人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「癇癪を起こしたからといって、安易な反則には努手を出さぬ事だ。対戦相手に『何をしてもいい』という大義名分を与えてしまうからな」


――せめて、同じ土俵で戦いましょう


「その悪い例を、この話で教授してやろう!」


真なる王の船

「・・・も、もう飛んでこないか?」

 

 

甲板でうずくまっていたイアソンが顔をあげる。

 

 

 

「メディア、使い魔を飛ばして調べてみろ」

 

 

「その必要はありません。残念ですが、ヘラクレスが倒されました」

 

 

「――は?」

 

「・・・あー・・・」

 

 

「おい、メディア。全く笑えないぞ、その冗談・・・」

 

「・・・」

 

「・・・冗談だろう?」

 

 

「おーいイアソン!待たせたね!」

 

 

『黄金の鹿号』に乗船した星の開拓者、ドレイクが無敵の英雄に声をかける

 

 

 

「ここが最後の大一番だ!一切合切を出しきろうじゃないか!」

 

 

「――馬鹿な!ヘラクレス!ヘラクレスはどうした!」

 

 

「察しの悪い男だねぇ。アイツが生きていたならアタシたちが生きてるはずが無いだろ?」

 

 

「死ぬはずが無いだろう!ヘラクレスだぞ!俺達英雄が憧れ!挑み!返り討ちにされ続けた頂点だぞ!?」

 

狂おしく叫ぶ、無敵の英雄。その言葉には現実を拒絶する絶望が含まれていた

 

 

「それがこんな、お前らのような寄せ集めのガラクタに倒されてたまるものかァ――!!!!!」

 

 

「・・・ふぅん。あんたもアイツにひとかどの友情は感じていたみたいだね。酷く歪んでいるけどさ」

 

――・・・

 

「――そこまで逢いたいなら逢わせてやろう。マスター」

 

 

「・・・いいの?」

 

「夢とは醒めて消えるもの。ヤツを苛む悪夢を、我等の手で醒ましてやれ」

 

「――うん」

 

『私もお願い』

 

通信から語りかけるのは、魔女・・・いや、賢女メディア

 

『後始末と不始末は、同郷がしなきゃ嘘でしょう』

 

『師匠、何を・・・?』

 

『ごめんなさい、マリー。・・・あまり、見られたくは無いのだけど。逃げ出すわけにもいかないものね』

 

「解った。――来て」

 

右手をゆっくりと掲げる

 

 

「――『ヘラクレス』『メディア』」

 

 

「――え?」

 

 

現れる、神代の魔女

 

「――久し振りね、イアソン。随分と楽しそうにはしゃいでいたわね」

 

――そして

 

「――もう、見苦しい真似はよせ、友よ」

 

そして、彼が狂おしい程憧れ、頼みにしてきた古今無双の大英雄・・・

 

 

「――ヘラ、クレス・・・?」

 

「・・・イアソン。お前の苦悩、稚拙な矜持。――終わらせに参じたぞ」

 

 

イアソンにとって、宿命とも言える二人が相対する・・・

 

 

 

「フハハハ!そら、逢わせてやったぞ!どうだ、貴様が望み、憧れた頂点だ!まぁ――貴様が飼っていた犬畜生とは比べ物にはならぬがなァ!!」

 

「うわぁ、王様絶好調だぁ。やることがえげつなさ過ぎてわっはははははは!笑いが止まらねぇ!NDKだな!」

 

「ゲスなダーリンも好きー!」

 

 

「――こんにちは。未来の私。ごきげんよう」

「――えぇ。何も知らず、夢ばかりみていた私」

 

 

今相対する、複雑に絡まった運命――

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

イアソンは何も語らない。項垂れている。顔が見えない

 

 

「なんだ道化。沈黙してしまうとはらしくない。それでも道化か?身の程を知れ。笑いを取らぬ道化に価値などあるまい」

 

 

「ショックで壊れちまったんじゃないかい?」

 

――いや・・・

 

 

「――――のか」

 

あれは・・・

 

 

「ん?聞こえぬぞ。腹から声を出さぬか」

 

 

「――また俺から奪うのか!!裏切りの魔女め!!!」

 

 

口にしたのは――爛れんばかりの憎悪と火を吹く憤怒であった

 

 

「俺の幸福を!未来を!栄光を!!俺の人生を奪うだけでは飽きたらず!今度は――俺の親友まで奪うのか!!薄汚いクソ女がァ!!!」

 

「――イアソン・・・」

 

「黙れ!!おぞましい声で俺を呼ぶな魔女め!!俺の、俺のヘラクレスを奪い取ったのも貴様だな!!お前はずっとそうだった!!やっと手にした幸せを!栄光を!!横から総て灰にした!!」

 

 

(あながち間違っていないのが困り者よな)

(ギル、しーっ)

 

