人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ランスロット「少し…付き合ってくれないだろうか?」

リッカ「付き合う?飲み会とかですか?」

ランスロット「当たらずとも遠からず、だ。無論送迎代行は用意してある。あまり長くなりすぎない程度だ。君と、話してみたいんだ」

リッカ「…解りました!」



藤丸「リッカ、遅いな…ん?」

『急用できちゃった!また今度ね!』

マシュ「きょ、今日はお休みだった筈では…リッカさん…!?」

藤丸「忙しいんだな…。また今度、遊びに行こうな。マシュ」

マシュ「はい!」


最適解の無い善意

「すまないね、リッカ君。私の娘との時間だったというのに…」

 

夜、日付が変わった深夜。リッカは一先ずマシュ達と離れ、一人の男性と共にバーへとやって来ていた。その男性はマシュを影から見ていた、彼女の父親…ランスロットその人である。

 

「お構いなく!ちょっとお話をしたいと考えていたので!あ、ミルクでお願いします!」

 

マシュとランスロットの関係、そして所感を掴むために。グドーシの行く末が気になるが、ひとまず情報収集に徹することを選択したリッカ。ミルクを頼み(中身は未成年なので)、物憂げなランスロットと一時を過ごし、話を試みる。

 

「…マシュの事、心配してるんですね。すっごく」

 

「あぁ、勿論だ。我が家の令嬢、一人娘だ。決して無碍になど出来るはずもない。彼女には必ず、幸福を掴んでほしい。その為、社会勉強を積ませていたのだよ。いずれは、何処に出しても問題ない良家の跡取りとして…」

 

(そりゃあ心配になるよねぇ。となると…)

 

先の会合。藤丸との出会い…そして親密な関係はあまり好ましく思っていないのだろう。見守ったまま、自分は声をかけないのは優しさか、あるいは現実を認めるのに踏ん切りがかかっているのか…

 

「…リッカ君。君の目から見て、どうだったかね?」

 

「はぇ?」

 

「言葉通りの意味だよ。君から見たマシュは…あの男性といたマシュはどうだったかな?」

 

ランスロットはグラスに目を落としたまま、呟くように問いかける。それは自分の所感ではなく、中立的であり、そしてマシュと親しい位置にあるリッカへの所感を問うたのだ。それは、決して私情を挟まない理性的な問いだった。

 

「──幸せそうでした。とっても。藤丸君と、マシュ。とっても、二人だけの時間を大切そうにすごしていました」

 

そう、それは誰の目から見ても明らかだ。二人の互いを想い合う気持ちに、嘘は微塵も存在していなかったと断定できる。出てきたプレシャスパワーがそれを証明していた。少なくとも…二人の間には確かに絆が、幸福があったと正直に伝える。

 

「そうか。…やはり、子は親の思惑通りに育たないものだ。いや、育ってはいけない。彼女の人生は彼女のもの。自由意志を以て生きなければ、生命を得た意味はない。マシュが誰を好きになるのか。マシュがどの様な人生を歩みたいのか。そこに、親の思惑はあってはならないのだろう」

 

「…だけど、マシュには縁談の御相手がいると…」

 

ランスロットは先に言っていた。マシュには相手がおり、見繕われた相手がいると。それがギャラハッドであると彼は言った。ランスロットは静かに、ぽつりぽつりと呟きながら問う。

 

「…心の通わせた相手と、生涯を添い遂げる。それは確かに素晴らしく誰もが思い描く理想の人生だろう。私も、それを否定するほど冷血ではない。『一生面倒を見るのだぞ。いずれ必ず飽きる女を』などと宣うアグラヴェインのように悲観論は懐けない。誰もが愛と希望に生きるべきだと私は思う」

 

(アッ君…ッ)

 

「しかし、現代社会で愛を貫くには、乗り越えるべき障害が重すぎる。税金、年金、保険金、家庭を持つなら養育費、老後の預金…清らかな愛を貫くには、あまりにも生生しく切実な問題が、だ。私は…一人娘にそんな苦労をさせたくない一心で今の地位を築き上げた。ラウンドナイツ・コンツェルンの一席、獅子王の有する十三の席が一つ。そして…マシュの相手に相応しい、若き御曹司との面談も取り付けた。獅子王の導きにより、だ」

 

それが、ギャラハッド。業務成績、そして素行、人望、家柄…全てを兼ね備えた相手だというのだ。

 

