人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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エミヤ「無事かね!?」

カーマ「エミヤさん!…あんまり無事じゃないのがいますけど…」

マシュ「あ、あぁ…兄、さん…」

じゃんぬ「落ち着きなさい!死んだ人間はそう簡単に生き返らないのよ!」

エミヤ「一時的、いや不定の狂気か…あの悍ましいものが原因か、邪神と同調するも納得の悪辣さだ…!」

BB【あなたは…全く。清掃員が何の用です?】

エミヤ「生憎だが、用があるのは私ではない。──カーマ君!私とあの獣を討ち果たすぞ!」

カーマ「は、はい!グドーシさんは…!」

エミヤ「既に彼は成すべきことを成しに向かった!彼を信じたまえ!愛の女神の推す無二の彼だろう!」

カーマ「──解りました!じゃんぬさん!マシュさんを頼みます!」

じゃんぬ「わ、解ったわ!」

BB【行かせると思いますか──ッ!?】

エミヤ「──言った筈だ」

デモンベイン・ゼロビヨンド・ナイアー『私達の知る邪神が──!!』

BB【!?】

『こんな雑な仕事するもんかぁーーーーッ!!!!!』

瞬間、紫色のアンダースーツに白いアーマーで構成されたバトルアーマーを纏った少女が深淵を切り裂く流星が如き軌跡を描きBBにむけて一直線に拳を叩きつける──!

BB【!?この力──邪神!?】

マシュ「せ…せん、ぱい…?」

【違う──これは、旧神…そして、光の巨人…!】

じゃんぬ「ど、どうなってるわけ──!?」

三者三様、獣の調伏が幕を開ける──!


成程、完璧な交際プランにござる

【行けー!デカデカビースト一号!そのパワーで、学園を卒業したいなんて意志を消し去ってしまえー!】

 

マナカの指示にて、吠え猛る夜闇より暗き獣が月へと吼える。その巨体は天へと届かんばかりであり、その戦慄の咆哮はまともに聞くものの心を引き裂く。現世に現れた癌細胞、今の安寧に牙を剥く人類悪の幼体の具現。

 

【みていて王子様!あなたと私のモラトリアムは今始まったばかり!終わりのない青春を、私と永遠に楽しみましょう!そう、あなたの幸せの為になら!私は全てを滅ぼすことが出来るのだから!】

 

無邪気な好意、恋慕の情を謳うマナカは星空に謳う。彼女が望むは、自身と愛するもののみの世界。それら以外は全て端役であり、取るに足らないものでしかない。砂の城を壊すが如く、灰燼に帰すことに躊躇いなどない。このまま獣が全てを蹂躙する──刹那。

 

「もし、マナカ殿。少しお話を致しませんか」

 

その少女に、なんの気もなしに語りかける声。眼の前にいるは紛れもなく世界を滅ぼす悪。まともに対峙しては、圧殺される魔力を漲らせる少女になった全能。そんな相手に、世間話をするかのように声をかけしものなど、二人程度しかあり得ない。

 

【あなた…確か、セイヴァーとかいうクラスだっけ。救世主の!】

 

「ははは、僭越ながら。拙者は一を、かの御方は特技感覚で全を。規模が違いますが、救うという点では合致しておられます故このように力を賜っているが故のセイヴァー、グドーシにござる。こんばんは、マナカ殿」

 

グドーシは気負いも、恐れもなくただ自然体でマナカに声を掛け会話を促す。それは、リッカの魂にて脈々と生きている理念、その元祖。

 

「拙者、世界を滅ぼさんばかりの愛と言うものに興味津々にござる。そこまで誰かを愛せるという事は中々出来ることではありませぬ故。是非とも、そなたの交際プランというものをお聞かせいただきたい」

 

まずは相手が目指す、大切なものを受け入れ理解を示す。それを悪と断じることは簡単であり、不理解で拒絶するも容易い。しかし、本当の理解は対話の先にしかないとグドーシは静かに確信しているのだ。

 

【私と王子様のプランを!?聞きたいの!?聞きたいのね!?いいわよグドーシ、教えてあげるわ!よーく聞いてね!まずは──】

 

そして気を良くしたマナカが早口で語りだす。王子様──アーサー・ペンドラゴンの好きな食べ物は何で嫌いな食べ物は何で好きな場所や好みのタイプや好きな戦術や得意な料理や日頃の鍛錬のメニューは何で寝る前にすることは何であるかなどをいっぺんに捲し立てる。本来ならストーカー以外の何者でもない情報の網羅にも、グドーシは片眉一つ潜めない。静かにその情念を受け止める。

 

「本当に彼が好きなのですなぁ。拙者も最愛の未練がございますが、そこまで理解できているかは自信が無いでござるよ」

 

【そうなのそうなのよ?だって金髪碧眼の白馬の似合う王子様よ!?そんなのもう──私が大好きに決まっているわ!だから私はやるの!滅びた世界で、二人だけの結婚式を挙げるの!あなたのブリテンを滅ぼした世界に復讐を果たし、ブリテンが繁栄する未来を王子様にプレゼントする為に!】

 

「──なるほど。マナカ殿の理念はブリテンの崩壊と、その上に築かれた人類史の否定にござるか」

 

