人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ニャル【お話の突然だが、我が愛娘のイラストが完成したためこの場で紹介させてもらうよ。正直、めちゃくちゃテンション上がっているからね。SUKIMAさんとtatinamiさんには頭が上がらないよ。それでは──これだ】


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【何も言葉はいらないさ。私が何よりも誰よりも娘を大切にする意味…伝わってくるだろう?だが、これだけではないよ。きちんと、表情の差分も注文したからね】


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【喜びの表情、これは家に帰ってきたナイアにお帰りと言った際に見せてくれる顔。哀しみは契約続行を断られた際に見せる表情だな。そして、個人的にイチオシが怒りの表情だ。彼女が必死で解決した事件が私の化身だった際にこんな顔をされたよ。実に懐かしい。それにしてもどうだい?こんな碌でもない父親だと言うのに、こんなにも情緒豊かに育ってくれた。本当に…それが嬉しいよ】

【長々と済まなかったね。どうかこれからも、娘をよろしくお願いするよ。…そして、近いうちに一枚絵も頼むつもりだ。それもまた、楽しみにしてもらえると非常に嬉しい。さぁ、それでは本編だ。頑張ってね、リッカちゃんたち】


恐怖、悍ましき多々不思議〜挿絵あり〜

「学校の怪談と言うのは解るわ。でも何よ多々不思議って。無量大数?いっぱいあるの?この学園に?初耳なんだけど」

 

「そもそも英霊、サーヴァントと言う存在がいるのに今更お化けなんて怖がる理由がありますか?何せここにいるのはグドーシさんとリッカさんですよ?幽霊なんて未練の塊、アルカイックスマイル一つでダウンですこんな風に。にこー♪」

 

カーマとじゃんぬの余裕綽々…いや、正確にはちょっと震えが入った声音が夜の校舎に響き渡る。朝や昼では喧騒に賑わう空間も、夜になってしまえば全く別の顔を見せるもの。耳が痛くなる程の静寂が虚勢の声音すらも呑み込んでいく。その不気味さは、言葉では言い表せない程に恐ろしく、肌寒い。足音の反響すらも、重なっていないかどうかと気にしてしまえば肌が大いに粟立つ程だ。

 

「せ、先輩…先輩、手を握っていてくださいますか…?こ、怖く、無いですか…?」

 

「人より怖いものなんて無いしね。なんなら抱きついてもいいよ、マシュ」

 

ケロッとしているリッカにぴっとりとくっつくマシュ。その様子を微笑ましく見守るエミヤが情報を提供する。

 

「この夜の空間とは、ある意味でイレギュラーだ。マシュ…あぁいや、この世界の製作者が夜の学園の様相を知っていると言うのは考えにくい。しかしこの時空は全て、製作者への影響を与えられたもの。つまり」

 

つまり。この夜の学園、多々不思議というステージすらもマシュに与えられた『曇らせ』と『報われの』場というのなら。

 

「つまるところ、この状態にこそ意図された目的があるという…、────」

 

…瞬間、そこにいる全ての者が聞いた。遥か廊下の向こうにより響いてくる、その音。

 

「…これ、足音?」

 

「り、リッカ!?怖いこと言わないで…私も抱きつくわ!いい!?」

 

「せ、せ、先輩…!私にも、私にも聞こえました…!あ、あ、あしお、足音…!」

 

「…ち、近づいてきてません…?いえ別に、怖い訳では無いんですが只の事実確認として──」

 

だが、その歩みは走りとなり、疾走となりリッカ達に迫りくる。それは二つ。規則正しい足音と──

 

「走れ!諸君!来るぞ──『多々不思議』のお出ましだ!!」

 

エミヤの声音に、弾かれるように走る一同。その足音の持ち主は普通でも、尋常な存在でもない。カーマを肩車し、マシュをおぶり、じゃんぬの手を引き疾走するリッカ、坐禅で宙に浮くグドーシ、駆け抜けるエミヤ。迫りくる足音より逃げるように、廊下をひたすらに走り抜ける。来る。何者かが来る。決して相容れない者が来る。

 

「それは──」

 

それは、ランナーもかくやの美しい姿勢にて駆け抜けてくる【人体模型】。そして、下半身の無い白目を剥いた上半身のみで疾走してくる、男性の妖怪。

 

「て、テケテケと人体模型!?」

 

「美しいフォームでござる。学園の不思議の定番、夜間徘徊の人体模型にテケテケ…非常に恐ろしいものではありますが、まさかお目にかかる日が来ようとは」

 

「冷静に説明してる場合かーー!!?どうすんのよアイツら!?燃やす!?燃やすの!?」

 

無論、迎撃か回避をしなくてはどうなるか解らない。無機質の存在ではあるが、それ故に純粋無垢のシステム特有の冷たさを有し迫りくるのは肌で感じることが出来る。それに捕まってしまえばどうなるか。少なくとも歓待などとはありえない面子。

 

「このっ──今更お化けなんかに私がビビり上がるもんか!お父さんだった人とお母さんだった人はもっと悍ましかったからね!あんなの護り刀のサビに!!」

 

「きゃあぁあぁあぁあぁ!きゃあぁあぁぁあぁあ!!先輩!先輩ーーー!!」

「げぅ──!極まっ、極まってるマシュ──!」

 

