人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ビッキー「大丈夫かな…?皆大丈夫かな…?」
雪泉「我々は別室待機なのですね…?部外者、だからでしょうか…?」
オルガマリー『いいえ、アナタたちには次の役割があるのよ。セイヴァーズ、ラウンドナイツ・コンツェルンの立場を盤石にする為の次の役割が、ね』
なのは「あー、また悪巧みしてますねマリーちゃん!」
『とんでもない。悪の一斉摘発ですよ。まぁまずはその前に、藤丸君に男を見せてもらわなくちゃいけないわけだけど…』
ギル『御膳立てはしてやった。後は思うままに奮闘するがいい。下らぬ塩時合を見せてくれるなよ?』
ビッキー「よ、よくわかんないけど!待ちますッ!」
雪泉(そろそろ、華麗なプリティぶりを見せたいところです…)
なのは(今回はリッカちゃん、窮屈そうだったからなぁ…頼むよ、マリーちゃんに王様!)
『私に、この場で伝えたい事がある。そういった用向きで、間違いないのだな。ランスロット卿』
一同が全員集まり、顔を向き合わせる宴の場。その下座にて顔を合わせるランスロット、そして、ギャラハッド。並びに藤丸にマシュ、そしてリッカ達。彼等は、掴んだ答えを獅子王に告げるために此処に集ったのだ。
「はっ。…王よ、我が身、我が忠義を懸け貴方に提言いたします。今回の縁談…暫し、猶予をいただけませぬでしょうか」
『何…?』
獅子王に告げられたもの、それは義理の息子との縁談の成就の先送りであった。推進していた順風満帆の縁談を、この期に及んで遅らせる理屈が獅子王には理解できないと俯く。
『貴公が持ち込んだ縁談であり、ギャラハッドは了承し、私もそれを認可した。それを今更何故水を差す。理由を告げろ、私が納得する理由をだ』
「それは…」
「我が王、それはこの縁談が、額面上の幸福のみを見た性急なるものであったからです。私も、そしてランスロット卿も…そこにある者の心を蔑ろにしていたのです」
異議を申し立てたのは、自身の息子たるギャラハッドも同じであった。今回の縁談、受け入れたならば地位も家名も盤石なものとなると信じた獅子王に、まさに青天の霹靂というべき言葉だったのだ。
『…心だと?それが何故、保留に繋がるというのか』
「マシュ嬢…マシュ・キリエライトには既に心に決めた者がいるのです。それは、既に永遠を誓い合った存在。心を射止めた異性。その者の存在をランスロット卿は黙殺し、この縁談を受けたのです。そして、それは同時に私も同罪。己の為、社会の為と拒絶しなかった私にも咎がある。それを、此度の対話で知ったのです」
その言葉と、マシュの隣にて懸命に顔を上げる青年を獅子王は見た。先まで認識すらしていなかった存在が、確かにそこにある。
『…ランスロットの娘、だったな。マシュ・キリエライト。その男に、思慮を寄せているのか?』
「は、はい!私は、この藤丸立香さんを愛し──」
『目に見えぬ、証明できぬ者の話をしているのではない。お前はギャラハッドを伴侶としては不足と捉え、共に人生を歩むのは不可能だと断じ、その男を選ぶと言うのかと問うている』
それは、静かな威圧であった。我が息子は、そのような何処ともしれぬ馬の骨に不覚を取り道を譲らねばならぬほどに不能であるのかと。言には出さぬ、息子への侮辱への憤慨を醸し出していたのだ。穏やかな太陽が灼熱性を剥き出しにしたかのような問いに、マシュと藤丸は戦慄し凍り付く。
『お前は、我がギャラハッドでは不足と言うのだな?その思い上がり、余程ランスロットの育ては自由であったと見える。よくぞこの様に恐れを知らず育ったものだ』
「ち、違います!マシュはその様な事は!」
『黙れ、俗物。地位も覆す才覚も無く、世に覇を謳う覇気もない。そんな輩が一時の気の迷いで生涯を共にするなどよくぞほざいたものだ。貴様の様な口先だけの婚姻を交わし、護れもしない永遠の誓いを乱立させる能無しが世に片親や家庭崩壊を招くのだ。貴様には、空虚な言葉と目に見えぬ契りしか私を納得させられる交渉材料を持っていまい。それで私の子の幸せを阻もうなどと笑わせる』
獅子王は冷徹に藤丸を弾劾する。そこには、社会的地位も才覚も持たず、ただ懸命に努力した者の邪魔のみを一丁前に行うものへの嫌悪と侮蔑があった。
『マシュを愛し、婚姻を結ぶというなら何故その様な下流に甘んじている?仮にも立場が違う者同士の婚姻を志すなら、低きが高きに食らいつくのが礼儀だろう。己を高める時間も、機会も、伝手もいくらでもあった筈だ。何故何もしなかった?』
