人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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数刻前 カルデア・『SweetS・じゃんぬ』


『履歴書』


「ん?何よこれ、履歴書?」

『勤務希望』


「・・・アルバイトってことかしら。何よ、今更畏まって誰が・・・」


『ギリシャ出身・ヘラクレス』


「ブフッ――!!!??」


蹂躙するとはこういう惨状(コト)よ!!

夜が明けて、ロマンとオルガマリーから大体のイアソンの行動原理の推測を聞く。

 

 

 

 

彼等がダビデの持つ『契約の箱』を求めていること

 

 

『契約の箱』とは神が人間との信頼の証に与えたパンドラの箱のようなモノで、触れたものに問答無用で死を与える恐ろしい宝具であること

 

 

そしてその『契約の箱』にエウリュアレを捧げようとしていること

 

格落ちとはいえ、神霊のエウリュアレを『契約の箱』に捧げれば箱は暴走し、周囲一帯は死に至るという話ではあるのだが、それは通常の世界の話

 

「成る程。神が絶対であった時代の産物に神を捧げ殺せば世界も道連れ、か。道理としては矛盾もない当然の帰結だ」

 

――この不安定な世界でそれを成せば、もろともに世界が死ぬという。――なんとも恐ろしい結論が導き出されたのだ

 

 

「――成る程。ヤツめを踊らせ、唆した者が居る、か」

 

イアソンは『聖杯』と『契約の箱』そして『女神』を求めていた。恐らく、これを手に入れれば無敵になれると吹き込まれ、躍起になっているのだろう

 

「どこまでも道化よな。もはや物事の正着すら解らぬほどに酔っていたか。我とて酒には飲まれぬぞ?まったく、一周回って失うのが惜しくなってきてしまうではないか」

 

――その唆した者とは、恐らく・・・

 

「まぁ、道化の顛末などどうでもよい。いずれ無様に果てよう。・・・それよりも此方だな」

 

 

 

――マスター達のヘラクレスの打倒方法を聞いて、耳を疑った

 

 

『はい。大英雄ヘラクレスは、例えバーサーカーになっていても完全に理性を奪い去ることは出来なかったようで、『女神を捧げて世界を滅ぼす』摂理を防ぐために、エウリュアレを狙うことが予想されます』

 

「確かか、ヘラクレス」

 

――理性の存在するヘラクレスに確認を求める

 

 

「うむ。残滓ではあるが確かに残っていると断言する。如何な聖杯の理とは言え、我が身から完全に理性を奪い去ることは至難の業だろう。――友が私をバーサーカーで召喚した理由が此処にある」

 

「成る程、断固として人理を滅ぼす招集に応じぬ貴様に業を煮やし、理性を奪う暴挙に出たか。まこと短絡的かつ愚かな男よ」

 

「・・・本来ならばそのような愚策などたちどころに見抜く慧眼は備えているのだが。生前の後悔と無念を暴かれ、冷静さを欠いてしまっているのだ。ヤツは目先の栄光に何より先に飛び付く傾向があるからな・・・」

 

「ふはは、友と名乗るだけの事はある。よく心得ているな。――それで、どうだ。貴様から見たこの作戦は、此方に勝算があると思うか」

 

――器がいつにもまして楽しそうだ。やっぱり、一目おく大英雄が目の前にいるからだろうか

 

 

「在る。必ずヤツはこう動き、必ずヤツはこう対応する。ヤツの自尊心と私への信頼を鑑みた素晴らしい作戦だ」

 

――その作戦とはこうだ

 

 

まずアーチャーを総動員させ、ヘラクレスだけを誘き寄せる。サーヴァント総出で迫り来るヘラクレスを足止めし、備えられた地下墓地に設置された『契約の箱』にヘラクレスを触れさせ生命を奪うというものだ

 

「まぁ足止めに心配はしておらぬ。時間稼ぎも行えずして何が英雄か。・・・肝要なのはこちらだ」

 

・・・そう。ヘラクレスをそこに誘き寄せるには、誘導するための女神を、目に映る範囲にちらつかせつつ逃げなければならない

 

それを為すのは・・・

 

「本当に問題はないのだな、マスター」

 

――その役割を立候補、いや。この作戦の立案者こそがマスターだったのだ

 

 

「うん!任せて!私も命を懸ける!今がその時だよ!」

 

「・・・女神を抱えた全力疾走。いくら君が英雄達の教えを受けているとはいえその身は只人。・・・諸手を上げて賛同しかねる難行だが・・・」

 

 

「フッ、問題はなかろう」

 

――あぁ、大丈夫

 

「・・・その確信の在処を問うても構わないか、英雄王」

 

「今更問われるまでもない」

 

 

頭に手を置き、わしわしと撫でる

 

 

「こやつは我のマスターだ。あらゆる難行に挑む理由なぞそれだけでよい」

 

「うん!私も人間として頑張らなきゃ!」

 

 

