人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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太刀の男「この夜更けに、女子が集まり蹴鞠に和歌を嗜む…等と有り得まい。その気風、その風靡。──天覧武者と見受ける。ならば、それがどれほど年端がいかずともなすべきことに翳りなし」

リッカ「…あの腰の刀にこの見た目…間違いない!母上と兄ぃが言ってた、あの…!」

マシュ「何物ですか!私は菩提真集桐絵明石(ぼだいましゅうきりえあかし)!こちらは藤丸リッカさんです!」

「…名乗るか。ならば返礼は、武士の礼儀」

イヌヌワン『仲良くなれるかもしれない生真面目さだ…』

どんぎゅー「しかしあの腰に帯刀した見事な太刀。疑うまでもなく…」

渡辺綱「…都の守護たる頼光四天王が筆頭。天下の宝刀髭切を預かる、源氏の武者。内舎人渡辺綱──推参」

リッカ「…こんなに速く、会えるなんて」

メイ『…そうか。どうやら、悪趣味な儀式はもう始まっているか…』


天覧武者〜渡辺綱〜

「渡辺綱…!頼光四天王の一人にして、至宝の名刀、鬼切安綱を有する無双の怪異殺し!まさかこの様な所で出会うとは…!」

 

段蔵の言葉の通り、涼やかに立つその人物。太刀の無双たる平安武者。その存在は、リッカは母より聞き及んでいた。その内容は端的にして、信頼と共に告げられしもの。

 

 

『真面目で、そして実直。その心身、刃の如く。その魂と気質、何よりもその太刀の腕前は…』

 

 

「…母上より、上。古今無双の太刀使い…兄さんと同格の平安武者…!」

 

「先輩、私の後ろから離れないでください。大丈夫です、私の傍は安全ですから!」

 

「──キャスター」

 

渡辺綱…彼がそう口にすると、影より小柄な薄紫の装束に身を包んだ少女が現れる。そして、それは知らぬ人物に非ず。

 

「メディア殿…!?」

 

メディア・リリィ。綱の呼び声に応えたのは彼女であった。まるで、綱に付き従うサーヴァントの様にピッタリと侍っているのだ。彼を支えるかの様に。

 

『どういう事だ…!?サーヴァントがサーヴァントを従えている!』

『落ち着けイヌヌワン、あちらの綱殿は生者だ。生きている』

『じゃあ…マスターが綱さんで、メディアちゃんはサポートって事?』

 

三人の意見を聞きながら、桃子は微塵も揺らがずリッカ達の前に立つ。泰然、威風堂々。四天王たる綱を前にしようと、鬼神と覇を競いし魂魄に翳りは微塵も無く。

 

「私達に、平安の守護者と刃を交える道理は無く。刃と殺気をどうか抑えていただければ」

 

「……」

「間違いありません。『彼女達はサーヴァントでありましょう』」

「…無情な事もある」

 

桃子の言葉と、メディアの言葉を聞き、綱は静かに頷いた。それは──けして穏便の合図ではなく。

 

「赦せ、うら若き女性達よ。恨みも縁も、断つべき悪では無かろうが。是も天覧聖杯戦争ならば、やむを得ず。藤原道長公の言の葉、今や天よりの勅に等しきもの」

 

藤原道長──京に在りし天上に位置するに等しきものの名を告げた彼の言葉を皮切りに、辺りの空気が一変する。いや──彼が変えたのだ。

 

「術者は見えぬが、手駒を制し引きずり出すまで。──覚悟!」

 

瞬間、マシュと段蔵が総毛立ち、戦慄する程の覇気と気迫、同時に電光石火が如き一刀が桃子に振り下ろされる。

 

『ほー。流石だ。こちらの観測で『視えぬ』斬撃とは』

 

目視不能、反応すら許さぬ絶剣にして豪剣。生半可なサーヴァントならば正中線を境に真っ二つにする程の強さを兼ね備えた一太刀。その余りの一閃に、周囲の建築物の残骸が余さず吹き飛び、大地が抉れ、小規模の竜巻が巻き起こる。

 

「くっ、うっ───!大丈夫ですか、先輩!?」

「マシュがいる私が大丈夫じゃないなんてありえないでしょ?分かりきったこと聞かないの!」

 

リッカ、泰然。腕を組み仁王立ちする彼女は、マシュの守護に全幅の信頼を寄せ三匹のお供と段蔵を彼女の盾の真後ろに呼び寄せていた。事実、風圧も余波もマシュは完全に無力化している。

 

「桃子、大丈夫!?」

 

声を張り、妹の安否を問う。だが、リッカは確信していた。桃子──怪異殺しと神秘の英雄、桃太郎たる彼女は決して、平安武者に遅れを取らぬ猛者である事を。この発言は、家族故の思慮。

 

「…ほう…!」

 

その信頼の通りに──桃子は受け止めていた。比類なき平安の太刀を。頼光すらも上回ると謳われし怪異殺しの一閃を。彼女が帯刀せし、『天叢雲剣』が真っ向から鍔迫あったのだ。有す手は、片手。いくら無双の武練と言えど、鬼神の膂力を知る桃子からすれば儚き人の範疇に他ならず。

 

「俺の一太刀を受け止め、あまつさえ押し込むか。さぞ名のある武者と見た!」

「争う意志は無いと告げました。それでも交戦を続けるのならば、戦意を喪失させるまで」

 

「面白い事を言う。ならば──虚言で無い事を示してみせろ!」

 

そして、振るわれる綱の苛烈にして怒涛の太刀捌き。最早迅速を越え、その切先は目視すら叶わないまでに高められた刃の形をした武の極み。

 

「マスター、援護します!」

 

更に恐るべき事に──綱は真っ向前線に立ち、サーヴァントである桃子と剣を交わしている。メディア・リリィの術は完全に補佐、サポートに回している有様。戦いの全てを、綱が賄っているのだ。生前、つまり命ある人でありながら!

