過去・何処かの別荘
モリアーティ「何故私だけこう、雑に死ぬ役割なんだろうネ…」
オルガマリー「因果応報だからでは無いでしょうか。犯罪会のナポレオンも、不滅の怪人とはいかなかったようで」
モリアーティ「うん、そうだネ…あの邪神のような質の悪さはないクリーンな悪役だもんね。薄命だよネ…」
「生徒と娘扱いの私に今更嘘は止めてくれませんか」
「嘘じゃないヨー…まぁ、遺産の相続も資産も財産も君に託す手続きはしてある。これからは、君が裏の世界を牛耳り給え、我が最愛の娘よ」
「…言い残すことや、心残りはありますか」
モリアーティ「最後くらいお休みのチューをしてもらっていいかナ?」
オルガマリー「はい、チュー(ジャキッ)」
モリアーティ「痛い痛い痛い!フリージアめり込んでる痛いヨオルガマリー君!…まあ、それはともかく。思い残すこと無いさ。大悪党の私が、娘に看取られベッドで死ぬ。ホームズも歯軋りする勝ち逃げ、大往生さ。…だが、一つ疑問は生まれたな」
オルガマリー「聞きましょう」
モリアーティ「私も滅びる。君以外の誰にも素性を、正体を明かさず暗躍した悪そのものの私がだ。私も滅びるというのなら、可能性はあるのかもしれない」
「…?」
「『悪は滅ぼせるか』という、フェルマーの定理ばりに難解な問題だ。…君はどう思う?本当に、悪は駆逐できると思うかね?」
「…さぁ。ですが、滅びぬ悪がないというのは今解りました」
「ははは、確かに!…暇があったら、テーマを究めてみたまえ。難解な式だ、ボケ防止になるよ我が娘」
「末期の老人の戯言として、覚えておきます」
「フフッ…頼むよ。願わくば、私の事は最低十年は引きずってくれたまえ」
オルガマリー「半日くらいで勘弁してくださ…、……」
モリアーティ「………───」
「……おやすみなさい、ジェームズ。出来るだけ、やってみます」
そう…出来るだけ──。
「皆…!」
連れてこられた基地と呼ばれる場所、世界中の情勢を見据える全天モニターがリッカを出迎え、その規模の大きさに目を奪われる。世界の各所、遺跡や文化財。或いは集落や紛争地帯を映し出すモニターを一望できる場所に存在する椅子に、彼女は座っていた。それはカルデアの精鋭たちを率いる女傑となった親友。
「来たわね。やはりあなたがいないと、どうしても思考や計算が上手くまとまらないの。今日も元気そうで何よりよ」
「マリー!オルガマリー・アニムスフィア!」
急にどうしたのよ…そんな風に片眉を上げる淑女、言わずとしれた楽園の所長オルガマリー。戦闘力一つとってもリッカに比肩するほどの実力者が今回味方である事から、この問題を突破するために必要なキーマンである事を確信する。敵であったなら冗談抜きで全てをかなぐり捨てる覚悟が必要な程の存在…グドーシと並び味方で良かった相手である。
「ううん、なんでもない!でも、この場所は一体?なんだか凄い、リアルに秘密結社みたいな雰囲気しかしないけど…」
「…もしかして記憶の混濁が起こってるのかしら?私達は世界中の悪逆、戦争、人類の自死的滅亡から人知れず世界を護るために結成されたまさに秘密結社。あなたは世界に点在する英霊の聖遺物、触媒、そしてオーパーツを回収、保護する担当のスペシャルエージェント。コードネーム【アジ・ダハーカ】じゃない。忘れたの?」
想像以上に重厚かつ壮大、そしてカルデアと似たような組織を設立している運命の妙に笑みが溢れてしまうリッカ。どうやら自分は、英霊の皆が遺してくれたものを護る担当であるらしい。実に『らしい』職業であった。蓋を開けてみれば、自分もまた世界を護る為の存在。骨の髄まで未来を掴み取る事が天職らしい。
「そして!社会の闇に暗躍し世界を弄ぶ邪悪なる存在に立ち向かう為にスカウトされたスペシャルチーム達!リッちゃんと志を同じくする仲間はここにいますよ!」
リッカが振り返れば、そこには見知ったこれまた心強い仲間達。それは、彼女が紡いだ絆の証の具現化した存在。過去の意志を欺くことは出来ない事の証たち。
「世界を混乱させる邪教、新興宗教をブッ潰す事に特化したテロリスト、超常現象対策部門所属!東風谷早苗!守矢を信仰しようとしない者達を解らせる為に日々頑張る女の子です!」
「ギャング、マフィア、麻薬密売や人身売買!悪事に手を染める法の及ばぬ闇をぶん殴り人命救助を主に活動する装者、立花響!えへへ、やっと口上覚えたよー!」
「詐欺、横領、天下り、賄賂、違法カジノ。社会上層部の腐った暗部を暴き出し、人知れず正義の鉄槌を下す善なる忍部隊。頭領、雪泉。忘れてしまうとは冷たいプリ、リッカちゃん…」
仲間達の錚々たる名乗りに目を輝かせるリッカ。仮面ライダー派であるが認めざるを得ない。これは、間違いなく…
「戦隊モノだー!カッコいいー!!」
「そうよね…あなたは好きよね、こういうノリ」
全く、子供なところは治らないのね。そういうオルガマリーであったが、その高揚を否定する言葉は口にしない。何故なら自分も好きだからである。