「そも、初めから英雄であったものなどおらぬ。英雄の歴史とは目も当てられぬ愚行から始まるのだ。貴様もそうであろう。ヘラクレスよ」

 

 

「・・・――」

 

「ヘラクレス、心配してくれてありがとう。本当に優しいんだね」

 

 

「マスター・・・」

 

「――大丈夫だよ。私は私だけで頑張るんじゃない。ギルやマシュ、カルデアの皆と頑張るの」

 

マスターがヘラクレスの手を握る

 

「私は皆に支えられてるから頑張れる。辛さも苦しさも皆で分かち合うから頑張れるの。だから、やれるだけを一生懸命やる」

 

真っ直ぐ、器と肩を並べる大英雄を見据える

 

「だから、大丈夫。・・・でも、ちょっぴり怖いのはホントだから・・・もし良かったら、貴方の勇気を分けてほしいな、ヘラクレス」

 

 

「――・・・」

 

「・・・ダメ?」

 

「・・・否」

 

ヘラクレスが、リッカを抱き締める

 

 

「恐怖を忘れず、難行に挑むその勇気。その在り方はまさに勇者、人間の輝きだ。――藤丸リッカ、貴女に心からの称賛と祝福を」

 

「お、おぉう・・・ぎ、ギル・・・私今凄いことになってない?」

 

「何、謹んで受け取っておけ。大英雄の胸に収まる栄誉なぞ、神ですらその身に預かれまい」

 

――紳士だ・・・

 

「その決意に、微力ながら私も力を貸そう。――貴方の道筋は我等が護る。どうか、振り返らず走るのだ、我がマスターよ」

 

 

「――はい!」

 

「大英雄とはつくづく嫌味なモノよな。貴様の微力なぞ凡英雄の何人力だと言うのだ」

 

「今を生きる生命の輝きに、勝る英雄は何処にも居るまい」

 

「――人の道を切り拓くのが、英雄という生き物、か」

 

――かつての大英雄、アキレウスの言葉を思い出す

 

・・・そうか。英雄とは・・・皆、こんな素敵な、星のような人達なんだ

 

・・・ならば、あのイアソンも、きっと

 

「・・・ギルガメッシュ、その言葉を、何故?」

 

「いや、何。――貴様の知己と肩を並べた事があってな」

 

「――もしや、それは」

 

「今は置いておけ。・・・しかし、貴様らの教師は一門の賢者であったか」

 

「・・・自慢の師だ。イアソンは馬小屋などと悪態を尽き尽くしていたが」

 

 

「ふははははは!貴様も苦労していたのだな、ヘラクレス!」

 

「苦労は誰しもが背負う。私は少しだけ、ソレが重かったまでだ」

 

「ヘラクレスが少しだけっていったら私なんて飛んでっちゃうよ?ぽーんと」

 

 

「なに、こやつの苦労は英雄13人分だ。それほど大差はあるまい」

 

 

――世界全てを見据える器からしてみればそうなのだろうが・・・余りに壮絶に過ぎるでしょう?

 

 

「それは違う。12の試練とはいうが無効、ノーカンがいくつかあった。非公式試練がまだいくつかある」

 

「え!?」

 

「マスターも、信仰する神は慎重に選ぶのだぞ」

 

「私、アルテミスを信仰しようかなと・・・」

 

 

「――・・・」

 

「何その眼!?」

 

「機嫌を損ね疫病や猪を差し向けられぬようにするのだな。では話は終わりだ!配置につけ!」

 

 

――王の号令が響き渡る

 

 

「これより、我を差し置き最古を騙る不届きものの賊の集団を誅罰する!総員奮起せよ!人理の興廃この一戦に在りだ!!」

 

 

「うん!!」

 

「マスター、これを纏うのだ」

 

 

マスターにヘラクレスが、マントを預ける

 

「わ、凄い!何これ!」

 

「ネメアの獅子の皮で作られた外套だ。獅子は勇気の象徴、君に力を与えてくれる」

 

背中からゆっくりとマスターに纏わせる

 

「ハッ、中々似合うではないかマスター。獅子は良い。ペットに最適だ」

 

「えへへ。そうかな?」

 

「然り!此度の作戦、魔力消費は我が受け持とう!貴様は只走れ!けして振り返るなよ、マスター!」

 

「うんっ!!」

 

「先輩!」

 

 

「行こう、皆!!」

 

――この特異点、最後の戦いが始まる!

