人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「むう。主砲、副砲はともかく確率変動弾、掌式昇華魔術、光速ミサイル、星斬剣、天元螺旋削岩腕、相転移防壁、並行次元観測コンピューター、惑星転移も使えぬか。他の機能は兎も角『シドゥリ』すら目覚めさせられぬとは」


――まだまだ余りにも動力源が足りない。少しずつ、貯蓄していこう

「まあそれは何れでよい。さて、無粋な真似はすまい。ヴィマーナにて酒を煽り眺めようではないか。無敵の英雄の顛末をな」


無敵の英雄

「さぁ乗り込むよ!あのデタラメ総督がまた何かやらかす前に決めたいもんだ!マシュ!リッカ!行くよ!」

 

 

「はい!」

 

 

「うちゅーぅせんかんまーるーどぅーく」

 

「先輩!?」

 

 

「きょぬー長身我様系かなぁ擬人化・・・後でイラスト描いてみよっかな」

 

『もう!ほら早くする!』

 

『ははははは、もう何から突っ込めば良いのか!』

 

 

「じゃあ僕もいこうかな。死んだら死んだで後はよろしく~」

 

 

『・・・師匠、お辛いようならカルデアに・・・』

 

「いいのよ、心配しないで。・・・ありがとう、マリー」

 

『か、帰ってきたら、着せ替えをお願いできますか?』

 

「――えぇ、良くてよ」

 

 

「マスター、私の傍に。ヤツは君を狙うだろう」

 

「う、うん!」

 

 

「さぁ!最後の大一番だ!行くよ!」

 

 

「――あ、ヘラクレス!」

 

 

「何かな、マスター」

 

「――気を付けてほしい事があるんだけど」

 

 

 

 

「さぁて、じゃあ逝ってきますわ」

 

 

瀕死のヘクトールが、槍を構えて歩き出す

 

 

「後のことは任せたぜ、メディア」

 

 

「えぇ、マスターのお守りは私の役目ですもの。最期までちゃんと、面倒を見てあげなくちゃ」

 

 

 

 

「おーこわ。ナチュラルに狂っているってのはこう言うことか・・・さて」

 

 

ちらりと、敵を見やる

 

 

 

「敵は圧倒、此方は瀕死。どう足掻いてもひっくり返せぬ状況――ならば」

 

 

槍を右手に構え、魔力を噴出する

 

 

「――冥土の土産をこしらえるしかないみたいだな!」

 

 

「!」

 

 

『宝具解放!ヘクトールの真価が来るわ!』

 

 

「!」

 

「先輩!私の後ろに!」

 

 

「対応が早いねぇ――じゃあ、オジサンの最後っ屁を喰らってもらおうかな!」

 

 

放たれる、トロイア無双の英雄の大投擲!

 

 

「真名は面倒なんで省略!――誇りも糞もない戦いだからな、そちらで調べてくれたまえ!さぁ――吹き飛びな!!」

 

 

放たれる槍、アイアス、アキレウスでなくば防げぬ無双の投擲がマシュとマスターを――

 

 

「来て!『エミ』――」

 

――否。狙いはマスターではなく

 

 

「女神!その生命!アークに捧げな!」

 

 

――背後にいた、エウリュアレ・・・――!

 

 

「しまっ――」

 

「――うん。解ってた」

 

 

 

――槍が、『獅子の皮』にて阻まれる

 

 

「なっ――!!」

 

 

瞬間、心臓と霊格に突き刺さる10本の矢

 

 

「え・・・?」

 

 

 

「――・・・」

 

エウリュアレを庇うアステリオスを、更に庇護するは無双の大英雄

 

 

「――流石ね、ヘラクレス」

 

 

槍を無力化し、返す弓矢で引導を渡したのは・・・

マスターの指示で、エウリュアレの傍に瞬時に駆け寄ったヘラクレスだった

 

 

「――さらば、トロイアの勇者よ」

 

