ギル「─────(死ぬ程嫌そうな顔)」
エミヤ「…目は口程に物を言う。身中お察しするが、私への嫌悪より、二つの財宝の奪還を優先するべきではないかね、御機嫌王」
ギル「ハッ、もっともらしい事をほざきおって。本来なら贋作者の貴様なんぞに我が財宝を下賜するなぞ天地が裂けてもあり得んが…貴様如きとの確執と、我等が龍に楽園が誇る雪華の盾。どちらを取るべきかなど悩む迄もない。──そら。持っていけ」
『聖杯』『神話礼装』
エミヤ「聖杯はともかく、神話礼装まで…大盤振る舞いが過ぎないかね、御機嫌王」
ギル「愚問であろう。そんな盃よりも、そんなみすぼらしい衣服よりもかの者共の価値は上。ならば注ぎ込むことに躊躇いなど無いわ。それが貴様という三流の贋作者の投資となろうともな」
エミヤ「あぁ──全くもって、同感だ」
ギル「──よいな、贋作者。貴様の理念に懸け、我等が龍とマシュめを取り返せ。代金はその作戦の成功としてやる。…話は以上だ。速やかにロマンとマーリンめに調整を泣きつくがいい」
エミヤ「任せてくれたまえ。そして、貴方にだから言うとしよう」
ギル「ん?」
エミヤ「──お前の宝具は俺の宝具。いつ奪った?永久に模倣しておくだけだぞ──」
〜
串刺しエミヤ「深手を負ったか──」
ギル「剣のストックが欲しいのならば素直に上申せよ、雑種が!下らぬマウントと発破などに凝るでないわ!!」
──し、信じましょう!エミヤさんや皆さんならやってくださると!ご決断、本当に本当に、ほんとーに!御立派でした!
ギル《ぬぅう、お前の提言と部員の提案故受諾したがそれはそれとして腹に据えかねるものがある!整体だエア!たっぷり五時間コース、お前の時間を我のみに費やせ!話し相手となりながら我の心身をリルァックスさせるがよい!》
──はいっ!喜んで!あの、フォウのプレシャスパワーは精神的ストレスに非常に効果的なのですが…
《終了一時間前に放逐を許す!それまでは我と一対一の時間だ!いつも以上に気合を入れ、マッサージせよ!》
──はいっ!!
エミヤ(その期待、必ず応えよう。しかし──道場が見えてきたな──)
プーリン「あれ、なんだいこのハリネズミは?」
マーリン「知らんぷりしよう、事故の第一発見者なんて報告義務が発生するもの、めんどくさいだろう?」
ロマン「というかエミヤ君じゃないか!?大丈夫かい!?」
そして、今に至る──
「──身体は剣で出来ている。血潮は鉄で、心は硝子」
エミヤ──錬鉄の英雄たる、名も知れぬ者達の味方。弱きを助け強きを挫く理念を生涯懐いた、とある少年の成れの果て。その秘奥たる、固有結界の枕詞が唱えられる。燃え盛る焔に、獣とカーマが巻かれ世界が塗り潰される。
【!!】
「これは…噂のあいあむざぼーんおぶまいそーど。しかしこの景色は…」
それは自身の心象風景、それにより世界を塗り替える魔術の奥義。後進のオルガマリーも到達した最高クラスの魔術。彼が至った研鑽と生涯の全て。しかし──そこは歯車と曇天、墓標が如き剣山の様相とはまるで違う。その形態は変化を現していたのだ。正義の味方として生きる、今の彼のみの姿に。
「幾度の戦場を越えて不敗。我が生涯に、唯の一度の敗北も無く」
それは突き抜ける青空。かつて少女に、答えを得たあの日の様に煌めく朝焼けの空。歯車には錆一つ無く、見上げれば蒼穹が何処までも拡がる世界。
「駆ける果ては彼方にて、剣の丘に
突き刺さる剣は──その一つ一つが聖剣、魔剣、神剣の数々。カルデアに集いし英傑達の理念と生涯を映した、絢爛無比な剣の華。それは、エミヤが共に歩む者達の生き様を焼き付けた証。
「その身体は──不滅の
詠唱を完遂した瞬間、エミヤの霊基が聖杯と、神話礼装の力で段階を上げる。強くではなく『高く』。かつて世界を救う礎となりて散っていった無銘の英雄達の高潔なる意志を束ねた、正義を果たす願いの具現。金と黒の礼装を纏い、エミヤが静かに立ち上がる。
