人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「獅子王さんは大学時代に日本に来たことがある…?」

グドーシ「えぇ、彼女は日本の文化を深く愛し、そして感動したそうです。ギャラハッド殿から聞いて参りました。彼女は日本の事を話すときは…とても幸せそうであったとら、そして、起業する際には必ずや日本で、と仰っていたそうです」

オルガマリー「タイミング的には、ギャラハッドさんを拾ったのは日本に来る前…騎士たちと遠征直前だったようね。これもまた、何かしらの条件かしらね」

リッカ「うーん…世界征服とか考えてないよね…流石に?」

グドーシ「それを是非、聞いてみましょうぞ。お風呂タイムが楽しみですな」

リッカ「入るの!?」

グドーシ「ははは、リッカ殿がでござるよ。カーマ殿は混浴を強く推奨しておりますが…そちらなら一緒に入れますかな」

リッカ「月見麦茶しよう!月見麦茶!」

オルガマリー(健全ね…)



目指すは最果ての王都

『うむ…たまにはこういった一時も、良いものだ』

 

のんびりとご飯を食べ、散歩をし、マッサージチェアにてマッサージを堪能しながら一人つぶやく獅子王。絶品ぼたん鍋を心ゆくまで味わい、また食べてみたいと想いを馳せながら、何にも急く事のない久方振りの平穏に息を吐く。

 

『思えば、四六時中責務に追われ穏やかな時間というものからは随分と遠ざかっていた。休息というものを蔑ろにするのは良くはない傾向だな…』

 

またアグラヴェイン辺りに口を尖らせられると一人思い耽り、何をするでもなく天井を見上げる。彼女は秩序と社員を護ると決めた瞬間から、自己という存在を封殺し獅子王という舞台装置となる事を選んだ。完璧な統率者、一欠片の不備不満も無き完璧な経営者。誰もが正義を見出し、先行きの見えない今のこの世に希望を見出すことの出来る存在となることを誓った。その証こそが獅子王の名、獅子の面。人ではなく、雄々しき絶対的な存在としての象徴であることを選んだ生き様、それこそが自身の道。

 

「清く正しい獅子に、清く正しい騎士。噂に違わぬ清廉潔白よな。恐らく、我では一日と保たぬだろうよ。だが、果たして獅子の面を付けているのは貴様か、はたまた人の皮を被っているだけの獅子に成り果てているか…その自覚は持っているか?」

 

そんな彼女に、確信に満ちた様相で牛乳ビンを持ってやってきたのは我等が王、ギルガメッシュだ。番頭の法被を着ながら、獅子王に牛乳の差し入れを施す。

 

『番頭か。…今のはどういう意味だ?この至福の時間の礼だ、戯れにも付き合おう』

 

「言葉通りの意味だ。偽りの立場、己を隠す仮面。長く演じ過ぎればそれは顔に張り付き己を侵す。人ならざる道を選ぶ理性は見上げたものだが…今貴様が感じている至福を永遠に味わう事のない自身に、本当に堪えられるかな?」

 

休める時に休めぬもまた怠惰。かつての折に彼はそう説いた。今の穏やかな時間を得難いと感じる心があるのなら、今歩もうとしている道はあまりに清廉で、果てしない。その覚悟は本当に正しきものかと、王は問う。

 

『…無論だ。私に迷いはない。この方針、この道を貫き続け絶対の秩序、絶対の規律が存在することを騎士に、民に、全てのものに示す。その決意と覚悟を以て、私は今まで歩んできたのだから』

 

「何故そのような絶対を求める?不祥事、スキャンダル、天下り、大いに結構ではないか。人の愚かさで世界は回る。清き河に魚は住まぬぞ?」

 

獅子王は王の言葉に、毅然と言葉を返す。そして、苦悩を吐露し始めた。

 

『…年々、若者達の選挙の出席率と新生児の出生率は低下、下降の一途を辿っている。時代を担う未来の若者が国を動かす者達に諦観を懐き、国が新たな命を推進しないが故に起きている惨状だ。そこには絶望がある。不祥事を繰り返す議員、生活すらままならなくなる育児。『誰を選んでも同じ』『育てていけないから産まない』。…この国は遠からず滅ぶだろう。理念や概念の問題ではなく、現実的に未来を担う命が無くなろうとしているからだ。私は…先進国と呼ばれるこの国に脚を踏み入れ、衝撃を受けた。これは、我が故郷と同じ緩やかな滅びを辿っていると』

 

「成程な。確かに神秘の閉じた最後の地であるブリテンと状況は似ている。──貴様の狙いが読めたぞ。この狂気的な清廉潔白の屹立、それは後の足掛かり…『政界への進出』だな?」

 