 

「――参ったね・・・オジサンの企み、どこで見抜いた・・・?」

 

 

「別に見抜いてた訳じゃないよ。ただ・・・」

 

深く、深く海賊帽を被り直す

 

 

「『偉大な大海賊(くろひげ)』を倒した貴方なら、何をやっても不思議じゃないから、ヘラクレスに伝えておいたんだ。気を付けてって」

 

 

「――あーあ、参った参った、お手上げだ。ヘラクレスなんかに警戒されちゃ、オジサンなんかどーしよーもねぇわな」

 

 

続く弓矢で、ヘクトールの首が刎ねられる

 

 

「――ま、どーしよーも無いのは、こっちも同じか――」

 

「死体は残さぬ。――高潔なりし守護者よ。次は異なる巡り合わせを」

 

「――さて、極悪オジサンが召喚なんぞされますかねぇ」

 

更に放たれた矢が、ヘクトールの肉体を完全に抉り去る

 

 

「・・・」

 

「先輩、大丈夫ですか・・・?」

 

 

「・・・うん。また、あえるといいな。あの人・・・心から悪人って訳じゃ無さそうだし」

 

(・・・まだ全然話もしてないんだもん。仲良くなれないと、決まった訳じゃないはずだよね、黒髭)

 

 

――やがて、顔を上げるマスター

 

 

「決めよう。この航海の締めくくりを!」

 

「はい!」

 

「ヘラクレス!」

 

「うむ」

 

「・・・ありがとう」

 

「――良く、頑張った」

 

「ううん。・・・行こう」

 

「あぁ――」

 

 

 

 

 

 

「なっ、ヘクトール・・・!!」

 

 

「ヘクトールも逝きましたか。イアソンさま、いかがなさいましょう」

 

 

笑顔で、詠うようにメディアは話す

 

 

「降伏は不可能、撤退は不可能。私は治癒と防衛しか能のない魔術師。さぁいかがなさいましょう?」

 

平手打ちがメディアを襲う

 

「うるさいっ黙れ!!妻なら妻らしく!夫の身を守ることを考えろ!!」

 

「えぇ、それはもちろん。それがサーヴァント、イアソンさまを護るのが、メディアの使命」

 

 

「お前・・・」

 

メディアが笑う。笑い、笑う

 

 

「ずっとそうでしたものね?貴方に寄り添っていた頃から、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと」

 

笑い続ける。ただただ、幸せそうに笑い続ける

 

「ね?私のイアソンさま?」

 

 

「ひっ――」

 

――無敵の英雄が、そこで初めて

 

 

可憐なる少女の『清純さ(おぞましさ)』に気付いたときには、何もかもが手遅れだった

 

「イアソン」

 

 

「!」

 

 

声をかけるのはもう一人の魔女、メディア

 

 

 

「な、んだ――なんだ!薄汚い魔女め!!」

 

 

「――・・・もう貴方に品性は期待していないわ。ただひとつ、ただひとつだけ貴方に質問よ」

 

 

フードで、哀しみにくれた瞳を隠しながら妖艶に魔女が問い掛ける

 

 

「――女神を『契約の箱』に捧げるなんて愚かな極みの思考を、誰に唆されたのかしら」

 

『師匠・・・?』

 

「しぃっ、私を信じて、マリー」

 

「貴様の知ったことか!!失せろ魔女め!!」

 

 

 

「流石魔女さま。僕がしようとしていた質問を取られちゃったよ」

 

口笛を吹きながらさらりとメディアをディスるダビデ

 

「(ムッ)」

 

「僕も知りたいなぁ。だってほら、彼女を捧げていたら世界が滅んでいたよ?」

 

「――なん、だと?」

 

 

「当たり前じゃないか。あの箱は死を定め、死をもたらすものだ。それに神霊を捧げるなんて正気の沙汰じゃない。ただでさえ安定していないこの時代そのものが殺されていたはずだ」

 

 

「――バカな」

 

愕然と、イアソンが呟く

 

 

「嘘だろう、そんな筈は」

 

 

「――貴方が唆されたのは解っているわ。――私の知っているイアソンは、『世界を滅ぼす』なんて大それた愚かな真似を、決してしないのだから」

 

致命的な間違いを、問い質す

 

『――!』

 

 

貴方は、そこまで愚かだったというの!?イアソン――!!