グドーシは真意を引き出した。完璧な王子様がいるのに、ブリテンという国は滅んでしまった。王子様は悪くない。民が、臣下が、騎士が、世界が悪い。だからこそ、だからこそ自分が与える。プレゼントするのだ。

 

【えぇ!王子様の努力を灰燼に帰した世界の否定!ブリテンが世界の覇者となる姿!世界の覇国となったブリテンと、それが紡ぐ世界の歴史をプレゼントしたいの!愛は、王子様以外の全てを滅ぼす事に繋がるの!】

 

それはまさに汎人類史の否定にして新たなる歴史の構築。恐ろしい事に、彼女の目的は異聞帯…即ち、ブリテンが世界の覇者となる歴史を欲しているのだ。それが間違いなくアーサー王の意志ではないであろう確信を懐き、それでも動じずグドーシは問う。

 

「崇高かつ遠大な目標、しかと拝聴致しました。しかしその場合、何故終わらない学園生活をしようとなされたのか?」

 

【決まっているわ!そんなの私と王子様との学園生活をずっとしていたいってだけに決まっているじゃない!人生で一番楽しい時間と誰もが言うわ、なら私はそれを王子様と心行くまで堪能するの!いつまでもいつまでも、楽しい時間をずっとずっと!】

 

計画性の欠片もないいきあたりばったりぶりに、グドーシはアルカイックスマイルを絶やさない。世界は滅ぼす!でも王子様との学園生活楽しい!だから気の済むまで繰り返す!という事である。考えても感じてもいけない。彼女は狂っていた。

 

「狂気に至らぬ愛は愛ではないとの格言もありますれば、紛れもなくそれも一つの愛の形なのでしょう。ところで、そこまで考えておられるからには、将来のプランもお考えで?」

 

【それはもちろん!卒業したらぁ、いっしょに星空の見える山の頂上にマイホームを買って…あっ】

 

そこで、ハッと気付くマナカ。それは目先の楽しさに固執したが故に忘れていた、失念していた落とし穴。

 

【卒業できなくちゃマイホームも結婚も出来ないじゃない!!?】

 

「ついでに世界も滅びておられますのでマイホームも木っ端微塵ですな。売り手が皆無でござる」

 

下手こいたーーーー!!!ガックリと肩を落とすマナカ。自身のアンポンタンな振る舞いをグドーシを通じ教えられ、自身の結婚プランの崩壊を突きつけられる。グドーシに敵はいない。このように、やんわりと過ちを気付かせる為争いにならないのである。

 

【わ、私の人生…詰んでる!!ど、どうすればいいの!?このままじゃ、世界の滅びを一緒に見ようね♪って私の口説き文句使えない!助けてフォウ先輩!ってフォウ先輩って誰!?】

 

(…やはり)

 

グドーシは推察していた。このマナカという少女は、エアに寄り添うフォウという至尊の獣の縁者である事を彼は知っていた(フォウの言葉が解るため)。しかしマシュはそれを知る由などどこにもない。しかしこのマナカの再現度は高い。あまりにも高すぎるのだ。その答えに目星をつける。同時に、問う。

 

「でしたら、新たなプランをそなたに差し上げたいのですが…聞いていただけますかな?」

 

【聞く!】

 

「アーサー殿と力を合わせ、世界を救うのでござる。滅びの確約された世界から、未来を共に勝ち取る。さすればそなたとアーサー殿への称賛と太鼓判は揺るぎないものとなるでしょう。そう…アーマナてぇてぇは世界の認識となるのです」

 

【アーマナ!?それはつまり…!】

 

「そう。世界がそなたとアーサー殿を祝福なさるでしょう。そなたは万雷の喝采にて祝福されるのです。アーサー・ペンドラゴンの唯一無二のパートナーと(公私の私だとは言ってない)」

 

【結婚式は世界中規模になるの!?】

 

(アルカイックスマイル)

 

【私は王子様と新世界のアダムとイブになるのね!?】

 

(アルカイックスマイル)

 

【つまり!世界を救ったほうが世界を滅ぼすよりトゥルーでハッピーでグッドなルートってこと!?】

 

(アルカイックスマイル)

 

その笑みを目の当たりにし、マナカは決断した。そもそも、彼女は世界の存亡はどちらでも構わないのだ。大事なのは王子様と自分。徹頭徹尾、それだけである。

 

【──わかった!私、皆と世界を救う!救った世界で大人になって、王子様と結婚式を挙げる!あなたも来てくれる?】

 

「無論にござる。とびきりの祝辞と花束を持って、お祝いに行くでござるよ。ですからどうか、お力をお貸しくださいませ。この世界の為に──」

 

うんっ!グドーシの言葉に、力強く頷くマナカ。シミュレーションにて、グドーシはまた一人獣を説き伏せたのであった──。




獣【───!!?】

エミヤ「むっ。動きが精彩を明らかに欠いたな」

カーマ「グドーシさんがやってくれたんですよ。あの意味不明な女の子を無力化したんです。大本を絶たれ、って感じでしょうか」

エミヤ「──であるならば、だ。今ここが、私の勝負所という事なのだろう。少し離れていたまえ、王の手土産を開放する」

カーマ「へ?あなた、何を──」

吼える獣を前にし──

「──『聖杯』、接続。『神話礼装』、起動──」

──御機嫌王に苦虫を噛み潰した顔で託された、二つの禁じ手を使用する──

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