「それでは早速任務を…と思ったけれど。声の弾み方やテンションからして、今あなたはなんだか抱えている問題があるわね?まずはそれから解決しましょうか」
「えっ!?いいの!?」
「いいのよ。チームはいくつかあるからそれらに対処に当たってもらうまで。何よりメンタル、フィジカルを万全にしてもらわないと仕事に支障が出るわ。ほら、話してみなさい」
オルガマリーの話の速さと有能ぶり。マシュの中でもやはり彼女の評価は天井知らずだ。
「──うん!実はね…!」
その事実に感銘を受けながら、リッカは新たに加わった頼れる仲間達に今の問題の状態を仔細細かく説明するのであった──。
〜
「成程…誰もが望んでおきながら、誰もが幸せになっていない。そんな真綿で首を絞めるが如くの状況を打開したい、と。確かに、リッカにはやや不得手な話題ね」
静かにオルガマリーが頷く。その様子を真綿で首を絞めると形容したとおり、倒すべき相手がいない問題の難解さを彼女は認識する。
「リッちゃんはまだ結婚も縁談も経験がありませんからね!出会った頃もその方面はからきしでした!」
「面目ない…悪役ってカタルシスには必要なんだなって解らされました…」
「立場を傘に結婚を迫る…それなら天誅の道もありましたが、相手はラウンドナイツ・コンツェルン。急激に増加した犯罪の抑止力たる方々、やはりその線はありませんでしたか」
雪泉の言う通り、ラウンドナイツ・コンツェルンは昨今謎の急上昇を遂げ、前年同期比150%に増加した犯罪を抑える責務を担っている会社であり、獅子王に出る埃や探れる腹など存在しない事が示される。確かに、社会的な幸福からしてみれば全く落ち度のない婚姻である。人の情が介在しているからこそ拗れている問題故の悩みだからだ。
「こういうのの定番は結婚式乗り込みだよねー!『その結婚!ちょーっと待ったーっ!』ていうやつ!そういうのなら私得意だよ!花嫁を鮮やかに奪ってみせるッ!」
「止めなさい響、あなたが結婚することになるのよ。未来に神獣鏡で塵にされるわよ」
「ならやはり縁談自体を粉砕!玉砕!大喝采するしかないのでは無いのでしょうか!祟りに定評のある諏訪子様のあーう★呪詛で会社を半日で経営破綻に陥らせ立場を全てデフォルトに!」
「ラウンドナイツ・コンツェルンの全員を路頭に迷わせては本末転倒でしょう…本当、悪質な組織に拾われる前にあなた達をスカウト出来た自分を褒めたいわ」
「「それほどでも!」」
「褒めてないわよ…まぁ、それはともかく。リッカの悩みは理解したわ。雪泉、詳しい身辺情報を渡すから、当人達の嗜好やパーソナリティを残らず確保してくれる?」
「了解しました。…いえ、了解したプリ」
(秘密結社モードは可愛さで売るつもりなのかな、雪泉さん…)
一部力業重点な者達もいるが、事の運びは極めてスムーズに進んだ。どうやらオルガマリーには考えがあるらしい。真理とは、得てして単純だとリッカに告げる。
「私から、『彼』には伝えておく。作戦プランを今日の夜に渡すからそれを明日より実行なさい。善意しかない問題なら、こちらも誠実に当たれば大丈夫。グドーシと一緒に行動を煮詰めるように」
「マリー…皆…」
「私達は仲間であり、世界を護るチームだもの。どんどん頼ってくれて構わないわ。でしょう?」
「はいっ!世界を救うなら、まずは一を救う!大切な理念ですもんね!」
「私達はいつも最短で真っ直ぐに掴み取る!最高最善の結末をッ!だから、ね?そんな難しい顔はおしまいにしよう!」
「私達は正義と絆で結ばれた仲間、一蓮托生のチームプリ…。何も遠慮する必要はないプリよ。リッカさん、共に参るプリ」
「───うん!皆、よろしくね!」
まだ曇りを晴らすのは始まったばかり。しかしここにいる皆となら、絶対になんとかできるという確信が湧いてくる。その頼もしい想いが、今一つとなる。
「それではミッション開始よ。私達は世界の未来を切り拓く。その為に私達は戦い続ける!我等!」
「「「『世界絶対救い隊』!!」」」
(それ正式名称!?シンプルすぎないっ!?)
リッカの素直な感性以外ではダサいとしか言いようの無い名称の組織達が今、動き出す。この難題は、こちらも善意の対処で挑まなければならぬのだ──。
オルガマリー「やっぱりダサいわよ、この名前」
リッカ(切り込んだー!?)
ビッキー「えー!?解りやすくていいじゃないですかー!」
早苗「やはり守矢神社総本山という線が捨てきれませんか!?」
雪泉「やはりここはプリティ・ガールズにするプリ…魔法少女とかもカバーするプリよ!」
オルガマリー「じゃんけんで決めるんじゃなかったわ…リッカは何かいい案はあるかしら?」
リッカ「えっ!?えーと…」
「「「ワクワク!」」」
「…マグニフィセント・セイヴァーズとか?」
「「「カッコいい…!!」」」
「議題に提出しましょう」
(ノリが女子校じゃない!?)
でも安心する…!ようやく訪れた安寧の基地に、リッカはホッコリするのであった──
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