人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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京の山

金髪の男「ん〜〜〜…」

(…駄目だ。オイラにはどうもしっくり来ねぇ。どうにも、しっくりこねえんだ)


「アンタはどうしたんだい?なあ──綱の兄貴よぉ。こんなんじゃ…」

「──天覧武者(マスター)になんて、なれっこねぇやな…」


参上・平安京〜初戦〜

月が見ている。人外魔境溢れる京を、恐れと阿鼻叫喚が満ちる魔圏たる京の都を、月が見ている。

 

人智を超えた武士、人智を超えた魔物。京に生きる民達を守る者、それらを壊す者がいつ終わるとも知れぬ戦いを繰り返す都。しかし帝の威光が届く京の離れは魑魅魍魎、悪鬼夜行に蹂躙され、人気の僅かな喧騒も見受けられない。ただ、月のみがその凄惨さを照らすのみ。

 

「──うん、レイシフト完了!」

 

しかし、その月の輝きに負けぬ魂の気高さを宿した者がここならざる場所より来たる。その女子の身体は齢は成人に満たずとも、服の下に構えし肉体は女性の柔らかさと鋼のような剛健さを併せ持つ、金眼橙髪の精悍なる女児がこの日の本へと出で来たる。

 

「マシュ!桃子、段蔵さん!」

 

闇を切り裂く凛とした声音で、彼女は溌剌と問いかける。その堂々とした所作に恥じぬとばかりに、一同は彼女の下へと現れる。

 

「大丈夫です、先輩!あなたのオンリーワン、マシュ・キリエライトはあなたのお側におりますよ!」

 

長大な盾を軽々と振り回し、白頭巾を被った紫陽花の瞳を輝かせし、紫の少女。マシュ・キリエライトと真名を告げるうっかりやなるオンリーワンサーヴァントは彼女の下へと駆け寄り侍る。

 

「邪気と…無念に散った者達の怨嗟が満ちています。あまり良くない雰囲気ですね。清澄に祓いましょう」

 

マシュとは対照的に、厳かに、悠然と歩み寄る陣羽織を泰然自若と着こなす長身勇壮なる麗人が、静かに腰に帯刀せし神威の絶刀を打ち鳴らす。辺りの邪気を、ただそれだけの所作で打ち消す程の清廉さに満ちた佇まい、腰に有した真紅の刀身。そして漆と艶を備えた黒き長髪が揺れ、人間離れした美貌を湛えし麗人を月が見初める。

 

「忍び連合、忍大将。コードネーム『どんぎゅー』。お供の皆様と共に周囲の走査を完了致しましてございます」

 

そして影から現れし、風魔の頭領を支え育てた母なる絡繰。母性と冷徹さを兼ね備えし楽園の忍達よりあみだくじで決められし使命を、三匹のお供と共に秘密を詳らかとする。

 

『現在地点、平安京南西部。無人地帯にてレイシフトを完遂』

『リンボによるレイシフト妨害が行われし形跡がありましたが、我等がロマニ・アーキマン殿に晴明殿のレジストに事危なげなく』

『普通に考えて、狡猾なヤツらしからぬ性急さよね。そんなに晴明が憎かったのかしら?』

 

『そこまで意識されると照れてしまうな。まぁ私的には意識されるほど大した事はやっていないがね』

 

三匹の声音に、飄々とした通信の投射が応える。それらは可愛らしい響きであれ、酷く淡々とした抑揚を孕んでいる。我らが後方にて彼女らを支援するスタッフが一人、安倍晴明。ヒューマギアに宿りし稀代の陰陽師である。

 

『私にとって、道満の浅知恵など児戯に等しい。レイシフトは滞りない。それではお手並み拝見させてもらうよ。リッカ君、目的は解っているかな?』

 

「頼光四天王や母上の助力を確保して、リンボを討ち果たす、だよね。自分の素性は先んじて明かさない。あんまり術を行使しない…だよね」

 

『そういう事だね。守備はその紫少女、護衛は桃太郎さんに、偵察は忍達に──』

 

「静かに」

 

晴明の言葉を、鋭く遮るは女武者、桃子。その言葉と同時に、マシュの後に位置し全体を俯瞰する立場に陣取り、3匹のお供を周囲の警戒に移行させる。

 

「大型質量、検知。多量の魔力を有していると予想されます」

 

『ほう。どうやら試し切りの相手には困らないみたいだね。良いことだ』

 

凄まじいまでの気配察知と、常在戦場の気風により一同は微塵も揺らがずその邪悪を見据える。それは多脚にして鋭い鎌を有する、蜘蛛が如き異形の怪異。それらが、リッカ達使命を持つ者達の生き血を吸わんと迫りくる。

 

『試金石として丁度いい。鬼や妖怪が当たり前のように跋扈していた平安京の魔境ぶり、実際に体感させてくれるとは中々に道満も気が利くじゃないか』

 

「対話の余地も無さそうだね。それに、周りを囲んで来てる」

 