 

 

 

 

 

 

 

「あの島です、マスター」

 

 

場面は代わり、アルゴノーツ。ギルガメッシュがあえて残した魔力の残り香を頼り、アルゴー号が追い縋る

 

 

「そうか、見つけたか・・・!ゴミクズ、ガラクタの寄せ集めども、とうとう追い付いたぞ・・・!」

 

 

歯軋りし、憎悪に顔を歪ませるイアソン

 

「ヘラクレス!!ヘクトール!!さっさと支度をしろこの能無しどもが!!契約の箱!そして女神を奪うんだ!」

 

 

「へいへい。怒鳴らないでくださいな」

 

 

「さっさと準備しろ!生前の様にアルゴー号に引きずり回されたいか!!お前もだヘラクレス!理性の欠片も持ち込めなかったケダモノに成り下がったお前が武力で負けてどうする!!」

 

 

「⬛⬛⬛⬛⬛」

 

「・・・荒れちゃってまぁ・・・」

 

 

「いいからさっさと働けグズどもが!!島に上陸し――」

 

 

――それは放たれた

 

「え?」

 

――イアソンの頬の肉を掠め切る程の精密な弓矢

 

「なっ――」

 

――それが、狼煙だった

 

 

 

「がっ――!!」

 

 

ヘクトールの胸に矢が突き刺さり、霊核に深刻なダメージを与える

 

 

アルゴー号の船体に『沈まない程度の損壊』かつ『航行不能に陥る』レベルに至る損傷を与える矢が三つ放たれる

 

 

「これは――・・・」

 

マストが矢を受け、根本からへし折れる

 

 

そしてイアソンの皮を正確に切り裂く精密な矢が飛来する

 

 

「な、なんだ!?これはなんだ!?何故俺にばかり――!」

 

――驚愕すべきは

 

 

この弓矢が全て『同時に放たれた』事であるのだ――!!

 

「・・・この怪力と精密さを合わせた射撃、まさか・・・そんな・・・」

 

 

――そのような絶技を放てる弓兵など、この世にただ一人

 

 

「・・・まさか向こうにもいる、ってのかい・・・悪い夢なら醒めてほしいね・・・!」

 

「――ヘラクレス――!?」

 

 

――

 

 

「フハハハハハハハハ!!見ろ!道化が無様に踊っているぞ!」

 

腹を抱えて笑う器

 

――乾いた笑いしか出ない。というか、射出の動作が知覚できなかった!何発彼は今放ったんだ・・・!?

 

 

「ギルガメッシュ。今ヤツは混乱している。畳み掛けるは今だ」

 

 

「よし!!者共!貧相な矢を、道化に向けて撃ち放て――!!」

 

 

 

「全く、口の減らない英雄王だ!――アポロンとアルテミスに捧ぐ!『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!ヘラクレスに続け!我が弓矢よ!!」

 

 

 

「アルテミス!お前も撃て!あのゴミクズ野郎を滅多撃つんだよ!ハッハッハ!いい様だぜワカメ野郎!!ざまぁみろ!!こっちにはマジもんのバケモン二人がついてんだよ!お前んとこの欠陥ヘラクレスなんかもう怖くねぇ!!」

 

 

「ダーリンこわーい。まぁいいや!見ててねリッカ!放たれる私の愛!『月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)』~!リッカちゃんに素敵な人が現れますよーにっ!」

 

 

「リッカちゃん、ロクな死に方できたらいいね・・・アポロンに気を付けてね・・・」

 

 

「本当はあんなのに使いたくないんだけど特別に。『女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)』~!」

 

 

 

「いやぁ、頂点の射撃の前には恥じ入るばかりだ。慎ましく、石を拾って投げておこうっと『五つの石(ハメシュ・アヴァニム)』!」

 

 

「・・・私を呼んだのは当て付けかね、英雄王」

 

 

 

「良い機会だ!本物の射撃をとくと拝め贋作者!」

 

 

「――確かに、かの大英雄と肩を並べるなぞ、身に余る光栄だがね!『赤原猟犬(フルンディング)』!!」

 

 

「マスター、本当にいいのか?俺は宝具を使えないもんで、見劣りしちまうが」

 

「アーラシュさんの弓矢が好きなの!」

 

「――そうかい!なら、期待に応えねぇとな!」

 

 

「締めは無論我だ!刮目せよ道化、最強の次は最古の射撃をくれてやる!」

 

 

――財を選別。ギリギリ護りきれる剣や槍を装填!

 

「しかと見よ!『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』――!!!」

 

 

 

古今東西、あらゆる射撃がイアソン目掛けて襲いかかる――!!

 

 

 

「さぁ幕は近い!散り際に至るまで我を愉しませよ!道化――!!」

 

――船の戦いだ。念のため、『アレ』も準備しておこう・・・!

 

 




「武芸に生きたこの身ではありますが、カルデアに存在する小さきものを労るには無用な技術であり、同時に貴女の繊細なスイーツ作りの手助けをしつつ学びたいと思い、アルバイトに申し込みました」


「あっ、はい・・・」

「復讐者でありながら顧客に真摯に向き合い、その手腕で皆を笑顔にする貴方の在り方に大変な感銘を受けた次第。その直向きさと前向きさを、心から尊敬しております。どうか貴方の笑顔を作る仕事の手伝いを、私にさせてはもらえないでしょうか?」

「はい・・・――採用で・・・こちらこそ、どうかよろしくお願いいたします・・・」


「ジャンヌ・オルタ殿、顔色が・・・」

「なんでもありません・・・では、あの・・・シフトを決めますから・・・」

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