 

『マスターが前に出てサーヴァントが完全にサポート!?この様な型破りな戦いなど他にあったか!?』

『GI的に幾度もあったと記憶されている』

『!?』

『凄いわ…リッカちゃんのスタイルは破天荒で天衣無縫と思っていたけど、まさかの先祖返りだったのね!』

 

(強い…!桃子じゃなくて私が剣を交えたら、腕の一つは飛んでた…!)

 

それ程に凄まじい綱の剣。雷位を開帳しておらぬ母の武芸ありきですら、無傷ではすまぬほどの綱の剣閃。一振りする度に猛烈な鎌鼬が放たれ、地面が切り裂かれ、周囲にある瓦礫や残骸が跳ね飛ばされる。その一撃は人は愚か、鬼ですら瞬く間に斬り捨てられる領域の神域。桃子という、人の願いが産み出した奇跡でなくば死出の旅へ介錯させられていたとリッカは息を呑む。金時と互角の益荒男、弱いことなどあり得ざると分かっていても戦慄は隠せぬ。

 

(でも、だからこそ。桃子に傍に侍ってもらった!)

 

しかし──それは正しく、綱陣営にも言える現状だ。いくら斬り込もうと、いくら踏み込もうと、桃子への太刀は一つたりとも通らない。陣羽織の端にすら触れさせぬ絶対にして盤石の受け流し。鬼丸国綱の朱、天叢雲剣の橙の軌跡が、うらさびれし無人の京の全てをはねあげて行く。

 

「───ふっ!!!」

 

機を見計らい、桃子が最上段により刃を振り下ろす。それは単調な狙い、そして単純な目論見。大振りにして読み切るも容易き縦一閃。

 

「くっ、ぬぅ…!」

「きゃあっ!?」

 

だが、その単調な一太刀は。

 

『わ──』

 

『『割れた!!』』

 

そう、向こう彼方に在りし山を切り裂く程の斬撃の波動を載せた桃子の一閃は、先に綱が踏み締めていた大地を真っ二つに叩き割り、その規格外と言える武勇を顕現させる。速さ、力、そして無双にして無窮の怪異退治の申し子たる勇気が生み出す桃子の一撃もまた、メディアと綱を弾き飛ばし吹き飛ばすという離れ業を見せたのだ。

 

(鬼…鬼神を思わせるなんたる膂力か。頼光殿すら及ばぬ一撃の冴え、大江山の童子どもすら下すであろう神威。…これこそが、天覧武者の実力か)

 

「マスター!」

 

(──いかん)

 

綱は逡巡した。そして自らの──否、天覧武者としての窮地を悟る。先の一閃に呑まれたのは自分だけではない。サーヴァントたるメディアすらも巻き込み、空中に弾き飛ばす程の剛力無双の一閃を見せたのだ。自身は空中跳躍の心得はあれど、メディアにそれは期待できないと綱は理解している。

 

(メディアを仕留められる。ならばこうなれば、一気に決着を──。…?)

 

しかし、予想された次の手は予想を越えたものだった。少なくとも、最悪の自体は避けられた事となる。桃子が刃を収め、戦闘行為を放棄したのだ。綱はその行為に多大なる怪訝を懐くが、メディアの安全を優先する。

 

「無事か、メディア」

「はい、マスター!すみません、足を引っ張ってしまいました…」

 

「案ずるな、敵が上手だった事。お前が悪かったわけではない。…」

 

「言ったはずです。私達は平安を守護する者達と戦いを行うつもりはない。戦意は無いと」

 

刃を収める桃子。彼女の武勇ならば、空中に跳ね上げられ隙を有した二人の首を叩き落とすなど容易く可能だ。しかし、それを行わぬ理由は一つ。

 

「耳にした天覧武者、マスターとサーヴァントとの関係、藤原某の動向。我々はあまりにも情報が不足しています」

 

「だから──力を貸してください。私達は天覧武者じゃありません。私達は、平和な明日と未来を護るために此処にいます!」

 

あくまで望むのは対話であり、穏便な会談である。神威にすら届く武芸を持ちながら、決してメディアを集中して狙わなかった。それは『倒す理由』も『斬る発想』もない事を感じ取る。そして何より──

 

(あの少女から…棟梁の匂いを感じる。この地に現れしこやつらは…何物なのだ?)

 

天覧武者でなきマスター等、存在するのか。その疑念を懐いた綱は、静かに太刀を下ろす──。




リッカ「話を、聞いていただけると非常に嬉しいです。私達が教えられる事は、喜んで提供します」

綱「…」

「どうか、力を貸してください!あなたは金時と…私の母と立場を同じくする、都の守護者なんですから!」

綱「……キャスター」
メディア「はい、確かに時間を越えるものや移動する魔術は存在します。あの方達は、そういった魔術でこの都にやって来た『旅人』なのではないでしょうか?」

綱「……マスターとは全て首級。そう考えた俺の早とちりか」

サーヴァントであるメディアの意見を機器及び、絶世の太刀を納刀する綱。その疑念を、彼は告げる。

「…お前達が何者であろうと、マスターでありサーヴァントである以上はいつか斬り捨てねばならん。故に…話すことは何もない」

リッカ「綱さん…」

「だが。…お前達と馬が会いそうな輩には心当たりがある。その者の傘下に入れ。それならば──」

そう、綱が告げた瞬間──

?「すまねぇ退いてくれ!!綱の兄貴!!」
?「おのれ四天王共ォ!!!」

リッカ「!」
マシュ「この声は──!」

もつれ合う怒号と共に、両陣営の間に金色の少女と精悍なる男児が叩き落ちる──。

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