リッカの目線が、ぐるりと周囲を見渡す。匂いもせず、姿も見えぬ者たちが、自分達を品定めし見ているという事実を、死線を潜りし直感にて見据える。しかしその振る舞いに、恐れは微塵も存在しない。

 

『段蔵ちゃんの時代にも鬼や怪異はすでにいた。しかし平安の時代はその遥か前…日本の神秘が実に濃厚だった頃合いの時代だ。ならば土蜘蛛の一匹や二匹、掃いて捨てるほど出てくるものだったのさ』

 

晴明の軽口を意に介さず、それぞれは戦闘態勢を執り行う。リッカは神の弓矢を構え、マシュはマスターたるリッカを守護せんと丹田に力を込める。桃子──冠位を有するセイバーたる桃太郎。そして、彼女の友たる3匹の神獣が、湧き出た怪異を睨み据える。

 

「リッちゃん、如何なさいますか。指示の一つを告げてくださいませ。速やかに──遂行します」

 

その言葉と、怪異──土蜘蛛の軍団が威嚇を越え、飛び掛かりによる戦火の口火を切るは同時だった。か弱き乙女の生き血を吸わんと、蠢動し迫りくる魑魅魍魎が迫りくる。

 

「うん、じゃ──」

 

迫りくる蜘蛛。その異様な非日常に微塵も臆することなく。リッカは告げる。

 

「ブチ殺してよろしおす!」

 

彼女の、はんなり殺意の満ちた号令に──見目麗しき女子と神獣達は、人理を守護する修羅と化す。

 

「承知。殿方を喜ばす手段に満ちた絡繰ぼでぃの妙技、お見せしまする。どんぎゅー、参る!」

 

風魔の抱えし美貌の絡繰、コードネームどんぎゅーが瞬く間に怪異を無力化し寸断していく。内蔵されし鎖鎌、隠し刃、キャタピラ、ロケットランチャー。襲いかかる凶刃を受け止め、月夜に跳躍する流麗な姿が血煙を巻き上げ躯を重ねる。

 

『我等三匹のお供!ただリポップするだけの有象無象に劣る道理なし!』

『GI神秘対策。頭を潰せば生き物は死ぬ』

『アンタたち、唸り声やドラミングは禁止だからね!』

 

イヌヌワン、フワイサム、そしてアンク。誉れ高き桃太郎の三匹のお供が力を発揮し状況を打開する。イヌヌワンは疾風が如き俊敏さにて即座に首筋を噛み切り、フワイサムは剛力にて頭部を叩き潰し、アンクは嘴にて目玉を刳り、脳部を啄む。

 

「……」

 

桃子は──リッカとマシュの傍から微動だにしない。油断なく周囲を睥睨し、追手と増援に備えている。そしてマシュも同じく。守護と防護に、全霊を費やしているのだ。マスターを護るサーヴァント、サーヴァントに護られるマスター。その図式を崩さぬ様に振る舞っている。

 

(誰がどこで、どんな風に接触してくるか解らない。自分一人のムチャは控えめにして、皆を頼る!)

 

いざとなれば、弓矢にて一掃する構え──満月の夜には京一帯を消滅させる規模のレーザーを放てる弓矢を握りながら、油断なく戦況を見据えるリッカ。眼前にて盾を構えるマシュに全幅の信頼を寄せながら、リッカは堂々と構えている。

 

(先輩…猪突猛進のイノシシからとても進化なされました!私の背後に、仁王像の様に構える威容はまさにグランドマスターそのものです!流石、私の先輩です!)

 

(平安の時代の武士…頼光様を頂点とする一騎当千の者達は消耗した状態で勝てる相手じゃない。ここは、我が供と段蔵様を信じ不意打ちに備えるのみ…!)

 

(リンボはきっと何処かで見てる。突っ込んで絡め取られないよう…)

 

全力で──『普通のマスター』をする!!リッカは仲間を信じ、初戦を『見』に徹する。そしてその期待に見事忍と供達は応え─

 

「これにて、為済ませた!」

 

『『『成敗!!』』』

 

怪異たる土蜘蛛を四散させ、勝利にて飾るのだった──。




リッカ「ありがとう、どんぎゅーさんにお供の皆!」

フワイサム『ベイビー、サブミッション』

イヌヌワン『なんて?』

アンク『赤子の手をひねるを捻った言い方しなくていいの!』

段蔵「いえ、主を護るは忍の役目。マシュ殿の守護、桃子殿の威風、何よりリッカ殿の絆を感じることが出来たなら──」

晴明『うん、見事な連携だ。突出する事もなく、見捨てる事もしない。君たちならきっと──』

桃子「──!」

記念すべき初勝利に湧く一行。力を抑えた初見の様子見。それは予定通りの事運び。

──だが。

『しかし…何事も例外と言うものはある。どうやら、悪辣な巡りというものはあるようだ』

そこに──

『来たぞ。初戦のコントローラー無けポイントだ』

太刀を有する男「……」

平安武士。それも──

リッカ「───!!あなたは…!」

『頼光四天王』が一人が、通りすがったなら?細やかな安堵は、戦慄へと姿を変える──

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