「この世界、この姿、この風景は特別性でね。取り柄の無い三流サーヴァントを、コスト度外視で魔改造したいと願う酔狂な施設に身を預けた成れの果てだ。私には過ぎた力だが──我等がマスター、そして楽園の誇る盾を取り戻す為に手段は選ばん」
【───!!!】
その景色。眼の前の存在に脅威を感じたか、獣が泥を吐き出す。それは悪性、霊基を犯す泥。されどそれは、エミヤには届かない。
「貴様が挑むは錬鉄の極致。無限の剣製、我が生涯の具現──」
そこには──けして侵されぬ理想郷があった。遥か摩耗の果て、魂より抜け落ち星の内海へと還った王の鞘。二度と投影出来ぬ代物であったが、極限まで高められた投影技術により、一瞬のみの劣化品として、在りし日の理想郷を再現可能とならしめた。
「──恐れずして、かかってこい!」
防ぎ、そしてエミヤが跳躍する。その手に持つは愛用の夫婦剣、干将・莫耶。その刀身を極限まで伸ばし極めたオーバーエッジ。
「―――
その一節のみを口にし、夫婦剣を投げた瞬間。それらは白黒の翼を持つ鶴となり、獣を穿ち分かつ刃となる。山を抜き、水を分かつ鶴翼三連。それらもまた、極限の練磨を見せる。
「
弓矢に極限まで捻れし刀剣、ドリル状の巨大な宝具を弾頭にして射出する。壊れた幻想を使用し破壊する必要などない。本来のカラドボルグが持つ虹と破壊の力すらも再現した一撃は、丘を三つ貫いて余りある破壊力を齎し獣を穿つ。
【────!!!!!】
その脅威的かつ圧倒的な破壊力に、獣はエミヤを完全に敵と定める。巨大な口を開け、噛み砕かんと錬鉄の英雄にへと迫りくる。しかし、正義の──正しくか弱き者の為に戦う正義の味方に、微塵も恐れなどない。
「カーマ君!共に弓矢を放つぞ!合わせたまえ!」
「えっ、いきなりですか!?しかたありませんね、では、せー、の!」
カーマがエミヤに応え、弓矢を放った瞬間に彼女の背後から無数に飛来する射撃──否、剣。
「我等が御機嫌王の真似、とは口が裂けても言えんがね。実際にこれらは全て贋作の投影品だ。しかし──」
【!!!!】
「塵も積もれば、山になると言うことだ!」
その無数の剣の掃射──ソードバレル・フルオープンが絢爛豪華な宝具となって襲い来る。それはまさに刃の雨。一歩も動けぬ程の猛烈な勢いで、青空より貯蔵された剣たちが獣の身体を貫いていく。
(これ…ちょっとかけてるコストが普通じゃないです。エミヤさんは弱小英霊と聞いていましたが…だからってここまで強くします?普通…)
カーマも若干引くほどの魔改造、聖杯、神話礼装というこれ以上のない魔力強化リソースを叩き込まれたエミヤの本懐は、想像を絶するものだった。何故なら彼は今、カルデアに登録された英霊達の宝具を節操なく使い倒しあらゆる手段で獣を追い詰めているのだから。
「汝は竜!罪ありき!邪竜!滅ぶべし!」
(それだけ、マシュさん…はまぁともかく。王様がリッカさんを高く高く評価しているというのは我が事のように嬉しいですね、はい)
「来た!見た!勝った!我が魂を食らいて走れ、銀の流星!」
「いや本当節操ないですねこの人…」
剣ならなんでもいいレベルの無節操ぶりに閉口するカーマ。しかし、これはエミヤの辿り着いた強さの極地でもある。元が弱小な英霊であるエミヤは、あらゆる全てを使いこなさなくては一流どころに追い縋れぬ。恥も外観も、全てをかなぐり捨てて力を付け、振るう。その先にあるものが、嘘偽りない笑顔と平和である事を信じて。
【─────!!!!!】
「おぉおっ──!」
強くしたのは霊基のみ。備わった理念と理想は紛れもなく本物。一時の夢の中であっても、現実ではけっして叶わぬ瞬きのような輝きであっても。