「うわぁ・・・責任転嫁と現実逃避のコンボだ。ああなっちゃ人間おしまいだなぁ」

 

「オリオンみたいにマスコットに?オリオンって人間として終わってたの?」

 

「うん!」

 

「即答しないで!?」

 

 

「・・・――その悪癖。哀しいまでに何も変わっていないのだな、イアソン・・・」

 

 

「黙れ!!何故お前がそこにいる!!」

 

怒りとやるせなさが、ヘラクレスに叩き付けられる

 

「何度も声をかけた!何度も誘いをかけた!!再びアルゴノーツを結成しようと!俺の側に来いと!!お前なら来てくれると思ったのに!!だがお前は拒絶した!けして首を縦に振りはしなかった!!『お前にだけは、傍にいてほしかったのに』!!」

 

「――・・・」

 

「だから理性を奪った!!お前がいるならば総てがどうでもよかった!それが例え、浅ましい番犬だとしても!!お前が!!ヘラクレスがいてくれたなら俺はそれでよかった!!なのに!なのに何故!お前はガラクタに!あの頃のままの姿で使われているんだ――!!」

 

――イアソン・・・

 

ヘラクレスはけして召喚に応じはしなかった。人理を滅する召喚に応えはしなかった。たとえそれが親友の誘いでも

 

彼はそれが赦せなかった。だからあらゆる手段を使って、狂い果てたとしても、ヘラクレスを手元に置きたがった

 

 

「――救いようもなく捻れたものよ」

 

哀れむように器が呟く

 

「愉しくはあるが、哀れでもある。――我は死の離別以外で、友に拒絶された事など無いからな」

 

 

「俺はその姿でいてほしかった!!何もかもが楽しかった頃の俺とお前でいてほしかった!!バーサーカーなんぞじゃなく!アーチャーのお前で来てほしかった!!それを、それを、それをそれをそれをそれを――!!!」

 

 

メディアを指差す

 

 

「裏切りの魔女め!!お前なぞ、人類史なぞに生まれてこなければ良かったんだ――!!!」

 

「――・・・」

 

――・・・

 

『師匠・・・』

 

 

「・・・いいのよ。蔑まれているのは、慣れているもの。・・・素敵な弟子がいるのだもの。辛くないわ」

 

メディアは笑った。・・・フードを被る

 

 

「――では、どうするの?貴方から鮮やかにヘラクレスを奪ったこの魔女に、貴方はどんな報復をするのかしら?」

 

妖艶にて悪辣な『魔女メディア』として振る舞うために

 

「気丈な女よ。アレが貴様の一面なのも頷ける」

 

「もう、水を差さないで」

 

「すまない、メディア」

 

「いいのよ。・・・事実だもの。だからこそ・・・彼には言わなくてはならないことがある」

 

 

「聖杯よ!!」

 

高々と聖杯を掲げる

 

 

「殺せ!!奴等を殺せ!!そして、ヘラクレスを取り返せェエ!!!!」

 

 

現れたるは無数のシャドウサーヴァント、――だけではなく

 

 

「姉御!!海賊船が大量に現れました!!」

 

 

アルゴー号を取り囲むように現れる、虚ろなる海賊船――一個師団に匹敵する大編隊!

 

『シャドウサーヴァントならぬシャドウパイレーツ!?あれらはすべて、海にこびりついた海賊の怨念だ!』

 

『ここにきてこんな力・・・!』

 

「彼の劣等感その他諸々に共鳴したんだろう。あぁ嫌だ嫌だ、ろくでもない代物だ」

 

「――ろくでもないモノに頼ると言うことはいよいよ後がないと言うこと。――底を見せたな、道化」

 

――聖杯を悪用した以上、それは外法だ。反則手と言ってもいい

 

 

「どうしやす!?姉御!今の手持ちであんな数は!」

 

「泣き言いってんじゃないよ!アイツが持ってる財宝!アタシたちの自由の海は目の前じゃないか!!」

 

 

「ですが・・・」

 

――どうやら、『アレ』の出番のようだ

 

 

「何、気にすることはあるまい。船を進ませ、あの難破船に隣接せよ」

 

「ギル?」

 

「――奴の幕を下ろす。周りの輩は任せるがよい。我の宝を辱しめた罪過、それなりの代償を払ってもらうとしよう」

 

 

「――信じるよ。総督」

 

 

「フッ、許す」

 

 

 

空中へと飛び立つ

 

 

「道化!いや、敢えて今はイアソンと呼んでやろう!貴様の残りの矜持、余さず砕いてやろう!!」

 

 

「何ぃ――!!」

 

 

「その程度の小舟で粋がり覇者を名乗る矮小な貴様に!真なる王の『(フネ)』と言うものを見せてやる!!礼はいらぬ、試運転も兼ねるのだからな!!」

 

 

――取り出したるは二つの『界聖杯』。世界そのものである聖なる杯を、『ソレ』に組み込み、炉心として起動、駆動、そして点火させる――!!