 

 

 

『あれは、そういった意味で・・・』

 

 

「答えなさい、イアソン。神霊を捧げれば・・・『貴方を王にする』などと。誰に唆されたのかしら」

 

「ヘクトールかな?メディアかな?どっちだい?教えておくれよ、無敵の英雄」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・メディア」

 

ゆっくりと、向き直る

 

「今の話は・・・嘘だよな?」

 

傍らで笑う、一人の少女に

 

「契約の箱に神を捧げれば、無敵の力が与えられるのだろう?だって、あの御方はそういって――」

 

 

「はい、嘘ではありません。だって、『時代が死ねば世界が滅ぶ』」

 

メディアは詠う。少女は笑う

 

「世界が滅ぶということは敵が存在しなくなる」

 

 

これ以上なく可憐に、彼女は真理をつきつける

 

 

 

 

 

 

「ほら――無 敵 で し ょ う ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・無敵の英雄、とはそういう事だ

 

 

滅びた世界に佇む王に、敵など何処にもいはしない――

 

 

「お、おまえ。お前たち。俺に嘘をついたのか?」

 

イアソンの崩壊寸前の自我が、魂が、最後の意志で奮い猛る

 

 

――ここに来て、英雄の所以を露出させる

 

 

 

「それじゃあなんの意味もない!オレは今度こそ理想の国を作るんだ!!誰もがオレを敬い!誰もが満ち足りて、争いのない、本当の理想郷を!!」

 

 

「・・・――」

 

フードの下で唇を噛み、俯くメディア

 

「これはそのための試練じゃなかったのか!?俺に与えられた、二度めのチャンスではなかったのか!?」

 

「――それは叶わぬ夢だ、そう。果たせぬ未練なのだ。イアソン」

 

口を開いたのは、ヘラクレス。彼の無二の友

 

 

「ヘラクレス・・・!」

 

 

「我等は英雄、時代を駆け抜け、生涯を以て世界に召し上げられた歴史の事象。故に結末は定まり、二度めのチャンスなどあり得ない。――例えどれ程狂おしい未練があったとしても、それを叶えてはならぬ。自らの軌跡を否定してはならぬ。――自らの人生を、否定する事は罷り成らぬのだ」

 

「何を――言っている!!お前に何が解る!!神々に求められ、愛され!あらゆる全てを手に入れたお前が何を――!!」

 

 

「――そうだな。私は栄光を手にいれ、武勲を手にいれ、祝福を手にいれ、神の座すら手にいれた」

 

 

――拳にヘラクレスが目を落とす

 

「――でもな、イアソン。・・・――オレが本当に愛し、護り、手にいれたかったモノは」

 

――そこに、――暖かいヒトの涙が滴り落ちる

 

 

「暖かい団欒、寄り添う妻。世界を愛し笑う我が子は。・・・・・・――この手で。完膚無きまでに――粉々に。様々な怪物を叩き殺した、この拳で。――粉微塵に砕いてしまったよ――」

 

 

――大英雄の、狂おしいまでの悲しみと苦しみを垣間見、絶句する

 

「・・・――ヘラクレス・・・」

 

 

「――だから私は、お前を」

 

「ヘラクレス、その先は私が」

 

 

メディア、少女メディアが告げる

 

 

「アナタは理想の王にはなれない。人々の平和が本物でも、それを動かす魂が絶望的に捩れているから」

 

そっと、イアソンに囁く

 

 