「カッティング!セブン・カラーズ──!!」
彼はそれを振るうのだ。彼の理想とは即ちそういうもの。誰かの笑顔と、日々の平穏を報酬として朝焼けに笑う。そういった生き方こそが、彼が夢見た『正義の味方』。摩耗する前の彼が懐き続けた、理想そのものなのだから。
【───、────!!】
エミヤの宝石剣で切り裂かれ、真に劣勢であることを悟ったのか、踵を返し駆け出す獣。飼い主である主の下で、回復を計るつもりなのだろう。
「逃さん!カーマ君、合図を送った瞬間、君の宇宙スケールの力で全力で引いてくれ!頼むぞ!」
「え、は?引く?引くってなんで──」
「フィイィイィイィイッシュ!!!!」
瞬間に投影され、放たれしは最新器具カスタムが施された最新モデルリールロッド。いつかリッカ達がキャンプに行く際、手順やコツをレクチャーできるようにカスタムしていた珠玉の逸品。それを獣の首に巻きつけ、カーマにパスする。瞬間、猛烈な抵抗がカーマに掛かる。当然である。
「あっ、ちょっ──!なんなんですか、もー!!」
突如無茶ぶりを受けたカーマが瞬時に巨大な姿となり、宇宙スケールパワーで釣り竿を通じ獣と力比べをする羽目となるカーマ。その隙を、逃すエミヤではない。
「──仕留めに掛かろう。これは、禁じ手の中の禁じ手だ。この投影、受け切れるか…!」
全魔力、全神経を集中させ、回路を走らせ焔を燃やす。その光は、エミヤが魂に刻みつけた永遠に忘れることなき輝きの具現。
【!!】
「この光は、永久に届かぬ王の剣──」
本来なら決して再現できない神造兵装。それを究極にまで高めた投影技術で再現した、かつての理想郷と同じくするもの。彼が懐き、けして忘れぬ原初の光景。
「『
──その者の物語を知るならば、その目には幻視が映るだろう。その黄金の剣を振るうエミヤに、そっと手を添える──
「『
遥か遠くに輝く、眩いばかりの地上の星の姿を。彼が地獄に落ちようと忘れない、気高き王の姿を。
【─────、─────】
──その輝きに両断され、世界を喰らわんとする巨大なる獣は光へと呑まれる。贋作なれど真に迫った、唯一無二の聖剣の輝きに。
「──勝負あったな、破滅の獣。普遍の真理を懐き、溺するがいい」
そして、消え去る固有結界。泡沫の夢のように、霧散して消えゆく世界に──
「悪の栄えた、試しは無い──とな」
雄々しい背中を示す、一人の…正義の味方の姿を示しながら。世界は在るべき姿へと立ち返る──。
カーマ「はぁ…無茶ぶりもいいところでしたよ。どれだけの無茶を通したんです?本当」
エミヤ「あれだけの相手だ、出し惜しみができる筈もない。逃さず仕留めることが出来たのは君のお陰だ。ありがとう、カーマ君。流石はリッカの守護神だ」
カーマ「…。は、歯の浮くような台詞を吐く。そうやって女の子を泣かせてきたんですよね」
エミヤ「?偽りない所感を告げただけなのだが…まぁ、可愛い子なら誰でも好きだからね、オレは」
(爆ぜてくれませんかねこのドンファン…)
エミヤ「リッカは、BBを止めにいったか。加勢したいのだが…生憎、全てを出し切ってしまってね…」
カーマ「あ、ちょっと!」
エミヤ「すまない、少し回復に専念する。私の事は構わず──」
カーマ「…目を離したスキにぱくりと行かれても嫌なので、見張っておきます。やるだけやって消えるなんて、最低ですよ?」
エミヤ「むう…責任感はある方だがね」
カーマ「大丈夫。信じましょう、私達のマスターを。朗らかながら、理不尽や不条理を決して赦さない怒りを胸に飛ぶ可愛らしいドラゴンさんを。マスターを信じるのも、良いサーヴァントの条件なんですから──」
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