。マシュ。この力を、お前の為に使うんだ。

大丈夫。それは元々、その為の力だ。お前を護る為の力なんだから。

兄はお前を愛している。だからお前は──幸せになってくれ。

お前の幸せを、祈っている。さぁ行くんだ、マシュ──



【妹さんが生き残ったんだって?】

【そりゃあ、全滅よりは良かったけどさ…】

【兄さんの方じゃ無かったのか。勿体無い】

【なんで、兄さんが死ななくちゃ駄目だったんだろうな】

【どうして、妹の方だったんだろう──】

…その通りです。その疑問は、私がずっと知りたいもの。

どうして、私だったのですか?兄さん──


選ばれし盾、選ばれた者

「お昼時くらいは、気持ちを上げないともたないぞ。マシュ君」

 

清掃員兼、サーヴァント科の用務員である教師エミヤはとある場所に足を運んでいた。其処には、この学園にて居場所が無いと自分を声なく責めている者が一人沈痛な面持ちで時間を過ごしている。

 

「あ、先生…。すみません、私…」

 

彼女の名前は、マシュ・キリエライト。このタイプムーン学園において珍しい…いや、唯一といっていいサーヴァント様式、デミ・サーヴァントなる少女だ。儚げな雰囲気を湛え、その眼差しを何をするでもなく冷めた弁当に落としている。彼女は、この学園において中々に稀有な存在である。人間でありながら、彼女はサーヴァント科にて教育を受けている。彼女自身が要望した在籍ではあるが、エミヤはその選択に彼女の気持ちが付いて来ていないことを見抜いていた。

 

「君が編入されてきたのはいつだったか。…この学園は、身寄りのない君の保護支援も兼ねている事は理解しているね?」

 

エミヤの言葉通り、マシュは学園寮に住み込みで通っている孤独の身である。母はおらず、父とは早々に別れ彼女は一人で生きてきた──いや、正確には今は一人、ではあるが。

 

「はい。その事には、大変感謝しています。この学園に来る事は…兄さんの、夢でしたから」

 

兄さんの夢。そう告げる彼女の表情は暗い。彼女には兄がおり、いつか共にサーヴァントとマスターとして未来を生きようと約束した程に良好な関係を築けていた。誰もが彼女達の躍進を信じて疑わなかった。…だが。

 

「…その兄さんは今、君の中にいる。君を助ける為に…テロ被害から君を護り、瀕死の自分の全てを君に託したのだったね」

 

彼女は元々はサーヴァントではない、人間そのものだった。特別に編入が決まった際もマシュがマスター科、兄がサーヴァント科に入るものと決まっていて、互いが互いを支え合うものと信じて疑わなかった。

 

しかし、彼女らには突然の別れが待っていた。彼女達が祝いの席をレストランで挙げていた所、テロリストがビルを占拠し立て篭もったのだ。即座に避難しようとした所──

 

「突然、ビルが倒壊してテロリストの皆さんは圧死され…私と兄さんも巻き込まれました。…兄さんは私を護る為に力を使い続け、満身創痍になって…」

 

彼はサーヴァントとして非常に強い力を持っていた。タイプムーン学園の管轄外にいる数少ないサーヴァントとしての立場を持っていた彼はマシュを妹として愛し、その為に力を振るった。しかし、マスターがいない状態で過度の力を使い果たした彼は、文字通りに命を使い果たしてしまったのだ。

 

「そして、君を無事に助ける為に全ての力を君に託し、君はデミ・サーヴァント…英霊と一体になる稀有な存在へと変化した。それが、今の君の在り方だね。マシュ君」

 

人間でありながらサーヴァントであり、サーヴァントでありながら人間。どちらでもあり、どっちつかずの存在となったマシュ。その評価は、落胆と好奇が占めていた。

 

「元々、兄さんは多大な期待を寄せられていました。兄さんと一緒に戦いたいと願うマスターの皆さんや、勧誘したい企業の皆さんは既に数多くいました。でも、それを兄さんは私の為に…断り続けてくれていました」

 

「あぁ。僕には既に護るべき者と進むべき道があると常々言葉にしていた。それは君の進路や未来を自身に巻き込ませないための判断だったのだね」

 

そう、兄は妹であるマシュを重んじ、尊重し、彼女の人生を愛し祝福し続けた。いない母、股間の弛い父からも、世界の理不尽からも守り抜かんと自分を律していた。その高潔さは、誰もが話題とするところだった事をエミヤは把握している。

 