「アナタは、アナタが望む形で夢を叶えてはいけないのです。――本当に欲しかったものを手にした途端、自分の手で壊してしまう運命を思い知るだけだから」

 

「――なに、何をいう魔女め!」

 

 

――傍らに寄り添う少女(まじょ)の囁きが、イアソンの魂の怨嗟と呪詛を呼び覚ます

 

 

 

「ひなびた神殿にこもっていただけの女に何が解る!!王の子として生まれながら叔父にその座を奪われ、ケンタウロスの馬蔵なんぞに押し込まれた!その屈辱に甘んじながら才気を養い、アルゴー船を組み上げ、英雄達を纏め上げた!!そんな俺のどこが!どこに!!王の資格がないというのだ!!」

 

積もりに積もった嘆きが、怒りが、大海に響き渡る

 

 

 

 

 

 

――ヴィマーナ、上空

 

「よい。実によい痛みと嘆きだ。安物のワインが天上の美酒のようではないか」

 

 

――イアソン、貴方は・・・

 

 

「さて、結末も近い。精々無様を晒せよ、無敵の英雄――準備はよいな」

 

『いや、その・・・英雄王』

 

「ん?なんだ忠臣」

 

 

『・・・衣装を整える時間をくれ』

 

「?」

 

 

――

 

 

 

「オレは自分の国を取り戻したかっただけだ!自分だけの国がほしかっただけだ!!それの何が悪いと言うのだ、この裏切り者がァアァアァア――!!!!」

 

 

「――だそうです。聞いていただけましたか、魔女メディア?」

 

「――・・・貴女は・・・」

 

 

「ふふっ、でも、残念です。私は本当のことしか言っていませんでしたよ?イアソンさま」

 

トン、と顔を近づける

 

 

「私は裏切られる前の王女メディア。外に連れ出してくれたイアソン様を愛する魔女。だから貴方を護ります。全て本当、全て事実です」

 

 

すっ、と聖杯を手から取り

 

 

 

「例えば――今しがた護るといったでしょう?どうやって護るかというと」

 

 

「ッッッ!!止めなさい!メディア!!!」

 

 

――イアソンの腹が抉られ

 

「え?」

 

聖杯が、めり込まされる――

 

 

「ッッッ!!」

 

 

「うふふ、こうやって、です」

 

 

埋め込まれた聖杯がイアソンの形を崩し、霊基を犯し、意思を喰らい、人格を食い潰す――

 

「なっ!おま、おまえ!やめろ!何する!ひっ!やだっ、からだっ!とけるっ!!」

 

 

「メディア!!貴様は――!!」

 

 

「イアソンさまを撃つのですか?ヘラクレス」

 

 

「ぬ、ぅう――!!」

 

 

「聖杯よ、我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ、牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり」

 

 

「い、やだ!へらくれす!!」

 

 

「――イアソン――!!」

 

「へらくれす!!たすけて!!へらくれ――ぎ、が、あ、ぎぃいぃいいいいいいいい!!!」

 

 

「戦う力を与えましょう。抗う力を与えましょう」

 

メディア(魔女)が、笑う

 

「滅びるために、戦いましょう」

 

 

「貴女という女は――!!」

 

 

「さぁ、序列三十。海魔フォルネウス。その力を以て、アナタの旅を終わらせなさい――」

 

 

 

 

イアソン『だった』ものは――

 

「――へら、くれ――」

 

 

――おぞましき、異形に変わる――

 

 

「――友よ――!!」

 

 




「開拓者」


「あん!?なんだい総督!」



「船とはなんだ?」

「あ、はい?」

「船とはなんだと聞いている」

「――そりゃあ、海を往くものだろ?」

「フハハハ!半分しか合っておらぬな!船とは『星を往くもの』!その真意、次の話にて示してやろう!!」




「獅子の皮は外せぬ!いや腰巻きもよいか!?ヘラクレスと並び立つのだ!最大最高に着飾らねば男としての名折れだ!」

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