「それは…」
『愛とやらに堕落し、現状の微温湯に甘んじ、己を磨く事のしない上昇志向の無い愚物に、私の息子の幸福を邪魔する権利はない。貴様は自身を世界の中心か何かと思い上がっているのかどうかは知らぬが…貴様など、社会的弱者にして我が秩序の路傍に転がる石でしかない。身の程を弁えるがいい』
何もしてこなかった、自身を磨こうとしなかった。今いる時間が幸せだったからと、前に進もうとしなかった。獅子王の痛烈な批判に、藤丸は口を閉ざすことしか出来なかった。──だが。
「…えぇ、確かに彼は何も出来なかった。しなかったのかもしれません。ですが、『だからこそ』。その過ちを糧に大成する可能性があるのだと私は信じます」
それに異を唱えたのは、ギャラハッドだった。藤丸と対話した彼が、何よりも獅子王から彼を庇ったのだ。
「一年、二年…それだけの時間をいただければ、彼を私が鍛え、私と同等の立場へと育て上げてみせましょう。それは、マシュ嬢への愛を示す事にも繋がる筈です」
ギャラハッドの提案は、藤丸を自身と…大幹部クラスの席へと育て上げる事だった。それにより、マシュに相応しい存在として…或いは近縁の存在として、素晴らしき存在へと、ラウンドナイツ・コンツェルンに利をもたらす存在へと押し上げると彼は告げる。
「資金やノウハウの援助は、このランスロットが。彼をなんとしても、例え地獄に突き落とそうとも。一門の人物にすると約束致しましょう」
『…正気か、貴公ら。ラウンドナイツ・コンツェルンの幹部の席、円卓に相応しい人物にその凡才を鍛えると?』
「覚悟はあります!…あなたの言う通り、オレはマシュの気持ちに甘え、彼女だけがいればいいと自分を鍛えませんでした。そんな俺が、皆の邪魔者だということも解っています」
そう、何故獅子王がこれ程までに彼を拒絶するのか。それは彼が、邪魔者だからだ。獅子王は決して口にしないが、頑なにその決定を譲らない理由が確かにある。
「だから今、この場で誓います!俺は、マシュの…マシュだけの騎士になりたい!胸を張って、マシュを抱ける騎士になりたい!今この場で、全てをかけて誓います!俺は、皆の力を借りてでも!マシュに相応しい男になる!そして、あなたの秩序を支える存在になります!好きな人達が、幸せになれる世界の手助けをします!」
『!…話したのか、ギャラハッド』
「はい。あなたは…我が母は、非常に世界を憂いていると。愛を貫く事叶わず、出生や身分の差で引き裂かれてしまう残酷さを憂いていると。そんなあなたの悩みを、苦悩を変えるのだと。私達は決意したのです」
『………』
「…王よ。我が娘も私に告げたのです。『親の言いなりになることは恩返しではない』と。親の役目は、しっかりと羽ばたく子らの道を付けてやる事。自らのレールに当てはめては、きっとならないのです」
グドーシ、リッカの言葉を受けた二人が告げた言葉に、獅子王は静かに俯く。自らのみで選択し、決断した結果に、二人は異を唱え、きっちりと自らの道を見出した。自身で、決断を下したのだ。
『私は…』
ならば、それを無下にして自らの秩序を貫くのは横暴にして暴君の所業ではないのか?しかし、彼等の決断が正しい保証は何処にある?自らの決めた秩序以上の何かはもたらされるのか?何を信じ、何を排するべきなのか?
『──私は…』
貫いていた正義が、秩序が崩れていく。そもそもの話、自身は本当に護るべきモノを、踏み躙っていたのかもしれない。
『…私は、何か…間違っていたのか…?』
──確信を持ち纏っていた獅子王の正義が、秩序が。揺らぎ、曇った瞬間が訪れる。奇しくもそれは、王が予言した瞬間の到来であった──
リッカ「獅子王様…解るよ…でも、心は理屈じゃないんだよ…」
グドーシ「大分揺らぎましたな。ここであとひと押しが欲しいところではありますが…」
オルガマリー『心配ないわ。手配してある』
リッカ「マリー!?」
『この旅館に、お忍びで獅子王がやって来ている…彼女が裁いてきた者達に情報がもたらされたら、一悶着あるでしょうね』
リッカ「…つ、つかぬ事をお聞きいたしますが…セイヴァーズの情報部門の担当は…?」
オルガマリー『ニャルニャルしているあの人よ』
グドーシ「成程、納得でござる。リッカ殿」
リッカ「うん!なんだか複雑かつ!解りやすくなったって感じがする!!」
同時に感知する、旅館を取り囲む気配。リッカは漸く、『自分らしく』振る舞えるタイミングが来たことを確信する──。