リッカ「?どうしたの?」
『…きっと、この世界に【悪】はいない。誰もが思案し、最善を考えているだろう。だから…』
「…」
『君の選んだ未来を、僕は信じよう。…君の最善で、曇天を晴らしてくれ。…それが…』
それが私の──
「リッカ。おーい、リッカ。こんなところで寝てると風邪引くぞ、おーい」
「ん?ん…んー…?」
自分を呼ぶ声…馴染みのあまり無い、でもそれでも聞いた覚えのある声に顔を上げる。確かに聴いた事のあるような…
「ほら、しゃきっとしろよ。終電逃すぞ。いつものリッカらしくないぞー」
そう、その男性は近くて遠い存在。世界を隔て、似た宿命を背負う者。かつて重なった縁にて、何度か面識のある存在…
「藤丸君!?マシュ大好き藤丸くん!?」
「ちょっ!お、大きな声で言うことじゃないだろそれ!?麦茶しか飲んでないのに酔ってるのか!?どうやるんだ逆に、場酔いか!?」
そう、目の前にいるのはもう一つのカルデアの主役、藤丸立香その人だった。スーツを着こなし、上着を羽織る姿はすっかり成人した社会人…そんな彼が、自身を気遣う声を上げているのである。
「お、おぉ…おぉ?ここどこ?」
「俺のアパートだよ。週一で飲みに行く時間作ろうって言ったの君だろ、リッカ。多忙で疲れてるんだから、あんまり無理するなよな。愚痴らせて、とか言う割にいつも愚痴聞いてもらってるんだから…」
…どうやら新たな世界はもう少し時間が進み、社会人の様相を取っているのだとリッカは認識する。目の前にいる藤丸は、誰がどう見ても社会人であるが故に…
「あれ?じゃあ自分は何をやってるの?」
「おいおい、本当に大丈夫か?君は世界を股にかけて秘境や文化を探求する武者修行中、それで今は日本に帰国して休養だろう?…本当に大丈夫か?」
設定がますます荒唐無稽と化している事に笑うしかないリッカ。世界を堪能する、つまりそれって気ままな旅って事じゃん!やだ、私自由すぎ…?
「まぁ、まだ夜は早いしのんびりは出来るだろ?もっとゆっくりしていきなって。もうすぐ…」
藤丸の言葉と同時に、インターホンが鳴り響く。その音を心待ちにしたかのように立ち上がる藤丸青年。
「来た!マシュだ!絶対マシュだ!」
「なすび!?」
マシュ即ちなすびの法定式として考えるリッカに、即座に対応に出る藤丸。その予想は的中し、来た人物は勿論…
「リツカさん!リッカさん!こんばんは!」
「あ、マシ──」
「いらっしゃい!マシュ!さあ3人で飲み直そう!」
「はい!おつまみを用意しました!是非是非皆で食べましょうね!」
「おっ…」
これは…もしや。リッカは直感で理解する。紛れもなく、これは、この時空は…!
(ふ、ふじマシュ空間…!!てぇてぇ警報発令ッ!!)
その予想を裏切る事なく、藤丸とマシュはリッカへと魅せる。彼女の夢の、一つの在り方を──
〜
「今日は、リツカさんの好きなビーフシチューを作って来たんですよ。前作ったのはややしょっぱかったので、少し甘みを足してみたんですが…」
「うん、美味しい!美味しいよマシュ!うん、これは凄く…幸せな味がするなぁ。リッカも食べてみてく!絶対美味しいから!」
(し…新婚空間…ッ!!)