即座に迎撃せんとしたリッカ、しかしここではあくまでサーヴァントの力を有しただけの一般女学生であり、半狂乱に陥ったマシュに全力でしがみつかれ首を絞められる。身体の柔らかさにおっすごする事すら許されないスピーディーな危機に、リッカは騎手を落馬させないサイレンススズカの様にバランスを取るのが精一杯だ。

 

「それが普通の反応ですな。では、迎撃は我等が」

 

「無論だグドーシ殿。正義の味方とは、学園の平和も護るものだからな!」

 

「よっし、私も燃やすわ!というか焼き尽くすわ!!」

 

「待ってください、全焼案件ですから!ここは御二人に任せてリッカさんの救助を!ロビンスペシャルばりに入ってますよこれ!」

 

リッカを締め落とす寸前にまで極まっているマシュをカーマとじゃんぬが宥め賺す間、グドーシとエミヤが互いに目標を制圧する。

 

「澱みし怪異、速やかに退けましょう」

 

グドーシがそっと手を翳すと、テケテケの存在規模──つまりスケールがみるみる内に小さくなっていく。それはやがて掌に収まるほどになり、不可思議の怪異は、釈迦の掌に収まる孫悟空が如くにグドーシの手に収納されてしまう。そして、蓮が閉じるように掌は閉じられ、テケテケは浄化され霧散する。グドーシは仏陀を宿す疑似サーヴァント、こういった霊魂、悪霊相手に敗北する道理はない。ホムンクルスのGさんである。

 

「『赤原猟犬(フルンディング)』!」

 

エミヤが反転し、投影した弓に矢を──何処までも臭いを追いかける真紅の剣を改造した宝具の一つをバックステップと同時に撃ち放つ。

 

【!!!】

 

人体模型の両足を猟犬が食い破り、脚を奪い即座に腕、心臓、頭の順に撃ち貫き、刺客を粉砕する。疾走した時速のままに廊下に叩きつけられ、そのまま砕け散る。無事に二人の仲間により、リッカを含んだ女性陣は事なきを獲る。

 

「マシュさん、落ちついてください。大丈夫です。リッカさんはいなくなりませんからね。大丈夫ですからね」

 

「そうよ、しっかりなさい!あんたは私と同じリッカのパートナーでしょうが!」

 

「うぅ、うぅ…すみません…すみません皆さん、先輩…」

 

「怖いものは怖いよ、大丈夫。一緒だからね皆。怖いものを怖いって思える心、大切にしていこうね。──これ、普通じゃないよね。エミヤ」

 

リッカの問いに頷くエミヤ。少なくともマシュはこの様に本気で命の危機を感じる肝試しを考案、危害を加えるような真似は決してしないだろう。それだけは、リッカは確信を以て言う事が出来た。

 

「この夜の学園…その本質は『異分子の排除』。この学園生活にそぐわない者を排除する、正真正銘の異世界、異空間だ。この場所で絶命した場合…我々がどの様な処理を受けるかは全くの未知数だ」

 

「要するに、ここは曇らせをする為の独壇場な訳で。リッカさんが目の前で怪異に呑まれたりしたなら…それは絶好のシチュエーションでしょう。だから、それを…」

 

【校内放送。校内放送。学園生活から抜け出そうとする皆さんに御連絡します。校内放送。校内放送】

 

瞬間、男性か女性かも解らない野太い声のアナウンスが響き渡る。それは、広い学園に響き渡る様な、それでいて無感情の声音が、機械音声の様に向けられる。

 

【学園からの卒業は認められません。学園からの進歩は認められません。速やかにモラトリアムを永久甘受してください。学園からの卒業は】

 

「な…何よこの声…」

 

「──この様に、学園生活からの離脱を認めない何者かの意志が働いている。先の怪異も、その意志を施行する敵性エネミーという事だ。その目的は──」

 

【卒業後の未来に希望はありません。この揺り籠で永遠を過ごしなさい。卒業は認められません。絶望への挑戦は認められません。繰り返します──】

 

その音声は──未来への躍進への阻止。

 

「…七つの獣に勝てるわけが無いってことを言いたいんでしょうね」

 

エミヤ、そしてカーマの言葉を裏付けるかのように。その音声は、希望の全てを否定するもの。そして、それを、裏付けるように──

 

「来たぞ。歓迎の挨拶と歓待だ」

 

異変は続々と、リッカ…否、マシュへと襲いかかる──

 

 

 




トイレからの声【赤いチャンチャコ着せましょうかぁ。青いチャンチャコ着せましょうかぁ】

教室からの声【【【コックリさん、コックリさん。おいでください、コックリさん…】】】

じゃんぬ「なんなのよ、これ…どうなってるのよ…!?」

マシュ「う、うぅ…うぅ…」

リッカ「……」

グドーシ「どうやら、魑魅魍魎の百鬼夜行と相成っている様でございますな。全ては…」

全ては、安寧の停滞とマシュの心を曇らせる為。そして──

リッカ「……絶望の未来へからの、制止…」

穏やかな学園生活とは程遠い惨状に、リッカは静かに目を細めた──。

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