「だからこそ…兄さんが亡くなってしまった、消滅してしまった事は皆さんへ衝撃を与えました。そして私が、その力を受け継いでしまった事への疑問も」

 

兄は誰からも期待されている存在だった。一人で妹を護り、世界を救う盾となるエクストラクラスであり、唯一無二のサーヴァントとして大いに期待を向けられていた。それを──世界の理不尽さが奪っていき、その損失を妹が食い止めた。世間はそれを美談として扱いはしたが、もういない兄と彼女を比べるものが現れるのもある種必然ではあったのだ。

 

「何故、兄が死ななければならなかったのか。彼だけなら助かったのではないか。彼だけだったなら、誰も死なせなかったのではないか。…何故、兄が逝かなければならなかったのかと。私は連日声を聞いていました。それは当然…私も感じています。皆さんの哀しみも、郷愁も…本音も、解ります」

 

「……」

 

「何故、兄だったのか。それはつまり…『何故私では無かったのか』ということ。逝去や退場を望まれていたのは兄さんではありません。…私です。私こそが、兄の代わりに命を失えば良かった。皆はそう、言っているんです」

 

デミ・サーヴァントとして兄の力を受け継いだマシュだったが、その力は兄と比べれば遠く及ばず、並びに極めて不安定な存在であり、タイプムーン学園においても成績は中ぐらいの成績だ。学園に来る前に浴びせられた言葉は、マシュを未だに縛っている。

 

「どうしてあの子だけが。あの子は何故兄を犠牲にしたのか。あの子ではなく、兄が生き残っていたなら。…皆さんの気持ちは、解ります。だって…」

 

そう、彼女は同じ気持ちだった。自身ではなく、兄が生き残っていたならとずっと思っている。自分では兄の力の半分も引き出せていない。タイプムーン学園のサーヴァント達に負けない力を有していながら、その力を振るうのが自身であるという事が全てを台無しにしてしまっている。それを痛感しているのは、紛れもない自分自身なのだから。

 

「……大衆の心理というものは、どうしても残酷になりがちだからね。君のように特異な運命を歩むものには、特にだ」

 

「…このままではいけないと解っています。私も、自分は変えたいです。あの人みたいに、まっすぐに誰かと触れ合える…ありのままを見てくれるような方と一緒に歩むことが出来たなら、とも考えました」

 

それが、憧れとして現れた。その視線の先にいるのは、どんな相手とも分け隔てなく触れ合い、絆を結ぶ事の出来る彼女なら、或いは期待したのかもしれない。兄の、そして自分の事を真っ直ぐ見てもらえるかもしれないと。

 

「でも…私はあの人に好いてもらえるような愛嬌も、実力もありません。先輩と一緒にいて、あの人にしてあげられる何かが何も無いから…私じゃダメなんです。兄さんだったなら良かったけれど、私では…」

 

「…」

 

「…先生。何故、私だったんでしょうか。優秀な兄ではなく、兄に護られてばかりだった私が、何故今こうして、兄の人生を生きているんでしょう」

 

その答えに、エミヤは相応しい答えを告げる事が出来ない。運命などといった言葉で切り捨てるには、あまりにも複雑極まるものだからだ。

 

「私の…私の生きる意味とはなんなのでしょう。兄を犠牲にしてまで、私に生きる意味はあったのでしょうか?」

 

「……生きている意味とは、生きる意味とは誰もが見つけている訳ではないさ。大抵、迷いながらも苦しみながらも見つけ出すものなのだよ」

 

「…そう、ですね。でも…見つけられるか…不安です」

 

学生として、何より一人の人間として。彼女は迷いと絶望の中にいる。踏み出せない袋小路にいる。

 

「──ならば、聞いてみるといい」

 

「えっ?」

 

だが──その迷いと絶望の袋小路を突き破り、彼女に手を伸ばせる者を。『この』エミヤは知っている──




エミヤ「彼女が落としたものを返すのをすっかり忘れてしまっていてね。君に渡してもらいたい」

『水筒』『タオル』

マシュ「これは…リッカ先輩の…」

「放課後、彼女に渡すことがきっかけの一つになるやもしれない。くれぐれも忘れないように頼んだよ。そして、一つアドバイスするとすれば…」

マシュ「…?」

「人生に代わりや二周目などはない。君自身の時間を潰す様な真似を、彼女はどう感じるか。心構えは…しておきたまえ」

エミヤはそれをそっと渡し、教室を去る。

「放課後…先輩は、何を…?」

渡された水筒とタオルを見つめ、マシュは答えの浮かばぬ問いを投げかけ続けた──
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