 

 

「海よ逆巻け!!地よ砕け、天よ裂かれよ!!我が財に眠りし黄金なりし星海を征服する空前絶後の弩級『戦艦』――」

 

 

――海に島のごとき巨大な影を落とす、一つの大陸とみまごうそのフォルム

 

 

金と緑の意匠はヴィマーナに近い。だが、あまりにも質量が違う。ヴィマーナが蚊とするならば、こちらは鷹、種別そのものが違う

 

 

「あ、あれ――は・・・」

 

 

「嘘――」

 

 

「・・・たまげた・・・こいつぁ・・・」

 

 

『世界』そのものの聖杯を二つ試運転がわりにしてなお十全には程遠いその巨駆に、総てをひれ伏させる黄金の大山がごときその姿に誰もが目を奪われる

 

 

 

「――!!!」

 

 

 

「フフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!頭を垂れよ!面を伏せ、我が威光に晒され恥辱に悶え詫びて死ね!!」

 

 

 

――これこそ、財の奥地に眠っていた『浪漫』の原典。最古にして最新すら凌駕する、空前絶後の超々々弩級戦艦――

 

 

 

その銘を――

 

「神の名を冠するのは癪だが、伝承に則り名付けてやろう!!この戦艦の名は――」

 

 

玉座に王が座し、霊基を登録。呼応するように設置された機銃、副砲、主砲が起動し息を吹き込まれる

 

 

「かつて天と地を引き裂いた唯一無二の神!!『天地引き裂けし黄金の巨神(マルドゥーク)』である!!!!!」

 

 

――財を選別する要領で、総ての武装を把握する

 

 

主砲・惑星破砕エーテル波動主砲《エヌマ・エリシュ》

 

副砲・三連真エーテルカノン《ティアマト》

 

両弦・真エーテルパルスレーザー《アプスー》

 

 

艦首・艦尾・艦側魚雷《タイド》

 

艦内艦載機《アンズー》

 

 

――未だ真価を発揮せぬ機能、多数

 

 

聖杯二つでは起動と殲滅が精一杯だ。――だが、今はソレで事足りるだろう

 

 

「待たせたな、有象無象の怨霊よ!!貴様らには特別に、迷う暇なく天に魂を還してやろう!!」

 

 

「っっっ!船を動かしな!アルゴー号に近付くんだよ!!」

 

「姉御!?」

 

 

「急ぎな!『回り一帯』を吹き飛ばすつもりだよ!!死にたくなかったら急ぎな!!」

 

 

――目標、前方のシャドウ・パイレーツ。副砲、主砲は使用不能、対空砲座にて代用。総勢1000隻、――マルチロック

 

「さぁ!王の航海を垣間見よ!我が威光!地に満ち、天に還すがいい――!!!」

 

 

――準備、完了。『黄金の鹿号』、アルゴー号は除外

 

 

「全砲門――撃てぇえい――!!!」

 

 

 

一斉に放たれるエーテルのパルスレーザー。圧縮されし神代の技術のレーザービーム、星の極光に通ずる光線が有象無象を海ごと焼き尽くす――!

 

 

 

「きゃあぁあぁあぁあ!!」

 

「あのバカ王様頭おかしいんじゃないのか――!!」

 

「アレだねダーリン!バカとアレは紙一重ってやつ!」

 

「しっかり捕まりな!振り落とされるよ――!!」

 

 

「イアソンさま、大丈夫です」

 

「何を笑っている!お前、この状況が解っているのか――!!」

 

「あぁ、オジサン二度と悪役なんてやらねぇぞ・・・」

 

 

 

「思い知ったか道化!これが真なる王の輝きと言うものだ!試運転にしては上出来ではないか!後は、界聖杯を集めるのみよ!!フフ、フハハハ!!ハーッハハハハハハハハハ!!」

 

一斉掃射が終ったその後には・・・シャドウ・パイレーツだったものは、何も残っていなかった――

 




天地引き裂けし黄金の巨神(マルドゥーク)

ランク EX 種別 対神・対悪宝具
レンジ 起動状態にて変動 最大捕捉 起動状態にて変動


ギルガメッシュの財に納められた『浪漫』の原典。黄金の戦艦。最新の技術にて造られた最古の艦。人々が夢見、時空の果てに鋳造する超々々弩級戦艦

神代の因子と要素をフルに使った様々な武装を装備している。完全起動すれば、容易く都市一つを焦土と化し、例え顕現した神であろうとも撃滅を可能とする性能を誇る


――本編ではあくまで起動、武装の試運転であり、本来の稼働効率の一割と言ったところ。界聖杯を二つ使い、僅かな顕現しか叶わぬ程の動力不足である

――本来の機能を覚醒させるには、後界聖杯が4つほど必要となる

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