そう、形容する他ないほどの圧倒的甘々空間。やっていないのは肉体関係のみしかないといったレベルの関係性が一目で解るほどの甘々ぶりが見ている者の胸に蜂蜜や砂糖を流し込む程で胸焼けを起こしかねない程である。現にちょっと背後から虹色の粒子が出始めている。
「先輩、口元に付いてしまっていますよ。拭き取らせてくださいね」
「うん、ありがとうマシュ。美味しいよ、本当に…あ、そうだ!俺も作ったんだよ、おにぎり!食べてほしいな!」
「はい!リッカさんも是非食べてみてください!実は、とても美味しくなる隠し味を入れたんですが…なんだと思いますか?」
「愛情」
「それは愛じょ…はわわっ!?ひ、秘密です!?秘密…ぁ…」
「…〜」
「「……〜」」
(………嗚呼…)
私いるこれ…?もうそこらへんの木か電柱扱いでいいのでいつまでもいつまでもこの空気を保ち続けていってほしい…これ新婚さんやないですか…ありがとう…ありがとう…サムライ・フジオカめいた挨拶をする程の壮絶な甘々空間に、緩む頬が止まらないリッカ。ビーフシチュー超美味しい…おにぎり超美味しい…
(そう言えばこれ、なんだっけテーマこれ…確か愛の、愛の…)
「…愛の逃避行!?」
「「愛の逃避行…?」」
「えっ!?あ、あぁううんなんでもないよ!私の事は気にしないで!?背景だって思って!どうぞ続けてください!」
そう、今回は愛の逃避行がテーマだと言っていたのはギャラハッドだった。この素敵な空気の二人が何から逃げると言うのだろうか。地球を襲う隕石からとかだろうか。
(正直今の私ならアクシズだろうと妖星ゴモラだろうとなんだろうと押し返せる気がする!このてぇてぇが、私に力を与えてくれる!プレシャスクソザコドラゴンは伊達じゃない!!)
燃え盛る決意と決心を滾らせている中、更にリッカに追討ちが入る。不満げに、マシュが頬を膨らませているのだ。
「…。リッカさんが背景だなんて、考えられるわけないじゃないですか。だって…」
「そうだよ。リッカ、君だけは俺達の事応援してくれたからな。こうして会える時間や関係を続けていられるのは君のお陰なんだからさ。そんなに自分を卑下する必要なんてないさ」
「はい!私達にとって、リッカさんは大切な大切な人なんですから!」
(ほわぁああぁあぁあぁあぁああ!!?)
純度100%の優しさと労り、親愛の暴力にリッカのプレシャスゲージがオーバーフローを起こす。ウォフ・マナフとなっていなければ即座に弾け飛んでいただろう。それ程の、全くもって混じり気のない好意に、平静を保つのが精一杯だ。悪意や敵意より耐えられない存在というものはある。それが今、リッカに叩き込まれているのだ。
(?あれ?『私だけ?』)
その言葉が、リッカは気にかかった。その言い方はまるで、付き合う事や出会う事があまり歓迎されていないような…
(…。…もしかして、そういう事なのかも…?)
逃避行、あまり歓迎されていない。それでも、二人は会うことを止めていない…そこから導き出される答えに、リッカはいくつか目星をつける。そして──
「!…ちょっと、外の空気吸ってくるね!」
「リッカさん?」
「ちょっと夜風に当たりたくなってさ!すぐ戻ってくるから、二人で続けててよ!じゃ、また後でね!」
二人の困惑と疑問を受け流し、リッカは引っ込み、扉を開ける。そして──精神を集中させる。
(私の考えが合ってるなら…必ずいる筈。この関係を【よく思っていない】人が。必ず、不安と心配をしている人が)
巧妙に気配を隠してはいるが、リッカの金色の瞳はその変調を決して逃したりはしない。いや…悪意でなく、信頼の裏返しであるのなら。必ず捕捉が可能だ。
「──いた!」
僅かな気配──マシュに向けられた想いを辿る。その先には必ずいるのだ。その思念と思惑にいる者は──
「──…マシュ…」
「心配しなくても、藤丸くんはマシュちゃんとプラトニックですよ。ランスロットさん」
「!君は…」
そう。その先に在り人知れず見守る者。マシュの父…ランスロットへとコンタクトを図る──。
ランスロット「君は、リッカ君か…脅かさないでほしい。心臓が飛び出てしまうよ」
リッカ「そんなヤワじゃないでしょあなた!…マシュを迎えに来たんですか?」
ランスロット「…あぁ。だが、束縛のしすぎも精神衛生上良くはない。少しの自由時間を楽しませるくらいの甲斐性はあるつもりだからね」
リッカ「…少しの…」
ランスロット「君は勘のいい娘だ。分かっているかもしれないが…マシュには、私が見繕った相手が既にいる。縁談、見合いも済ませる運びだ」
リッカ「やっぱり…御相手は?」
「ギャラハッド。…少なくとも、金銭面でも将来の安泰の面でも、マシュに気苦労はさせない相手だよ」
リッカ「…お父さんとしての、気遣い…」
ランスロットと共に、リッカは見る。笑い声が溢れる、小さいアパートの一室を…
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