「円卓の重役同士、盤石の地位を築くことができる。…マシュが想いを寄せているであろう、彼とは比べようもないほどの安定と社会的地位だ。これが最善…最良の道だと私は確信している。ただ…」

 

「マシュの心だけは、彼女の想いだけは藤丸君だけを見ている…という事ですね」

 

リッカの切り込みを否定することなく、ランスロットは頷いた。それだけは、他人がどうすることも出来ない問題である。例え、肉親であろうとも介入は許されない、不可侵の領域であるのだから。それは、ランスロットも痛い程解っていた。しかし…

 

「…親として、彼女の幸せの形を考えた時、私はどちらを取るべきなのか、悩み続けている。彼女の心を想うべきなのか、彼女の盤石の地位を想うべきなのか。彼女の心を想い、立場の合わぬ相手と未来の暗闇に放り込むべきなのか。彼女の心を無視し、決して不自由のない灰色の安泰を享受させるべきなのか。果たして彼女にとっての幸福とはどちらなのか。答えは、未だに出ない」

 

「………」

 

リッカには、ランスロットの悩みの重さを正しく受け止め、同時にギャラハッドの言うことの真意も理解する。彼は間違いなく、マシュの未来と幸福を祈っている。

 

(確かに、藤丸くんは見た感じバリバリ稼いでる感じのサラリーマンって感じじゃなかったよね。いくら相思相愛って言っても、良家の娘を預ける相手と見たらお父さんからしてみれば、気が気じゃないか…)

 

「ギャラハッド君からはいい返事を貰っている。しかし、まだ一度もマシュは会った事のない相手なのだ。仲を深める事もした事のない相手だ。その様な人物と一生を過ごすと言う行為は、本当に彼女の幸福と言っていいものなのだろうか」

 

彼はそれきり、言葉も無く黙りこむ。その沈黙に滲む苦悩は、察するに余りあるものだ。それが…彼の懐いた選択。父であるなら、娘の何をもって幸福とするべきか。

 

「君は…どう思う?彼女にとっての最良の道とは、一体どんなものだと思う?」

 

その問いに…リッカは咄嗟に問い返す事は出来なかった。それは、軽はずみに答えていいものでは無かったからだ。そこに、悪意の介在する余地は何処にもない。

 

「……少し、考えてもいいでしょうか。マシュにとっての幸せがどんなものか、ちょっとじっくり考えてみたいです」

 

その答えに、ランスロットは微笑んだ。

 

「あぁ。出来れば、君と一緒に考えてみたいと思っていたんだ。君は人生経験、観察眼は素晴らしいものだ。ある意味で、会社の同僚や家族以上に信頼できる話し相手だからね」

 

それは、揺るぎ無い信頼と同時に、不懐く不安を共に共有してほしい…。そんな思いをひしひしと感じる言葉だった。その紛れも無い思慮、そして答えのない暗闇の不安を…誰かと共有したいという気持ちを受け取る。

 

「…はい!私で良ければ!」

 

そして、リッカとランスロットはバーを後にする。リッカはランスロットに送られ、自宅へと帰る。

 

(…倒せる敵がいるのって、ずっとずっとシンプルで解りやすい問題なんだなぁ…)

 

悪意の無い問題…倒すべき相手のいない戦い…ある意味で、リッカの十八番の大半を封じられた問題への向き合いに、リッカは星空を見上げるのだった──。




ランスロット「では、また」

リッカ「はい!お気を付けて!さーて、私のお家は…」

白き豪邸

リッカ「……私はアレなの?マシュの中で貴族か何かなの?」

(とりあえず、グドーシと連絡取らなくちゃ…)

「ただい…」

グドーシ「おや、遅かったでござるな。おかえりなさいませ、お待ちしておりましたぞ、リッカ殿」

リッカ「───」

グドーシ「作戦会議は遅いので明日に…、…?どうなさいました?リッカ殿」

リッカ「…帰りを甲斐甲斐しく待つ、献身的なパートナー…」

「?」

「グドーシ…あなたは私のヒロインだった…?」

グドーシ「はっはっはっ。本格的にどうなさいましたかリッカ殿はっはっはっ。では、お決まりの言葉を。お風呂にしますか?ご飯にしますか?それとも…」

リッカ「そ、それとも…?」

「ね・は・ん?」

リッカ「悟れって事!?」

──リッカの揺るぎ無い運命の一つは、決して離れない。当たり前の平穏として、リッカの傍にあるグドーシであった。
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