政界への進出。国を動かす立場となり、この国を良きものとする立場となる。支持を集め、この国に蔓延る倦怠と絶望を晴らし、ラウンドナイツ・コンツェルンと共に世界が信じる唯一無二の秩序となる。獅子王の目指す未来のビジョンがそれだと、王は見抜いた。

 

『そうだ。美しき自然、美味な食事、おもてなしの精神…この国を私は愛している。そして、世界に満ちる希望を私は護りたいと思う。かつて大学を出、この国に脚を踏み入れた頃からそれは変わらない。私は、世界を護りたいという願いがある』

 

「その願いを遵守し、たった1代で貴様の会社を世界に轟かすレベルにまで引き上げたか。見上げた初志貫徹ぶりだ。確かに今の貴様なら、愚民共は貴様を選び持て囃すだろう。だがな獅子王、愚民はけして満足や納得を得ない無知蒙昧であるが故の愚民なのだ。貴様がどれほど正しかろうと、貴様が正しいという理由だけで貴様を認めぬ輩は現れる。その矛盾に貴様は堪えられるかな?」

 

そう、与党における野党、どんな人間でも情報発信が叶うツールの発達により、誰であろうと発言権はある。彼女の様に理想に燃え、有能な存在であろうとも支持率の100%はありえないだろう。人の宿痾として、ただ気に入らないから、気に食わないからと従わない輩は確実に存在するのだ。

 

『承知しているつもりだ。肌の色が違う、女性である。根付いた文化に、私には不利な条件が数多い。帰化するつもりではあるが、それでも障害は多い。…だが、それでも断固として立ち向かう為の、獅子の面だ』

 

「ほう──人ではなく獣を選んだ本懐はそこにあると?」

 

『……私は不義理、堕落、怠惰を許しはしない。罪には断固とした罰を以て臨むつもりだ。あらゆる悪は、私が見出し裁くだろう。一欠片の抜け道も許しはしない。この国に巣食う膿を抜き出し、正しきものが健やかに育つ国へと生まれ変わらせる』

 

それは即ち、悪事への断罪を是とした国の改革。彼女自身が悪とした者への、徹底的な糾弾と排除。一縷の揺らぎもない絶対的な秩序の擁立を、この国にて目指すのだと彼女は告げる。

 

「志の高い事だ。神ならざる人の身で、秩序の規範に至ると宣うか獅子王。よくぞ吠えたものよ、獅子とは言い得て妙であったか」

 

『…2千年の歴史を歩んでも、人は正しさと秩序を擁立する事が出来なかった。なら、一縷の誤り、綻びもない秩序を私が証明し、人類の善性の最高到達点となり他を見張り、管理すればいい。そうすれば、全てうまくいく』

 

それは、蔓延る悪や犯罪を容認する世界へ自身が出した答え。獅子王が導いた真理。

 

『正しき統制、正しき治世。それを不退転の決意を以て永遠に擁立させ、法を人が護ればそれでいい。──これが獅子王の私が導いた、最終結論だ。番頭よ』

 

それが獅子王の結論にして、絶望にも似た答え。『人では秩序を護れない』といった結論の末の答えだった。ギルはそれを、詰ることなく問い返す。

 

「秩序が人を護るのではなく、秩序を人が護るか。管理社会、ディストピアの究極よな。ま、それが出来るならある意味で見応えはあるだろうよ。ただし、それには貴様という物差しの正確さが求められる訳だが…」

 

『覚悟はしている。私は、完璧であれと自身を律し進むのみだ』

 

それだけを告げ、獅子王は目を閉じる。…その理想は、やはり今は重すぎるのだろう。

 

(フッ、我等にはとことん天下分け目が似合うと見える。此度の宿泊にて勝利できねば管理社会の誕生か。ふはは、加減の効かぬ夢よな)

 

その社会の是非を問うは今ではない。所詮は夢の遊興である。しかし、夢であるとはいえその社会の実現した景色への興味は湧き、ギルは一人笑うのであった──。

 

 




ギル「確かに理解した。では引き続き愉しむがいい。貴様の言の通りであれば、人としての愉悦を味わう時間…そう長くはあるまい」

獅子王『そのつもりだ。私は仮面を脱がなくなるだろう。これらを味わう日も、無くなるはずだ』

ギル「呆れた生真面目さよな。──だが一つ、予言をしてやろう」

『?』

「絶対なる善など有りはしない。貴様はこの日か明日に自己存在意義を砕かれるだろうよ。砕けた獅子の面から覗く景色…大切なものを見落とさぬ事だ」

獅子王『…胡乱な事を』

「ふはは、では引き続き愉しむがいい!そうさな、息子と愉しむもバチは当たらぬぞ?」

それだけを告げ、王はさる。獅子王はその後ろ姿…ともすれば己にも引けを取らぬオーラを持つ王をただ見つめていた──。

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